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15.私は、転移場所を失敗する
しおりを挟む『ヒイラギ 眠い?』
「眠くはないけど、なんか色々しんどかった」
フランネルさんは、昨日の侵入者の件で忙しそうだったのに約束は忘れていなかったみたいで朝には帰宅し鍵をかける作業を手伝ってくれた。
『疲れた?』
ソファーに転がったら蝶々さんが私の側まで来て立てた膝に留まった。この数日で蝶々さんとコミュニケーションが少しとりやすくなったせいか会話しやすくて。
あと、ちょっとだけ楽しい。
人差し指を出すと優雅に指先に着地。近い距離だから驚かせないように小さな声で話をする。
「そうでもない。1人の時より楽だよ。緋色マントさんと一緒に移動できてよかった。ただ」
『なあに?』
飛ぶときに何処かに触れていないといけないのと。今日の初の二人作業の光景を思い出した。蝶々さんのせいではないのだろうけど。
「蝶々さんは、私の思い出が鍵になるって言ったでしょ? でも、あれはないよ」
まさか縄跳びを飛ぶはめになるとは。
炎天下の中、あの緋色マントさんの冷たい視線を浴びながら一人行う気持ちわかる?
今までで一番閉めるまで長く感じたよ。
「しかもっ!良い思い出じゃないし! 体育で二重飛びが10回できなくて追試で連日校庭でやらされたやつだよ。絶対に!」
でも、これで確定した。鍵になるのは良い思い出ばかりではないという事が。
「もう終わった事は、縄跳びは忘れよう。あっ、そういえば、あのピアノ弾かせてもらえるんだっけ」
身体を起こしルームシューズにしている踵に高さがないぺったんこ靴に足をいれた時、はたと気づいた。
「確か部屋に入るには鍵が必要と言っていたような。執事さんは許可があったから転移出来た。という事は、蝶々さんでも入れないのかなぁ」
なんとなく難しいと感じた。でも、ご飯前のこの微妙な時間が勿体ないな。そこで蝶々さんに聞いてみた。
「私1人でも頑張れば閉めれる場所ってまだあるかな?」
* * *
「あーっ! もうっ! 大人しくして!」
吹き出す水色の液体を力業で思いっきり体重をかけ回した。
「キッツイ~! はぁはぁ」
大の字になり積もる雪の上に転がった。今日二度目の場所は、深々と音のない白く綺麗すぎて現実味がない世界だった。雪は降り続け瞼にも積もっていく。
寒いはずなのに緊張と力を使ったのか身体は暑く変な感じだ。ああ、戻らないと。でも身体が重たくて。ぼーっと、舞い落ちてくる雪を全身で受け止めていた。
そんな時、強い声が響いた。
『ヒイラギ! 起きて! 来る 生き物』
怠くて身体が動かないけど、尋常じゃない蝶々さんの焦りでなんとか立ち上がり周囲を見回そうすれば、ソレはいた。
「痛っ」
なんとか避けたというか、足が埋もれて倒れたんだけど、それで直撃は免れた。
だけど顔を体を庇った腕には違和感の後にとてつもない痛さがきた。
「蝶々さん! どうしよう!」
その雪と同化した色の熊に似た生き物は、諦める気はさらさらないようで、跳躍をつけ跳んでくる。
『帰る場所 思う』
帰る場所? そんなのもうない。六花の、りっちゃんや皆のとこには戻れない。
いつもはゆっくり目をつぶって借りている部屋に移動するのに、下を見ればボタボタと雪に真っ赤な絵の具のような色が散らばり、前には迫り来る動物で頭が真っ白だ。
「蝶々さん! どうしよう! 何も考えられない!」
『貴方は何の為にいきているのか?』
ふいに、何故かあの水色の目と対照的な赤を緋色のマントの人の姿と言われた言葉を思い出した。
同時に体が浮いた。
すぐに感じたのは暖かさ。移動できた? 目をゆっくり開いた。
「ヒイラギ!」
転移したのは見たことない場所で。ただ、目の前に大きな机を前に座る、あの冷たい水色の目を見開いた人がいて。私の名前を鋭く呼んだ。
「えっ? 聖女?!」
「誰だ!?」
ざわめく声を消し去るフランネルさんの底冷えしそうな声が響く。
「その怪我はどうした?」
蝶々さんは既に消えていて。何度も心の中で呼んでもでてこない。
「えっと」
なんか色々不味いかも? ううっ。蝶々さんー! 部屋に戻してから帰ってよ!
凄い形相で迫り来るフランネルさんを見て、それがさっきの熊もどきと重なった。
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