吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

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高く光へ昇り深く闇へ沈む吸血少女

条件の吟味

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 夕食を終えてログインした私は、再び大聖堂に降り立った。

「さてと、探索を始めるかな」

 周辺を調べるために、大聖堂の外に出ると、周囲が真っ白になっていた。ここに降りた時、視界が開けていたのは、結構運の良いことだったのかもしれない。

「はぁ……雲の中って、何も見えないんだよね……【水氷操作】は使えるかな」

 雲は水と同じなはずなので、【水氷操作】で動かせると思ったけど、そう上手くはいかなかった。周囲五十センチほどしか雲を退かす事が出来なかった。常に流れてくるし、量が量だから、そこまで操れないのだと思う。

「まぁ、少し視界が開けるだけマシかな。ちゃんとした探索になるし……うぷっ……」

 探索を再開しようとしたら、急に突風が吹いてきた。この山脈エリアに来た時も風が強くて驚いたけど、ここは、下よりも風が強い。この突風対策に、【操風】の方も装備する。

「スキルもどうにかしないと。【始祖の吸血鬼】とかが控えでも発動してくれるようになればなぁ……私としては、もう吸血鬼のままで良いって思ってるし」

 装備出来るスキルが限られているので、こういった操作系スキルの選択が面倒くさくて仕方ない。

「早くスキルレベルを上げて、控えでも発動出来るスキルを増やしたいなぁ。出来れば、今装備しているスキルの中から、それが現れてくれると嬉しいんだけど」

 狭い視界の中で、大聖堂の周辺を探索する。右回りで歩いていき、裏側に着いた時、私は脚を止めた。

「おぉ……何て言えば良いんだろう? 都合が良すぎるっていうのが正しいかな」

 私の目の前には、砂漠で見た祈りの霊像が置かれていた。苔むしているけど、欠けたりはしていない。

「霊像が使われてない……いや、そもそも使い方すら分からないからか。まぁ、私も分からないけど」

 取り敢えず、【水氷操作】で雲の中の水を集める。その水で祈りの霊像に付いた苔を落としていく。レインと違って、水の操作が下手だから、ちょっと時間が掛かりそう。でも、着実に綺麗には出来る。布も使って、軽い汚れも落とすと、かなり綺麗になった。

「これで良し。これで精霊が生まれれば……」

 砂漠での行動を真似てみた。これで再現が成功したら、精霊を喚び出し方が確定する。

「駄目だ。靄が出てこない。違う点……レインか。なら、レインの水を使って拭けば……」

 レインから貰った水で、布を濡らして拭いてみる。全体的に拭いて、少し待っていると、祈りの霊像の下から靄が上っていくのが見えた。

「なるほど。聖属性が含まれてたもので、清める必要があると。まぁ、普通のプレイヤーは、石像を拭くとかしないか」

 こんなところに石像があっても、そういう場所だって納得して終わりって事がほとんどだと思う。特にこういう場所なら尚のこと。

「細かく探索はしても、細かく色々と試す人は少ないのかな。私も見落としがあるのかも。まぁ、それを考えても仕方ないか」

 霊像に罅が入っていく。そして、その中から少女が出て来た。緑色の髪と緑色の瞳をした少女で、レインやソイルと同じように少し透けている。ただレインとソイルよりも、少し大人っぽい感じがある。

『私は風の精霊シルフと申します。私に名前を付けて頂けませんか?』

 にこやかに笑いながらそう言った。本当にレインやソイルよりも大人っぽい。

『風の精霊シルフをテイムしますか? YES/NO』

 YESを押して、名前を入力していく。

「それじゃあ、エアリーでどう?」
『はい。良い名だと思います。その名、頂きます』
「うん。ん?」

 エアリーをテイムした事で、【調教】の進化条件が満たされた。どうやら、モンスターを五体テイムする事と【調教】のレベルが条件だったみたいだ。テイム確率が低いこのゲームでは、かなり難しい条件だ。

「まぁ、有り難いっちゃ有り難いか」

 【調教】を【調教師】に進化させる。同時に、また新しいスキルの収得条件が満たされる。

「【精霊使い】……【調教師】所持で精霊を三体テイムするのが条件か。これも取っておこう」

────────────────────

【調教師】:モンスターをテイムする事が可能となる。テイム確率が上昇する。モンスターの懐き度が上昇しやすくなる。テイムモンスターのステータスが上昇する。控えでも効果を発揮する。

【精霊使い】:精霊系テイムモンスターのステータスが上昇する。精霊の力を引き出せる。控えでも効果を発揮する。

────────────────────

 進化した事で、【調教師】が控えでも効果を発揮するようになった。テイムモンスターを手に入れたら、大体の人が常に行動を共にするからかな。
 そして、【精霊使い】には気になる効果があった。それは、精霊の力を引き出せるというもの。ステータスを上昇させる文面にも思えるけど、それは別に書かれているから、それはない。

「何だろう?」
『私達の力を完全に引き出す事が出来るという言葉そのままの意味です。私達の力は、本来制限されているものです。完全に引き出すには、それこそ神に匹敵する力が必要になります』
「あ~……なるほど。つまり、皆がレインみたいになるって事か。エグいなぁ……」

 神に匹敵するという事は、【神力】と【神水】を持っているレインは、そもそも自分の力を完全に引き出していると考えられる。なので、恐らく皆がレインみたいな強さを手に入れるという事だ。

『レイン……?』
「あ、紹介しないとね。ギルドエリアに戻るかな。そうだ。私の事は、マスター以外の呼び方で呼んでね」
『分かりました。お姉様』

 まさかのお姉様呼びだった。その呼び方もどうかと思ったけど、エアリーが決めたなら良いかと納得した。

『では、私をそのギルドエリアに送って下さい。先輩の方々への挨拶は、私自身でしておきます。お姉様の手を煩わせるまでもありません。それに、私が同行するよりもお姉様お一人の方が速く移動出来るのでは?』
「まぁ、そうだね。じゃあ、ギルドエリアに送るね。皆と仲良くね」
『はい。ご安心下さい』
「【送還・エアリー】」

 エアリーをギルドエリアに送還した。エアリーの感じなら、レイン達と喧嘩はしないはず。ギルドチャットで、皆にも共有しておく。

「今日一日で、精霊を二人もテイムするって……まぁ、幸い誰にも見えないというのが助かる点だけど。さてと、私も帰るか」

 山脈エリアで街を見つけていないので、一旦魔法都市に戻る事にした。三対三種の羽を広げて、頂上から飛ぶ。三つになったことで、速度がまた上がったけど、コントロール出来る範囲だった。

「高速移動みたいにはならないで良かった。後は、レッサーワイバーンを引き離せるか……まぁ、倒せば良いか」

 思いっきり飛び続けていると、レッサーワイバーン達が集まってきた。私の周囲を囲むように飛んでいるレッサーワイバーンを、双血剣で倒しながら山を下る。【始祖の吸血鬼】は使わないで、倒し続ける。その理由は、ただ単に速度を重視するためだ。
 【飛翔】の加速を上手く使って、レッサーワイバーンの攻撃を避けながら、次々に落としていく。ついでに、【空力】も使って加速と急ブレーキをする。ただ、【空力】による加速はコツが必要なので、あまり上手くはいかなかった。一度は上手くいっているから、出来るという事だけは分かったけど。

「よっと……」

 着地して、豪雨エリアに移動する。そして、雨に濡れた事で混乱状態になった。

「うわっ……忘れてた。てか、もしかして雲の上に行ったら、無視出来る?」

 こういうときは、やってみるのが一番だ。空を飛んで、雲の中を突っ切る。前後左右の方向感覚が狂わされても、上下感覚はあるので、まっすぐ上に向かって飛ぶ事が出来た。
 そして、雲を抜けると、灰色の雲の上に出た。そこから、雲が完全にない場所を見つける。そこが魔法都市だ。

「後は、目的地を見失わなければ大丈夫。それを見失う可能性があるのが、混乱状態なんだけど」

 若干蛇行しながら進み、魔法都市に辿り着いた。そこからギルドエリアへと転移する。
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