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しおりを挟む「帰るのですか?」
私の少し後ろにいる騎士さんに声をかけられた。彼から話しかけてくるのは、とても珍しいことだった。
「もちろん」
私は迷いなく答えた。
ウソ。
ほんの小石程度の迷いはある。でも、無理だよ。
私はこの世界の人間じゃないから。
事の始まりは約一ヶ月前、夏期講習の帰りにふと真っ直ぐ帰りたくなくて誕生日だっていうのに公園に寄り道した。
珍しく子供が一人もいなかったから、私はブランコに乗った。久しぶりに乗って漕ぐブランコは風を切り本当に飛べそうな気持ちになって。
とても気持ちが良かった。
「疲れたなぁ」
暑いのが苦手なうえに、ラストスパートがかかっている高三の夏。
といっても推薦組はすでに今までの成績が重要で。自分も推薦予定だけど、もうちょい上のあの大学も狙いたい。
私は、昔から優柔不断なので決めるのに時間がかっていた。それは残念ながら現在進行形である。
空はいつの間にか赤さがなくなり徐々に暗くなってきていた。
キイッー
強めに勢いをつければグウンッと上がり空に近くなる。ちょっとやり過ぎたかなと怖くなった時、ちゃんと掴まっていたはずなのに宙に投げ出された。
「えっ」
スローモーションのように地面に落ちていくはずだった。それなのなは私が着地したのは人の腕の中だった。
「ようこそ繋つなぐ人」
異世界から喚ばれた私は、召喚の円の中におさまらず勢いよく飛びだしてきたらしい。
そして端にいた今私の後ろにいる騎士さんにギリギリセーフでキャッチしてもらった。
ちなみに床は硬そうな石畳だった。
『頭打ったらアウトじゃない! ただでさえ詰め込んでるのにやめてよ!』
確かそんなような文句を言ったはず。
状況を全く理解していなかった私は、なんてマヌケな奴。
怒るとこ間違っていたよ。
乱暴なことはされなかったけど、そのまま強制的に別室に、やたら白くて広い部屋に連れていかれ話を聞かされた。
どうやら、この異世界から他の1つの異世界に繋がる道とやらがあるらしい。けれどその道が弱くなった為、その箇所を修理、繋ぎ直して欲しいと。
「この道が崩れると我々はとても困るのです」
胡散臭い笑みを浮かべた宰相と神官長、怖そうな王様、その他お偉い様方に囲まれそう言われた。
「自分達で何とかして下さい」
私はキレた。普段は自分で言うのもなんだけど穏やかなタイプである。
でもね。
受験なんです!
「自分達の世界は自分達でなんとかすべきでは?明日も講習に行かなくてはいけないので」
私にとっては一番重要な事だ。
「今すぐ帰して下さい」
頑として譲らない私にお偉いさん達が文句を言い始めた。そんな時、真っ白のローブを羽織った神官長さんが私に話しかけてきた。
「ならば、貴方が来た時の日付、時刻に戻る事が可能だと言ったらどうします? 繋ぐ事はそれほど難しくなく、貴方の国でいえば毎日1時間ほどの時間をいただければ、あとは自由です」
ピタリと目が合えば神官長は、言いきった。
「期間は一ヶ月」
夢か何かの冗談のようなこの状況。
でも、最後のセリフは今の私にとって、とても魅力的だった。
「やります」
優柔不断な私にしては数分で答えをだした。
──そこから私の異世界生活が始まったのだ。
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