攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎

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魔族の聖女

クララの想い

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 リリンが自由に動き回れるようになるまで、一ヶ月程掛かった。その間、クララとサーファに世話をされていた。毎回申し訳なさそうにしていたが、クララ達から普段の恩返しと言われて、大人しく世話を受けていた。
 そして、今日はリリンの復帰日だ。前のようにメイド服に着替えて、朝早くにクララの部屋へとやってくる。まだ朝早いだけあって、クララは静かに眠っている。

「ふふっ……」

 久しぶりにクララの寝顔を見たリリンは、思わず小さく笑った。こうして、いつも通りにクララの寝顔を見る事が出来たのが、嬉しいからだ。しばらく椅子に座ってクララの寝顔を堪能してから、部屋のカーテンを開けに行く。
 朝日を顔に浴びて、クララは顔を顰める。

「う~ん……」
「朝ですよ。起きて下さい」
「う~ん……」

 リリンに起こされるクララだが、身体をうつ伏せにして、朝日から逃れようとしていた。そのタイミングで、サーファが欠伸をしながら、クララの部屋にやって来た。ここ最近、クララを起こす役目もサーファだったので、習慣付いてしまったのだ。

「サーファ、おはようございます」
「あ、おはようございます。クララちゃんは、起きましたか?」
「いえ、いつものように抵抗しています」

 そう言って、リリンはクララの脇に手を入れて、ベッドから引き剥がす。そして、自分の膝の上に乗せた。

「起きる気になってくれましたか?」
「……はい」

 観念したクララは、リリンに寄りかかりながら返事をした。久しぶりに甘えられるので、全力で甘えているのだった。だが、リリンにも仕事があるので、そのまま抱き上げられて、サーファに渡される。

「朝食を持ってきますので、後はよろしくお願いします」
「はい。任せて下さい」

 サーファは、クララを抱えて洗面所に向かっていった。リリンも朝食を取りに向かう。そして、前のように三人で揃って朝食を食べ始めた。

「魔王軍の演習は、まだ始まらないようですので、基本的に薬室での作業と運動をしてもらいます。講義に関しても、ベルフェゴール殿の体調が戻ってきたとのことなので、もう少しで再開するでしょう」
「聖剣の呪いは、本当に厄介なものみたいですね」
「そうですね。クララさんが破壊して下さって良かったです。あのまま残っていたら、厄介でしたから」

 先の戦いにおいて、聖剣で直接斬られたのは、リリンとベルフェゴールだけだ。聖剣による被害がたった二人しか出なかったのは、ベルフェゴールが最初からカルロスの相手を引き受けていたという面が大きい。

「そういえば、私が眠っている間に、何かお変わりになった事はありますか?」

 クララの世話をする上で、変わった事があれば、それに対応しないといけないからだ。

「いえ、特にはありません。普段通りです」
「それは良かったです。では、いつも通りにやっていきましょう。念願の普段通りの生活ですね」
「あっ……」

 そこでクララは、声を上げてから黙ってしまう。

「どうしました?」

 リリンがそう訊くが、クララは首を横に振る。

「いえ、何でもありません」
「そうですか。では、食器を片してきます。今日は、休みの日ですので、ゆっくりなさってください」

 リリンはそう言って、食器を片しに向かった。クララを、それを見送ってから、ベッドに腰を掛けて考え始める。サーファは、クララが何を考えているのか分からないので、首を傾げる。

「クララちゃん、どうしたの?」
「ちょっと大事な考え事です」
「ふ~ん……どんな事?」
「内緒です」

 クララにそう言われてしまったので、サーファはそれ以上訊くことは無かった。

(どうしよう……するなら、ちゃんと正面から行くのが良いよね……はぁ……もっとマーガレットさん達に相談すれば良かったかも……多分、弄られるとは思うけど……)

 そんな風に考えていると、リリンが帰って来る。ベッドの上でうんうん唸っているクララを見て、近くにいたサーファに耳打ちする。

「どうかなさったのですか?」
「何やら大事な考え事中みたいです。リリンさんは、心当たりってあります?」
「そうですね……いえ、特にないです。強いていえば、薬でしょうか」
「でも、薬学書を読まずに考え込みますかね?」
「そこが分からないところですね。いつもは、本と睨めっこしながらの考え事ですから」
「薬学と医学以外となると、魔法でしょうか?」
「それはないでしょう。どちらかと言えば、趣味の方があり得ます」
「ああ、確かに……」

 そんな風にこそこそと話していると、突然クララが立ち上がった。クララの考え事が終わったと判断した二人は、こそこそ話を終える。リリン達の元に来るクララは、少し顔を赤くしていた。
 リリンは、すぐに風邪の可能性を考えて、クララの額に手を当てる。

「……少し熱い気もしますね。エリノラを呼びましょう」
「分かりました」
「あ、ああ、だ、大丈夫です! ここにいて下さい!」

 すぐにエリノラに診せる判断をしたリリンと行動に移そうとしたサーファを、クララが引き留める。クララの必死なお願いに、リリンとサーファは、互いに顔を見合わせた。

「え、えっと……ま、まず、リリンさんにお話があるんです」

 そう言われて、サーファは二歩程後ろに下がる。それを確認したリリンは、クララと向き合ってから微笑む。

「何でしょうか?」
「え、ええ、えええっと……」

 今までで一番緊張しているクララの頬に、リリンが手を添える。

「クララさん、取り敢えず落ち着きましょう。言いたい事も言えませんよ?」

 リリンがそう言うと、クララは少しずつ落ち着いてくる。何度も深呼吸をして心臓を落ち着けていく。そして、まっすぐリリンを見た。
 大きく息を吸い、気合いを入れ、

「リリンしゃんの事がしゅきです! けっきょんしてくだしゃい!」

 盛大に噛んだ。クララの顔はさっきよりも真っ赤になっていた。

(うぅ……せっかく覚悟を決めたのに……失敗しちゃったよ……)

 リリンに伝わってなかったらどうしようと思い、クララは少し泣きそうになっていた。
 そもそもクララが告白しようと思ったのは、リリンの昏睡状態を見てしまったからだ。自分の気持ちを伝えられず、想い人が亡くなってしまうかもしれないという恐怖を味わい、リリンが完治したら告白しようと思ったのだ。
 クララがドキドキしていると、リリンが顔を近づけてきて、キスをしてきた。それはいつものように唇を付けるだけのキスでは無く、恋人同士がするようなキスだった。
 突然の事に、クララはぽーっとしてしまう。だが、すぐに我に返る。

「あ、あの……」

 クララは、少しもじもじとしながら、リリンを見る。そんなクララの姿を見て、リリンは、クララの言いたい事が分かった。

「良いですよ」

 リリンは、耳打ちでクララにそう言った。クララは、少し驚いた表情でリリンを見ると、リリンはこくりと頷く。それを受けて、クララは満面の笑みになり、リリンに抱きつく。それをぎゅっと受け止めてから、送り出す。
 送り出されたクララは、ニコニコと笑っているサーファの元に駆け寄る。クララの告白が成功して良かったと思っていたサーファは、自分の元に来るクララに首を傾げていた。

「え、えっと……私、一緒になるなら、サーファさんも一緒が良いんです。サーファさんもリリンさんと同じくらい好きで、ずっと一緒にいて欲しいんです。だから、サーファさんが良ければ、従者としてだけじゃなくて、家族として一緒になってくれませんか?」

 さっきのリリンへの求婚で、だいぶ緊張が解れたのか、今回はしっかりと伝えるべき言葉を伝える事が出来た。
 そして、クララからこの言葉を受けたサーファは、大粒の涙を流していた。自分の恋は絶対に実らないと諦めていたのに、まさかこんな形で実るなど思いもしなかったからだ。
 サーファは、ゆっくりとクララに近づき、力強く抱きしめた。

「うん……一緒になろう……私もクララちゃんの事、大好きだから」

 それを聞いたクララも、ホッとして涙を流す。二人して泣いていると、

「クララさん、サーファ」

 優しく二人を呼ぶリリンの声がした。二人がそっちを向くと、そこには両手を広げているリリンの姿がある。二人は、リリンの元に行くと、リリンが優しく抱きしめる。二人は、リリンの胸の中で泣いていた。
 それは、リリンが目を覚ました時と全く同じ状態だった。

(本当に可愛い二人ですね)

 リリンは、クララとサーファ二人に愛しさを感じていた。リリンが、クララの考えに了承したのは、自分の中にサーファを想う気持ちがある事に気が付いていたからだ。
 サーファも同じようにリリンを想う気持ちがある。その証明は、リリンが起きた時の大泣きを見れば分かる事だ。
 こうして三人の気持ちが、本当の意味で一つになった。

────────────────────────

 そんな三人の姿を扉の隙間から覗いている者がいた。当然のことながら、カタリナだ。

(わ~お~……まさかの現場を目撃してしまったわ……これは、忙しくなるわよ……)

 カタリナは、すぐに扉を閉めて、自分の執務室に向かった。
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