異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ

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#14 収穫祭

 突然のことに驚いて「おい」と声をかけてしまうが、小さい嗚咽が耳元から聞こえてきて抵抗をやめた。肩がじんわりと濡れてくるのを感じる。色んな事を我慢してきただろう。それが今日で爆発してしまったのかもしれない。確かヒロイン(男)は俺と同い年のはずだ。十六歳の少年にこれほどの仕打ちは耐えきれなくて当然だ。

 今日は俺が庇う形になってしまったが、本来であれば悪役令嬢はヒロインをいじめる立場にある。強引な皇子に舞踏会のエスコートをさせてほしいと頼まれ、勝手にドレスまで仕立てられて渋々舞踏会に参加し、最終的には悪役令嬢に詰られる。味方をしてくれる人は誰もいない。彼女はどんな気分で今を迎えていたのだろう。

「……大丈夫か?」

 そろそろ落ち着いただろうと思って声を掛けると、慌てるように顔を上げてヒロイン(男)はバッと俺から離れた。

「ごっ、ごめん!」

 シルクで出来た手袋でごしごしと目元を拭いているのを見て、「これ、使えよ」と手に持ったままのハンカチを差し出す。驚いたせいか涙は止まったようだが、ヒロイン(男)は「ありがとう」と言って受け取った。

「ごめんね。突然」

「落ち着いたならいい」

 いきなり抱きしめられて驚いたのか鼓動が少し早い。ゆっくりと息を吐き出しながら俺のハンカチで目元を拭いているヒロイン(男)を見た。

「あの……、よかったの? 俺を庇ったりして」

 学校が始まってからヒロイン(男)と話したのは教科書が破られていた時と、昨日の二回だけだ。俺は徹底して彼を避けて、周囲に人がいるときは目すら合わさなかった。それが自衛だと思っていたのだが、周りが勝手に他人を使っていじめていると言い出しているのでそんな努力すら無駄だった。

「お前に対するいじめを俺のせいにされても困る」

 意外と好意的に接していれば考えが変わるかもしれない、なんて甘いことはあまり考えていない。行動を変えるならもっと早い方が良かった。舞踏会のエスコートを奪われ、二人でダンスを踊っているところを見せられてから、ヒロイン(男)に近づいたって何か企んでいると勘ぐられるに決まっている。

「皇女の婚約者も……、大変だね」

「お前ほどじゃない」

 咄嗟にそう答えるとヒロイン(男)は噴き出し、「そうだね」と笑った。

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