フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ

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第8話 吸血姫狩りの巫女

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 千秋との出会いから約二週間が過ぎ、非日常の世界を幾度となく体験した小春。吸血姫というヒトならざる存在との関わりは恐怖もあるが不思議と高揚感もあった。
 そんな新しい日常へと飛び込んだ小春に次なる出会いが訪れる。





「本日、このクラスに転入生が加わります。皆さん暖かく迎え入れてくださいね」

 朝のホームルームで担任の教師がそう呼びかけ、教室へと転入生を招く。

「初めまして。神木愛佳(かみき あいか)です」

 教卓の前に立った可愛らしいポニーテールで黒髪をまとめている転入生の少女は眼光が鋭く、何か普通ではない雰囲気を漂わせている。そしてその視線は千秋と朱音へと向けられていることに小春は気がついた。

「神木さんの席は・・・千祟さんの隣ね。あの後ろの空いている席ですよ」

「・・・はい」

 愛佳は心底嫌そうな顔で頷き、殺気にも似たオーラを纏いながら千秋が座る席の隣へと腰を降ろす。
 どうやら両者には因縁か何かがあるようだが・・・・・・





 四限までの授業が終わって昼休みとなり、千秋はすぐに教室を出ていってしまった。直前には愛佳も姿を消していたので二人がどこかでコンタクトを取るのではと小春はこっそり後をついて行く。こんな怪しい動きをしなくても普通に付いて行けばいいのだが、千秋の険しい表情を見て話しかけるのを止めたのだ。

「屋上かな・・・?」

 千秋は階段を昇り、本来ならば立ち入ることが禁止されている屋上の扉を開く。
 忍び足で扉まで辿り着いた小春は薄汚れた小窓から屋上の様子を窺う。すると千秋と愛佳が対面しているのが見えた。

「ノコノコとやって来るなんて、アンタ間抜けにもほどがあるわ」

「そうね。確かに私は間抜けなのかもしれないわ」

「ハッ、素直なのはいいことよ。最期に自分が犯してきた罪も反省することね」

「なんのことかしら?」

「とぼけんな! アンタが吸血姫として産まれたという事実自体が罪なのよ!」

 そう叫んだ愛佳はポケットからお札を取り出す。見た目は神社などで購入できるようなお札だが、突如として形状を変化させて刀となった。

「吸血姫は陽を浴びている間は弱体化するものね。ここではあたしの方が有利よ」

「ええ、分かっているわ」

「澄ましていられるのも今の内よ。すぐに挽肉にしてやるわ」

 刀を構えた愛佳が今にも飛び出しそうになるが、

「ストップ! ストーーーップ!!」

 バタンと勢いよく扉を開けた小春が二人の間に割って入った。このままでは真昼間から戦闘が始まってしまいそうな状態で、さすがにそれはマズいと思ったのだ。

「なによ、邪魔しないでくれる!?」

「なんでこんな事をするの?」

「そんなのアンタには関係ないでしょ? てか、ソイツを庇うのはいいけど正体知ってんの?」

「知ってるよ。吸血姫でしょう?」

「それを知ってどうして!?」

 愛佳の怒りのボルテージが上がっているようで刀を持つ手が小さく震えている。

「吸血姫だからって全てが敵じゃない。千秋ちゃんは悪い吸血姫なんかじゃないもん」

「この・・・ちんちくりんのクセに、知った風なことを!」

 その迫力にたじろぐ小春。しかし背後にいた千秋が小春の肩を支え一歩前へ出る。先ほどまでは飄々としていたのだが何やら千秋も怒っているようだ。

「ちょっと! 小春によくもそんな暴言を言ってくれたわね」

「は? この程度で暴言って、アンタは温室育ちなの?」

「私はどう言われてもいいけれど、小春の悪口を言うのは絶対に許さないわ」

「人間に友好的ですよって?そんな小芝居は通用しないわ」

 どこまでも千秋を敵視しているらしい。もはや小春には二人を止める術が無い状況にまでなってしまいそうだ。
 
「そこまでにしときなよ。あまり騒ぎを大きくするとギャラリーがわんさかやってくるぞ」

 今度は朱音が屋上に現れ二人を制止する。彼女もまた千秋の様子が気になって来たのだろう。

「神木さんだっけ? こうなれば二体一だし、今は退いたほうがいいんじゃね?」

「ちっ・・・! 憶えてなさい!!」

 小悪党のようなセリフを言い残し、ビシッと指をさしてから屋上を去っていった。
 まるで激しい嵐に見舞われたような時間を過ごした小春はドッと疲れる。

「神木さん、一体なんだったんだろう・・・?」

「あのコは吸血姫狩りをしている巫女の一族ね」

「巫女?」

「昔から吸血姫と敵対している存在よ。数はかなり少なくて絶滅危惧種のようだけど、それでも使命を全うするという志だけは失われていないのね」

 吸血姫だけでも充分ファンタジーなのだが巫女という吸血姫と敵対する少女まで現れ、いよいよ小春の周りで怪異大戦争でも起こりそうな雰囲気になってきた。

「吸血姫狩りなんて、巫女というより教会に勤めるシスターなんかが合いそうな職だね」

「海外ではヴァンパイアハンターのシスターがしたりするわ。巫女なのは日本という風土ならではね」

 吸血姫もヴァンパイアやドラキュラなど似たような種族がいるが呼び方や特徴は異なるのだ。

「にしても厄介な相手に目を付けられてしまったわ。神木さんの吸血姫に対する敵意は凄まじいものだし、邪魔してきそうね」

「吸血姫全てが敵みたいな感じだったもんね」

「巫女はそういうモノだから仕方ないけれど・・・まさか同じクラスにくるとは」

 教室でも監視が行われることだろう。そうなると居心地が悪くなってしまい、千秋にとって頭の痛い問題になりそうだ。

「けどさ・・・あのコ、ちょっとカワイイと思わん?」

 朱音は何やら考え込んでいるように見えたのだが、どうやら愛佳の魅力にハマっていたらしい。

「あのね・・・神木さんにとってはアナタも敵なのよ?」

「そういうのが燃えるんじゃん。敵同士なのに惹かれ合う・・・映画化決定だね!」

「別に神木さんはアナタに惹かれてはないわよ」

 ブツブツと妄想を垂れ流す朱音は放っておき、千秋と小春も教室へと帰ることにした。

「さっきはありがとうね」

「ん? なんのことかしら?」

「神木さんが私をちんちくりんって言った時、怒ってくれたでしょ?」

「ああ、そのことね。まあその・・・小春は私の大切な友達だから・・・ああいうのは許せなかったのよ」

 顔を赤らめつつそう答える千秋。彼女の中では小春という存在はフェイバーブラッド抜きにしても大きなものとなりつつあり、だからそんな小春を貶める行為や言葉を許容することなどできない。





 昼休みが終わり、午後の授業開始五分前の予鈴が鳴る。千秋は小春の元から自分の席に向かうのだが、隣の席から睨みを効かせてくる愛佳を見てゲンナリしながらスピードを緩めた。

「さっきはちんちくりんに邪魔されたけど・・・絶対に殺してやるから」

「巫女ってもっと上品な人だと思っていたけど、案外物騒なのね?」

「そうさせたのは吸血姫のせいよ。ともかく今日がアンタの年貢の納め時なんだから」

 今にも飛びかかってきそうな気迫で吐き捨てる。しかし大衆の目がある教室だからかギリギリで我慢しているようだ。

「そんなに吸血姫を殺したいアナタに耳よりな情報があるのだけど」

「は?」

「この街に風俗街があるのは知っているかしら? そこの裏路地に過激派吸血姫が現れるという情報を手に入れたの。で、私達はその吸血姫を討伐しに行くのだけど、一緒にくる?」

「それを信用しろと? 狡猾で邪悪な吸血姫の話を?」

「別に信じてくれなくてもいいわよ。でも、巫女としての使命を全うするためにこの街に来たのならば、まさか行動しないなんて選択肢は無いわよね? もし嘘だったら私を襲えばいいでしょう?」

 挑発的な千秋の言葉に愛佳が乗っかる。こうも言われて引き下がるような簡単な性格をしていないのだ。

「分かった、行くわよ!」

「本当に倒すべき相手を見せてあげるわ」

 過激派吸血姫という千秋と愛佳共通となる敵を見せておくことで、いかに巫女といえども倒すべきターゲットを選ぶべきだと教えておきたかった。だからわざわざ戦いに同行するよう促したのである。





 その日の夜、千秋達の姿は繁華街近くにある風俗街にあった。本来なら学生が立ち入るような場所ではないし、女子であるなら尚更危険な所なのだが過激派吸血姫が潜伏していると知ったら行かざるを得ない。

「遅いわ! 何時間待たせる気なの?」
 
 千秋と小春、朱音が集合場所へと到着すると、すでに愛佳が待っていた。イライラした様子で腕時計を示しながら千秋達を咎める。

「集合時間まで二十分もあるけれど・・・・・・」

「えっ? 確か十時に集合じゃ?」

「十一時だと伝えたはずよ」

「えっ、あっ・・・・・・」

 学校で予定を伝えられたのだが、テキトーに聞いていたために時間を間違ってしまった。
 それに気がついてバツが悪そうに眉間に皺を寄せている。

「でも神木さん、ちゃんと待っていてくれたんだね」

「ふ、ふん! てか、なんでアンタがここにいるの? アンタは吸血姫じゃないでしょ?」

「あ、うん、そうなんだけどね。私はなんていうか・・・・・・」

 相手が巫女とはいえフェイバーブラッド持ちであることを伝えていいものか迷う。

「小春は私のパートナーなのよ」

「パートナー?」

「ええそうよ。私達の戦争を知って、それでも協力を申し出てくれたの」

「催眠術でも使ったんじゃないの?」

「そんなことはしていないわ。小春の自分の意思よ」

 愛佳にしてみれば信じられる話ではなかった。吸血姫は悪として教育されてきたし、戦うべき相手として生きてきたから・・・・・・

「まあいいわ。早く行きましょう」

 クルッと振り向き、目的地へと歩きはじめる愛佳。
 小春は愛佳との共闘がどうなるか不安に思いつつ、自分にできることは千秋を信じることだけだと千秋の服の袖をギュッと握り、次なる戦場へと向かうのであった。

   -続く-
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