飛ばされた私は

波間柏

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11.押してはいけないスイッチを押した私

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「ハッピッバースディーミオリ様~♪ ハッピバースデーテューユ~♪」

「「おめでとうございます~!」」

 帰宅し、すぐにお風呂に入り厚手の服を何枚も着せられ、このお屋敷で一番広く豪華な部屋のソファーに座らされた私は、大昔、彼らに教えた定番の歌を聞かされていた。

 音程や言葉がややおかしいけれど、だいたいあっている。

 テーブルの上には結婚式? と聞きたくなるくらいの大きなケーキ。ベリーのような艶々とした果実が真っ白なクリームの上にちりばめられていて、とても美味しそう。料理長のモナさんがどうだと言わんばかりな顔。

「ミオリ様。その、私達からです。本当はミオリ様の世界で成人された時に着られるという服を作りたかったのですが、難しくてやむなくドレスになりました。でも、刺繍はミオリ様の世界の花をと。似ていればよいのですが」

今度は、二人に話しかけられた。

 私の世間話に付き合ってくれている、マリナーさんとルィーズさんだ。


 渡された大きな箱の中には、薄いグリーンのドレスがおさまっていた。裾や袖には、綺麗で繊細なレース。

 モジモジと恥ずかしがり屋のルィーズさんが小さな声で話してくれた。

「合間にマリナーと打ち合わせをして内緒にしていたくて。思っていたより仕上げに時間がかかってしまい、それで最近お話をする時間も減ってしまいましたの。きっと気分を悪くされていると思って」

──なんだ。
疎まれていたわけじゃなかったんだ。
もっと、ちゃんと話をすればよかった。安堵と嬉しさが込み上げてくる。

そして、どうしよう。

 皆の嬉しそうな顔をみながら、でも嘘もよくないと思い、私は、口を開いた。

「本当にありがとうございます。最近、自分でちゃんと生活していたと思っていたのにデュイさんに言われて食べてなかったり、ろくに睡眠をとっていなかったみたいで」

自分で気づいていなかったなんて重症だよ。

「沢山ご迷惑をかけてしまい、ごめんなさい。私、此処に飛ばされたのがこの世界で、皆さんに会えてよかったと思っています」
「あっ、なんで謝るんですか?!」
「みずくさいねぇ」
「心配してたよ!本当にいつものミオリ様に戻ってよかった!」

 いままでお礼をちゃんと言葉にしたことがなかった。立って頭を下げた私に皆が口々に声をかけてくれた。

言いづらい。
本当に言いづらい!
だけど。

「えっと、それでですね。私の誕生日…明日なんです…」

「「……え?」」

あっ、やっぱり固まった。フリーズした皆に慌てて時計を指差し。

「あっ! でも、ほらっ、もう少しで明日ですし!」

 固まり私を見ていた皆の視線は、何故か私の背後、斜め後ろに立っていたデュイさんに移動している。

「…ベイが言ったんですよ」
「なんで信用したんですか~?!」
「あの胡散臭い人からの情報なんて、そもそも疑うべきじゃないですか!」

 皆の視線に流石のデュイさんも耐えられなくなったのか。

「…悪かった」

もう駄目。

「ぷっ! デュイさんの不満な悔しそうな顔がレア過ぎる! でもイケメンはどんな顔してもイケメンだ!」

思わず笑ってしまった。
…あれ?

「ど、どうしました?」

 涙まで出てしまい目尻をこすれば、いやに周囲が静かで。見ればルィーズさんが泣いていた。その隣にいるマリナーさんも涙ぐんでいて、料理長さんまで。

「ほ、本当にいつものミオリ様に戻られてよかった…。どんどん痩せられてしまい、どうしようと思って」

「本当だよ。何作っても戻ってくる皿はしまいには全く減ってなかったしね。頭をかかえたよ」

「笑い声を聞いたのは久しぶりですわ」

 私は、本当に迷惑を心配をかけていたみたい。皆の様子を見ているうちにもっと話をしたくなった。

「あの、元の元気な私になるように頑張ります!そして、元気になったら、旅にでてみようと、他のここから遠く離れた国も魔物によって苦しんでいると聞きました。勿論、人の為だけじゃなくて自分の為に他の国々を知るべきじゃないかと」

 ここで、この世界で生きるなら、まず自分で動いてみようと思った。

あと一番言わなくてはいけない事があった。私は向きをかえデュイさんに伝えた。

「デュイさんをずっと縛ってしまって。隊長さんだったのに、私なんかの為に。私、この世界で生きて行くと決めたので。これから自分の事を旅もできるように体調をよくして、生活力も上げていくので」

だから、自由になって下さい。 
そう言おうとしたら。

「…私は用なしと?」

 そこには、いやに黒さを纏ったデュイさんがいた。

「なん…ふぐっ」

 なんで、そんなに怖い顔をしているんですかと言う前に。


浜辺の時みたく、いきなり口を塞がれた。

「キャー! 何をなさっているんですか?!」

「デュイ様?!」

周りのざわめき。

 そして何故か耳元で「バチン」と音がし、ゆっくりと唇が離れていったものの、ガッチリと両腕は掴まれたままである。

「ミオリ様。いえ、ミオリ」

頬を手の甲で撫で上げられ。

「私を本気にさせましたね?」

 人生で初めて笑顔が恐ろしいと、感じた。

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