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第1話 : コミュ障プロデューサーとアンデッドアイドル
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都市の地下深く、湿った空気と土の匂いが充満する場所。
そこが、ライブハウス『カタコンベ』だった。
陰山骸は、薄暗いステージ袖で膝を抱えていた。
(は、はう……ま、また始まる。今日のライブも、生きた人間のお客さんが来ないことを祈るばかりだ……。)
彼の心臓は、薄汚れた壁の向こうから響く低いうめき声と骨が打ち鳴らされる音、『デス・コール』に合わせて不規則に跳ねていた。
人魂ペンライトの青白い光が揺れる中、ステージ中央でリリィ・ゾンビハートが飛び跳ねる。
「みなさ~ん! こんばんは~! 死んでるけど元気ですか~!?」
その拍子に、彼女の左腕がひょいと外れ、客席前方へと飛んでいく。
「……ああっ! 投げキッスしたら手首ごと飛んでっちゃった! テヘッ☆」
リリィは慣れた手つきで、ファンが拾ってくれた腕を再び接続した。
「ハァ……。なぜ高貴な私が、こんな地下の納骨堂で歌わねばならんのだ。おいプロデューサー、照明が熱い。肌が腐るだろうが。早くミストを撒け。」
ビジュアル担当のスカーレット・ブラッドが、忌々しげに骸の方を一瞥した。
骸は慌てて、強力防腐スプレー『エターナル・ビューティー』を噴霧器でステージ全体に撒き散らす。
ひんやりとした霧がメンバーの腐敗を食い止める。
(よかった、間に合った……。でも、スカーレットさんは今日も機嫌が悪いなあ。)
ステージ下手では、フランケンシュタインのような警備員兼マスコット、肉達磨が、客席に紛れ込んでいた聖職者風の男を力任せに引きずり出していた。
『ウガーーーッ!!』(チケットのない方は入場できません。浄化魔法を使う聖職者は即刻退場してください、だよね、肉達磨。)
彼が言葉を話せないため、骸が内心で通訳する。
生きた人間は嘘をつくが、死体は純粋だ。
この歪んだ信念だけが、極度のコミュ障である骸をプロデューサーとして舞台に立たせていた。
彼にとって、このアンデッドアイドルグループ『ゴーストリー・シンフォニー』は、唯一心の安らぎを得られる場所だった。
ライブは熱狂のうちに終わり、ファンたちはヒュ~ドロドロと音を立てる人魂ペンライトを振りながら、満足げな呻き声を上げた。
ステージ袖に戻った骸は、壁にもたれかかるようにして、ほっと息をついた。
「骸プロデューサー、今日のデス・コールも最高でしたね!」
リリィがキラキラした目で話しかけてくる。
その首筋には、やはり少しだけ腐敗の痕が滲んでいた。
(早く次のライブの打ち合わせをしないと。次の目標は、そう……。)
骸は、薄汚れた壁に貼られた一枚のポスターを見上げた。
そこには、王都の中央にそびえ立つ壮麗な建物、聖・武道大聖堂の姿が描かれていた。
アンデッドが足を踏み入れた瞬間に浄化されると言われる、アイドルたちの最終目標地点。
(いつか、あそこをアンデッドでいっぱいにしてみせる。僕の、僕たちの夢だから。)
それは、生きた人間にとっては『冒涜』以外の何物でもないだろう。
だが、骸にとっては、それこそが『純粋な夢』だった。
聖・武道大聖堂への道のりは、まだ遠い。
だが、彼は一歩ずつ、その不可能とも思える夢に向かって進む決意を固めていた。
------------------------------
【登場人物】
- 陰山 骸: 主人公、コミュ障のネクロマンサー兼プロデューサー
- リリィ・ゾンビハート: アンデッドアイドル、センター担当
- スカーレット・ブラッド: アンデッドアイドル、ビジュアル担当
- 肉達磨: 警備員兼マスコット
【場所】
- ライブハウス『カタコンベ』: 都市の地下深くに広がる巨大地下墓地を不法占拠して作られたライブ会場。音響は最悪だが、冷房(死体保存用)は完備されている。観客の9割はゾンビやスケルトン。
- 聖・武道大聖堂: 王都の中央に位置する、アイドルたちの最終目標地点。強力な聖なる結界が張られており、アンデッドが入場した瞬間に浄化(消滅)されるため、そこでライブを成功させることは物理的に不可能と言われている。
【アイテム・用語】
- デス・コール: ファンによる独特のコール(応援)。「L・O・V・E」などの歓声の代わりに、地鳴りのようなうめき声と、骨を打ち鳴らす音が響き渡る。生きた人間が聞くとSAN値が下がる。
- 人魂ペンライト: アンデッドファンたちの必需品。大腿骨の先端に呪術的な青白い炎(人魂)を灯したもの。振るとヒュ~ドロドロという音が鳴る。
- 強力防腐スプレー『エターナル・ビューティー』: 骸が開発した魔法薬。ステージの熱気による腐敗の進行を食い止める。ライブのMC中にメンバーがお互いに吹きかけ合うのが恒例行事となっている。
- ゴーストリー・シンフォニー: 陰山骸がプロデュースするアンデッドアイドルグループ。
そこが、ライブハウス『カタコンベ』だった。
陰山骸は、薄暗いステージ袖で膝を抱えていた。
(は、はう……ま、また始まる。今日のライブも、生きた人間のお客さんが来ないことを祈るばかりだ……。)
彼の心臓は、薄汚れた壁の向こうから響く低いうめき声と骨が打ち鳴らされる音、『デス・コール』に合わせて不規則に跳ねていた。
人魂ペンライトの青白い光が揺れる中、ステージ中央でリリィ・ゾンビハートが飛び跳ねる。
「みなさ~ん! こんばんは~! 死んでるけど元気ですか~!?」
その拍子に、彼女の左腕がひょいと外れ、客席前方へと飛んでいく。
「……ああっ! 投げキッスしたら手首ごと飛んでっちゃった! テヘッ☆」
リリィは慣れた手つきで、ファンが拾ってくれた腕を再び接続した。
「ハァ……。なぜ高貴な私が、こんな地下の納骨堂で歌わねばならんのだ。おいプロデューサー、照明が熱い。肌が腐るだろうが。早くミストを撒け。」
ビジュアル担当のスカーレット・ブラッドが、忌々しげに骸の方を一瞥した。
骸は慌てて、強力防腐スプレー『エターナル・ビューティー』を噴霧器でステージ全体に撒き散らす。
ひんやりとした霧がメンバーの腐敗を食い止める。
(よかった、間に合った……。でも、スカーレットさんは今日も機嫌が悪いなあ。)
ステージ下手では、フランケンシュタインのような警備員兼マスコット、肉達磨が、客席に紛れ込んでいた聖職者風の男を力任せに引きずり出していた。
『ウガーーーッ!!』(チケットのない方は入場できません。浄化魔法を使う聖職者は即刻退場してください、だよね、肉達磨。)
彼が言葉を話せないため、骸が内心で通訳する。
生きた人間は嘘をつくが、死体は純粋だ。
この歪んだ信念だけが、極度のコミュ障である骸をプロデューサーとして舞台に立たせていた。
彼にとって、このアンデッドアイドルグループ『ゴーストリー・シンフォニー』は、唯一心の安らぎを得られる場所だった。
ライブは熱狂のうちに終わり、ファンたちはヒュ~ドロドロと音を立てる人魂ペンライトを振りながら、満足げな呻き声を上げた。
ステージ袖に戻った骸は、壁にもたれかかるようにして、ほっと息をついた。
「骸プロデューサー、今日のデス・コールも最高でしたね!」
リリィがキラキラした目で話しかけてくる。
その首筋には、やはり少しだけ腐敗の痕が滲んでいた。
(早く次のライブの打ち合わせをしないと。次の目標は、そう……。)
骸は、薄汚れた壁に貼られた一枚のポスターを見上げた。
そこには、王都の中央にそびえ立つ壮麗な建物、聖・武道大聖堂の姿が描かれていた。
アンデッドが足を踏み入れた瞬間に浄化されると言われる、アイドルたちの最終目標地点。
(いつか、あそこをアンデッドでいっぱいにしてみせる。僕の、僕たちの夢だから。)
それは、生きた人間にとっては『冒涜』以外の何物でもないだろう。
だが、骸にとっては、それこそが『純粋な夢』だった。
聖・武道大聖堂への道のりは、まだ遠い。
だが、彼は一歩ずつ、その不可能とも思える夢に向かって進む決意を固めていた。
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【登場人物】
- 陰山 骸: 主人公、コミュ障のネクロマンサー兼プロデューサー
- リリィ・ゾンビハート: アンデッドアイドル、センター担当
- スカーレット・ブラッド: アンデッドアイドル、ビジュアル担当
- 肉達磨: 警備員兼マスコット
【場所】
- ライブハウス『カタコンベ』: 都市の地下深くに広がる巨大地下墓地を不法占拠して作られたライブ会場。音響は最悪だが、冷房(死体保存用)は完備されている。観客の9割はゾンビやスケルトン。
- 聖・武道大聖堂: 王都の中央に位置する、アイドルたちの最終目標地点。強力な聖なる結界が張られており、アンデッドが入場した瞬間に浄化(消滅)されるため、そこでライブを成功させることは物理的に不可能と言われている。
【アイテム・用語】
- デス・コール: ファンによる独特のコール(応援)。「L・O・V・E」などの歓声の代わりに、地鳴りのようなうめき声と、骨を打ち鳴らす音が響き渡る。生きた人間が聞くとSAN値が下がる。
- 人魂ペンライト: アンデッドファンたちの必需品。大腿骨の先端に呪術的な青白い炎(人魂)を灯したもの。振るとヒュ~ドロドロという音が鳴る。
- 強力防腐スプレー『エターナル・ビューティー』: 骸が開発した魔法薬。ステージの熱気による腐敗の進行を食い止める。ライブのMC中にメンバーがお互いに吹きかけ合うのが恒例行事となっている。
- ゴーストリー・シンフォニー: 陰山骸がプロデュースするアンデッドアイドルグループ。
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