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何も知らない聖女
演習見学(3)
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女性魔族達に、もみくちゃにされたクララは、ヘトヘトの状態になっていた。演習再開の時間になったおかげで、解放されたが、あのままだと持ち帰られていた可能性もある。
「はぁ……はぁ……」
「ご苦労だったな、嬢ちゃん」
アーマルドが、女性魔族達から解放されたクララを労う。
「い、いえ、全然大丈夫です。別に嫌だったとかじゃないので」
「そうか。嬢ちゃん自身が、そう思っているのなら良いんだが、もし嫌だと思ったなら言ってくれ。やめさせようと思えば、やめさせられる」
「分かりました。その時は、よろしくお願いします」
アーマルドがこんな風にクララを労うのは、魔族達に解放された時のクララが本当に疲れているように見えたからだった。ただでさえ、魔族の中に人族が一人だけという状況なので、精神的な消耗は凄まじいとも考えていた。
「何なら、これからやる演習に参加するか? 一応、戦えなくはないんだろ?」
アーマルドは、クララを演習に誘った。ストレスが溜まっていると思い、それなら運動するのが良いだろうと考えた結果の行動だった。
だが、クララには、逆効果だった。演習ということは、魔族達との戦闘をするという事だ。その事を意識したクララは、勇者達と魔族を虐殺してしまっていた時を思い出してしまう。頭の中がぐるぐるとしていき、最初に意識したときと同じように吐き気が襲ってくる。
「うぷっ……」
ある程度受け入れて、もう大丈夫だと思っていたクララだったが、まだ精神的に克服出来ていたわけではなかった。消したい過去は、中々にしつこくこびり付いている。
「クララさん!」
クララの異変に、いち早く気が付いたリリンは、すぐにクララの傍に移動して、背中を摩る。
「ど、どうしたんだ?」
これには、アーマルドも戸惑ってしまう。アーマルドは、まだクララの心に、魔族を虐殺してしまった事による負い目、そして、トラウマが残っている事を知らなかったのだ。
「クララさんは、勇者達といた時に、魔族を倒していた事に負い目を感じています。なので、今は、私達との戦闘行為に拒否反応が出てしまうのだと思います。せっかくですが、演習へのお誘いは断らせてください」
吐きそうになっているクララの代わりに、リリンが演習参加を断った。クララは、前と違い、本当に吐き出す事はなかったが、まだ落ち着かない様子だった。
「そ、そうだったのか……何も知らなかったとはいえ、すまない」
「い、いえ……お気になさらないでください……私の問題ですので……」
クララは、吐き気を堪えながら、そう返事をして許した。アーマルドに悪気があるわけではない事を、クララも承知していたからだ。さらに言えば、これに関しては、クララが悪いという面もある。アーマルドが、一方的に悪いとは言えないのだ。
「せめて、気分が戻るまでは、観客席の方で休んでおけ。今の状態で、馬車になんて乗ったら、本当に吐いてしまうだろう。もし、余裕があるなら、演習の見学もしていってくれ。あいつらもやる気を出すかもしれん」
「分かりました……ありがとうございます……」
「では、失礼します」
クララは、リリンに抱えられながら、観客席の方に向かっていった。それを魔族達は、心配そうに見送っている。
「まさか、あそこまで負い目を感じているとはね……」
「まだ、ただの子供かと思っていたけど、きちんと色々考えているみたい」
「その結果、心に傷まで負っているわけか。自業自得と言えば自業自得だが、そう言って笑うことは出来ないな」
クララ自身が負っている心の傷は、他者から刻まれたものではなく、自分の行いで刻まれたものだ。だからといって、魔族達はそんなクララを笑うことは出来なかった。クララのあんな姿を見てしまったからだ。
「本人は、反省しているようだし、あまり責めるような事はしない方が良いよね。下手に責めると、何だかコロッと死んじゃいそう……」
「せめて、俺達は、居心地の良い空間を作り出しておくか。薬も作って貰うことだしな」
「だけど、大丈夫か? 人族は、すぐに調子に乗るだろう? あの子もどうなるか分からないぞ?」
「大丈夫でしょ。あの子は、そんな風にならないと思うわ。根はいい子だと思うもの」
「まぁ、実際、大丈夫だろう。そんな事になれば、魔王様や魔王妃様が動くはずだ」
魔王軍の魔族達は、これからもクララを責めるような事はしないようにしておこうと決めた。そもそもクララに、そんな事をしようと考えていなかったが、改めてそう決意したのだ。
「馬鹿な事を言っていないで、演習を始めるぞ。さっさと準備しろ!」
アーマルドが、クララの事で話し合って止まっていた魔族達を動かしていく。
(はぁ……少し失敗したな。現状、嬢ちゃんの事は、リリンに任せるのが一番だよな……? だが、この先、戦闘を強いられる状況になるかもしれないんだ。せめて、見る事から慣れてくれれば良いんだが)
アーマルドが、クララに演習の見学を勧めたのは、クララの心の傷を塞ぐ足掛かりになればと思ったからだった。戦闘行為を見ることが、戦闘行為そのものへの恐怖を薄れさせてくれるかもしれない。
だが、逆に、恐怖を深めることにも繋がるかもしれない。ただ、アーマルドは、そこの心配はあまりしていなかった。
クララの傍には、リリンがいる。もし、そうなりそうになれば、絶対にリリンが動くと考えているからだ。
「はぁ……はぁ……」
「ご苦労だったな、嬢ちゃん」
アーマルドが、女性魔族達から解放されたクララを労う。
「い、いえ、全然大丈夫です。別に嫌だったとかじゃないので」
「そうか。嬢ちゃん自身が、そう思っているのなら良いんだが、もし嫌だと思ったなら言ってくれ。やめさせようと思えば、やめさせられる」
「分かりました。その時は、よろしくお願いします」
アーマルドがこんな風にクララを労うのは、魔族達に解放された時のクララが本当に疲れているように見えたからだった。ただでさえ、魔族の中に人族が一人だけという状況なので、精神的な消耗は凄まじいとも考えていた。
「何なら、これからやる演習に参加するか? 一応、戦えなくはないんだろ?」
アーマルドは、クララを演習に誘った。ストレスが溜まっていると思い、それなら運動するのが良いだろうと考えた結果の行動だった。
だが、クララには、逆効果だった。演習ということは、魔族達との戦闘をするという事だ。その事を意識したクララは、勇者達と魔族を虐殺してしまっていた時を思い出してしまう。頭の中がぐるぐるとしていき、最初に意識したときと同じように吐き気が襲ってくる。
「うぷっ……」
ある程度受け入れて、もう大丈夫だと思っていたクララだったが、まだ精神的に克服出来ていたわけではなかった。消したい過去は、中々にしつこくこびり付いている。
「クララさん!」
クララの異変に、いち早く気が付いたリリンは、すぐにクララの傍に移動して、背中を摩る。
「ど、どうしたんだ?」
これには、アーマルドも戸惑ってしまう。アーマルドは、まだクララの心に、魔族を虐殺してしまった事による負い目、そして、トラウマが残っている事を知らなかったのだ。
「クララさんは、勇者達といた時に、魔族を倒していた事に負い目を感じています。なので、今は、私達との戦闘行為に拒否反応が出てしまうのだと思います。せっかくですが、演習へのお誘いは断らせてください」
吐きそうになっているクララの代わりに、リリンが演習参加を断った。クララは、前と違い、本当に吐き出す事はなかったが、まだ落ち着かない様子だった。
「そ、そうだったのか……何も知らなかったとはいえ、すまない」
「い、いえ……お気になさらないでください……私の問題ですので……」
クララは、吐き気を堪えながら、そう返事をして許した。アーマルドに悪気があるわけではない事を、クララも承知していたからだ。さらに言えば、これに関しては、クララが悪いという面もある。アーマルドが、一方的に悪いとは言えないのだ。
「せめて、気分が戻るまでは、観客席の方で休んでおけ。今の状態で、馬車になんて乗ったら、本当に吐いてしまうだろう。もし、余裕があるなら、演習の見学もしていってくれ。あいつらもやる気を出すかもしれん」
「分かりました……ありがとうございます……」
「では、失礼します」
クララは、リリンに抱えられながら、観客席の方に向かっていった。それを魔族達は、心配そうに見送っている。
「まさか、あそこまで負い目を感じているとはね……」
「まだ、ただの子供かと思っていたけど、きちんと色々考えているみたい」
「その結果、心に傷まで負っているわけか。自業自得と言えば自業自得だが、そう言って笑うことは出来ないな」
クララ自身が負っている心の傷は、他者から刻まれたものではなく、自分の行いで刻まれたものだ。だからといって、魔族達はそんなクララを笑うことは出来なかった。クララのあんな姿を見てしまったからだ。
「本人は、反省しているようだし、あまり責めるような事はしない方が良いよね。下手に責めると、何だかコロッと死んじゃいそう……」
「せめて、俺達は、居心地の良い空間を作り出しておくか。薬も作って貰うことだしな」
「だけど、大丈夫か? 人族は、すぐに調子に乗るだろう? あの子もどうなるか分からないぞ?」
「大丈夫でしょ。あの子は、そんな風にならないと思うわ。根はいい子だと思うもの」
「まぁ、実際、大丈夫だろう。そんな事になれば、魔王様や魔王妃様が動くはずだ」
魔王軍の魔族達は、これからもクララを責めるような事はしないようにしておこうと決めた。そもそもクララに、そんな事をしようと考えていなかったが、改めてそう決意したのだ。
「馬鹿な事を言っていないで、演習を始めるぞ。さっさと準備しろ!」
アーマルドが、クララの事で話し合って止まっていた魔族達を動かしていく。
(はぁ……少し失敗したな。現状、嬢ちゃんの事は、リリンに任せるのが一番だよな……? だが、この先、戦闘を強いられる状況になるかもしれないんだ。せめて、見る事から慣れてくれれば良いんだが)
アーマルドが、クララに演習の見学を勧めたのは、クララの心の傷を塞ぐ足掛かりになればと思ったからだった。戦闘行為を見ることが、戦闘行為そのものへの恐怖を薄れさせてくれるかもしれない。
だが、逆に、恐怖を深めることにも繋がるかもしれない。ただ、アーマルドは、そこの心配はあまりしていなかった。
クララの傍には、リリンがいる。もし、そうなりそうになれば、絶対にリリンが動くと考えているからだ。
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