魔法少年✰

寝切つく

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後輩が出来た

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俺はミカミ。
またの名を…蟹座の魔法少年ルキノだ。
昨日はシドウという少年と出会ったが、あいつ魔法少年になりたいって言いやがった。
まあ、あいつがなれる訳無いが、とにかく俺は復讐を続けなければならない。
俺を侮辱したあいつらだけは絶対許さない…!
「さて、どうするか…」
俺の魔法は心と感情だ。
心を読むのはもちろんのこと、他人の感情や心も操れたり、心の声を聞くことも出来るスグレモノ。
俺が復讐する魔法に相応しい…とはいえないが、人助けにも使える。
しかし復讐する作戦考える間にシドウの顔が浮かび上がるな…。
あの時助けたことから頭から離れられないのだろうか?
いやいや、俺の本来の使命は復讐することだ。
今は復讐することを考えろ。
次復讐する相手は、社長令嬢の友人である高垣と畑佐っていうクソ女どもだ。
あいつらはいつも社長令嬢を庇うし、俺を見下すしな。
吹奏楽部だった俺を追い出したのも鮮明に覚えている。
復讐するなら社長令嬢を引き剥がすようなことをすればいいか。
まずはあいつらを追う。
これは基本だ。
あとは気づかれないように隠れればいい。
そうと決まれば俺は高垣と畑佐を探した。
高垣と畑佐は普段帰宅したり登校したりする時に歩いてる道でぺちゃくちゃ喋っていた。
「ねえねえ、行くよね?」
「うん!明日呂奈ちゃんのお食事会!絶対行く!」
どうやら社長令嬢ん家で食事会するようだ。
ちなみに呂奈は社長令嬢の名前だ。
俺は名前ですら読みたくないから社長令嬢と呼んでるけどな。
しかし純粋な友人だったらいいんだが…。
さて、追い続けるか。
まずは高垣。
何をしてるかな…?
俺は隠れて高垣の部屋を覗いた。
「あー、もしもし?あの地味男いなくなって毎日充実してるよー」
地味男…俺のことか。
「え?ヤダー!マジ!?そうだよね!あの地味男さ、呂奈ちゃんの邪魔者だから追い出したて正解だったわ!だいたいあいつ勉強で呂奈ちゃんを越えようとするなんて無いし!え?どうしたかって?そりゃあたしが地味男のテストのひとつを99点にして下さいって言ったに決まってるでしょ!?」
あいつ、あんな汚い真似を…。
許せない。
だとすれば畑佐も同じ考えだろうな。
俺の予想は的中していた。
畑佐も高垣と同じようなことを言ってた。
「0点はさすがに無理だって言ったけど、呂奈ちゃんの邪魔になるよね、あいつ。やっぱあの地味男学校から消えて嬉しいんですけど!きゃはははは!」
友人の分際で俺を痛めつけるなど汚らしい。
だが俺は聞いたぞ。
お前らの悪事をな…後でどうなるかその身で知るんだな…。
それから俺は復讐の準備をした。
まず学校でミカミとして入り、休み時間が来るまで待つ。
制服はマジカルミライキャストで変装出来るから大丈夫だ。
そして休み時間になったらあいつらのところについて行く。
「あれ?地味男じゃん?何しに来たの?」
「そもそも地味男は学校来ちゃダメでしょ? 」
さあ、復讐の時だ…。
「あの、これなんですか?」
俺は高垣のスマホにあるLINEで畑佐とのやり取りを見せた。
その内容は吹奏楽部には男はいらないとか、明らかに性別差別だらけの腐って汚れたLINE。
実は高垣がトイレ行ってる隙を見てスマホを奪った。
そいつのスマホはロック設定されておらず、セキュリティは完全にガバガバ。
LINEのセキュリティロックもしておらず、証拠はすぐ手に入った。
「ちょ、ちょっと…なにしてんのよ!」
「スマホ返せよ泥棒!」
と、高垣はスマホを奪い返した。
だがこれで終わりではない。
「あとそのLINE、晒したから」
そしたら高垣の顔は一気に青ざめた。
「酷い。夏里さんと春瀬さんってそんなこと言ってたんですね」
ほら、社長令嬢もお怒りだ。
ま、お前もすぐ俺によって痛い目に会うけどな。
「ち、違うの!呂奈ちゃん!」
「もういいです。お食事会に来ないで下さい」
こうしてお食事会は無し。
さらにLINEが晒されたことによって2人の居場所は無くなった。
LINEが晒されてから外に出るのが怖くなったのかもな。
さて、俺の復讐のひとつが完了した。
あの社長令嬢はセキュリティが固いから復讐する際はしっかり企てないとな。
俺はトールギスに報酬の2000円を渡された後、コンビニで弁当を買い、食べた。
しかし復讐したとはいえ、なんか暇だ。
「ゲームセンターでも行くか」
俺はゲームセンターへ向かおうとすると、女性が声を上げて「ひったくりー!」と叫んでいた。
何やらひったくり事件も頻繁にあるようだ。
「面倒だな…!」
俺がひったくり犯人を捕えようとした次の瞬間、物凄いジャンプしてひったくり犯を一瞬で追い詰めた。
その姿と気配は魔法少年だと分かった。
赤い貴族のような衣装にライオンのようなたてがみのようなフルフェイスマスク…あれは獅子座か?
しかし獅子座の魔法少年なんて今まで無かった。
だとするなら、新種か?
「うおおおおぉ!!獅子座の魔法少年の一撃を受けろー!!」
獅子座の魔法少年はそのひったくり犯に右ストレートフックをお見舞いさせた。
頬に痛いダメージを受けたひったくり犯は体勢を崩し、獅子座の魔法少年はひったくられたカバンを女性に渡した。
「はいこれ!気をつけろよな!」
女性は感謝して帰っていった。
と、獅子座の魔法少年は俺に気づいたのか手を振り始めた。
「あ!ミカミ!おーい!!」
何故あいつが俺の名前を知っている?
…まさか、本当に魔法少年になったのかあいつ。
「みーかーみ!」
獅子座の魔法少年は俺が気づかないと思って俺のところに駆け寄った。
「お前シドウか?」
「うん!シドウだ!けど今は獅子座の魔法少年レグルスだけどな!!」
レグルス…獅子座の有名な一等星を意味する。
しかしギリシャ語で獅子座はレオンだがな。
多分星座の本を見て覚えたんだろうな。
「なんで魔法少年になったんだ」
俺は強く問う。
「え?だってオレ不幸だもん」
「不幸…ああ、確かにお前は不幸だな。治安が悪い施設で育って喧嘩ばかりして…それに加え両親すらない」
「でもさ、オレヒーローに憧れてるんだよ!施設では喧嘩ばっかだけど日曜日の朝に見るヒーロー見てるからな!
あと…施設無くなっちまった」
「無くなった?」
「だって、治安も悪いし大人は助けてくれないし、それに!オレの面倒見てくれるやつみんなパチンカスばっかだもん!」
パチンカスか、パチンコばかりやってるクズのことか。
バカのくせによく知ってるな。
「それで、楽しみにしてたヒーローもう見れなくなっちまった…」
「…夢があって良かったな」
「え?」
「俺に夢なんてない」
「なんで?夢ねーの?」
「俺の夢は…もう壊れた」
そう、あの時幼稚園児年長の時だ。
俺は魔法少女になりたいとか夢見ること言ってたが、迷子になった時クソ親は俺を助けてくれず、俺はわんわんと泣いて探し続けた。
それが今でも黒歴史だ。
もうあんな気持ち悪いことは二度としたくない。
「ヒーローは人を助けたり人のためにやらないとヒーローとは言えないぞ。頑張れよ」
「…うん!」
レグルスは変身解除し、シドウの姿になった。
相変わらずボロボロの赤いTシャツと汚れたジャージの短パンとぶかぶかのサンダルを身にまとってるから不潔で汚いのはアレだが。
「あ、オレ…飯食ってねぇや」
ぎゅるる…とシドウの腹から音が鳴った。
「奢ると言うんじゃないだろうな」
「でもオレ金持ってない…」
確かにシドウは金を持ってない。
しかしこのまま野放しにするのも時間の問題だ。
「おい、坊主」
ドスの効いた中性的な声が聞こえた。
「あ!神様!」
その神様はワインレッドのパーカーのフードをかぶり、長い銀髪をポニーテールで前髪ごと結っている。
女の顔だがどうみても体は男だ。
「お前さん、人助けした約束の金を届けに来たよ」
ぶっきらぼうな態度でその神様はシドウに封筒を渡す。
「え!?金!?」
シドウが中身を確認すると、封筒には4000円入っていた。
「わぁ~!金だぁ~!!」
シドウは金を見て目を輝かせる。
「これで焼肉が食えるぞ!!」
まあ金を手に入れたから嬉しくなるのは当然だ。
「やっきにくやっきにく!」
「そうかい、そんなに焼き肉が楽しみかい」
「おう!お前も食うか?」
「俺様はいいよ。あ、お前さんが復讐とかやってる蟹座の魔法少年かね?俺様はケンプファー。毒の神様をやってもらってるものさ」
と言った後、ケンプファーは去っていった。
「おい!ミカミ!焼肉食おうぜ!」
シドウにグイグイ腕を引っ張られる。
「…俺じゃなきゃダメか?」
「おう!焼き肉はみんなで食べるものだ!」
「はあ…仕方ない」
俺は仕方なくシドウについて行くことになった。
焼肉の店は俺の魔法頼りに探すことになったが、なんとか探せた。
焼肉店はチェーン店だが俺にはお初目にかかる。
俺とシドウは焼肉店に入り、空いた席に座ると、シドウはすぐメニュー表を手に取り、目をキラキラさせながらメニュー表にある肉などを見る。
「なあなあ、食べ放題ってなに?」
「たくさん食えるということだが」
「じゃあ俺これ頼む!」
と、普通の食べ放題コースを頼むことにした。
俺が注文する時のチャイムを鳴らすと、店員が来てすぐシドウが元気よく挙手して食べ放題がいい!って言ってきた。
「肉!肉!」
シドウにとって焼肉は食べたかったものだろう。
すごい楽しみにしている。
よほど贅沢したかったんだろうな。
けど、まさか俺までこんな贅沢するとは思わなかった。
数分後、食べ放題の肉が置かれ、シドウは早速焼こうとした。
「オレが焼く!」
「待て。焼く時にはトングを使うんだぞ」
「とんぐ?なんだそれ?」
「生肉を挟む時に使うものだ」
「おう!分かった!」
シドウは生肉をトングで挟み、焼くところに置いた。
じゅうっと肉が焼かれる音が鳴る。
焼肉はクソ姉とクソ親しか食べたことがないから、俺は今日が初めてとなる。
「なあ、焼肉食べたことないのか?」
俺はシドウに尋ねた。
「焼肉?誕生日会に食ったことあるぜ?」
「誕生日会?」
「オレの誕生日ってさ、おおあつい…あれ?7月23日に出てくるめっちゃ暑い日なんだっけ?」
「大暑のことか?」
「そうそう!それ!その日が誕生日だからいつも大暑を楽しみしてんだよ!」
大暑は7月22日もあるんだがな…。
「でも今日7月23日じゃないから誕生日じゃねぇけどな」
と、シドウは苦笑いした。
「お前誕生日あるの?」
「6月22日だが」
「そっかー!じゃあ夏至じゃないか!」
「夏至?ああ、6月21日が多かったな」
そんな会話を弾ませてる間に、肉が焼かれていく。
俺はすぐ肉をひっくり返すと、赤いところは茶色くなっていた。
「お前…魔法少年になるなと俺が言ったのによくなれたな」
「だってオレ、お前に助けられたんだもん!お前ヒーローだし!」
はぁ…とため息をつくと俺は真面目なことを言った。
「俺はヒーローになる気はない」
「え?」
「俺は復讐のために魔法少年になったんだよ」
「ふくしゅー?」
「だから別にヒーローになりたいから魔法少年になったんじゃないからな」
「でも、オレのヒーローだし!」
「…勘違いするなって」
「あ!肉焼けたんじゃね?」
「そうだな」
シドウはすぐ焼きあがった肉を箸で取ると、タレも付けずに肉を口の中に入れた。
「うまーい!久々の肉だぁ!」
よほど肉を食べれて嬉しかったのだろう、シドウは肉を口に入れただけで笑顔になった。
「お前も食えよ!」
「ほいほい」
俺は赤身の肉を焼くところに焼き、しっかり火を通した。
火がちゃんと通るのを確認すると、俺は肉にタレを付けた。
「なんだそれ?」
「どうやら肉にはタレを付けると美味いってな」
タレを付けた肉を俺は口にいれる。
肉の香りと味が口いっぱいに広がった。
これが焼肉か…と、俺は寂しげな表情を浮かべた。
「お前焼肉食ったことないの?」
シドウが尋ねた。
「食ったことは無い」
と、俺は答えた。
「へー、お前のお父ちゃんとお母ちゃんサイテーだな!いたらオレがボッコボコにしてやれたのになー!」
「やめろ。暴行罪になる」
「ぼうこうざい?」
「叩いたり蹴ったりしただけで逮捕されることだ」
「え?じゃあ焼肉くえなくなるの!」
「なるな」
「そんなのやだ!オレ焼肉食べたい!」
「じゃあ無闇に人を殴ったり叩いたりするな。分かったか?」
「おう!」
こいつ、本当に分かってるのか…。
食べ放題のメニューを食べながら、俺はシドウに付き合うことになった。
お会計はシドウの報酬金の半分で済み、シドウの腹も金も満足に。
「ありがとな!オレの焼肉に付き合ってくれて!」
「別に行きたくなかったんだが」
「なんだよ!いいじゃん!」
「じゃあ、お前は人助け頑張れよ」
と、俺はシドウと別れようとした。
その時、シドウが俺の手を掴んだ。
「なぁお前!ついてっていいか?」
「ついてって…はぁ!?」
シドウめ、俺について行くつもりか。
「だってオレ、お前と一緒がいいし!」
「ダメに決まってるだろ」
「えー!ヤダ!そんなのオレのプライドが許さねぇ!!」
「ワガママ言うな。復讐の巻き添えになるぞ」
「だってオレ1人嫌だもん!!なぁーあ!お願いだから一緒に行かせてくれよ!!」
確かにこいつは1人ぼっちでは行きたくない…そんな心の叫びが聞こえる。
けど、シドウを酷い目に合わせたくない…。
「オレ、住むところないし、マジカルミライキャストの使い方分かんねぇし…」
「…分かった。付き合ってやる」
仕方ない、こいつを1人にするのは良くないと思うし、付き合ってやるか。
「え!?ほんと!?やったー!!」
「じゃあまずは使い方を教えてやる」
と、俺はシドウにマジカルミライキャストの使い方を教えた。
コミュニティルームの行き方、マジカルチェンジカードの使い方など…シドウはそれを知らなかった。
何やらシドウは神様と出会って魔法少年になったものの、使い方までは簡単なことしか教えてもらえなかったらしい。
「へー!ここがコミュニティルームか!」
「白いドアに手を置け」
「こうか?」
シドウが白い扉に手を置くと、機械的かつ中性的な声がシドウを判断してくれた。
『獅子座の魔法少年レグルス、クラスがスターであることを確認』
獅子座の魔法少年レグルスに変身したシドウと蟹座の魔法少年ルキノに変身した俺は専用のコミュニティルームに入った。
「うわ~!すっげぇ!」
「なんや?新入りか?」
「新入り?まあそんな感じだ!」
コミュニティルームには双子座の魔法少年ディデモイ、牡牛座の魔法少年タウロスがいた。
「おい、クリオスはどこだ?」
「クリ吉なら宇宙人退治やで」
「宇宙人?」
「最近外で宇宙人がいるらしいんだ。クリオスは奴らを退治するために魔法少年として戦ってるんだよ」
「へぇ~すげぇな!」
「宇宙人か…」
まさか宇宙人がいるとは思わなかった。
「宇宙人っているのか?」
「いるさ」
と、コミュニティルームにケンプファーが現れた。
「何やら魔法少年を狙って宇宙人が来てるらしいからね。お前さんたちはそいつらと戦わなきゃいけねぇんだ」
「そんなの倒せばいいんだろ!簡単じゃねーか!」
「いや、お前さんの魔法だけじゃ勝てないよ」
レグルスの魔法は希望と言って、人々に希望を与えるだけの単純なものだ。
「魔法なら太陽の熱と光があるぜ!!」
それは属性だろ…。
「とにかく気ぃつけな」
そう言ってケンプファーはコミュニティルームから去っていった。
「宇宙人か…」
しかし宇宙人など俺には関係ない。
俺はただ復讐をする。
ただそれだけのことだ。

特に社長令嬢とクソ姉…覚えてろよ、必ず痛い目に合わせてやるから指をくわえて待っておけ…!
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