フェイバーブラッド ~吸血姫と純血のプリンセス~

ヤマタ

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第12話 愛佳、心境の変化

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「・・・はる! ・・・小春!!」

 無限の宇宙を彷徨うような錯覚に陥っていた小春は、何者かが名前を呼ぶ声が聞こえて現実世界へと帰還した。

「ここは・・・地球・・・?」

「しっかりして小春! どうしたの?」

 どうしたもこうしたも、千秋が作った卵焼きを口にした瞬間に意識が飛んだのだ。もしかして危険な薬物でも入っているのではと疑うレベルである。

「千秋ちゃん、一体どんな料理の作り方を・・・?」

「えっ? 普通に作っただけだけど・・・・・・」

「普通・・・?」

 千秋の言う普通が小春には分からない。味付けなどの問題ではない気がするが、ともかくこれ以上食べたら死に繋がるのは間違いなさそうだ。
 
「千秋ちゃん、作ってくれたのはありがたいんだけど・・・今度は一緒に作ろうね」

「そ、そうね」

 千秋にしてみれば何がダメだったのかが分からない。ともかく小春の反応を見る限りは色々マズかったらしいことだけは理解できるが。
 とはいえ捨ててしまうのも勿体ないので、小春は何とか食せるレベルにするべく台所に運んで再調理できないか考えることにした。

「おかしいわね・・・・・・」

 小春が調理し直している間、千秋は美広のスマートフォンにメッセージを送る。決して自信があるわけではないが自分の料理がそれほど壊滅的だとは思えなく、美広の正直な感想を求めたのだ。
 そして数分後に返信が送られてきた。そのメッセージにはこんな事が書かれている。

 ”小春ちゃんのアドバイスをしっかり聞いて、精進しましょう”

 千秋は全てを悟った。





 翌日、朱音が登校している最中、千秋と小春が一緒に歩いている後ろ姿を捉えた。二人の家は遠く、こうして共に学校に向かうなどできないはずだ。となると、また泊りだったのだろうと勝手に推測する。

「おはよう、お二人さん」

「相田さん、おはよう」

 走って追いつき小春の肩に手を置きながら挨拶するが、二人きりの時間を邪魔されたことへの抗議の視線が千秋から飛んできていることには気がつかない。

「ねえねえ。またお泊りしたの?」

「あっいや、泊りじゃなくてね。私、千秋ちゃんの家に住むことになったんだよ」

「どどどど同棲ですかあっ!?」

 朱音は仰天のあまり顎が外れそうになる。まさかあの千祟千秋が同級生と暮らすなど想像もつかない出来事であった。

「そんな驚かなくてもいいでしょう? 小春の保護は重要な任務よ」

「まあそりゃそうだけどさ・・・・・・同性同士で同棲なんて、エッチ過ぎんだろ・・・・・・」

「あのね、言った通り小春の保護が目的で・・・」

「それはともかく、もう行為には及んだので?」

 なんて事を訊くのだと千秋は朱音に肘打ちする。これで小春があらぬ疑いをかけられたくないと自宅へ帰ってしまったらどうするのか。

「この無神経女がよくモテるものね・・・・・・」

「知ってる? 真面目ちゃんより、ロクデナシのほうがモテるらしいぞ」

「それ、アンタ自分で自分をロクデナシと言っているのと同義だけど」

「ハハッ! アタシがロクデナシなのは世界の常識じゃけぇ」

「というよりただのバカね・・・・・・」

 快活に笑う朱音に呆れるが元々こういうキャラなので今更何を言っても無駄だろう。

「てかさ・・・吸血自体が結構えっちだよね」

「こ、小春?」

「なんていうかさ、特に千秋ちゃんのはさ・・・・・・」

 体液を啜るという行為そのものが卑猥だと言われればその通りではある。しかも千秋が小春に抱いている説明できない特別な感情も考慮すれば、これが普通の吸血行為と果たして呼んでいいのか疑問符が付くだろう。
 そもそも普通の吸血ってなんだ?

「朝からアンタ達はなんて会話してんの。ここは公道なのよ、R18指定されかねない話はやめなさいよ」

 千秋が吸血について真剣に考え始めた時、背後からまたしても声をかけられた。

「吸血姫が猥褻物なのは知ってるけど、ちょっとは配慮しなさいよね」

「勘違いしないで欲しいのだけど、オープンに猥談して楽しんでいるのはコイツだけよ」

 千秋がビシッと朱音を指さす。

「どっちでもいいわ。ったく、不意打ちして倒すべきだったな」

「おいおい神木さん。友達ってのは闇討ちするもんじゃないぞ?」

「は!? 誰が吸血姫と友達なんかに!?」

「風俗街で一晩を共にした仲じゃん?」

「人聞きの悪い言い方すんなアホ!!」

 朱音のウインクに怒号で返す愛佳。他の生徒や通行人にでも聞かれれば愛佳のイメージダウンは免れられない。

「いいじゃん。まだ友達いないんしょ?」

「ふんっ! 友達なんか別にいらないわよ。あたしはね、一人で生きていける強い巫女お目指しているんだもんね!」

「昔の千秋みたいなこと言ってる」

 千秋は強がりだったが、多分愛佳も同じだろう。

「まあまあそう言わずに。私、神木さんとも仲良くなりたいな」

 小春が優しく愛佳の手を取った。その柔らかく、温かな感触が愛佳の凝り固まった心を溶かしていく。

「ま、まあアンタは人間だし・・・アチラ側の世界のことも知っているワケだから交友関係を持っても損はないかもね」

「えへへ。じゃあ宜しくね」

 しかもフェイバーブラッド持ちの人間など滅多に見つからない人材だ。そんな小春も監視すれば吸血姫についてもより知ることができると考えた。しかしこういう打算はあれど、小春の人間性に触れて気を許し始めたのも事実ではある。

「小春の友達になれるなんて光栄に思いなさい」

「アンタは赤時のなんなのよ」

「パートナーよ!!」

 千秋はパートナーという言葉を強調し、自分は友達を超えた存在だと主張するが別に愛佳には千秋と張り合う気などない。

「しかし赤時さんはスゴイ友人を持ったもんだよ。アタシ達吸血姫に巫女まで揃えるんだから」

 狙って出会ったわけではないが、気が付けば尋常ならざるメンバーと知り合ったものだ。本来なら触れ合うこともなかった魔の世界の人達と肩を並べて歩く日が来るなど、一年前には想像もできなかった。





「神木さん、お昼ご飯一緒に食べよ?」

 昼休み、一人でどこかへ行こうとしていた愛佳を呼び止めて昼食に誘う小春。前には千秋も同じように誘い今では毎日昼を共にしている。

「まさか小春の誘いを断るなんて大罪を犯すつもりではないでしょうね?」

「罪なの・・・?」

「赤時小春の誘いを断るなと古事記にも書かれているわ。それに吸血姫の監視という使命があるなら悪い話ではないと思うけれど」

「分かったわよ」

 そう言われれば断る理由もない。食事時は吸血姫の生態観察にはうってつけの機会と言える。

「美奈子、果歩、神木さんも一緒でいいよね?」

「おっけーだよ」

 以前からの友人である美奈子と果歩も快く愛佳を受け入れてくれた。

「にしても小春はそんな積極的だったっけ?」

「最近の私、結構大胆な女になりつつあるのかも」

「あはは、なにそれ」

 美奈子の知る小春は内向的で、親しくない相手に話しかけるシーンなどこれまでにはなかった。そういう意味では成長しているのだろうが、少し寂しい気持ちもある。

「実は神木さんとは一晩を一緒に過ごしてさ・・・」

「ちょい待ち! アンタまであの淫乱女みたいなこと言わないで!」

「ほぼ合って・・・」

「ないわよ! てか、相田朱音はどこへ?」

 てっきり朱音も小春達の元に居ると思ったのだがその姿は見当たらない。

「あら、アタシをお探し?」

「ひゃあっ!」

 どこからともなく現れた朱音が愛佳の首筋を撫で上げ、可愛らしい悲鳴を上げながら愛佳が飛び跳ねる。

「な、なにすんのよ!」

「いやだってアタシの名前を呼んだよね?」

「ちょっと探しただけよ」

「探してくれたんだぁ。じゃあ今日は赤時さん達と一緒にお昼食べようかな」

 朱音には友人が多く、人気者でもある彼女はクラスの中心的なグループや他クラスに出向いて昼食を食べている。なので小春達の輪の中に入ってくるのは初めてだった。

「まさか相田さんまで来るとは・・・・・・」

「えっと、松木果歩さんだよね?よろしくね」

「はわぁ・・・カッコイイ・・・・・・」

 朱音のウインクに見惚れる果歩。前々から果歩が朱音をカッコイイと言っていたことを小春は思い出し、憧れの人物に接近できれば顔も蒸気するのは当然だろう。

「松木さん、キミ可愛いね。どこ住み?てかSNSやってる?よかったら今夜アタシの部屋で・・・」

「不純交友はさせないわよ」

「巫女さんは潔癖でいらっしゃる」

 潔癖というより一般人に吸血姫が手を出すのを事前に阻止したいのだ。

「ほら、お弁当分けてあげるから落ち着いて」

「あたしはパンだけで充分よ」

「そう言わずに、はいどうぞ」

 小春がお箸でウインナーを差し出し愛佳は仕方なく口にする。

「あら、美味しい・・・・・・」

 だがそんな場面を目の前で見せられた千秋の脳がダメージを負う。自分ですら箸で直接食べさせてもらったことなどないのに、まさか愛佳に先を越されるとはと目から光が失われている。

「小春!」

「な、なに?」

「食べて」

「えっ?」

 千秋は対抗心を燃やし、自分の弁当箱からから揚げを箸で持ち上げ小春へと差し出した。

「私のお弁当にも同じのはあるよ・・・」

 そもそも千秋の分の弁当も小春が作ったのだから中身は同じである。しかしそれは今はどうでもいいことだ。

「さあ、ほら」

「ちょ、千秋ちゃ・・・」

 半ば強引に小春の口にから揚げを突っ込む千秋。それでいいのか・・・・・・

「まったく騒々しいわね、アンタ達は」

 言葉に反して愛佳の顔は不快そうではなく逆に小さな笑みが浮かんでいる。一人で生きていくと決めていた愛佳だが、こんなのも悪くないかと心境の変化があったのだ。


   -続く-
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