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第一章 ギルド職員になった
重要な情報(2)
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ギルドマスターの部屋に、重々しい空気が流れ始める。
「まず最初にだが、アイリスの両親は、冒険者をしていた。それも白金級の冒険者だ」
「!? 白金級って、今は二人か三人くらいしかいないんじゃ!?」
「ああ、昔は、アイリスの両親と俺を合わせて六人くらいいたんだけどな」
「ふぇ!?」
リリアは、再び驚く。ガルシアが冒険者をしていたということは、有名だが、その級までは知られていなかった。
「俺も白金級だったんだよ。あいつらと組んで三人パーティーでやっていた。だが、何年か前にギルドマスターの話を受けてな。今は、ここでギルドマスターをしているってわけだ」
「そうだったんですか」
白金級は、冒険者の中でも、上から二番目に位置する級だ。つまり、かなりの実力者である事を表している。
「そういえば、金剛級って、今はいるんですか? 話を一切聞かないのですが……」
リリアがギルドに務めてから一ヶ月程経っているが、金剛級の噂は一切聞いていなかった。
「今は、いないな。どこのギルドにも所属していないはずだ。白金から金剛に上がる奴も、今はいないしな」
現在は、金剛級に上がる冒険者はいないらしい。つまり、実質頂点は白金という事になっている。そこに、アイリスの両親やガルシアは位置していたのだ。
「アイリスの両親は、二人揃って金剛に上がる寸前だった。つまりは、それぐらい強かったって事だ」
アイリスの両親は、白金級ではあるものの限りなく、金剛級に近い存在だった。人類の中で、一番目、二番目に強い二人だったのだ。そして、その強い二人が、若くして亡くなっている。
「そんなに強い人達が、亡くなったんですよね」
「ああ、世間には魔物に殺されたことになっている」
リリアは、ガルシアの言葉のある一部分が気になった。
「……世間には?」
そう。ガルシアは、確かに世間にはと言った。つまり、実際の死因は別にあるということだ。
「本当の死因は、毒殺だ」
「毒? でも、白金級ともなったら、それなりに抗体があったりするのでは?」
この世界には、毒を持った生物は数多くいる。白金級ともなれば、毒持ちの魔物と戦う事も珍しくない。そうなれば、毒に対する抗体を、いくつか持っているはずなのだ。冒険者の中には、わざと毒を身体に注入して、抗体を得るという人もいる。冒険者は、毒に対する意識が高い事が多いのだ。
「それなりにはな。だが、現時点で一番の猛毒であるキングヴェノムの毒を使われたみたいなんだ。未だに抗体を見つける事が出来ていない毒だから、あいつらも耐えることが出来なかった。解毒剤があれば、どうにかなったが、あの場にキングヴェノムはいないはずだから、専用の触媒を持ち歩いている奴はいなかった」
「じゃあ、キングヴェノムと戦って噛まれたというわけではないんですね」
その場にキングヴェノムがいて、噛まれた結果毒死してしまったというのなら、死因は、魔物に襲われたという事になるはずだ。しかし、ガルシアは、それを否定して、さらにその場にキングヴェノムがいないと言った。つまりは、それを使った人がいるということだろう。
「ああ、その毒を致死量以上塗ったナイフに刺されたらしい。魔物を倒して油断している時にな」
「犯人は?」
「同じ毒を服用して、自殺している」
部屋の中が静まりかえる。
「犯人の素性は、分かっていないのでしょうか?」
カルメアがそう質問した。
「いや、分かっている」
ガルシアは、スッと息を吸ってからこう言った。
「敵は、魔王教だ!」
再び部屋が静まりかえる。ただ、リリアの反応は、さっきとは違う。何を言っているんだという風にしらけた眼をしていた。
「いや、実際にいるからな。十年程前に学校で習う事が無くなったが……」
「本当なんですか?」
リリアは、カルメアに確認を取る。
「ええ、本当よ。魔王教はあるわ」
「ダサい名前……」
「それには同意だ。昔は、この名を聞けば、震える人が多かったんだがな」
「それにしても、魔王教って、何なんですか?」
何も分からないリリアがそう訊いた。
「魔王信者と呼ばれるものの集まりだ。魔王というのは、魔族の王なんだが、そいつが世界を救うことになると本気で信じている奴らが、所属しているんだ。一般的には、魔王は、世界を滅ぼす存在と言われている。つまり、魔王教というのは、邪教だな」
「……でも、なんでアイリスちゃんの両親を……?」
ガルシアの説明を聞いて、まず最初に疑問に思うのはそこだ。魔王信者達が、何故アイリスの両親を殺すのか。
「金剛級が何を表すか知っているだろう?」
「確か、伝説の勇者に近い強さを持つでしたよね?」
「そうだ。勇者とは、魔王に対抗出来る存在を指す。つまり、アイリスの両親は、魔王に対抗しうる強さを持ち始めていたんだ」
「だから……殺された……?」
「そういうことだ。これは、ギルドの中でも俺のような上の人間にしか伝えられていない事だ。そして、一応箝口令も敷かれている。」
そんな重要な情報をリリアのような下っ端職員に話したのは、他でもないアイリスのためだからだろう。
「まだ幼かったアイリスには、魔物によって殺されたと説明されたらしい。世間的にも、魔王教の仕業と言うと、余計な混乱をもたらすことになるからな。同様に、魔物によって殺されたとされた」
「今のアイリスちゃんは、大人ですよ。それなら、もう教えても構わないのでは?」
大人になったアイリスには、教えても良いのではないかとリリアが言う。両親の死の真実を知らずにいるのは、少し可哀想だと感じたのだ。
「こんな事、話せるわけがない。両親が死んだのは、人の悪意によるものだと知って欲しくは無いんだ」
「これからも話すつもりはないんですね」
「ああ」
ここで、一旦会話が途切れた。
「でも、それで、なんでアイリスちゃんが、狙われることになるんですか?」
「恐らく、娘であるアイリスも勇者に足る力を得る可能性があると思われたんだろう……あくまで、予測されることだがな」
「じゃあ、キティさんは……」
「巻き込まれただけと言える……」
真実かどうかも怪しい。そんな情報だったが、全てを否定できるほど荒唐無稽な話でもなかった。
「あの、素朴な疑問なんですが、魔王は、今もいるんですか?」
アイリスやアイリスの両親が狙われたということは、魔王がいるということなのではと、リリアは考えたのだ。
「いや、そんな話は聞いていないな。あいつらが亡くなった後、王都に掛け合って確認したが、調査中の一点張りで、しっかりとした答えは無かった。だが、復活が近いのかもしれない」
「復活?」
「ああ、魔王は、倒された後、数百年で復活すると言われている。今は、魔王が討伐されて、百年が経とうとしているはずだ。もう復活してもおかしくはない」
魔王は、不滅の存在と言われている。何度も復活するため、災厄の象徴とされることもあるのだ。それに対して、勇者は希望の象徴とされる。
「じゃあ、これからもアイリスちゃんは、狙われ続けるということですか?」
「そうだな。可能性は高い」
リリアは、この事実に眉を寄せる。魔王教なる組織がある限り、これからもアイリスが狙われる可能性がある。
「でも、魔王教なんて危ない組織を、なんで授業でやらなくなったんですか?」
「魔王教に入ろうと考える奴等が出てきたからだ。人間の中から、魔王に加担してくる奴等がいると、こっちがかなり不利になるからな。なるべく、そう言った存在がいる事を隠すことになったんだ」
実際に、ここ十年で、魔王教の犯罪が減ってきている。魔王がいないからというのもあるだろうが、どんどん捕まっていき、数が減っているからだと考えられていた。
「そういうことですか。今日話した内容は、誰にも話しません。それで良いんですよね?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
リリアは、ここでの話をアイリスにはしないことを決めた。今のアイリスには追い打ちにしかならない。ただでさえ、キティや悪夢の事で、心が弱っているのだ。黙っている事も必要なことだ。
「では、失礼します」
リリアは、頭を下げてから部屋を出て行った。
「まず最初にだが、アイリスの両親は、冒険者をしていた。それも白金級の冒険者だ」
「!? 白金級って、今は二人か三人くらいしかいないんじゃ!?」
「ああ、昔は、アイリスの両親と俺を合わせて六人くらいいたんだけどな」
「ふぇ!?」
リリアは、再び驚く。ガルシアが冒険者をしていたということは、有名だが、その級までは知られていなかった。
「俺も白金級だったんだよ。あいつらと組んで三人パーティーでやっていた。だが、何年か前にギルドマスターの話を受けてな。今は、ここでギルドマスターをしているってわけだ」
「そうだったんですか」
白金級は、冒険者の中でも、上から二番目に位置する級だ。つまり、かなりの実力者である事を表している。
「そういえば、金剛級って、今はいるんですか? 話を一切聞かないのですが……」
リリアがギルドに務めてから一ヶ月程経っているが、金剛級の噂は一切聞いていなかった。
「今は、いないな。どこのギルドにも所属していないはずだ。白金から金剛に上がる奴も、今はいないしな」
現在は、金剛級に上がる冒険者はいないらしい。つまり、実質頂点は白金という事になっている。そこに、アイリスの両親やガルシアは位置していたのだ。
「アイリスの両親は、二人揃って金剛に上がる寸前だった。つまりは、それぐらい強かったって事だ」
アイリスの両親は、白金級ではあるものの限りなく、金剛級に近い存在だった。人類の中で、一番目、二番目に強い二人だったのだ。そして、その強い二人が、若くして亡くなっている。
「そんなに強い人達が、亡くなったんですよね」
「ああ、世間には魔物に殺されたことになっている」
リリアは、ガルシアの言葉のある一部分が気になった。
「……世間には?」
そう。ガルシアは、確かに世間にはと言った。つまり、実際の死因は別にあるということだ。
「本当の死因は、毒殺だ」
「毒? でも、白金級ともなったら、それなりに抗体があったりするのでは?」
この世界には、毒を持った生物は数多くいる。白金級ともなれば、毒持ちの魔物と戦う事も珍しくない。そうなれば、毒に対する抗体を、いくつか持っているはずなのだ。冒険者の中には、わざと毒を身体に注入して、抗体を得るという人もいる。冒険者は、毒に対する意識が高い事が多いのだ。
「それなりにはな。だが、現時点で一番の猛毒であるキングヴェノムの毒を使われたみたいなんだ。未だに抗体を見つける事が出来ていない毒だから、あいつらも耐えることが出来なかった。解毒剤があれば、どうにかなったが、あの場にキングヴェノムはいないはずだから、専用の触媒を持ち歩いている奴はいなかった」
「じゃあ、キングヴェノムと戦って噛まれたというわけではないんですね」
その場にキングヴェノムがいて、噛まれた結果毒死してしまったというのなら、死因は、魔物に襲われたという事になるはずだ。しかし、ガルシアは、それを否定して、さらにその場にキングヴェノムがいないと言った。つまりは、それを使った人がいるということだろう。
「ああ、その毒を致死量以上塗ったナイフに刺されたらしい。魔物を倒して油断している時にな」
「犯人は?」
「同じ毒を服用して、自殺している」
部屋の中が静まりかえる。
「犯人の素性は、分かっていないのでしょうか?」
カルメアがそう質問した。
「いや、分かっている」
ガルシアは、スッと息を吸ってからこう言った。
「敵は、魔王教だ!」
再び部屋が静まりかえる。ただ、リリアの反応は、さっきとは違う。何を言っているんだという風にしらけた眼をしていた。
「いや、実際にいるからな。十年程前に学校で習う事が無くなったが……」
「本当なんですか?」
リリアは、カルメアに確認を取る。
「ええ、本当よ。魔王教はあるわ」
「ダサい名前……」
「それには同意だ。昔は、この名を聞けば、震える人が多かったんだがな」
「それにしても、魔王教って、何なんですか?」
何も分からないリリアがそう訊いた。
「魔王信者と呼ばれるものの集まりだ。魔王というのは、魔族の王なんだが、そいつが世界を救うことになると本気で信じている奴らが、所属しているんだ。一般的には、魔王は、世界を滅ぼす存在と言われている。つまり、魔王教というのは、邪教だな」
「……でも、なんでアイリスちゃんの両親を……?」
ガルシアの説明を聞いて、まず最初に疑問に思うのはそこだ。魔王信者達が、何故アイリスの両親を殺すのか。
「金剛級が何を表すか知っているだろう?」
「確か、伝説の勇者に近い強さを持つでしたよね?」
「そうだ。勇者とは、魔王に対抗出来る存在を指す。つまり、アイリスの両親は、魔王に対抗しうる強さを持ち始めていたんだ」
「だから……殺された……?」
「そういうことだ。これは、ギルドの中でも俺のような上の人間にしか伝えられていない事だ。そして、一応箝口令も敷かれている。」
そんな重要な情報をリリアのような下っ端職員に話したのは、他でもないアイリスのためだからだろう。
「まだ幼かったアイリスには、魔物によって殺されたと説明されたらしい。世間的にも、魔王教の仕業と言うと、余計な混乱をもたらすことになるからな。同様に、魔物によって殺されたとされた」
「今のアイリスちゃんは、大人ですよ。それなら、もう教えても構わないのでは?」
大人になったアイリスには、教えても良いのではないかとリリアが言う。両親の死の真実を知らずにいるのは、少し可哀想だと感じたのだ。
「こんな事、話せるわけがない。両親が死んだのは、人の悪意によるものだと知って欲しくは無いんだ」
「これからも話すつもりはないんですね」
「ああ」
ここで、一旦会話が途切れた。
「でも、それで、なんでアイリスちゃんが、狙われることになるんですか?」
「恐らく、娘であるアイリスも勇者に足る力を得る可能性があると思われたんだろう……あくまで、予測されることだがな」
「じゃあ、キティさんは……」
「巻き込まれただけと言える……」
真実かどうかも怪しい。そんな情報だったが、全てを否定できるほど荒唐無稽な話でもなかった。
「あの、素朴な疑問なんですが、魔王は、今もいるんですか?」
アイリスやアイリスの両親が狙われたということは、魔王がいるということなのではと、リリアは考えたのだ。
「いや、そんな話は聞いていないな。あいつらが亡くなった後、王都に掛け合って確認したが、調査中の一点張りで、しっかりとした答えは無かった。だが、復活が近いのかもしれない」
「復活?」
「ああ、魔王は、倒された後、数百年で復活すると言われている。今は、魔王が討伐されて、百年が経とうとしているはずだ。もう復活してもおかしくはない」
魔王は、不滅の存在と言われている。何度も復活するため、災厄の象徴とされることもあるのだ。それに対して、勇者は希望の象徴とされる。
「じゃあ、これからもアイリスちゃんは、狙われ続けるということですか?」
「そうだな。可能性は高い」
リリアは、この事実に眉を寄せる。魔王教なる組織がある限り、これからもアイリスが狙われる可能性がある。
「でも、魔王教なんて危ない組織を、なんで授業でやらなくなったんですか?」
「魔王教に入ろうと考える奴等が出てきたからだ。人間の中から、魔王に加担してくる奴等がいると、こっちがかなり不利になるからな。なるべく、そう言った存在がいる事を隠すことになったんだ」
実際に、ここ十年で、魔王教の犯罪が減ってきている。魔王がいないからというのもあるだろうが、どんどん捕まっていき、数が減っているからだと考えられていた。
「そういうことですか。今日話した内容は、誰にも話しません。それで良いんですよね?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
リリアは、ここでの話をアイリスにはしないことを決めた。今のアイリスには追い打ちにしかならない。ただでさえ、キティや悪夢の事で、心が弱っているのだ。黙っている事も必要なことだ。
「では、失礼します」
リリアは、頭を下げてから部屋を出て行った。
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