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24.終わりの始まり
ピーッチチ
「珈琲、此処に置くね」
返事はない。
食べる事すら忘れてしまう叔母の為に先程焼きあげた、つまみやすいように一口サイズに作ったスコーンも側にそっと追加する。
クリームが好きなので今日はアッサリとした豆乳クリームと庭で採れたブルーベリーで作ったジャムも添えた。
「今日は?」
どうやら聞いていなかったわけではないらしい。
背を向けた私に声が投げかけられた。振り返れば机に向かったままの叔母を通り越し窓に目がいってしまう。
その大きな窓からは秋を知らせる赤や黄色の綺麗な葉が見え、風で揺れているのかと思えばリスが小さな顔をだした。尻尾を元気よく動かす姿を眺めながら叔母に話す。
「これから呼ばれて、多分明日のお昼には帰る予定。ご飯は冷蔵庫に用意済みで原稿は明日の夕方5時迄にファックス送らないと」
「ああ。今、調子よいから間に合うと思う」
そう言って五分後にはやる気が失せたと言うから油断ならない。
「なるべく早めに…」
「大丈夫だよ。今回ばかりはちゃんと上げるさ」
私に最後まで言わせたくないのか、被せてきて手で行けと追い払う仕草をする。
表情はみえないけれど鬱陶しい顔をしているのが手に取るようにわかってしまい、思わず笑いそうになるのを堪えた。
「とりあえず信じる。じゃあ、行ってきます」
「向こうの彼に宜しく。またネタが欲しいと伝えておくれ」
「はいはい」
「そういえば、前に話していた向こうでのバイトの話があっただろう? あれの報酬は結局何だったんだい?」
ずいぶん昔の話だなぁ。
でも覚えている。
「食料。こっちと同じ野菜があって、じゃがいもとかキャベツとか。あの時は大分助かったよ」
「夢のない子だねぇ」
「堅実と言って」
あとは適当に返事をし今度こそ部屋を出た。
エプロンを外しなから二階の自室へと足を向ける。
再び異世界、グランスに行ってから一年が経とうとしていた。
「なかなか濃い日々だったなぁ」
階段を上がりながら一人呟く。あれから、私の計画は成功した。
自分の世界に帰った後、結局お兄ちゃん達はおばあちゃんの家に住むことになった。だけど庭はそのままで家だけを建て替えるのだ。
私は、庭をそのまま残してくれると聞き素直に家を出ることを決めた。
ただ、住む場所をこれからどうすればよいのか。
そんな事を考えながら荷物の整理をしていたら、叔母がおばあちゃんに送った手紙を見つけたのだ。しかもその夜、お父さんから電話があり、その叔母が身の回りの世話をしてくれる人を欲しがっているという話がきた。
「これは波に乗れってことだよね」
それから会社に辞表を出し、引き継ぎをして親しい友達と会い、遊び、私は住み慣れた場所を離れた。
そして現在、離島にいるのだ。
東京都だけど、不便を言ったらきりがない。
でも、なるようになった。
この家の家主、物書きを職にしている、無口で自由人の叔母との仲も良好だ。
試しに冗談半分でグランスの話をすれば、アッサリ信じ、ネタを寄越せと言う始末で予想の斜め上を行く叔母をある意味尊敬している。
「この生活も落ち着いてきたから何か仕事を探そうかなぁ」
人口も少ないこの土地で何をするか。叔母のマネージャーもよいけれど。
エプロンを椅子にかけて、カレンダーで叔母のスケジュールを確認しようとした時、遠くから呼ばれた。
『…ユイ』
聞きなれた声は、私の中から。目を閉じ声の元へと意識を飛ばせば。
「おはよう」
そこは、異世界グランス。
そして花畑ではなく執務室の部屋。
「おはよう。ラスティ君」
「…いい加減その呼び方は止めて欲しい」
呼び方が気に入らなくてとたんに綺麗な顔がくしゃりとなった。
まあ、これもいつもの光景。
「うーん。カッコイイ彼氏さん、おはよう!」
「…もう、いいよ」
早々に諦めた顔のラスティ君の顔。
「ユイ様、おはようございます」
ドアのノックの音の後には、ダリアちゃん。なにやら書類を大量に抱えている。
「ユイ様は、明日、陛下にお会いになられるのですよね?」
その言葉に一気に緊張してくる。
「うーん。狭間を勝手に移し、ラスティ君の魔力は普通くらいにさせちゃったり、色々あるから。王様なんて偉い人に会うのは嫌なんだけど」
そんな私の肩に手がふわりと置かれた。
「まだ王位につかれ日は浅いが、陛下とは幼い頃から顔馴染みながら心配ない。なにより狭間を閉じたがっていた内の1人だ」
一年前。私は、予想を遥かに上回るほどの力を集めて使ったらしくその結果、この国の狭間だけでなく他国の国々にあった異空間への道を塞いだらしい。
いいえ。正確には、残ったのは私の中にある扉だけ。
そしてこの事を知るのは極僅かな人のみで。
また、この時期に陛下が病で亡くなり次に継いだ王様は、ラスティ君と幼少時代親しくしていた人らしい。
最近やっと城内も落ち着いたということで明日挨拶に行くのだ。
ああ、考えるとまた緊張してきた。
そんな私の顔を覗きこむようにしてラスティ君は。
「今日は天気がよいから少しだけ湖まで歩きませんか?」
「うん、気分転換に良いかも」
賛成しつつ彼を見上げれば、ラスティ君の服の襟には、私の髪をいれたブローチが。
「それ、もう必要ないんじゃ」
「ああ、癖で。それにまだいつも会えるわけではないので」
ラスティ君がブローチを大切そうに撫でたのを見てなんだか恥ずかしくなる。
「もう、いっそうご結婚されればよろしいのに」
呆れたような声の主はダリアちゃん。だって付き合い始めたばかりだし。
「ユイ、行きましょうか」
「うん」
差し出された手を迷いなくとる。あと少しだけ、このままがいいな。
私は、グランスの冬の青空を見上げながら、今はいない人へ伝えた。
おばあちゃん、今日も私は幸せです。
··✻✻✻END✻✻✻··
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