15 / 31
15.脳が限界です
「何が駄目ですか? 歳? 俺に足りないのは何?」
く、苦しいっ!
まわされた腕に力がはいり中から出そう。 私は出番がなく汗でじっとりしていた手でグラン君の背中を若干強めに叩いた。
「すみません」
力はすぐに緩められたけど、まだ腕の中から出られない。
「教えてくれるまで離さない」
私の首あたりに顔をうずめたのか、皮膚は私じゃない髪の毛や息、重さを性格に脳に伝えてくる。免疫がない私は、真っ白になりそうな意識を無理して動かした。
その結果。
「私が、今の状態だと問題なんですよね」
ビンゴ。グラン君の息が微かに乱れた。
「…昨日のせいですか?」
あの書庫で遭遇したイケメンは、この国の人じゃない。服装や香り、そして雰囲気が全く違った。
「それとは関係ありません」
嘘だ。私は少し隙間ができたので両腕を内側にいれグラン君の胸を強く押した。
「何で誤魔化すの? バレバレだよ!」
付き合いが長いとはいえないけど、こんな強引な事をする人じゃないのは分かる。嘘をつかれてキスまでされて。ムカついて彼を睨みつけようと上を向いたら。
小さな魔法で仄かな明るさと土星もどきの光でまた昼間とは違う色の緑の目は──。
「はぁ。そんな顔されたら怒れないじゃないですか」
イケメンの悲しそうな、ちょっと辛そうな顔に勝てる人います?
「ミライ」
「口じゃないけどキスされたのは初めてだった。婚約なんて話、私なんて一生言われない言葉だっただろうし。両方イケメンだったから許す」
本当は許しがたい。だって、一瞬本気にしちゃったから。
馬鹿だ。きっとグラン君は、偉い人で釣り合わない。というか、容姿、頭脳からして私を選ぶような要素はないよね。
それに、キスは好きな人とするもんだよ。なんでそこまで? 婚約だってそう。なんか悲しくなる。だけど、一つだけ確信した。グラン君に嫌われてないと。それだけは救いかも。
「私の為にしてくれたんですよね? それは伝わった」
なんか逆にそこまでさせて申し訳なくなってきた。
私、戻ってこない方がよかったのかも。
「明後日帰りま」
そう、口にしたら。
「離して」
両腕を捕まれた。グラン君の顔は、柔らかい前髪で隠れて見えない。離して欲しくて動けば薄明かりなのに手首の跡がさらされてしまった。
気づいた彼は、私の両腕を少し上に上げて、もれなく私の上体も少し反れグラン君の無駄のない頬と口元が見え、それを見た私は。ああ、イケメンは唇まで形がいいのかと、みとれていたらその口が開き。
「あっ」
手首のその跡を舐められた。赤い舌が右手首を一周し、左手首にまでのびてくる。
「つ、止めて」
私の抗議は全く聞こえていないかのように、無視された。今までにない温かくけどなんともいえない感覚に肌が背筋が震える。
昨日のように力任せに掴まれているわけじゃない。だけど、ほどきたくてもそれは敵わない。
金属の、グラン君の腰にある剣が椅子に当たったのか金属の音がした。
ああ、違う。ここは、私がいていい世界じゃないんだ。
「っ、ミライ?」
自分のほっぺたに流れていく雫。人前でなんて泣きたくない。なのにコントロールが効かない。顎を伝って落ちていく。
口の中に鉄の味がする。唇を噛んでいたのかな。
「すみません! そんな顔をさせるつもりは!」
腕が急に自由になり自分の腕なのにまるで物のようにベンチの上に落ちた。と思ったら柔らかい物につつまれていて。爽やかな柑橘系の香りがした。
「遅れてごめんなさいね」
キャルさんに背後から包むようにされていて。
ほっと息を吐いた瞬間、金具の当たる音と大きな音でビックリしてボヤけた目を擦れば。
倒れたテーブルの前にグランさんが転がっていた。
「アンタが脅えさせてどうする!」
どうやらキャルさんが鞘でグランさんを殴ったようだ。
……なんか、予想つかない展開で。もう私の脳は限界だ。そして、女の人は落ち着くなとキャルさんの柔らかい腕の中でしみじみ思った。
あなたにおすすめの小説
召喚先は、誰も居ない森でした
みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて──
次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず──
その先で、茉白が見たモノは──
最初はシリアス展開が続きます。
❋他視点のお話もあります
❋独自設定有り
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。