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第一章 ギルド職員になった

調査結果

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 アイリスが、お見舞いに行っている時、ギルドマスターの部屋で、カルメアとガルシアが話していた。

「結果が出たか?」
「はい」

 カルメアは、紙の束をガルシアに渡す。ガルシアは、紙を捲っていき、中を確認していった。その間に、カルメアからも口頭で報告が入る。

「冒険者達に依頼した結果、モンスターの数が元に戻ってきていることが分かりました。やはり、先の魔物減少は、ジェノサイドベアが原因だったと思われます。ただ、捕食が原因ではないであろうと考えられています。その理由は、捕食跡が少ないということです。そこで、一番に考えられることは、ジェノサイドベアが現れた結果、この周辺から逃げ出した可能性です」
「なるほどな。そこも考慮しないといけなさそうだな」

 報告を聞きながらもページを捲っていく。

「まさか、調査依頼を受けてくれる冒険者達が、こんなにいるとはな」
「それは、アイリスのおかげです」
「アイリスの?」

 ガルシアは、見当が付かず、少し考え込む。

「受付で作業をしているとき、仲良くなった冒険者達が協力を申し出てくれたんです」

 アイリスが受付をしている時に知り合ったライネルを初めとした冒険者達は、アイリスの怪我を知ると、自分達から調査協力を申し出てきた。その結果、本来時間が掛かると思われていた調査が、かなり早く終える事が出来たのだ。

「アイリスには、人望があるな……」
「その他、アイリスとキティが行っていない場所の調査も行われました。その結果も、先の報告通り、モンスターがいつもより少なくなっているというものでした」
「やはり、少なくなっているか……それも、ジェノサイドベアの影響か?」
「どうでしょう。調査箇所によっては、ジェノサイドベアが現れた場所から、離れたところもありましたから」
「一概には言えないというわけか」

 ガルシアは、疲れたように額に手を置いて肘をつく。

「一応、追加の調査を依頼しています。近くのダンジョンも調査範囲内にしていますから、他にも有力な情報を得られる可能性はあるかと」
「そうか。その調子で頼む。今回の調査は一筋縄ではいかないな。そういえば、薬草採取の依頼をどんどん受けている冒険者がいるみたいだな。このまえ、病院の院長に助かっていると言われたぞ」

 ガルシアは、思い出したようにそう言った。

「受けているのは、一人の冒険者ですよ」
「一人の冒険者だと? 報酬も低いものを、何回も受ける物好きがいるとはな」
「それ、アイリスの幼馴染みですよ」
「そうなのか!?」

 予想もしていなかった真実に、ガルシアが驚く。

「私が受付をしている時に来たので、色々と話を訊いてみたんです。私も、報酬の低い採取依頼を受ける意味を知りたかったので」
「それは、俺も気になるな」
「理由を訊いてみると、これもアイリス関係なんですよ。アイリスが病院に担ぎ込まれて、治療を受けたと聞いたときに、回復魔法などについて色々調べたらしいんです。そして、病院で使用される回復魔法や薬には、薬草が不可欠で、その薬草は、年中不足している事を知ったらしいのです」
「確かに、報酬の低さも相まって、受ける冒険者が少ないからな」

 病院側でも報酬に出せる金額は、限られている。今の報酬以上に出す事は、かなり厳しいのだ。その結果、治療に使われる薬草は、かなり不足してしまっているのだった。

「今後、アイリスがまた担ぎ込まれないとも限らないこと。さらに、治療を受けているキティのことで気を病んでいること。これらを考えて、病院に薬草を供給する必要があると思ったらしいです。アイリスに死んで欲しくない。気を病んで欲しくないという想いからの行動ということです」

 カルメアの言うとおり、サリアは、アイリスの身体、精神を考えて、毎日のように薬草を採りに行っていた。これが巡っていき、キティが入院する病院へ薬草の供給が増え、治療が早く進んだのだ。

「これだけの冒険者が、たった一人のために、まとまって動き出すなんて、今までになかったことだな。それだけ、アイリスが愛されているということか」
「そうですね。かくいう私達もアイリスのために行動を起こしている部分はありますからね。あの子は、人を惹きつける何かがあるのでしょう」

 アイリスが起点となって、冒険者達がそれぞれ動き始めている。それは、アイリスがギルドに勤めてから、培ってきた信頼があるからこそだ。
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