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#38 サラリスに棲む竜
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七割ほど登ったところで日が暮れた。陽が落ちてくると一気に空気が冷え込む。昨晩は雪が積もっていなかったのもあったので夜もランタンを持っていれば登山できたが、雪が降っていることを考えるとどこかで一晩明かしてから早朝に再開したほうが良さそうだ。体力だって限界を迎えている。丁度いい洞窟を見つけたので中に入った。
座り込むと一気に眠気が襲ってくる。ここで寝るのは危険だ。鞄の中に入れた菓子を取り出して口の中に入れる。蹲りながらゆっくりと噛む。うとうとと瞼が落ちてくる――……。
「ヴィンセント様……?」
バサリと翼のはためく音と同時に聞きなれた声がして顔を上げる。真っ暗な洞窟の入り口にはぎょろりとした金色の目玉がこちらを見つめている。何が起こったのか分からず、俺はただそれを見つめていた。
「ちょ、ちょっと、サラリス。邪魔です」
何かを押しのけて洞窟に入ってきたのはアルフレッドだった。ランタンを掲げて「やっぱり」と呟くとその場にランタンを落としてこちらに駆け寄ってきた。遅れてガチャンと派手な音を立てる。アルフレッドは俺の顔を両手で掴むと「何してるんですか」と心配そうな顔でそう尋ねた。
離れていた時間はそう長くないのに、何十年も会っていなかったようなそんな感覚に襲われる。もう二度と会えないのではないか、と不安だった。泣き出しそうになって、ぐっと堪える。
「それはこっちの台詞だ! 俺が、どれほど心配したと思っているんだ」
「すみません」
へらへらと笑っていて反省している様子はない。腹が立つ。やっぱり元気そうな顔を見たら殴りたくなった。
グォ、と入り口から鳴き声が聞こえて、そう言えばなんかヤバイ生物が入り口にいたのを思い出す。どう考えても竜だ。あの金色の目とバサリと翼をはためかす音。やっぱり竜だ!
「あ……、あ、あの、ヴィンセント様。紹介してもいいですか?」
「は?」
「どうも俺、竜と会話、出来るみたいで」
「知ってる」
「えええ!?」
細かい話は追々だ。それにしても紹介したいとはどういうことか。まさかとは思うが、竜に俺を紹介するってことか?
「実はヴィンセント様のことをサラリスが見つけてくれたんです」
「どういうことだ?」
「サラリスはこの山のことならほとんど把握しています。騎士達が下山した後、俺と同い年ぐらいの男が山に入ってきた、と聞いたときはまさかかと思いましたが、本当にヴィンセント様がいるとは思いませんでしたよ」
そう言ってアルフレッドは俺をぎゅうと抱きしめる。
「それでなんで俺を竜に紹介するんだ」
と言うかどうしてそこまで仲良くなっている。会話が出来るまでは理解できるけれど、俺を一緒に探しに来るってどういう関係なんだ。これがヒロイン力ってやつか?
「どうやら俺、サラリスを切りつけた人間の末裔みたいで」
「……は?」
俺が聞いていたのは巫女だったが、竜に傷をつけたとはどういうことなんだ。そう言えば竜の血を浴びた人間が竜と会話が出来るようになった、と言っていた。血を浴びたのは自分が切りつけたからだったのか。
「俺の顔を見るなりに物凄い怒って大変だったんですよ。殺されるかもしれないと思って必死に自分は無害だと、宝石を持ってきただけだと訴えて、何とか和解しました」
「へ……、へえ」
やっぱりコイツって主人公だわ。怒り狂った竜を会話で宥めるなんて普通の人間にはできない。きっとゲーム内でも怒っている竜に語り掛けて怒りを鎮めたのだろう。そうして世界は平和になりました、めでたしめでたし、みたいな。
「っていうか、お前の母さんは怒ってないって言ってたぞ!」
「え? めちゃくちゃ怒ってましたよ。これまで何度か麓の街を焼いたのも、俺の祖先が私欲のためにサラリスを切りつけた罰だって」
もしアルフレッドが志願せず街に残っていたら、竜は怒りのままに皇宮や城下町を焼き払ったかもしれない。
「とりあえず祖先がしたことを謝って、現状を説明したら納得してくれましたけど」
「理解力のある竜で良かったな」
「ええ、彼はとても長い時間、生きていますからね。人間よりも理解力がありますよ」
この短時間で二人は随分と仲良くなったようだ。少しだけ妬けるような気分になってアルフレッドから目を逸らした。
「それでサラリスにヴィンセント様を紹介したいんです」
「どうして」
「だって、俺の大事な人ですから」
満面の笑みを浮かべるアルフレッドに「仕方ないな」と答える。こんなことを言われて断れるはずがなかった。
座り込むと一気に眠気が襲ってくる。ここで寝るのは危険だ。鞄の中に入れた菓子を取り出して口の中に入れる。蹲りながらゆっくりと噛む。うとうとと瞼が落ちてくる――……。
「ヴィンセント様……?」
バサリと翼のはためく音と同時に聞きなれた声がして顔を上げる。真っ暗な洞窟の入り口にはぎょろりとした金色の目玉がこちらを見つめている。何が起こったのか分からず、俺はただそれを見つめていた。
「ちょ、ちょっと、サラリス。邪魔です」
何かを押しのけて洞窟に入ってきたのはアルフレッドだった。ランタンを掲げて「やっぱり」と呟くとその場にランタンを落としてこちらに駆け寄ってきた。遅れてガチャンと派手な音を立てる。アルフレッドは俺の顔を両手で掴むと「何してるんですか」と心配そうな顔でそう尋ねた。
離れていた時間はそう長くないのに、何十年も会っていなかったようなそんな感覚に襲われる。もう二度と会えないのではないか、と不安だった。泣き出しそうになって、ぐっと堪える。
「それはこっちの台詞だ! 俺が、どれほど心配したと思っているんだ」
「すみません」
へらへらと笑っていて反省している様子はない。腹が立つ。やっぱり元気そうな顔を見たら殴りたくなった。
グォ、と入り口から鳴き声が聞こえて、そう言えばなんかヤバイ生物が入り口にいたのを思い出す。どう考えても竜だ。あの金色の目とバサリと翼をはためかす音。やっぱり竜だ!
「あ……、あ、あの、ヴィンセント様。紹介してもいいですか?」
「は?」
「どうも俺、竜と会話、出来るみたいで」
「知ってる」
「えええ!?」
細かい話は追々だ。それにしても紹介したいとはどういうことか。まさかとは思うが、竜に俺を紹介するってことか?
「実はヴィンセント様のことをサラリスが見つけてくれたんです」
「どういうことだ?」
「サラリスはこの山のことならほとんど把握しています。騎士達が下山した後、俺と同い年ぐらいの男が山に入ってきた、と聞いたときはまさかかと思いましたが、本当にヴィンセント様がいるとは思いませんでしたよ」
そう言ってアルフレッドは俺をぎゅうと抱きしめる。
「それでなんで俺を竜に紹介するんだ」
と言うかどうしてそこまで仲良くなっている。会話が出来るまでは理解できるけれど、俺を一緒に探しに来るってどういう関係なんだ。これがヒロイン力ってやつか?
「どうやら俺、サラリスを切りつけた人間の末裔みたいで」
「……は?」
俺が聞いていたのは巫女だったが、竜に傷をつけたとはどういうことなんだ。そう言えば竜の血を浴びた人間が竜と会話が出来るようになった、と言っていた。血を浴びたのは自分が切りつけたからだったのか。
「俺の顔を見るなりに物凄い怒って大変だったんですよ。殺されるかもしれないと思って必死に自分は無害だと、宝石を持ってきただけだと訴えて、何とか和解しました」
「へ……、へえ」
やっぱりコイツって主人公だわ。怒り狂った竜を会話で宥めるなんて普通の人間にはできない。きっとゲーム内でも怒っている竜に語り掛けて怒りを鎮めたのだろう。そうして世界は平和になりました、めでたしめでたし、みたいな。
「っていうか、お前の母さんは怒ってないって言ってたぞ!」
「え? めちゃくちゃ怒ってましたよ。これまで何度か麓の街を焼いたのも、俺の祖先が私欲のためにサラリスを切りつけた罰だって」
もしアルフレッドが志願せず街に残っていたら、竜は怒りのままに皇宮や城下町を焼き払ったかもしれない。
「とりあえず祖先がしたことを謝って、現状を説明したら納得してくれましたけど」
「理解力のある竜で良かったな」
「ええ、彼はとても長い時間、生きていますからね。人間よりも理解力がありますよ」
この短時間で二人は随分と仲良くなったようだ。少しだけ妬けるような気分になってアルフレッドから目を逸らした。
「それでサラリスにヴィンセント様を紹介したいんです」
「どうして」
「だって、俺の大事な人ですから」
満面の笑みを浮かべるアルフレッドに「仕方ないな」と答える。こんなことを言われて断れるはずがなかった。
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