ついてない日に異世界へ

蝋梅

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11.震える彼

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「貴方はっ! 我が国の上に立つと先程仰ったのではないのですか?!」
「怒鳴らなくても聞こえますよ」

 実年齢は知らないけれど若い神官長は長い髪を揺らしながら私に詰め寄ろうとしたけど、それをリードが無言で止めた。

 リードは先程から様子がおかしい。まぁ、わからないでもないけどね。古いノートに記された文を思い出した。




*~*~*




「さっきとは対照的ね」

 私と、リードと神官長、砦から来てもらっている内の護衛さん二人を連れ先程の屋上にあった召喚場所とは真逆の、城から繋がっているという神殿の地下に来た。

 石が積まれている壁の隙間から僅かだけど日差しが入り、ソレを照らす。

「こっちも随分古いわね」

 膝をつき湿った石盤を指でなぞれると淡く光った。

「本当に…可能なのか?」

 掠れた声はリードだ。見上げれば彼は微かに体を揺らしている。

 それは動揺? やるせなさ? 悲しみ? 

私には分からない。

 神官長は、リードの部下がガッチリと押さえていてくれているので、とりあえず邪魔はいない。

「王になるのは、貴方よ」

 指差した先は、ゴツいイケメンのリード。

「正統な血、引いてるんでしょう?」

 揺れていた意識が戻ったのか、彼の視線がしっかりと私を捉えた。

「ナツ」
「さっき燃やした本にはね、色々な事が書かれていたわ。あ、これは今後の参考にしてね」

 私は、ルーズリーフを破った紙を床に置いた。

「何だ?」

嫌々ながら太い指が紙を拾った。

「そちらの国の言葉になってるか自信ないけど。環境を悪化させないようにどうしたらよいかの案よ」

私だって少しの優しさはある。

「均衡が崩れているのは、改善させて帰る。今後は自分達でなんとかして。あと、お世話になったから」
「あ?」

 手でおいでと手招きをすれば、彼は不服ながらも近づいてきた。光る石盤の線スレスレの外側にリード、内側は勿論私。

目を瞑り開く。

『リー、好き』

 私から出た声は高く細い声。目の端から私の意思とは関係なく涙が流れた。

「…デイジー?」

 リードは、かつての恋人の声に手を震わせながら私の、デイジーの頬に触れた。

『この世界がずっと怖かった。最後までずっと』
「デイ」

 くしゃりと歪んだ彼の頬に私の右手が触れる。いえ、今、私は私ではない。彼女に貸し出し中だ。だけど触れた柔らかい肌の感覚は伝わってきた。

『でも、リーと会ってから少しずつ楽しくなった』
「なら、何故っ!? なんで飛び降りた!? なぜ身を焼いた?!」

 リードの頬に触れていた私の右手を痛いくらいに彼に掴まれた。だぁっ加減しろ加減! 

『私には、力が足りなかったの。あの時、全てを使わなければ世界は消えちゃっていた』
「なら滅びればいい! ディは帰れたかもしれなかったんだぞ!?」

 痛さにイラついている間にも二人の会話は進んでいく。

『無理よ』
「何故?! 諦めなければあの時!」

 私の体に重なっている彼女の髪の毛が首をふると緩やかに波打つのが視線の端で見えた。それは、隙間から差し込んだ外の光を浴び輝く。

 なんか、草原とかで見たら凄い絵になりそう。

『無理よ。私にはそこまでの力がなかった』
「ならば、力など使わず側にいてくれたら!」

 ギリギリと握られた右手はそのままに、左手も彼の頬に添えられ…唇に乾いた柔らかいものが。

 私の体を使っているデイジーさんが、背伸びをしリードにキスをした。ぎゃー!

『だって、リーが死んで欲しくなかったから』

 離れたはずが、リードが頭に手を回したらしく、強く引き寄せられ、強引なキス。

やめてーっ!
体は私だから!

 レンタルしてるとはいえ、やめい!

『リー、生きてね』
「ディ!」
『さよなら』

淡い金の光が私から出ていった。

「ちょっと! 恋人とお話できて高まる気持ちはわかるけど、ベロチューはないでしょ!」

うー、なんか口の中が生々しい!私の初キスも濃いバージョンも奪われてしまった!

泣いていい?! 

 三十路でも初めてというものに夢があったのよ!

「聞いてんの!?」

 大型犬が項垂れているようにしか見えない、その頭に加減しないチョップを打ち込む。

「いてぇな」

 下を向いていて顔がよく見えない。しょうがないなぁ。

「ねぇ、彼女は元々病気で残りが少なかったみたいよ。あとね、この世界で亡くなったから、転生?生まれ変わりがあるみたいだから」

 いまや完全に床に膝をついている男の頭を撫でてやる。

「どこかで、いつか会えるかもよ」

だから、そんなへこむなよ。

「さて、そろそろ帰る。じゃあね」
「氷姫っ!」
「ナツ?」

 私を呼ぶ声を最後に聞きなが神官長もなかなか良い声してる、というかリード、貴方、最初から私のこと呼び捨てだったわねと思いながら目を閉じた。











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