吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

文字の大きさ
598 / 809
出会いを楽しむ吸血少女

【アーサー王との盟約】

しおりを挟む
 三十秒程経つと、アーサー王は、固く握った拳を解いた。それは、一触即発の可能性が消えた事を意味する。

「そうか。だが、今私を蘇生してくれたのは、姉上のおかげだ。これまでの事は水に流そう」
「感謝するわ」

 モルガンさんはそう言って頭を下げる。それを複雑そうな表情で見たアーサー王は、次に私を見た。

「改めて、あなたにも感謝する。この身を救ってくれた恩義に報いるため、私はあなたの配下となろう」
「え? でも、あなたは王なのでは?」

 王が私の配下になろうと言って良いのか心配になったので確認してみた。

「ああ。確かに、私は王だった。だが、全ての者達の良き王ではいられなかった。不満を溜めさせ、野心を抱かせてしまったのは、私の落ち度だ。私は……器ではなかったのだ。今更、王に拘ろうとは思わない。これからの人生をやり直すのなら、私はこの借りを返すために尽力しよう」
「アーサー」
「姉上。既に決めた事だ。この恩と借りは、姉上のものではない。私が背負うべきものだ。だから、姉上達が返す必要はない。それに、彼女の元なら、前とは違った景色も見る事が出来る。私はそう思うのだ」

 アーサー王は、生き返らせて貰った恩と借りをモルガンさんが払うのはおかしいと感じて、待ったと掛けたらしい。お願いをしたのは、モルガンさんではあるけど、生き返らせる対象はアーサー王だった。それなら、恩と借りに報いるべきは自分だと主張していた。

「そう……断るわ。これは私達が願った事。私達にも返す義務があるわ。だから、皆で返す事にしましょう」

 モルガンさんはそう言って、アーサー王に手を差し出す。この恩は皆で返すのが筋だと主張しているのだ。これに対して、アーサー王はゆっくりと手を取った。これが和解の瞬間という事かな。

「分かった。姉上達の意思も尊重しよう。話が二転三転してすまない。私達を配下にして欲しい」
「えっと……分かりました。でも、配下じゃなくて、友達になりましょう」
「友達?」

 アーサー王は、眉を寄せて首を傾げる。唐突な提案過ぎたかもだけど、向こうも唐突に配下になるとか言っているのだし、ゴリ押すとしよう。

「はい。いきなり配下になられても困ってしまいますので、普通に対等な関係になりましょう。その方が、私としても嬉しいです」

 正直なところ、いきなり配下になられても、本当に困る。アスタロト達が敬ってくるのだけでも、どうにかさせたいって思うのに、アーサー王を配下にしましたとかは、色々とやばい。私でも名前を知っている王様だし。

「……分かった。あなたがそう言うのなら、そうしよう。では、あなたも私の事をアーサーと呼んでくれ」
「えっ!?」

 まさかのアーサー王を呼び捨てにしろと言ってきた。確かに、王ではなくなるらしいけど、さすがに呼び捨てには出来ない。

「えっと、アーサーさんで」
「まぁ、それで良い」

 取り敢えず、このラインで受け入れてくれた。これは助かる。このくらいなら呼びやすいし。神様もさん付けで呼んでいるから。
 アーサーさんとの交渉みたいなのが終わると、ウィンドウが現れた。

『クエスト『アーサー王の帰還』をクリアしました。報酬として、【アーサー王との盟約】を獲得しました』

 クエストの報酬はスキルだった。

────────────────────

【アーサー王との盟約】:自分の周囲にアーサー王を顕現させる事が出来る。アーサー王は、パーティーメンバー扱いにならず、テイムモンスター扱いにもならない。控えでも効果を発揮する事が出来る。

────────────────────

 アーサー王と一緒に戦う事が出来るらしい。現状素手なのだけど、そこら辺はどうなるのか心配だ。

『アーサー』

 どこかから声がする。その声は、近くにある泉から聞こえている。

「ヴィヴィアンか」

 アーサーさんが泉に近づくと、中から水色のワンピースを着た少女が出て来た。そして、アーサーさんを見て困惑している。

『アーサー?』
「ああ。私だ」
『本当だ。エクスカリバーがそう言ってる』

 ヴィヴィアンと呼ばれた少女は、手に綺麗な鞘に納められた金色に輝く剣があった。それがアーサーさんに呼応するかのように小さく瞬いている。それがエクスカリバーの話し声になるのかな。
 ヴィヴィアンさんは、アーサーさんにエクスカリバーを渡す。すると、アーサーさんの身体が淡い光に包まれる。エクスカリバーに認められている証拠なのかもしれない。アーサーさんの持ち物だったという事が分かる。
 アーサーさんは、私の傍に跪き、エクスカリバーを差し出してくる。

「あっ、いえ、私が持つよりもアーサーさんが持っていた方が良いと思います」
「そうか。なら、お言葉に甘えよう」

 アーサーさんはエクスカリバーをワンピースに付いている剣帯に差す。それだけで、絵になりそうな出で立ちになる。

「ヴィヴィアン。紹介しよう。私の恩人である……そういえば、名を聞いていなかったな」
「あっ、すみません。私はハクです」
「だそうだ。私の友人となった。仲良くしてやって欲しい」
『勿論』

 ヴィヴィアンさんは、私の頬を撫でてくる。

『精霊の子と仲良くしない理由なんてないから』

 そういえば、ティターニアさんの娘になったのだった。ヴィヴィアンさんは妖精の仲間かな。モルガンさんが妖精だから、ここにいるのは妖精の可能性が高いと思うし。

『ましてや、神の子なら尚更ね』
「神の子?」

 アーサーさんが怪訝な顔で私を見る。まぁ、いきなりそんな事を言われたら、普通はそうなるよね。

「はい。私は調停と寵愛の神であり、夜の原初神ニュクスの娘です。一応、精霊女王ティターニアの娘の愛精霊でもあります。後は、神秘の二つ名を持つ吸血鬼でもあり、熾天使でもあり、大罪を所有する悪魔でもあり、竜神でもあり、鬼王でもあります」
「ほう……頭が痛くなるな」
「あまり神様的な事などはしていないので、吸血鬼だと思ってくれれば良いですよ。それらがあっても、アーサーさんと友人であるという事には変わりありませんし」

 本心からそう言う。別に神様として敬って欲しいという気持ちは一切ない。さっき友達になろうと言ったのだから、ここで上下関係を生むような事はさせない。アーサーさんが王としての立場を持たないのなら、私も神としての立場無しに接したいしね。

「そうか」

 アーサーさんは、何か安堵したような表情でそう言った。女性の身体になっているからか、可愛さと綺麗さを兼ね備えるような表情だった。男性だったら、真逆になっていたのかな。そう思うと、女性として蘇って良かったかなと思ってしまった。さすがに、これは失礼かな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

処理中です...