ダンケシェン

たこ焼き太郎

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第十話 覚悟

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 地区大会が終わり2週間が経った。俺は負けた時の事が悔しくて仕方がなかった。むしゃくしゃするので散歩に行った。俺はいつも落ち込んだりすると近くの河川敷に行っていた。心を落ち着かせるにはここが1番いいんだ。
「あれ、佐藤?」井上だった。
「おー、井上か」
「何してるの?」
「地区大会の事が悔しくてここでクールダウンしてるんだ」
「ふーん。私もたまにここに来てるよ」
「あ、そうなんだ」学校で会う井上とはまるで別人だ。二重人格じゃないかと疑った。
「なぁ、井上。なんで学校ではあんなに当たりキツいんだよ」俺は思い切って聞いてみた。
「え、いやぁ、特に意識してないけど」井上は慌てていた。
「あれか、一年の時に家行ったの覚えてるか?あの時俺が帰っちゃったからか?」
「ち、違うし、てか、あんな昔のこといつまでも覚えてるなんて、気持ち悪いよ」
「昔のことっていうか、2年前のことだろ」俺は冷静に答えた。
「あんたが私を避けたんでしょ」
「え、えぇ、避けてないけど」
「いいや、避けてた。私の家を出た後にあんたは車に轢かれて意識不明で病院に運ばれたの。私も一緒に着いて行ったけど、いきなり帰れって言ってきたんだよ。私、とても傷ついた」
「俺、そんな事言ったの?」
「言ったよ。しかも、今までの私とのやり取りも覚えてないって言うし、成績もどんどん悪くなっていくし、みんな心配してたんだよ」
 どおいうことだ。過去に戻ってやり直したはずじゃないのか。それとも過去に戻ってその時は勉強を頑張ったが、その後俺自身が努力を怠っているってことなのか。
「え、でも、中田達との関係はさほど変わってないよな?」また井上に聞いた。
「そうだね。そこはいつも通りだったかな。私以外の女の子達にもいつ通り接していたかな」
 井上だけの対応がおかしくなっているって事か。いや、井上以外にも子供の頃に体験していなかった事を過去に戻ってやり直したり、新しく体験したとしてもその後の俺には何も影響がないってことなのか?ていうことはいくら過去に戻ってやり直しても未来は特に変わらないのか。だとすれば井上がこんな性格になってしまったのも頷けるな。
「聞いてんの?」井上に言われ我に返った。
「あー、ごめん。なんだっけ」
「だから、次の試合いつなの?」
「えーと、1ヶ月かな」
「そっか、県大会が終わったら全国大会か」
「そうだな。今は柔道を本気でやって、いける所まで行ってみたいんだよ」
「すごいね」
「おうよ。でも、上には上がいてよ。地区大会でそれを身を持って経験したから、すっげぇ悔しい。だから、次は絶対優勝するって決めた」俺は井上に熱く語ってしまった。
「そっか。なんか、前みたいな関係に戻ったみたい」井上が言った。
「そうだな。お前、いつも顔赤くしてたよな」
「うるさい」井上は怒っていたが嬉しそうだった。
「なんか、井上と話していたら吹っ切れたわ。ありがとよ。」
「いや、別に私は何もしてないよ」
「まぁ、応援しててくれよ」
「うん。全国連れて行ってよ」
「お前、漫画のセリフみたいなこと言うなよ」
「いいじゃん」井上は満面の笑みを浮かべていた。
「じゃあ、俺、帰るわ」
「じゃあ、また明日」
「おう」
 井上と別れ、1人で家へと向かった。とりあえず、細かいことは気にしなくていい。飛んだ先の過去へ戻ってやりたいようにすればいいと思った。その時だけ俺という人間が輝けるのならそれで満足だ。
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