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第1話 追放された雨男、渇きの砂漠へ
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僕は、レイン・シグレ。
この『多雨帝国ハイドラ』では、『カビ製造機』だとか『歩く災害』だとか、散々罵られてきた。
僕の半径五メートル以内は常に雨が降り、草花は生い茂り、湿気がじっとりとまとわりつく。
それが僕の『永雨の体質』、みんなが忌み嫌う能力だ。
「ふん、あの陰気な雨男め、今頃砂漠で干からびているだろう。我が国からカビが一掃されて清々しい気分だ!」
ハイドラ国王の声が脳裏に響く。
僕はただ、故郷を追放されただけの、哀れな存在だ。
雨を降らす力なんて、何の役にも立たない。
むしろ、害悪でしかなかった。
だから、国王の命で『渇きの王国サンドリア』へと追放されることになった。
サンドリアは国土の九割が砂漠で、水不足に苦しむ国だという。
僕がそんな場所に行けば、すぐに干からびて死ぬだろう、と皆は言った。
僕もそう思っていた。
(これでようやく、僕のジメジメした人生も終わるんだな)
絶望しかなかった。
ハイドラの国境を越え、広大な砂漠の真ん中に放り出された僕は、ただ茫然と立ち尽くした。
照りつける太陽、熱された砂。
ここには雨の気配すらない。
なのに、僕の体からは、まるで汗のように微かな湿気が滲み出て、周囲に小さな霧を生み出していく。
(こんなところで、僕の能力が発動しても、意味がない)
そう思った瞬間だった。
僕の足元に、小さな緑が芽吹いていることに気づいた。
枯れ果てた砂漠に、可憐な野草が顔を出し、みるみるうちに茎を伸ばしていく。
水がないはずなのに、その葉には朝露のような輝きがあった。
「え、うそ……だろ?」
僕が歩くたび、その足跡から草花が次々と芽吹いていく。
まるで、僕の歩みが『命の道』を作り出しているかのようだった。
乾燥した砂漠の土が水分を含み、小さな小川が生まれ、草木は瞬く間に小さな森へと姿を変えていく。
僕はただ、生きていた。
故郷では忌み嫌われたこの体質が、ここではまるで魔法のように機能している。
(どうして……こんなことが)
僕は途方に暮れた。
僕の能力は、生命を育む力だったのか? だが、そんなことに気づいたところで、僕の自己肯定感が上がるわけではない。
ただ、どうしようもなく、この状況から逃れたいと願った。
砂漠を歩き続けた僕の背後には、幅数メートルにも及ぶ、緑色の帯が伸びていた。
それは『神の散歩道』、後にそう呼ばれるようになる、奇跡の道だった。
僕が歩き続けること数日、遠くに見える街の影を目指して、僕はただ進んだ。
僕の周囲だけがオアシスのように潤い、動物たちが僕の後に続いていく。
彼らは僕の『永雨の体質』から生まれる水と緑を求めているのだろう。
その時、僕の視界の先に、砂塵を巻き上げて迫ってくる騎馬隊の姿があった。
隊列の先頭には、真っ赤な髪の少女が乗馬している。
彼女は僕を見つけるやいなや、目を見開いた。
その眼差しは、僕を初めて『価値あるもの』と見ているようだった。
「見つけたわ……伝説のオアシス神! 貴方、今日から私の所有物になりなさい。逃げようとしても無駄よ、その能力、国家予算何年分に相当すると思ってるの? さあ、そこで深呼吸して雨を降らせて!」
彼女の声は、砂漠の熱風をも切り裂くような力強さだった。
それが、砂漠の国『サンドリア』の第一王女、アリア・サンドリアとの出会いだった。
そして、僕の人生は、故郷を追放されたその日から、大きく変わっていくことになった。
------------------------------
【登場人物】
- レイン・シグレ: 主人公、雨男
- アリア・サンドリア: 渇きの王国サンドリアの第一王女
- ハイドラ国王: 多雨帝国ハイドラの国王
【場所】
- 渇きの王国サンドリア: 国土の9割以上が砂漠の国。水一滴が金貨一枚に相当するほど水不足が深刻。
- 神の散歩道(レイン・ロード): レインが国境から王都まで連行される際に歩いたルート。彼が通った跡だけ異常な速度で草花が芽吹き、小川ができ、一本の巨大な緑の帯となって地図に刻まれた場所。
- 多雨帝国ハイドラ: レインの故郷。年中雨が降り止まない湿地帯の国だったが、レインを追放したため急速に乾燥化が進みつつある。
【アイテム・用語】
- 永雨の体質(レイン・オーラ): レインの半径5メートル以内に常に雨を降らせ、植物を超常的な速度で成長させる能力。
この『多雨帝国ハイドラ』では、『カビ製造機』だとか『歩く災害』だとか、散々罵られてきた。
僕の半径五メートル以内は常に雨が降り、草花は生い茂り、湿気がじっとりとまとわりつく。
それが僕の『永雨の体質』、みんなが忌み嫌う能力だ。
「ふん、あの陰気な雨男め、今頃砂漠で干からびているだろう。我が国からカビが一掃されて清々しい気分だ!」
ハイドラ国王の声が脳裏に響く。
僕はただ、故郷を追放されただけの、哀れな存在だ。
雨を降らす力なんて、何の役にも立たない。
むしろ、害悪でしかなかった。
だから、国王の命で『渇きの王国サンドリア』へと追放されることになった。
サンドリアは国土の九割が砂漠で、水不足に苦しむ国だという。
僕がそんな場所に行けば、すぐに干からびて死ぬだろう、と皆は言った。
僕もそう思っていた。
(これでようやく、僕のジメジメした人生も終わるんだな)
絶望しかなかった。
ハイドラの国境を越え、広大な砂漠の真ん中に放り出された僕は、ただ茫然と立ち尽くした。
照りつける太陽、熱された砂。
ここには雨の気配すらない。
なのに、僕の体からは、まるで汗のように微かな湿気が滲み出て、周囲に小さな霧を生み出していく。
(こんなところで、僕の能力が発動しても、意味がない)
そう思った瞬間だった。
僕の足元に、小さな緑が芽吹いていることに気づいた。
枯れ果てた砂漠に、可憐な野草が顔を出し、みるみるうちに茎を伸ばしていく。
水がないはずなのに、その葉には朝露のような輝きがあった。
「え、うそ……だろ?」
僕が歩くたび、その足跡から草花が次々と芽吹いていく。
まるで、僕の歩みが『命の道』を作り出しているかのようだった。
乾燥した砂漠の土が水分を含み、小さな小川が生まれ、草木は瞬く間に小さな森へと姿を変えていく。
僕はただ、生きていた。
故郷では忌み嫌われたこの体質が、ここではまるで魔法のように機能している。
(どうして……こんなことが)
僕は途方に暮れた。
僕の能力は、生命を育む力だったのか? だが、そんなことに気づいたところで、僕の自己肯定感が上がるわけではない。
ただ、どうしようもなく、この状況から逃れたいと願った。
砂漠を歩き続けた僕の背後には、幅数メートルにも及ぶ、緑色の帯が伸びていた。
それは『神の散歩道』、後にそう呼ばれるようになる、奇跡の道だった。
僕が歩き続けること数日、遠くに見える街の影を目指して、僕はただ進んだ。
僕の周囲だけがオアシスのように潤い、動物たちが僕の後に続いていく。
彼らは僕の『永雨の体質』から生まれる水と緑を求めているのだろう。
その時、僕の視界の先に、砂塵を巻き上げて迫ってくる騎馬隊の姿があった。
隊列の先頭には、真っ赤な髪の少女が乗馬している。
彼女は僕を見つけるやいなや、目を見開いた。
その眼差しは、僕を初めて『価値あるもの』と見ているようだった。
「見つけたわ……伝説のオアシス神! 貴方、今日から私の所有物になりなさい。逃げようとしても無駄よ、その能力、国家予算何年分に相当すると思ってるの? さあ、そこで深呼吸して雨を降らせて!」
彼女の声は、砂漠の熱風をも切り裂くような力強さだった。
それが、砂漠の国『サンドリア』の第一王女、アリア・サンドリアとの出会いだった。
そして、僕の人生は、故郷を追放されたその日から、大きく変わっていくことになった。
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【登場人物】
- レイン・シグレ: 主人公、雨男
- アリア・サンドリア: 渇きの王国サンドリアの第一王女
- ハイドラ国王: 多雨帝国ハイドラの国王
【場所】
- 渇きの王国サンドリア: 国土の9割以上が砂漠の国。水一滴が金貨一枚に相当するほど水不足が深刻。
- 神の散歩道(レイン・ロード): レインが国境から王都まで連行される際に歩いたルート。彼が通った跡だけ異常な速度で草花が芽吹き、小川ができ、一本の巨大な緑の帯となって地図に刻まれた場所。
- 多雨帝国ハイドラ: レインの故郷。年中雨が降り止まない湿地帯の国だったが、レインを追放したため急速に乾燥化が進みつつある。
【アイテム・用語】
- 永雨の体質(レイン・オーラ): レインの半径5メートル以内に常に雨を降らせ、植物を超常的な速度で成長させる能力。
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