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54.私と六花
しおりを挟む『おかしいなぁ。確かピンクを持っていたはずなんだけど』
鏡の中の六花は、コンパクトをまじまじと見ている。
「りっちゃん、大人っぽい」
小さな空間に映る双子の妹の髪はカラーリングしたのかライトブラウンでロングヘアだ。前髪を作ってないせいもあり、とても大人びていた。
違う。
「やっぱり時間の流れが」
どれくらい六花は私の先をいっているのかな。
『あれ? 名前が違う。掠れて読みづらい。ひ…いら…ぎ』
コンパクトの鏡はとても小さくて六花が少し動かすだけで顔が見えなくなってしまう。
「六花、久しぶり。元気?」
もう苦しくない?
走ったりできるのかな?
夜は眠れてる?
色々聞きたいのに平凡な言葉しかでないよ。
『どうした?』
突然、若い男の人の声がした。
『あ、はる』
『何泣いてんだよ』
コンパクトが揺れて動いたので声の主が移った。
「イケメン…もしや彼氏?」
ちょっと俺様風な男の人だ。
『なんだそれ?』
『荷物が持ちきれなかったからお母さんが送ってくれたんだけど、その中に入っていた子供の頃の玩具だよ。だけど』
また揺れた。
『ひいらぎ…私、名前知ってる』
コンパクトは六花の膝の上に移動したらしい。だって鏡に滴が落ちてくるから。
「六花っ」
こちらの声は聞こえてないのはすぐに気がついた。だけど思わず呼びかけずにはいられない。
『…ひいちゃん』
──ああ。懐かしいな。
「りっちゃん、柊だよ」
『変なの。鏡の向こう側があるみたいに涙とれないよ』
袖で濡れた鏡を拭った六花は泣きながら不思議そうに首を傾げていた。
だって、それは私の涙だ。
『おい、よくわかんないけど珈琲淹れたから休憩すれば?』
『うん』
ああ、蓋を閉めないで。もう少しだけ元気なりっちゃんが見たいよ。
『はる、このコンパクト私のじゃないの。だってピンクの子が好きだったから』
覗きこむようにコンパクトを見ているから六花の顔がよく見えた。とても血色がいい。
『でも、この紫の色も好き。それに書いてある名前を口にすると、なんか涙が嬉しいような悲しいような気持ちになる。変だね』
『変じゃねーよ』
『そうかな』
『ああ。ほら、ここに置くぞ』
『うん。ありがとう』
今度こそコンパクトは閉められた。強い光も消え静けさが戻る。
『ありがとう』
六花が呟いた言葉は、何故かコンパクトに向けられていた。
「お礼を言いたいのはこっちだよ」
元気になってくれてありがとう。
笑ってくれてありがとう。
そして、今、猛烈に。
「フランネルさんに会いたい」
さっき会って話をしていたのに。
「ヒイラギ! 開けるぞ!」
強く扉を叩く音との後に鍵の音がして。
「フランネルさん」
強く抱きしめられた。
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