猫魔女と弟子と魔法の世界

月輪林檎

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立派な魔法使いへ

第二ラウンド

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 ヤツデの魔力を吸収し続けていると、段々とヤツデの動きが緩慢になっていった。この調子で奪い尽くせば倒せる。そう思っていると、急にヤツデの魔力が吸えなくなった。恐らく、全部吸い尽くしたのだと思う。

「師匠!」
「っ! 離れなさい!」
「えっ……?」

 直後、ヤツデの身体が爆発した。私は、その衝撃で吹っ飛んでいく。まともに食らったので、一瞬意識が飛んだ。

「うっ……」
「水琴! しっかりしなさい!」

 師匠の声が聞こえて、意識が戻って来た事に気付いた。そのまま『飛行』を使う前に、誰かに受け止められる。

「大丈夫か!?」
「白……」

 受け止めてくれたのは、白だった。私は、白に抱き止められながら地面に降ろされた。身体全身が痛い。でも、感覚的には、五体満足でいるから、運は良いかな。白が、すぐに回復させてくれる。

「ヤツデは……?」

 私は、白の腕の中からヤツデがいるはずの方向を見る。生い茂っていた木々は軒並み消え、その中央に人型の何かが立っていた。その背中から四本の腕が生えている事から、それがヤツデなのだろうと考えられる。でも、一つ違和感があった。

「あれって……」
「クライトンの顔ね。それも本当にクライトンだった時の顔よ」

 師匠が言うという事はそうなのだろう。ヤツデは、クライトンの姿を模倣していた。身長も人と同じくらいの大きさだ。

「魔力が少なくなった事で、もっと効率的に動けるような形態へと変化したようね」
「クライトンの見た目になった理由は?」
「恐らく、魔力で繋がっている間に学んだのでしょうね。恐らく、水琴から学んだものもあるのでしょうけど、水琴は常に抑え込んでいたから、クライトンの方が、比率が多いのだと思うわ」

 それを聞いてから立ち上がる。さっきの爆発でポンチョが駄目になったので、師匠は地面に下りていた。

「魔力が少ないなら、再生も限りが出て来るよね」
「そうね」
「じゃあ、戦わないと」

 私がそう言ったのと同時に、ヤツデに向かって石の槍が飛んでいく。ヤツデは、それに対して、左腕を伸ばして止めた。そして、石の槍は、どんどんと消えていった。多分、あの手のひらにも口が付いているのだと思う。

「見た目が変わっても特徴は変わらずみたいだね。白は下がってて」
「……分かった」

 白が近くにいたら、ヤツデが白に向かって行きかねないので、一旦離れて貰う。私は、身体強化をしてヤツデに向かって行った。そして、その顔に向かって魔力弾を撃つ。すると、ヤツデの身長以上の魔力弾が飛んでいった。

「えっ?」

 さっきまでの威力よりも遙かに強いものが出たので、これには一瞬思考が停止しかけた。でも、すぐに私がヤツデの魔力を吸収したせいで、魔力の総量が増えたからだと気付いた。杖の性格もあり、このままだと魔法の制御が出来なくなりそうだ。でも、正直、今だけなら助かる。ヤツデをこの場で倒さないといけないからね。
 ヤツデは、背中の四本の腕を蜷局状にして盾を作りやり過ごしていた。でも、腕の表皮は皮がなくなり肉が見えている。ダメージは入っている。そのダメージも、すぐに再生で元に戻った。

「【稲妻ライトニング】!」

 めぐ姉が使っていた魔法を使う。自然に発生するような極太の雷が放たれて、ヤツデの身体を貫く。身体がビクンと痙攣した事から有効だと分かる。ヤツデだった時に使っていないから分からないけど、あの姿になって、人と同じような状態になっているのかな。なら、弱点は人と同じかもしれない。
 そう思いつつ、一定距離で様子を見る。私に向かって両手を伸ばそうとしたヤツデに、茜さんの『氷霧世界』が襲い掛かる。すぐにそっちに気付いたのか、ヤツデは、腕で身体を庇った。凍結した腕は砕けたけど、すぐに再生する。

「本当にクライトンですね」
「意味が分からないけどやるしかないよ」
「まずは何が有効なのか。【灼熱世界ムスプルヘイム】!」

 今度は、美玲さんが灼熱の炎でヤツデを燃やす。ヤツデは、さっきと同じように腕で自分と炎を遮る盾を作り出す。がら空きになっている横側から『石弾』を撃ち込む。もはや、岩の大きさになった『石弾』は、盾に使っている四本の腕の内、二本を半ばから千切り落とした。その結果、盾はまっすぐ炎に向けられず、『灼熱世界』を身体で受ける事になる。

『ガアアアアアアアアア!!』

 身体が焼けると痛みが強いのか、ヤツデが叫ぶ。その中で、片腕を私に向かって伸ばしてきた。それに対して魔力弾を撃つけど、ヤツデは痛みを受け入れながら、魔力弾の中を進ませ、目の前まで迫ってきた。ギリギリのところで、身体を倒す事で避けたのだけど、それを読んだように、もう片方の手が迫ってきた。

「【爆破】!」

 その手を爆発させる。肉片が飛び散った事から腕を削れたと思ったけど、それで止まるヤツデじゃなかった。腕を再生させて、更に伸ばしてきた。その手が私の腕を掴む。握られる痛みと同時に、鋭い痛みが走る。腕に噛み付かれたみたいだ。
 叫びそうになったけど、それを押し殺して私を掴んでいる腕を空いている手で掴んで、身体強化と部分強化で腕を強化してから、思いっきり引っ張る。これは予想外だったのか、ヤツデが釣れた。この事から、ヤツデは自分の意志でしか腕を伸ばせない事が分かる。空中に投げ出されたヤツデに向かって、茜さんの『氷地獄』が放たれる。でも、それは背中に残っている二本の腕で防がれた。その二本が凍り付いたところに魔力弾が撃ち込まれて、砕かれた。
 その間に、美玲さんが私の近くに来ていた。

「ふんっ!」

 私を掴んでいる腕を魔法で斬り落とす。そして、私を掴んだ状態の手を外した。腕の状態は、骨が見える程肉が食べられた後だった。美玲さんは、即座に治療に移る。

「無理しすぎ!」
「ご、ごめんなさい。ちょっと慢心があったかもです……」
「反省できているなら良し。師匠は、しばらく動けないから、私達で出来るだけ削るよ」
「えっ、なんで師匠は動けないんですか?」
「本気でヤツデを倒すみたい。そのために力を溜めている途中だからかな。私達だけじゃ、ヤツデは倒しきれない。魔力は少なくなっていても、段々こっちの動きに対応してくる。私達は、常に致命的な魔法を使う事を強いられる。それ以外は、無視して攻撃出来るって分かったみたいだからね」

 それを聞いて、ヤツデが魔力弾を受けながら手を伸ばしてきた理由が分かった。私の魔力弾は、ダメージにはなるけど、死ぬところまではいかないと判断されたという事だ。
 つまり、私達も相手が防戦に移る魔法を見つける必要がある。

「取り敢えず、これで良し」
「ありがとうございます」

 美玲さんが治療してくれた腕は、完全に元通りとはいかないけど、ちゃんと動かせるくらいには治されていた。

「私は回復に専念するから、三人で何とか道を見つけてね」
「はい!」

 私と美玲さんは、どちらからともなく離れるように動く。美玲さんにヘイトを向けさせるわけにはいかないからね。

「【氷地獄コキュートス】!」

 美玲さんから十分離れた位置で、何度も見てイメージが固まった『氷地獄』を放つ。ヤツデは、『氷地獄』を腕一本で受ける。『氷地獄』なら一本で良いと判断したのだろうけど、その考え自体が甘い。私の杖によって威力が引き上げられた『氷地獄』は、触れた腕を根元まで一気に凍り付かせた。
 背中の一部も凍った事で、動きが一瞬止まったヤツデに向かって、冷音さんが魔法を放つ。ヤツデの全身に無数の切り傷が刻まれる。これは致命的な魔法として撃たれたわけじゃなくて、ヤツデに再生を促して魔力を削るためのものだと思う。
 そこに茜さんの『灼熱世界』が放たれる。切り傷に加えて火傷も負う事になるヤツデは、『灼熱世界』に向かって動かせる腕で作った盾を作り防いだ。そうして『灼熱世界』を防いでがら空きになった背中に一気に詰める。そして、その背中に手を付ける。

「【吸魔】!」

 一気に魔力を抜き取ってから、即座に離れる。魔力を奪われたヤツデは、怒りの表情で私の方を向いた。そこに、今度は冷音さんが投げた瓶が飛んでくる。ヤツデは、瓶を簡単に壊した。そして、その中身の液体を被った。

『ガアアアアアアアアア!!』

 まるで、強力な酸を浴びたかのように白い煙が立ち、ヤツデの皮膚が爛れる。この爛れも、再生の対象に入るので、さらに魔力が削られる。

「【破城槌はじょうつい】!」

 地面から石の柱が突き出て、ヤツデの身体を突く。身体がくの字に曲がる。普通の人なら、完璧に骨が折れている角度だ。でも、ヤツデからは骨折したような感じがしない。

「骨は優先されている感じかな」

 すぐに体勢を建て直したヤツデが、私に向かって四本の手を伸ばしてくる。そこに、でっかい熊が突っ込んできた。四つの腕の半ばを掴んで、熊がヤツデを引き摺っていく。その熊は、茜さんが絵画魔術で出した熊だった。私に向かうはずだった手は、腕を掴んでいる熊に向かって、その身体をズタズタにしながら食べた。

「傑作だったのに! 【雷鎚ミョルニル】!」

 ヤツデの上に雷の金槌みたいなのが出て来て、ヤツデを叩いた。激しい雷鳴が響き渡り、『雷鎚』に飲まれたヤツデは、身体中に火傷を負っていく。さらに、感電を起こし、上手く動けなくなっていた。

(雷系の魔法なら、動きも止められて、火傷も負わせられる。私には、まだあの魔法のイメージがよく分からないから使えないけど、二人が使うまでの時間稼ぎなら出来るかも!)

 そんな事を思っていると、ヤツデの様子が変化した。

『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 ヤツデは、悲鳴とは違う叫び声を上げる。それは、魔力を伴った叫び声だった。それによって、『雷鎚』がかき消させる。そして、すぐさま、私に向かって六つの手が伸びてきた。
 すぐに駆け出して、その場を離れる。六つの手の内、三つは追い掛けてきて、残り三つは先回りしてきた。クライトンの時と違って、単調な動きじゃない。

「【稲妻ライトニング】!」

 稲妻を放って、正面の腕を焼く。でも、ヤツデは一本の腕で受けきって、残り二本が迫ってきた。茜さん達が魔法を撃とうとしているけど、多分、間に合わない。

「【止まれ】!」

 正面の二本に向かって、言霊を使う。二本の腕は、その場で止まるので、その下をスライディングで潜り抜けて、その場から離れる。追ってきていた三本は、この間に放たれた『氷地獄』で固められていた。
 このまま離れようと思っていたら、感電していた腕が復活して私の足を掴んできた。

「っ!」

 抜けられるだろうと思ったのに、そこまで甘くはなかった。でも、言霊が通用するという事は分かった。

「【千切れろ】!」

 ヤツデの腕が千切れて、掴んでいた手が離れる。でも、同時に問題も起こった。

「ごほっ……!?」

 ヤツデ相手に連続での言霊は、身体への負担が大きいみたいで、吐血してしまった。それを見たからか、ヤツデが再び腕を殺到させてくる。そこに、茜さんと冷音さんが割って入って腕を迎撃した。
 でも、これでヤツデの攻撃は終わらなかった。

『ガアアアアアアアアアア!!』

 再び叫んで魔力の衝撃波を放ってくる。しかも、それがヤツデ本体からだけではなく、伸ばされている手のひらからも放たれた。

「【吹っ飛べ】!」

 衝撃波が茜さんと冷音さんに当たる前に、衝撃波から離れる方向へと茜さん達を吹っ飛ばした。その結果、衝撃波の全てを私が受ける事になる。

「水琴ちゃん!」
「水琴さん!」

 二人の声は最後まで聞こえなかった。
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