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第一章 ゲーム イズ オーバー
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ココと言うキャラクターは金髪碧眼で線の細い、サイドテールの少女だ。少し長めのクセっ毛を側頭部の高い位置でポニーテールのようにまとめ、根元を黒のシュシュで留めている。それと同じものが左手首にも巻かれていた。赤のラインと白のレースが入った体に貼り付くような黒いワンピースは、肩紐で吊るすタイプで首まわりが露出しており、ホックのような留め具で胸元から縦に膝上の裾までを留める。今の服装はデフォルトである旅装束の外套姿ではなく、何者かの趣味がおおいに反映されたものだった。
エレノア。真紅の大鎌を携えたもう一方のキャラは、確かそんな名前だった。有能な秘書を連想させる怜悧な面差しと、黒瞳がちで一切の感情を排して暗く沈む眼差し、それから口元にあるほくろが、いかにも特徴的だった。漆黒のカーボンアーマーで体の要所をかためる立ち姿には一分の隙もなくて、そのせいか右耳や腰から提げた銀細工が装飾ではなく武器にも見える。
チカが手に持っているのは、やたら大きなおもちゃのハンマー。身長があまりない彼女(彼?)が持つと身の丈ほどにもなる黄色いそれは、きっと叩くとピコっと音がするに違いない。そんな冗談のような武器で、相手の大鎌と力比べをしているのだった。
(まてよ? ぴこ、ってついさっき聞いたな)
「お、お前にブッ飛ばされたのかよッ」
俺は痛む体をおして上体を起こし、なんとかよれよれのツッコミを入れた。
だがチカは一瞥もくれない。
「うるせー! すぐに次が来るッ、窓から跳べ!!」
「跳ぶー!?」
疑問は解消しないまま、切羽詰った声音に反射的に素早く立ち上がる。こんなに慌てたチカの声を聞くのは初めてだったので、体の方が緊急事態を察知したらしい。
廊下に出るドアは対峙する二人の向こう側だったのでたしかに逃げ道は限られている。一通り慌ててから、言われるままに窓から身を乗り出そうとしてすぐに思いとどまった。たった二階の高さとは言え、落下したら一大事だ。窓から出なくてすむ展開を期待して思わず後ろを振りかえるが、しだいに劣勢になっていくチカを確認しただけだった。
「こっち見んな! ってか狙われてんのはオマエなんだよ! 察せ!」
「跳ぶったって無理だろ。常識的に」
諦めて窓の外へ向き直ると、改めて窓枠に足をかける。もちろん五メートルもの高さを跳んだりはしない。店の裏手にある玄関の屋根へと窓枠からぶら下がって着地すると、まっすぐ駆け出した。
ふと母の顔が頭に浮かんだが、狙われているのが俺なら逃げて正解。デスヨネ?
「――えっ? 狙われ」
芝生の広場を半分も渡りきらないうちに、後ろから重厚な金属音が盛大に鳴り響いた。
「くっ!」
強い風を感じ、思わず足を止めて身構えた。先ほどの金属音は爆発だったんじゃないかってくらいの衝撃波が、全身を強く叩く。
体がこわばって前へ進めない。おそるおそる振りかえって、自分の部屋を見上げた。
「……?」
視界に違和感を覚えて眉をひそめる。その原因に、すぐには思い当たらなかった。
「か――風に木がざわめいていないッ」
今も感じている圧力。だがそれは風ではなかった。何か別のものを突風だと勘違いしたのだ。
「なんだ、これ」
肌が粟立つ。視界が暗い。重たい空気が直接心臓にのしかかってくるようだった。
俺を包むこの重圧感の正体は、恐怖。
茫然自失する俺のすぐ目の前に、盛大な音をたてて巨大なハンマーが落下した。今度こそ響き渡る重量感を伴った衝撃に、お陰で思考が戻ってくる。
「は?」
別の意味で時間が止まる。視線を下げるとハンマーは固い土に半分くらいまで埋まっていた。冗談みたいな外観から想像できないような超重量があるのが想像できた。
これは、死ねる。
当たり所とか、そんな些細なことは問わない。体の一部にぶつかっただけで吹き飛ばされそうな重量が、イヤでも推量された。
次に落ちてくるのは当然のごとく、
「チカ!」
小さな少女が空に投げ出されているのを見つけ、逡巡した。幸か不幸か俺はちょうど、チカが落ちてくるところに立っている。だが受け止めてやるべきか、それとも邪魔にならないよう場所を空けるべきか、どちらが良い選択だろうか。
人間が機敏に動けるはずもない。一瞬悩んでいるうちに、小さいとは言え俺は一人の人間を体で受け止めていた。
「ぐぶぇっ」
我ながら、鳥の断末魔みたいなみっともない声だった。尻と背中をしたたかに地面に打ち付けつつ、仰向けに倒れこむ。その拍子にワケの分からない呪縛から逃れることもできた。
「……いってー」
地面が土じゃなかったら声も上げられなかっただろう。
「って、大丈夫か? チカ――だよな」
俺の体に乗っかるほどに小さい少女は、抱き起こすと呼吸を整えようとしていた。線の細い体躯に似つかわしくない眼光がこちらを向く。
「うっ」
「なんともねぇよ。バンセーに……セクハラされてる以外は」
「おっと……。わ、わざとじゃないから」
その意味を理解するよりも早く、俺はチカを抱き起こす手を離していた。すると彼女の脱力した体が再び俺の胸に戻ってくる。
「そんなことよりお前、なんともないはずないだろッ」
チカを抱き起こしたときに付着したのだろう。俺の手には赤い血がべったりと塗りたくられていた。見ると彼女は胸の辺りから大量に出血している。生暖かさやどろりとした感触に、背筋までおののく。
動揺を抑えることができずに問い詰めると、顔を手の平で押し返された。
「オレのココたんに不逞を働くほうが重罪なんだよ」
「確かに顔が近かったのは認める。けど別に今のはそう言うのじゃなくてだな」
なんで言い訳せにゃならんのだ。そんな胸中を吐露しないように努めながら、立ち上がってチカを引き起こしてやった。
「あいつ、まだいるのか?」
「あぁ。それにヤツら二人目を送りこんできやがった。オマエみたいな生身でも、このプレッシャーを放ってるのが化け物だって分かるだろ?」
「そうか。やっぱりこの重圧の原因は、その……殺気、だったのか」
まさか『殺気』なんて言葉を、冗談以外で口にする日がこようとは夢にも思わなかったけどな。いつもの軽口が喉もとまで出かかってから、息を飲むのと一緒に胃まで落ちていった。
チカがただならぬ気配を纏っているのを感じたからだ。
「ヤツらの行動できるテリトリは、もうすぐ第三段階になる。次は数キロ圏内が変換されるだろうから、これ以上は逃げても意味がねぇ」
何を言っているのか理解できなかったが、彼女が武器に手を伸ばす理由はなんとなく察しがついた。
すでに傷だらけのチカにすがりつくわけにもいかず、だが掴まる物が欲しいあまり気が動転した俺は、何を思ったか落ちていた木の棒を拾い上げた。
「間違っても闘おうなんて思ってくれるなよ」
超現実主義的なチカが言うのだ。言葉少なながら、それがいかに無意味かを如実に物語っている。あまりにも日常とかけ離れすぎていて現実味がないが、不思議と彼女の言葉を信用することにためらいはない。
「お、おう。死力を尽くして逃げ惑う覚悟ができた」
「はぁ? イミフメー」
「俺も、ワケが分からん。それと聞きたいことが山ほどあるんだけど」
「言ってるバアイかよ。察せ」
懐かしい決まり文句だ。自分で考えろと言う代わりに、チカは端的な言葉でぴしゃりとしかりつける。けど今日の俺は前みたいに物分りが良くなかった。
「あ、あいつらなんなんだよ。レイヴンのキャラだろ? それがなんで俺の前にいて、しかも襲ってくるんだよ!」
「オレもレイヴンのキャラだが?」
「それは分かるけど! いや分からんけど今はいい!」
「質問は的確にっ」
回答はなかった。急に押し黙ってしまった彼女を覗きこむと、また顔面を手の平で押し返される。少しむかついたので、よけい意地になり食って掛かる。
「マテおい」
「七分二十八秒だ」
唐突な物言いに俺は眉をひそめる。
「なんだって?」
「この襲撃は予言されていた。ヤツらがこっちにいられる時間もな」
「それが、七分二十八秒だってのか」
「そうだ」
チカの言葉ひとつひとつが淡白なものに聞こえて、腑に落ちないものを感じた。
「予言……なら俺は? 俺は助かるんだろ? だって助からないんならチカは来る意味がないよな」
「今日は冴えてるな。けどそれはまだ確定してねぇよ」
「確定?」
用語の意味が分からなくてオウム返しに問う。
「予言と言っても高度な予測に過ぎない。オマエの実力が未知数で、予言に組みこむことができなかったんだ」
「ならチカの予言は? あとあっちの実力とか含めて」
「マジ今日は……いや、なんでも。それも未知数だよ」
普段と変わらぬ素っ気ない小声だったが、このときなぜか俺には彼女が言いよどんだような気がした。
「うぉっ」
思わず息を呑む。もうチカは地面にめりこむハンマーを両手で掴んでいた。
自分でもなぜそれ以上は詰めよることができなくなったのか分からなかった。
彼女の抵抗が思いのほか強かったからか。それともつらそうな荒い呼吸をよそに、闘いの意思を湛える瞳が生き生きと輝いていたからかなのか。チカの尋常ならざる『魔力』が高まるのを、なぜか自分が感じ取れていると気付いたからか。はたまた、脂汗と意地の悪い笑みを浮かべるチカが、あろうことか魅力的に見えてしまったからなのか。
――〔【巨神】〕――
電子音声がチカの声と重なってこだまする。すると彼女は、自分よりもはるかに重いはずのハンマーを左右から両手で掴んで、ゆるゆると引き上げてしまった。
そしてぽつりと続ける。
「換装、天賜纒装ッ」
「え?」
それはゲームの中の光景と完全に一致した。手の中のハンマーが掻き消え、後には光の粒子が集まった輪郭だけが残る。彼女が深く息を吸いこんでいくのにあわせて、その身を包む魔力が加速度的に高まっていった。
「だ、だってここ、ゲームの中じゃ」
俺は興奮にうわずった声をあげていた。
視界は目を覆わんばかりに輝きが増していたが、むしろ目を見開いて齧り付く。
「虹斂残光跡ッ! 『牙王』ォッ!!」
突然の大音声に、俺はただ驚くしかなかった。
チカは光の輪郭に添えた手を順手になおすと、強烈な光の中からそれを抜き放つ。
エレノア。真紅の大鎌を携えたもう一方のキャラは、確かそんな名前だった。有能な秘書を連想させる怜悧な面差しと、黒瞳がちで一切の感情を排して暗く沈む眼差し、それから口元にあるほくろが、いかにも特徴的だった。漆黒のカーボンアーマーで体の要所をかためる立ち姿には一分の隙もなくて、そのせいか右耳や腰から提げた銀細工が装飾ではなく武器にも見える。
チカが手に持っているのは、やたら大きなおもちゃのハンマー。身長があまりない彼女(彼?)が持つと身の丈ほどにもなる黄色いそれは、きっと叩くとピコっと音がするに違いない。そんな冗談のような武器で、相手の大鎌と力比べをしているのだった。
(まてよ? ぴこ、ってついさっき聞いたな)
「お、お前にブッ飛ばされたのかよッ」
俺は痛む体をおして上体を起こし、なんとかよれよれのツッコミを入れた。
だがチカは一瞥もくれない。
「うるせー! すぐに次が来るッ、窓から跳べ!!」
「跳ぶー!?」
疑問は解消しないまま、切羽詰った声音に反射的に素早く立ち上がる。こんなに慌てたチカの声を聞くのは初めてだったので、体の方が緊急事態を察知したらしい。
廊下に出るドアは対峙する二人の向こう側だったのでたしかに逃げ道は限られている。一通り慌ててから、言われるままに窓から身を乗り出そうとしてすぐに思いとどまった。たった二階の高さとは言え、落下したら一大事だ。窓から出なくてすむ展開を期待して思わず後ろを振りかえるが、しだいに劣勢になっていくチカを確認しただけだった。
「こっち見んな! ってか狙われてんのはオマエなんだよ! 察せ!」
「跳ぶったって無理だろ。常識的に」
諦めて窓の外へ向き直ると、改めて窓枠に足をかける。もちろん五メートルもの高さを跳んだりはしない。店の裏手にある玄関の屋根へと窓枠からぶら下がって着地すると、まっすぐ駆け出した。
ふと母の顔が頭に浮かんだが、狙われているのが俺なら逃げて正解。デスヨネ?
「――えっ? 狙われ」
芝生の広場を半分も渡りきらないうちに、後ろから重厚な金属音が盛大に鳴り響いた。
「くっ!」
強い風を感じ、思わず足を止めて身構えた。先ほどの金属音は爆発だったんじゃないかってくらいの衝撃波が、全身を強く叩く。
体がこわばって前へ進めない。おそるおそる振りかえって、自分の部屋を見上げた。
「……?」
視界に違和感を覚えて眉をひそめる。その原因に、すぐには思い当たらなかった。
「か――風に木がざわめいていないッ」
今も感じている圧力。だがそれは風ではなかった。何か別のものを突風だと勘違いしたのだ。
「なんだ、これ」
肌が粟立つ。視界が暗い。重たい空気が直接心臓にのしかかってくるようだった。
俺を包むこの重圧感の正体は、恐怖。
茫然自失する俺のすぐ目の前に、盛大な音をたてて巨大なハンマーが落下した。今度こそ響き渡る重量感を伴った衝撃に、お陰で思考が戻ってくる。
「は?」
別の意味で時間が止まる。視線を下げるとハンマーは固い土に半分くらいまで埋まっていた。冗談みたいな外観から想像できないような超重量があるのが想像できた。
これは、死ねる。
当たり所とか、そんな些細なことは問わない。体の一部にぶつかっただけで吹き飛ばされそうな重量が、イヤでも推量された。
次に落ちてくるのは当然のごとく、
「チカ!」
小さな少女が空に投げ出されているのを見つけ、逡巡した。幸か不幸か俺はちょうど、チカが落ちてくるところに立っている。だが受け止めてやるべきか、それとも邪魔にならないよう場所を空けるべきか、どちらが良い選択だろうか。
人間が機敏に動けるはずもない。一瞬悩んでいるうちに、小さいとは言え俺は一人の人間を体で受け止めていた。
「ぐぶぇっ」
我ながら、鳥の断末魔みたいなみっともない声だった。尻と背中をしたたかに地面に打ち付けつつ、仰向けに倒れこむ。その拍子にワケの分からない呪縛から逃れることもできた。
「……いってー」
地面が土じゃなかったら声も上げられなかっただろう。
「って、大丈夫か? チカ――だよな」
俺の体に乗っかるほどに小さい少女は、抱き起こすと呼吸を整えようとしていた。線の細い体躯に似つかわしくない眼光がこちらを向く。
「うっ」
「なんともねぇよ。バンセーに……セクハラされてる以外は」
「おっと……。わ、わざとじゃないから」
その意味を理解するよりも早く、俺はチカを抱き起こす手を離していた。すると彼女の脱力した体が再び俺の胸に戻ってくる。
「そんなことよりお前、なんともないはずないだろッ」
チカを抱き起こしたときに付着したのだろう。俺の手には赤い血がべったりと塗りたくられていた。見ると彼女は胸の辺りから大量に出血している。生暖かさやどろりとした感触に、背筋までおののく。
動揺を抑えることができずに問い詰めると、顔を手の平で押し返された。
「オレのココたんに不逞を働くほうが重罪なんだよ」
「確かに顔が近かったのは認める。けど別に今のはそう言うのじゃなくてだな」
なんで言い訳せにゃならんのだ。そんな胸中を吐露しないように努めながら、立ち上がってチカを引き起こしてやった。
「あいつ、まだいるのか?」
「あぁ。それにヤツら二人目を送りこんできやがった。オマエみたいな生身でも、このプレッシャーを放ってるのが化け物だって分かるだろ?」
「そうか。やっぱりこの重圧の原因は、その……殺気、だったのか」
まさか『殺気』なんて言葉を、冗談以外で口にする日がこようとは夢にも思わなかったけどな。いつもの軽口が喉もとまで出かかってから、息を飲むのと一緒に胃まで落ちていった。
チカがただならぬ気配を纏っているのを感じたからだ。
「ヤツらの行動できるテリトリは、もうすぐ第三段階になる。次は数キロ圏内が変換されるだろうから、これ以上は逃げても意味がねぇ」
何を言っているのか理解できなかったが、彼女が武器に手を伸ばす理由はなんとなく察しがついた。
すでに傷だらけのチカにすがりつくわけにもいかず、だが掴まる物が欲しいあまり気が動転した俺は、何を思ったか落ちていた木の棒を拾い上げた。
「間違っても闘おうなんて思ってくれるなよ」
超現実主義的なチカが言うのだ。言葉少なながら、それがいかに無意味かを如実に物語っている。あまりにも日常とかけ離れすぎていて現実味がないが、不思議と彼女の言葉を信用することにためらいはない。
「お、おう。死力を尽くして逃げ惑う覚悟ができた」
「はぁ? イミフメー」
「俺も、ワケが分からん。それと聞きたいことが山ほどあるんだけど」
「言ってるバアイかよ。察せ」
懐かしい決まり文句だ。自分で考えろと言う代わりに、チカは端的な言葉でぴしゃりとしかりつける。けど今日の俺は前みたいに物分りが良くなかった。
「あ、あいつらなんなんだよ。レイヴンのキャラだろ? それがなんで俺の前にいて、しかも襲ってくるんだよ!」
「オレもレイヴンのキャラだが?」
「それは分かるけど! いや分からんけど今はいい!」
「質問は的確にっ」
回答はなかった。急に押し黙ってしまった彼女を覗きこむと、また顔面を手の平で押し返される。少しむかついたので、よけい意地になり食って掛かる。
「マテおい」
「七分二十八秒だ」
唐突な物言いに俺は眉をひそめる。
「なんだって?」
「この襲撃は予言されていた。ヤツらがこっちにいられる時間もな」
「それが、七分二十八秒だってのか」
「そうだ」
チカの言葉ひとつひとつが淡白なものに聞こえて、腑に落ちないものを感じた。
「予言……なら俺は? 俺は助かるんだろ? だって助からないんならチカは来る意味がないよな」
「今日は冴えてるな。けどそれはまだ確定してねぇよ」
「確定?」
用語の意味が分からなくてオウム返しに問う。
「予言と言っても高度な予測に過ぎない。オマエの実力が未知数で、予言に組みこむことができなかったんだ」
「ならチカの予言は? あとあっちの実力とか含めて」
「マジ今日は……いや、なんでも。それも未知数だよ」
普段と変わらぬ素っ気ない小声だったが、このときなぜか俺には彼女が言いよどんだような気がした。
「うぉっ」
思わず息を呑む。もうチカは地面にめりこむハンマーを両手で掴んでいた。
自分でもなぜそれ以上は詰めよることができなくなったのか分からなかった。
彼女の抵抗が思いのほか強かったからか。それともつらそうな荒い呼吸をよそに、闘いの意思を湛える瞳が生き生きと輝いていたからかなのか。チカの尋常ならざる『魔力』が高まるのを、なぜか自分が感じ取れていると気付いたからか。はたまた、脂汗と意地の悪い笑みを浮かべるチカが、あろうことか魅力的に見えてしまったからなのか。
――〔【巨神】〕――
電子音声がチカの声と重なってこだまする。すると彼女は、自分よりもはるかに重いはずのハンマーを左右から両手で掴んで、ゆるゆると引き上げてしまった。
そしてぽつりと続ける。
「換装、天賜纒装ッ」
「え?」
それはゲームの中の光景と完全に一致した。手の中のハンマーが掻き消え、後には光の粒子が集まった輪郭だけが残る。彼女が深く息を吸いこんでいくのにあわせて、その身を包む魔力が加速度的に高まっていった。
「だ、だってここ、ゲームの中じゃ」
俺は興奮にうわずった声をあげていた。
視界は目を覆わんばかりに輝きが増していたが、むしろ目を見開いて齧り付く。
「虹斂残光跡ッ! 『牙王』ォッ!!」
突然の大音声に、俺はただ驚くしかなかった。
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