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第一章 ギルド職員になった

喧騒

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 外の喧騒が気になって、リリアさんと一緒に資料室から出てみた。部屋の中まで聞こえてくるので、すぐそこが騒がしくなっているのかと思っていたけど、部屋の前には誰もいなかった。

「受付の方ですかね?」
「そうかも。冒険者のトラブルじゃないと良いけど」
「そんな感じはしませんけどね」

 そう言いつつ、受付の方に向かう。すると、受付の奥、ギルドのホールで冒険者がざわめいていた。それだけでなく、受付内の職員も慌ただしく動いている。

「何でしょう?」
「うん。取りあえず、トラブルではなさそうだね。私達が近づくと邪魔になるから、資料室に戻った方がいいかな?」
「そうですね。戻りますか」

 新人の私達にはよく分からないと考え、資料整理に戻ろうとすると、

「アイリス! リリア! ちょうど良かったわ!」

 私達を見つけたカルメアさんが駆け寄ってきた。

「どうしたんですか?」
「スタンピードよ。それも……同時多発のね」

 私とリリアさんの顔が真っ青になった。

 スタンピードは、ダンジョン内で起こる魔物の大量発生の事だ。ただ、大量発生するだけなら、冒険者達にとって、狩りの対象にしかならない。しかし、厄介なことに、増えすぎた魔物は、外界、つまりダンジョンの外に出てくることになる。そして、外に出た魔物は真っ直ぐに近くの街に向かって進軍する。何故そのような行動を取るのか。理由は解明されていない。

 そんなスタンピードが、同時に複数のダンジョンで発生したという。ギルド内が大騒ぎになるのも当然だった。

「二人にも色々とやってもらうことになるわ。取りあえず、この資料に目を通しておいて。下手したら、私達は街の人達の避難誘導をする事になるわ。そのことも覚悟しておいて。それと……」

 カルメアさんは、私の事を見てから、少し考え込み首を振った。

「いや、何でもないわ。取りあえず、その資料がマニュアルだから読んでおくこと。後は……『カルメアさん!』 今行くわ! それじゃあ、よろしくね」

 カルメアさんは、名前を呼ばれた方向に走っていった。

「私達は、邪魔にならないように、資料室に行っておこう」
「はい。分かりました」

 資料室に戻ってきた私達は、カルメアさんにもらった資料を読み込む。書いてあるのは、スタンピードが起こった際の職員の動き方。スタンピードが起こったダンジョンの場所を確認し、冒険者の報告から、その規模を推測。ギルドマスターを中心として、防御陣営を形成。街への接近を防ぐ。
 規模によっては、街の人達の避難誘導をする。避難先は、近くの街になっている。

 そして、気になる一文があった。それは、調査担当職員または兼任職員の防御陣営への参加だ。

「これ……」
「カルメアさんは、何も言わなかったでしょ?」

 私が少し不安に思っていると、リリアさんがそう口を開いた。

「って事は、アイリスちゃんが加わる必要はないって事だよ」
「ですが、戦力的に不足している可能性があるなら……」
「それでも、アイリスちゃんが、やりたくないと思うなら、やらないでいいよ。もしアイリスちゃんの力が必要ってなるなら、カルメアさんやギルドマスターが、何か言うはずだから」

 リリアさんは、真面目な顔でそう言った。私の事を気遣ってくれているんだ。この前の戦闘がトラウマになっている可能性があるから。

「分かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ、私達は、この仕事を進めておこう」
「はい」

 私達は、資料室の整理を進めていった。すると、その途中で職員の人達が部屋に入ってくる。

「過去のスタンピードの資料はあるか!?」
「えっと……こっちに過去十年分がまとまってます」
「助かる!」

「過去のスタンピードによる被害の支出の資料ある!?」
「少し待って下さい……これとこれとこれです」
「ありがとう!」

「ギルドに貯蔵される武器の一覧表はあるか!?」
「こっちにあります」
「悪い、もらってくぞ!」

 本当に様々な人が入っては資料を持って帰っていく。

「これ、私達が整理してなかったら、どうしてたんだろう?」
「諦めていたか、必死に探すかになりますよね」
「私達の仕事が役に立ったね」
「そうですね」

 私達の仕事が誰かの役に立っている事を実感出来る良い機会になった。でも、これからもっと忙しくなる。スタンピードは、始まったばかりだから。

「スタンピードで避難した事ってありましたっけ?」
「そんな記憶無いから、ここ十八年くらいは、避難する程のスタンピードは起こっていないはずだよ。さっき渡した資料の中でも、そんな風な記述はなかったはずだし」

 この街でずっと暮らしているけど、スタンピードで避難が発生した記憶は全く無い。私達が、ここで暮らしている間に、避難するようなスタンピードが起きたという資料も無かった。

「昔は、冒険者だった両親が鎮圧に向かっていましたし、避難までいくということもなかったんですかね」
「……なるほどね。冒険者なら、鎮圧に参加する事もあるからか」

 リリアさんの返事に、一瞬だけ間があった気がする。私の両親の仕事を知らなかっただけかな。そういえば、話したことはなかった気がする。

「でも、例年通りとはいきませんよね?」
「うん。同時多発的に起きるなんて聞いた事ないもん。資料にも、同時多発のスタンピードの事は書いていなかったし、ここら辺では、一度も起こったことないんじゃないかな。そうなると、被害がどの程度の規模になるか、分からないね」
「そうですね。色々覚悟しておかないと」

 今までにない同時多発的に起きたスタンピード。その規模は未知数。そして、被害に関しても未知数だった。
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