ピンクの自転車

ららゆり

文字の大きさ
1 / 1

ピンクの自転車

しおりを挟む
東京に桜が咲くころ、勇気は4才になりました。
3月生まれなので、早生まれ。
とてもシャイな男の子です。

ふたつ年上に、元気というお兄ちゃんがいます。
元気のほうは活発で、勇気の何倍もしゃべります。

春の終わりに、南の島からおばあちゃんがやってきました。
ふたりを連れにきたのです。
お父さんとお母さんが病気になり、アパートで療養しなければならなくなったからです。
それで、ふたりはひと夏をおばあちゃんと南の島で過ごすことになりました。

おばあちゃんが住んでいるのは南の小さな島で、おじいちゃんは漁師でした。
でも、20年も前に死んでしまったので、おばあちゃんはレモン農家をやっています。それから、すいかも作っています。

はじめふたりが島に着いた時には、
子どもたちが「バイキン、バイキン、東京のバイキン」とはやしたてました。
誰も、遊んではくれませんでした。
道を通してくれなかったり、いろんな意地悪をされたこともあります。

でも、元気はそういうことは気にしない性格です。
「そんなこと、言うなって」とか言って、どんどん相手の中にはいっていきます。

近所の人が使わなくなった補助輪つきの自転車をくれました。
ふたりは自転車はもっていなかったので、とても喜びました。

元気はすぐに乗れるようになり、補助輪は必要なくなりました。
それを見た近所のおじさんが、補助輪を外してくれました。

元気は「自転車ぼうけん隊」を作り、島中を乗り回しました。
悪ガキたちもひとりふたりとそれに加わり、元気がキャプテンになりました。

でも、身体の小さな勇気は、補助輪がない自転車には乗ることができません。
もともとひとり遊びが好きなので、
葉っぱの上を歩いているかたつむりを観察したり、
ちょうちょを追いかけてり、
浜に行って、カニを取ったりして遊んでいました。
勇気は、このカニ釣りが大好きでした。

島には人さらいなどはいないので、その点は安心なのですが、
海はいつ波がおそってくるかもしれないので、
「ひとりでは行くな。いつもふたりで行け」とやばあちゃんから念を押されています。

でも、勇気には友達ができません。
あまりしゃべることが得意ではいなのです。
友達が遊んでいるのを見ても、遠くから見ているだけです。

勇気がいつもひとりで歩いているところを見て、村の人がお古の小さな自転車をくれました。でも、それは女の子の自転車で、ピンク色でした。

勇気はそれで練習をして、乗れるようになりました。
勇気も「自転車ぼうけん隊」にはいりたいと思いました。
「だめだ」とお兄ちゃんが言いました。
「5歳以上でないと、だめなんだ」

勇気がひとりで乗り回していると、悪ガキたちが「ピンクの自転車、ピンクの自転車」、「オンナだ」、「オンナだ」とさわぎたてました。
勇気はどんなに言われても、ただだまって、自転車をこいでいました。

ある時、神社のお祭りがありました。
いつもよりたくさんの子供が集まっていました。

勇気が自転車にのっていくと、
「ピンクの自転車」、「オンナだ」、「オンナだ」といつもより、騒ぎ立てました。
勇気を真ん中にして、周囲に、子供たちの円ができました。
「オンナ」、「オンナ」とみんなが声を合わせました。

お兄ちゃんが見かねて、
「やめろ」と言って、勇気の腕をひっぱって、外に出ようとしました。
勇気はその手を払って、
真ん中に仁王様のように立ちました。

「ピンクの自転車のどこが悪い」と勇気が言いました。

「ピンクは自分に似合っているから、いいんだ」

いつもはおとなしい勇気がこんなにはっきりと言ったので、子供たちがおどろきました。

それを見ていた大人たちも感心しました。
こういうことは大人が教えても言わないのに、この子供はすごいと感心しました。

それから、子供たちが元気をいじめることはありませんでした。

知恵ちゃんと光枝ちゃんが友達になってくれて、一緒にカニとりにも行くようになりました。

よかったね、勇気くん。
きみががんばったからだよ。
































しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

Maitan
2022.11.29 Maitan

すごいね。勇気くん。勇気があるなあ。

解除
JJ
2022.11.29 JJ

勇気くん、いいね。
元気くんも、おもしろい。

続き、ありですか?

解除
コスモス
2022.11.29 コスモス

すごく好き。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。