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4.私は、忘れられた
しおりを挟む「ホントの本物のひぃちゃん?!」
時おり波紋で波打つ鏡越しに映る六花は、とても興奮していた。私は、クールダウンして欲しくて。わざとのんびりとした口調で話しかけた。
「うん。偽者じゃないよ? あと顔色よくなったね」
「よくなったねじゃないよ! 何のんきにしてるの? 今何処にいるの? ねぇ、皆おかしいんだよ!」
なんだか余計に興奮させたようだ。
「もぅ! 何笑ってるの?!」
だって。
「だって、嬉しくて」
怒っているのは元気な証拠だ。私の知る最近の六花は、病院の庭に出ただけで疲れて動けなくなっていたから。
「ひぃちゃんは、しょうがないなぁ」
腕を組んで怒った顔から困った表情の六花。
今でこそ喧嘩はしなくなったけど、小さい時はやっぱり歳もおんなじだから、よく言い合い、取り合いもしていた。でも結局、いつも六花が折れてくれるんだよね。
私が、意地っ張りで頑固で謝らないから。
というか謝りたい気持ちはあるけど言えないのだ。膨れっ面の六花は、私と同じ顔なのに可愛い。やっぱ女子力の差かな。
『時間 ない』
右上に浮かんでいる蝶々さんが伝えてきた。私は、鏡に恐る恐る手を伸ばした。鏡の、向こうの世界、六花の部屋のコルクボードに貼ってある写真が見えた。
そこに、私はいない。
ううん。今、消えていっている。
小さい時の私と六花。家族で特大のホールケーキを前に撮った写真。遊園地で遊んだ写真。
また一枚と私がいなくなっていく。
ふと六花の机の上のデジタル時計に目がいった。
「ねぇ、りっちゃん。今日、卒業式だ」
私と六花は、同じ女子校だ。体調が悪い時が多かったけど、それでも一限だけでもと頑張っていた六花は、皆に好かれていて。穏やかで優しい六花と大雑把な私は、変な双子と言われていた。
「うん。でも、念のためって休まされた。あと日数足りなかったから…」
もう一回仕切り直しだと笑った。
そんな六花に提案した。
「ね。今、卒業式しよ」
「え?」
「歌、練習してたの知ってるよ」
六花が、病院の小さな庭でこっそり練習していたのを知っている。
「えっ、でも上手くないし…」
「いいじゃん。二人しかいないし」
「そうだよ! 今、何処にい」
「はい、せーの!」
強制的に中断させた。
曲は、卒業式の定番のやつ。
でも結構好き。
楽しいね。
六花も鏡に触れてきて。私の右手と六花の左手が重なる。学校の桜って毛虫は苦手なんだけど咲くととっても奇麗なんだよなぁ。あっちゃんにミカ、小春、ひろも歌ってるかな?
「あれ?」
突然の黄色の光と風が。
『今日そのまま帰るの? ちょっと遊んでいこ!』
『アルバムに書いてよー』
『最後まで先生の話ながっ』
教室から職員室迄の道は別の棟で、その道の上には満開の八重の桜。
これは。
友達や同じ部活の子がその下を笑って歩いている姿が鏡じゃなくて私の周りに広場一杯に映っている。
「ひぃちゃん。な、なんか皆が見える」
向こう側にも同じ光景がみえていらしくて。
『ぎゃー! 急に風強いっ』
突風が不意打ちできたのか。皆は、はためくプリーツのスカートや髪の毛を押さえている。
ひらひらと降る花びら。
風にあわせて揺れる首元のチャームポイントの大きなリボン。
「「…綺麗だね」」
六花と声が揃った。
目が合い、同時に笑った。
「あっ」
私か、六花の声か。
皆の桜の映像が薄れていく。
鏡にも小刻みな波紋が生まれて。
「ひぃちゃん?」
「りっちゃん。おにいとお父さん達よろしく」
「えっ! やっ、待って!」
波紋が強くてお互いの顔が見づらくなってきた。
「お父さんもお母さんも、私が元から存在しないようになってるのかな? それでいいんだよ」
「何それ?! ちゃんと説明して!」
こんなに焦る六花は初めてみた。
「後ろ、ボードの写真見て」
「えっ、あ! 何で?! ひ、ひぃちゃんがいない!」
りっちゃんの、六花の命を救ってもらう代わりに私は、私そのものがなくなる。
「ねぇ、りっちゃんも、もうすぐ忘れちゃうんだ」
覚えていても苦痛だよね。
きっと誰にも話さなくても、記憶に残せば自分のせいだと考えて責めてしまう。
でも、ちょっとくらい六花には覚えていて欲しいと思う私は狡いかな。
「ひぃちゃん!」
「六花。私は、これから生きる場所が違うけど頑張る。でも六花は、今まで頑張ったんだから、ゆるく生きなよ」
「ひいちゃん…柊!」
あーぁ。六花、可愛い顔が鼻水で台無しだよ。
「バイバイ」
ついに波紋は鏡全体に広がり、六花の顔は見えなくなった。これで終わりかと思ったら、また鏡が光って。
『なんか上、聞こえたか?』
『そうかしら』
一階のリビングにいるお父さんとお母さんが映っていた。
『見てくるか』
『大丈夫だと思うけど。担当してくれた先生だって、数値も正常だし奇跡だと言ったくらい。だたし運動は筋力も低下しているから、もう少ししてからって言ってたわ』
『そうか。俺も正直、奇跡に近い気がする。手術しか手はなかった。それも確率が低く、成功しても一生薬を飲まないといけないと言われていたのに』
『…そうね』
──よかった。
術後は薬を一生飲むと聞いて、その時はとてもショックだったから。
『洗濯物もあるし私が見に行くわ』
お母さんは、そう言うとカゴをかかえて視界から消えた。
「お母さん!」
思わず手を伸ばした。
『さて、俺は洗車でもするか、颯真』
『車洗うの? 俺、使いたいんだけど』
立ち上がり背中を見せるお父さんに、帰宅したおにい。
「お父さん…おにい」
六花の時と違って私の声は、届かない。
「挨拶できなくてごめん」
私は、赤い土の上にいままでしたことないくらい、きっちり正座した。
「ウザイって思った事もいっぱいあった。でも楽しい時もあった」
手を揃え頭を地面につけた。
「ありがとうございました」
専門の入学金、払い済みだよね。お金、返せないや。あっ。でもなかった事だからお金もかかってないのかな。
皆も楽しく生きてほしいな。
看病、六花が一番頑張ったけど、お母さんやお父さんも頑張ってた。おにいも笑わせようとふざけた事いったり。
風が吹いて黄色い光が閉じた瞼に感じた。
「…今だけ、いまだけ泣かせて下さい」
背後の足音がした人に言った。
私が忘れられた。
何もなくなった。
『片割れ 縁 強すぎた 少し 残る リッカにヒイラギの記憶』
蝶々さんの声がやさしく降ってきた。
──もう無理。
堪えていたのに。
私は、声をだして泣き叫んだ。
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