攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎

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聖女の旅行

宿のお風呂にて

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 眠る場所も決まったところで、リリンは一度手を鳴らす。

「では、私は夕飯を作ってくるので、サーファはクララさんをお風呂に入れて来て下さい。お風呂のセットは、そこに置いておいたので」
「はい。分かりました」

 リリンは、サーファにクララを任せると、キッチンの方に向かった。サーファも立ち上がって、ソファに置かれている自分とクララの着替えを手に取る。

「それじゃあ、行くよ」
「はい」

 サーファは、クララを浴室に連れて行く。洗い場で、クララの頭と身体を優しく念入りに洗っていく。

「痒いところはある?」
「いえ、特には」
「そう? それじゃあ、洗い流して終わり! それじゃあ、湯船に浸かってて」
「あ、はい……」

 洗って貰ったクララは、湯船の前に立ちつくしていた。頭を洗いながらそんな状況を見たサーファは、小さく笑う。

「大丈夫だよ。魔王城の浴場なんかよりも、かなり低いから。クララちゃんの太腿くらいの深さだと思うよ」
「わ、分かりました!」

 クララは勇気を出して、湯船に脚を入れる。すると、サーファの言っていた通り、自分の太腿くらいの深さになっていた。

「そのまま座って、肩まで浸かってね」
「は~い」

 手早く自分の身体を洗ったサーファは、クララがちゃんと浸かれているのを見て、一安心する。

「どう? 気持ちいい?」
「はい。魔王城のお風呂は、ちょっと怖いですけど、こういう小さいのは安心します」
「魔王城のお風呂も慣れたら、楽しくなると思うよ」
「そうですかね? サーファさんは入らないんですか?」

 サーファは、風呂椅子に座ったまま、クララと話していたので、湯船に入らないのかと気にしていた。

「ここの湯船だと、私が入ったら狭いよ?」
「良いですよ。一緒が良いです」
「そう? じゃあ」

 サーファは、クララの後ろに入って抱きしめる。

「おっ、見てみて、クララちゃん」
「何ですか?」

 クララは、サーファが指をさした方である窓を見る。すると、ちょうど夕陽が沈んでいく光景がそこにあった。

「綺麗ですね」
「ね。夜景が綺麗かと思ってたけど、夕陽も凄く綺麗」

 クララとサーファは、沈んでいく夕陽を見ながらゆったりと湯船に浸かっていた。そして、今は夜景へと変わっていった。

「ほら、夜景も綺麗でしょ?」
「そうですね。あれも、本当に夜になったら光るんですね」
「ん? ああ、灯台だね。遠くまで照らせるように、強い光が出るんだよ」
「船に乗っていたら、有り難いかもしれないですね」
「そうだね。夜に船に乗る機会があったら、私達も実感出来るかもね」
「それにしても、夜の海って、綺麗ですけど、ちょっと怖いですね」

 クララは、周囲の明かりに照らされている夜の海ではなく、さらにその奥の黒く何も見えない海を見て、少し恐怖を感じていた。もし踏み入れば、為す術もなく吸い込まれてしまいそうな漆黒の海に。

「う~ん……今はね。月明かりに照らされたら、もっと印象が変わってくるよ」
「そうなんですか?」
「うん。でも、クララちゃんが感じているその怖さも、海が持つ側面の一つだよ。悪いところがあれば、良いところもある。まぁ、何にでも言える事だけどね」

 クララは、そう言われて自分の価値観が人族領にいた時と変わっている事を思い出した。それは、散々教会などで言われてきた魔族の印象とかけ離れた姿を実際に見たからだ。
 実際にそんな経験をしているクララは、サーファの言葉にすぐ納得した。

「人族にも良いところってあるんでしょうか?」

 クララは、サーファと話していて、ふとそんな事が浮かんだ。教会、勇者パーティー。その二つの経験から、人族の負の一面を嫌になる程見てきた。その考えはこういった部分から出て来たものだ。
 サーファは、きょとんとしてから、クララを抱きしめる力を上げた。

「それは、人によるっていうのが一番の答えだと思う。魔族も同じようにね。例えば、クララちゃんは、優しくて、正義感もあって、甘え上手の可愛い子っていうのが良いところ。でも、そうやってうじうじして、自分に自信がないところとかは駄目な所だね。クララちゃんは、やろうと思えば、色々と出来る子だと思うよ。だから、もっと自信を持とう?」
「うぅ……何かぼろくそ言われた気がする……」
「ご主人様の悪いところも把握して、ちゃんと伝えるのも従者の役割だよ」
「意地悪な従者ですね」
「ああ~! そんな事言う子は、こうだ!」

 サーファは、クララの脇腹をくすぐる。クララは、身を捩りながら振り払おうとするが、力が抜けてしまって上手く出来なかった。

「あはははは!! ご、ごめんなさい!」
「ちゃんと謝ったから許してあげよう」

 クララの謝罪を聞いて、サーファは、くすぐりを止めてクララを抱きしめる。

「私が主人なのに……」
「おっ、ようやくご主人様としての自覚が芽生えたかな」
「むぅ……」

 クララは、ふくれっ面になりながら、後頭部に当たるサーファの胸に頭を乗せる。そうして甘えてくるクララを拒まず、サーファはクララの頭を優しく撫でる。
 そんな調子で、ゆったりとお風呂に入っていると、浴室と脱衣所を繋ぐ扉が開く。

「いつまで入っているのですか? もう夕飯が出来ますよ?」

 顔を覗かせたのは、夕飯を作っていたリリンだった。

「はい。すぐ上がります」
「しっかりと髪を乾かしてから来て下さい」
「分かりました」

 リリンは、それだけ伝えると、キッチンに戻っていった。

「ちょっと長風呂しちゃったね。先に出て、身体とか拭いちゃうから、もうちょっと一人で浸かっていてくれる?」
「はい。分かりました」

 一緒に出てしまうと、片方がびしょ濡れのままになってしまうので、先にサーファが自分の身体と髪を軽く拭く。そして、下着を着た後、クララを呼んだ。

「クララちゃん、もう良いよ」
「は~い」

 湯船から上がったクララは、脱衣所でサーファに身体と頭を拭いて貰う。そして、パジャマに着替えた後、ドライヤーで、髪を乾かして貰った。

「はい。終わり。先に行ってて」
「はい」

 サーファも自分の髪を乾かさないといけないので、先にクララを居間に戻らせた。居間の食卓には、リリンが作った夕飯が並べられていた。今日の夕飯は、オムライスに野菜スープ、サラダとなっていた。ちなみに、クララのものだけ、二人の倍以上の大きさがある。
 その支度をしていたリリンが、クララに気が付く。

「サーファはどうしました?」
「まだ髪を乾かしてます」
「そうでしたか。では、クララさんは、先に食べていて下さい。飲み物を持ってきます」
「分かりました。いただきます」

 その後、飲み物を持ってきたリリンと髪を乾かしたサーファも集まって、夕飯を楽しんだ。

「ふぁ~……」

 夕飯を食べて、ソファでゆったりとしていると、クララが欠伸をする。今は、洗い物を終えたリリンがお風呂に入っているので、サーファしか隣に居ない。

「そろそろ寝ようか」
「ふぁい……」

 うつらうつらと船を漕ぎ始めたので、サーファが抱き抱えてベッドに連れて行く。その頃には、クララは静かな寝息を立てていた。
 サーファは、クララをベッドに寝かせて、上から布団を掛ける。

「おやすみ、クララちゃん」

 サーファがそう囁くのと同時に、リリンが寝室に入ってきた。

「居間にいないと思ったら……もう眠ってしまいましたか?」
「ついさっきです」
「そうでしたか。では、私達も、もう就寝しましょう。明日からは、沢山動き回る事になるでしょうから」
「はい」

 サーファは、クララの眠っているベッドの隣のベッドに入る。リリンは、クララと同じベッドに入った。

「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 クララに続いて、二人も就寝する。二人も、ここまでの旅で疲れていたため、すぐに寝息を立て始めた。
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