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13.グラン side
深夜、ドアのノック音が響く。
「どうぞ」
「失礼します」
珍しい。いつも冷静な彼女が荒々しく入室してきた。直ぐに報告をしてもらいたいが、まず所属が違う彼女に礼をいうのが礼儀だ。
「キャルノット副隊長、急に頼んですみませんでした」
「いえ。ヴィセル殿下もこちらに?」
ヴィセルは長椅子に体を投げ出し寛ぎすぎだ。
「まーね。そろそろ戻るけど」
俺は逸る気持ちを押さえキャルに聞いた。
「彼女は、どうでしたか?」
とたんにキャルの表情が歪んだ。聞きたくない。だが把握すべき事だ。
「両手首を強く掴まれた圧迫痕、背中に痣と…」
「続けて」
目を合わせれば、諦めたようだ。
「首につけられた跡がありました」
「グラン、窓が割れる」
ヴィセルに言われ、これでも制御をしているも今にも室内の物を全て粉々にしそうだ。手を握り自分を宥めながら先を促す。
「そもそも書庫なんて寄る予定なかったはずでは?」
急な変更があったのだろうか?
ヴィセルに聞けば。
「ああ。普通なら荷物まとめて帰ってた時間だ」
糞っ。
──ギリッ
ああ。俺の歯がなったのか。
「悪い…ミライの彼女の様子は?」
あの時、顔は見えなかったが抱きかかえた瞬間、彼女は体を大きく震わせ拒否された。今までの恥ずかしがったり、驚いた時とは違う。
完全に怯えていた。
だから男よりも同性のがよいと判断し無理に第2の団長にキャルを借りたのだ。貸しになったがそんな事はどうでもいい。
「思っていた以上に落ち着いていたわ。首の跡は消したけど手首はそのままでいいと」
何故? 思い出したくないだろうに。
「自分が甘かったと。忘れないようにする為にと言っていたわ」
「流石はミライ。で、従兄弟殿どうする? 俺としては、あの馬鹿息子は消したいがトライワルと揉めたくない。だが恐らくミライは、目をつけられただろう」
「…脈あると思うか?」
俺から出た言葉に二人は失笑した。いくら従兄弟や幼馴染みでも酷くないか?
「いや~悪い。我が国の魔術師団長様がまさかの弱さ!」
いや。周囲の令嬢達ならまだわかる。だがミライは、思っている事が顔に出やすい反面、奥深い場所に本心を隠す時があり、ソレがわかりづらい。
「確かに天然だな。しかもかなりの。あ、あと自分が魔術師団長だと言ってないよね。それに王位はなくても王族の血を引いてるなんて言ったら」
「…もういい」
今夜のヴィセルは容赦ないな。
「キャルはどう思う?」
ヴィセルに言われたキャルは、一瞬の間の後。
「少し時間がかかるように思う。ただ話した時、貴方の話ばかりだったわよ」
それって…悪口じゃないよな。
「グラン、真面目に手を打つなら早いほうがいい」
「分かっている」
だけど、彼女に嫌われるような事はしたくない。
「グランもヒトだったんだな。頑張れ~!」
大きなため息をつく俺の背中に口調とは違い重たい一撃をくらわしヴィセルは口笛を吹きながら去っていった。
「私は、夜中不安になるかもしれないし、ミライの所戻るわ」
「すまない」
「グラン、まるでミライの父親ね」
俺は、決してミライのお父上になりたいわけではない。
「渡したくない。誰にも」
元の世界に帰った彼女は、計画が途中だったからと戻ってきてくれた。かなり勇気がいっただろう。俺なら、俺だったら戻らない選択をした。
「明日分を今夜半分仕上げるか」
少し気持ちがまとまった俺は、とりあえずミライに会おう。会って話そうと決めた。
だが…何でこんなに自分はビクついているんだ?
──ああ。
嫌われたくなかった。
距離をとられたくなかった。
「会って話す」
まずはこれしかない。
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