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35.諦めや決意

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『さようなら』

あの時と同じ。

「清々しいくらいの決断力ですね」

 羨ましいを通り越して憎しみさえ抱く。

「ギュナイル。カナは帰った。しかもレイルロードに道を塞がせた」

完全な拒絶。

「ランクル、貴方には悪いことをしました」
「そう思うなら、やる事は理解できているな?」
「グッ」

 胸ぐらを掴まれ体が浮いた。あぁ、私には貴方みたいな武術に優れた身体もない。今は、日常生活を送れるのかすらも自信がない。

「なにをしているんです?! おぃ!人を呼べ!」
「ゲホッ、わ、私は大丈夫ですから」
「腑抜けになりたいのか?! このままで良いと本気で考えているのか?!」

 この男が、このように感情を表す姿を初めて見た。

「喜怒を出せるのですね」
「誰のせいだと!」
「此方です!」
「あ! ランクル様?! 病室で何をなされているんですか?!」

 ランクルが二人がかりで引きづられるように病室から出されていく中、彼の突き刺すような視線が苦しがった。

「術式を創り出す利き手だけではなく魔力まで人並み以下の私には、もう何もないんですよ」





* * *



「やっばい。泥棒が入ったとしても、ここまで酷くないわよね」

 レイちゃんに家に返してもらってから約二週間後の現在、小さな我が城は畳まれてない洗濯物が籠に山盛り。それだけではなく積み上がる食器と酒の空き缶やお菓子の袋が転がる床。

「ちっさい虫まで飛んでいる」

 人のケアを仕事としてこなしているのに何故か自分の世話が出来ないとはどういう事か。

「あーぁ、あの子達に甘え過ぎていたな」

 帰宅するとお風呂にはお湯がはってあり、テーブルの前に座れば、冷たい麦茶と温かいご飯が出てくる生活が当たり前になってしまっていた。

「彼らが見たら悲鳴をあげちゃうかも」

 ギュナイルとランクルの性格はかなり違うのに丁寧できっちりとした所だけは似ていたからか案外仲良くできていたのかもね。

「それにしても駄目じゃん、私」

しっかりしなきゃ。一人でも今まで大丈夫だったじゃない。

「そういえば、まだ会社に返事をしてなかった」

良い機会だ。

「決めた!」

前に進むしかない。



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