吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

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高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

遅れてきた補填

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「ハクちゃ~ん!!」

 ギルドエリアに転移した直後に、アク姉が飛びついてきた。そのまま抱え上げられて、アク姉達の屋敷前に置かれたベンチに座った。今日は横並びの日らしく、私もベンチに座る事が出来た。

「アク姉、何してるの?」
「メイティ達を待ってるところに、ハクちゃんが帰ってきたから、ハクちゃん成分を補給しようと思ってね。ちょうど散歩してたし」
「ふ~ん……ん?」
「どうしたの?」

 アク姉の質問に、すぐ答えないで、一旦自分でもしっかりと確認する。
 急に運営からメッセージが届いた。お知らせという形ではなく、『お詫び』という件名が付いている。

『この度は、こちらの不手際により、ハク様にご不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ありませんでした。本来であれば、お知らせと同時に補填となるものを贈るはずでしたが、システム的な不備により、ハク様へと贈られていない事を確認しております。つきまして、こちらの補填に不備による補填を追加して贈らせていただきます。こちらの不手際によりご迷惑お掛けしましたこと心から謝罪申し上げます』

 その文面と一緒に贈られてきたのは、『守護天使の羽根』『冥界の炎』『黄昏の始祖の血瓶』『進化の権利』の四つだった。補填がどの形で贈られてくるのか分からなかったけど、まさかアイテムが四つとは思わなかった。【武芸百般】と補填の贈り忘れで二つだったら分かるのだけど、その倍だから、若干戸惑う。

「色々とあって、運営から補填が来たんだけど、思ったより数が多かった」
「アイテムでの補填なの? 何かアイテムをロストさせたとか?」
「ううん。【武芸百般】に統合されるはずだったスキルが、全部消えたの。前までは収得可能になっていたんだけど、それも出来なくなって、技も会得出来なくなったの。でも、一応派生スキルは収得可能になってるの」
「統合スキルだからって話?」
「うん。一応、統合に必要なレベルで、【武芸百般】に内包されているみたい」

 今回の出来事をアク姉に一通り説明した。これを聞いたアク姉は、ちょっとだけ納得した顔をした。

「ああ、まぁ、統合スキルって、大体そんな感じだもんね」

 そう。本来の統合スキルでは、統合元の同一スキルを収得する事は不可能になるため、一応納得の出来る措置ではある。急な調整は納得いかないけど。

「SPの方は?」
「貰えない」
「わぁ……いきなりそれは補填が必要になるかもね。【武芸百般】って、結構な数の統合だったよね?」
「うん。基礎的な武器スキルの集合スキル。【水泳】と【騎乗】もだけど」
「その補填が、今来たって事?」

 アク姉の確認に首を横に振る。さっきのメッセージで、そこは否定出来るからだ。

「本当は、説明のメッセージが来た後に、すぐ来るはずだったみたいだよ。その遅れた分の補填も合わせて、アイテム四つ」
「う~ん……正直少ないって感じちゃうけどなぁ。それこそ、激レアなアイテムじゃないと釣り合わないんじゃない?」
「全然聞いた事ない名前だよ。守護天使の羽根、冥界の炎、黄昏の始祖の血瓶、進化の権利っていうのなんだけど」

 名前を聞いたアク姉は、少し黙る。頭の中で、自分の知っているアイテムかどうかを思い出しているのだと思う。

「うん。全部聞いた事ないアイテムだね。名前的に凄く重要そうなアイテムだけど、武器強化素材なのかな? スキルの補填にしては、ちょっと微妙な感じがするけど」
「でも、血瓶だよ。これでパワーアップ出来るかも!」

 そう。黄昏の始祖の血瓶だけは、これまでの???の血瓶などから期待出来るものと考えられる。何より、初めて血瓶でしっかりとした名前が見えているのが気になる。

「まぁ、ハクちゃんには嬉しいアイテムか。どのアイテムもハクちゃん自身には使えないの?」
「まだ分からない。今から調べてみる」

 守護天使の羽根は、青白いオーラを発している白い羽根で、冥界の炎は、ランタンのような入れ物に入った黒い炎だった。黄昏の始祖の血瓶は、他の血瓶と変わらず、瓶に入った血液だった。この三つは、特に使用する方法などはなかった。
 最後の進化の権利は、本のようになっていたけど、使用が可能だった。説明曰く、スキルを一つ進化させる事が出来るというアイテムらしい。

「う~ん、進化か……」
「まぁ、レベル上げてたら、普通に出来るものだしね。あれだったら、進化しなさそうなスキルに使ってみたら? それこそ、【武芸百般】とか」
「確かに、【武芸百般】は進化しなさそうだけど」

 他にも色々と進化させてみたいスキルはあるけど、まずは出来るかどうかの確認からだ。すると、【武芸百般】は進化が可能だった。でも、他のスキルの進化とは、少し違い、統合進化というものが起こるらしい。統合しつつ【武芸百般】が進化するっていう解釈で間違ってはいない。

「統合されるのは、【細剣】【曲刀】【大剣】【片手半剣】【投げナイフ】【短刀】【マンゴーシュ】【魔長杖】【魔短杖】【剛槍】【薙刀】【手槍】【投げ槍】【弩】【強弓】【戦槌】【星球槌】【大鎌】【戦斧】【鉄盾】【鞭】【潜水】【騎馬術】【登山】だって。【武芸百般】も含めて、全部レベルが60になるみたい」
「それで、技は?」
「会得出来ない」
「おぉ……ハクちゃんが育てる気がないなら、良いんじゃないかな? そこからの派生も取れるって事でしょ?」
「前のメッセージ通りだったらね。どうしようかな……割と【血液武装】の自由度とマッチしてるんだよね」

 コーラルタートルへの攻撃も【血液武装】の自由度を利用していた面があるし、この前のイベントでも色々と武器を変えて翻弄したしね。

「まぁ、【武芸百般】が一番進化させ辛いし、【武芸百般】にする」
「こうして、またSPを得る機会が減ると」
「うっ……う~ん……でも、これから先進化出来る可能性は低いし、強制的に進化出来るなら、技がなくなってでも取得した方が良いと思う!」
「うんうん。まぁ、どうせ、技よりもプレイヤースキルの方が重要って言っても過言じゃないしね」

 アク姉の言葉は、師匠とソルさんの稽古を見ていたら納得してしまう。ソルさんは、スキルの恩恵はあれど、技無しで師匠と完全に渡り合っていったわけだし。後は、この前のイベントでもソルさんとの戦いでは、全然技を使わなかったし。
 【武芸百般】を進化の権利で進化させて、【武芸千般】にした。これで、さらに武器の攻撃補正が強くなる。

「SPは消費しないの?」
「うん。消費しなかった」
「良かったね」
「うん」

 進化の権利を使用しても、SPを消費するという事はない。本当に無条件でスキルを進化させるというものだった。これは、本当に凄いアイテムだった。ランク4や新しく追加されたランク5に至るSPを節約出来る。実際、【武芸千般】は、本来ランク5のスキルだったみたいで、SPを20も節約する事が出来た。てか、ランク5って20も消費する事を初めて知った。結構大きな消費だ。

「アク姉って、ランク5のスキル取った?」

 私は、こんな感じで手に入れちゃったけど、最前線に近いところで戦っているアク姉はどうなのか気になった。

「ううん。まだだよ。魔法のスキルって、意外と成長しにくいんだよね。強力なものが多いからかな。メイティ達は分からないけど、姉さんなら取ってるんじゃないかな。異常だし」
「確かに、フレ姉なら取れる条件を満たしていてもおかしくないかも」

 今度会ったら、訊いてみようと決めた。
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