吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

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吸血少女の始まり

チュートリアル

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 チュートリアルは、コロッセオのような大きな円形の建物で行われる。結構目立つ建物なので、迷わずに向かう事が出来た。そんな私は、走りながら自分の脚を見る。

(ブーツでも、問題無く走れる。ここら辺の感覚は、他のゲームと同じで良かった。現実重視で走れないようなのだったら、すぐに靴を替えないとだし)

 走る感覚は、ゲームによって違う事もあるので、私がよくやっているゲームと同じ感覚で良かった。自分達の好みの格好で戦えるようになっているのだと思う。そこら辺は嬉しい。
 チュートリアルの建物に着いた私は、すぐに中に入った。中には、私の他にも初心者の方々がいた。待機列というよりは、皆で情報交換をしていたり、友達同士で来ていたりするみたい。今日は、日曜日だから、人が多いっていうのもありそう。
 誰かに絡まれると面倒くさいので、さっさとチュートリアルを済ませる事にする。建物にいる強面おじさんNPCに話しかける。

「指導お願いします」

 特に決まった台詞はなく、ただ話し掛ければ、チュートリアルは始まる。だけど、私は、何となく指導して貰う立場だからという理由で、そういう風に言った。すると、おじさんは、良い笑顔で笑った。ただ、見ようによっては怖い。

「おう! やる気は十分みたいだな! 付いてこい!」

 おじさんに付いていくと、急に周囲のプレイヤーが消える。チュートリアルは、別エリアで行われるみたい。チュートリアルに邪魔入りさせないための配慮ってところかな。
 闘技場のような場所の中央にやってくると、おじさんと向かい合わせになった。

「お前の武器は何だ!?」
「剣です」
「よし! 俺に打ち込んでこい!」

 おじさんが剣を構えるので、私も剣を構える。これまで色々なゲームをやってきているので、剣の扱いもゲームの中では上手い方だと思いたい。
 私は、大振りで攻撃する事はなく、小さな攻撃をおじさんに打ち込んでいく。袈裟斬りやら横薙ぎやらで、おじさんの重心を崩せるタイミングを見計らう。おじさんは、余裕の笑みで全部の剣を受け止めてくる。結構強い人みたいだ。
 基本受けでいてくれるみたいなので、ちょっと力任せにいく事にする。真上から力一杯剣を振り下ろす。おじさんは、すぐにそれを受け止めた。だけど、さっきまであった余裕が少し消えた。小振りの中に、時折大振りを交えて、相手の重心を崩そうとする。でも、こっちの攻撃は、上手く防がれて、中々崩れない。
 なので、一度後ろに下がってから、一気に詰め寄って突きを放つ。それすらもギリギリ受け止められてしまった。
 すぐに剣を引き戻して、連続で鋭く軽い突きを放っていく。どちらかと言うと、レイピアのような使い方だ。そして、剣を引き戻したタイミングで、思いっきり袈裟掛けに斬る。その一撃で、ようやくおじさんの剣を弾く事が出来た。そのままの勢いを殺さないように身体を一気に回転させて、横薙ぎに斬る。

「!?」

 これなら当たると思ったけど、その前に謎の障壁に阻まれた。少し驚いたけど、さすがに、倒せるようにはなっていないって事で納得した。
 おじさんも何かに納得したかのように頷いていた。

「ふむ。これなら何の問題も無いな。他にスキルはあるのか?」
「あ、【吸血】です」

 私がそう言うと、おじさんの顔が険しくなる。NPCにもそんな顔をされる程、不人気のスキルみたい。

「そうか……吐かないように気を付けろ。あれは、吐いたら意味がないからな」
「あ、そうなんですね。わかりました」

 ここで初期スキルについての一言も貰えるみたい。私の場合は、吸血した時に吐き戻したら、スキルの効果が発揮出来ないらしい。しっかりと飲み込まないといけないみたい。
 その後、歩き出すおじさんに付いていくと、元の場所に戻ってくる。

「これで指導は終わりだ。後は自由に回りな!」
「はい。ありがとうございました」

 おじさんに頭を下げて、その場を後にしようとすると、正面に男三人組が現れた。私の進路を塞ぐようにだ。どう考えてもわざとやっている。

「ねぇ、君、初心者だろ? せっかくだから、俺達と一緒にパーティー組まない?」

 男の一人がそんな事を言ってくる。他の二人も頷いていた。どう考えてもパーティーに誘っているという呈のナンパだ。うざい。

「間に合ってます」

 そう言って、横を抜けて先に行こうとすると、三人が回り込んでくる。

「いやいや、でも、女の子一人じゃ危ないでしょ?」
「そういうゲームなので、危ないのは当たり前でしょう? 私は、ソロでやるつもりだから、もう話しかけないでください」
「いや……」

 尚も食い下がろうとしてくる男達と私の間に、複数の男達が割り込んできた。

「マナーのなっていない初心者だな。彼女が嫌がっているだろう」

 大柄の男が、三人組に圧を掛けている。三人組は、一気に怯んでゆっくりと後退っていった。

「ほら、今の内に行きな」

 大柄の男の仲間らしき軽装の男が、そう言って出口を指さした。本当に私を逃がしてくれるみたいだ。

「ありがとうございます」

 頭を下げてから、建物を出て行く。

「ふぅ……助かった。あの人達あしらい慣れてたな。このゲームの中だとありがちの事なのかな。ここからVRMMOを始める人もいそうだし」

 他のゲームでは、あまり出会う事がなかったので、あれ以上絡まれたら、どうして良いか分からなかった。そういう意味では、あの人達に助けて貰えて良かったかも。

「ちょっと可愛くし過ぎたかな。こういうトラブルが起きた時の対策は、考えておこうっと。よし、次は実戦だ。確か、東にある森が初心者向けなんだっけ?」

 事前に調べた事を思い出して、私は東の出口に向かっていった。その間に、多くの人とすれ違う。そのほとんどがプレイヤーだった。
 本当に、プレイヤーが多くなったものだ。一時期は、VRMMOも下火になっていた。
 それは、十年程前に起こったある事件がきっかけだった。よく分からないけど、この世界を新しくするために、多くの人がゲームの中に囚われた。その状態が、二ヶ月くらい続いて、その人達が解放された。たった一人の少女を除いて。少女は、皆を救うために一人犠牲になったと言われている。実際に、そうなのかは分からないけど、解放された人のほとんどはそう言っている。
 この事件の首謀者であるゲーム開発者は、発見されてすぐに捕まった。そして、今も刑務所に入っている。
 この事件のせいで、VRMMOへの恐怖心が強くなった。それでも、VRMMOがなくならなかったのは、この世界の魅力に囚われた人達が大勢いたからだと、私は思っている。実際、私もこの世界が大好きだ。現実とは違った魅力に溢れている。
 この世界は、私にどんな顔を見せてくれるのだろうか。この街から外に出る。それが、この世界の魅力を知る初めの一歩だ。
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