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ピンクの自転車
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東京に桜が咲くころ、勇気は4才になりました。
3月生まれなので、早生まれ。
とてもシャイな男の子です。
ふたつ年上に、元気というお兄ちゃんがいます。
元気のほうは活発で、勇気の何倍もしゃべります。
春の終わりに、南の島からおばあちゃんがやってきました。
ふたりを連れにきたのです。
お父さんとお母さんが病気になり、アパートで療養しなければならなくなったからです。
それで、ふたりはひと夏をおばあちゃんと南の島で過ごすことになりました。
おばあちゃんが住んでいるのは南の小さな島で、おじいちゃんは漁師でした。
でも、20年も前に死んでしまったので、おばあちゃんはレモン農家をやっています。それから、すいかも作っています。
はじめふたりが島に着いた時には、
子どもたちが「バイキン、バイキン、東京のバイキン」とはやしたてました。
誰も、遊んではくれませんでした。
道を通してくれなかったり、いろんな意地悪をされたこともあります。
でも、元気はそういうことは気にしない性格です。
「そんなこと、言うなって」とか言って、どんどん相手の中にはいっていきます。
近所の人が使わなくなった補助輪つきの自転車をくれました。
ふたりは自転車はもっていなかったので、とても喜びました。
元気はすぐに乗れるようになり、補助輪は必要なくなりました。
それを見た近所のおじさんが、補助輪を外してくれました。
元気は「自転車ぼうけん隊」を作り、島中を乗り回しました。
悪ガキたちもひとりふたりとそれに加わり、元気がキャプテンになりました。
でも、身体の小さな勇気は、補助輪がない自転車には乗ることができません。
もともとひとり遊びが好きなので、
葉っぱの上を歩いているかたつむりを観察したり、
ちょうちょを追いかけてり、
浜に行って、カニを取ったりして遊んでいました。
勇気は、このカニ釣りが大好きでした。
島には人さらいなどはいないので、その点は安心なのですが、
海はいつ波がおそってくるかもしれないので、
「ひとりでは行くな。いつもふたりで行け」とやばあちゃんから念を押されています。
でも、勇気には友達ができません。
あまりしゃべることが得意ではいなのです。
友達が遊んでいるのを見ても、遠くから見ているだけです。
勇気がいつもひとりで歩いているところを見て、村の人がお古の小さな自転車をくれました。でも、それは女の子の自転車で、ピンク色でした。
勇気はそれで練習をして、乗れるようになりました。
勇気も「自転車ぼうけん隊」にはいりたいと思いました。
「だめだ」とお兄ちゃんが言いました。
「5歳以上でないと、だめなんだ」
勇気がひとりで乗り回していると、悪ガキたちが「ピンクの自転車、ピンクの自転車」、「オンナだ」、「オンナだ」とさわぎたてました。
勇気はどんなに言われても、ただだまって、自転車をこいでいました。
ある時、神社のお祭りがありました。
いつもよりたくさんの子供が集まっていました。
勇気が自転車にのっていくと、
「ピンクの自転車」、「オンナだ」、「オンナだ」といつもより、騒ぎ立てました。
勇気を真ん中にして、周囲に、子供たちの円ができました。
「オンナ」、「オンナ」とみんなが声を合わせました。
お兄ちゃんが見かねて、
「やめろ」と言って、勇気の腕をひっぱって、外に出ようとしました。
勇気はその手を払って、
真ん中に仁王様のように立ちました。
「ピンクの自転車のどこが悪い」と勇気が言いました。
「ピンクは自分に似合っているから、いいんだ」
いつもはおとなしい勇気がこんなにはっきりと言ったので、子供たちがおどろきました。
それを見ていた大人たちも感心しました。
こういうことは大人が教えても言わないのに、この子供はすごいと感心しました。
それから、子供たちが元気をいじめることはありませんでした。
知恵ちゃんと光枝ちゃんが友達になってくれて、一緒にカニとりにも行くようになりました。
よかったね、勇気くん。
きみががんばったからだよ。
3月生まれなので、早生まれ。
とてもシャイな男の子です。
ふたつ年上に、元気というお兄ちゃんがいます。
元気のほうは活発で、勇気の何倍もしゃべります。
春の終わりに、南の島からおばあちゃんがやってきました。
ふたりを連れにきたのです。
お父さんとお母さんが病気になり、アパートで療養しなければならなくなったからです。
それで、ふたりはひと夏をおばあちゃんと南の島で過ごすことになりました。
おばあちゃんが住んでいるのは南の小さな島で、おじいちゃんは漁師でした。
でも、20年も前に死んでしまったので、おばあちゃんはレモン農家をやっています。それから、すいかも作っています。
はじめふたりが島に着いた時には、
子どもたちが「バイキン、バイキン、東京のバイキン」とはやしたてました。
誰も、遊んではくれませんでした。
道を通してくれなかったり、いろんな意地悪をされたこともあります。
でも、元気はそういうことは気にしない性格です。
「そんなこと、言うなって」とか言って、どんどん相手の中にはいっていきます。
近所の人が使わなくなった補助輪つきの自転車をくれました。
ふたりは自転車はもっていなかったので、とても喜びました。
元気はすぐに乗れるようになり、補助輪は必要なくなりました。
それを見た近所のおじさんが、補助輪を外してくれました。
元気は「自転車ぼうけん隊」を作り、島中を乗り回しました。
悪ガキたちもひとりふたりとそれに加わり、元気がキャプテンになりました。
でも、身体の小さな勇気は、補助輪がない自転車には乗ることができません。
もともとひとり遊びが好きなので、
葉っぱの上を歩いているかたつむりを観察したり、
ちょうちょを追いかけてり、
浜に行って、カニを取ったりして遊んでいました。
勇気は、このカニ釣りが大好きでした。
島には人さらいなどはいないので、その点は安心なのですが、
海はいつ波がおそってくるかもしれないので、
「ひとりでは行くな。いつもふたりで行け」とやばあちゃんから念を押されています。
でも、勇気には友達ができません。
あまりしゃべることが得意ではいなのです。
友達が遊んでいるのを見ても、遠くから見ているだけです。
勇気がいつもひとりで歩いているところを見て、村の人がお古の小さな自転車をくれました。でも、それは女の子の自転車で、ピンク色でした。
勇気はそれで練習をして、乗れるようになりました。
勇気も「自転車ぼうけん隊」にはいりたいと思いました。
「だめだ」とお兄ちゃんが言いました。
「5歳以上でないと、だめなんだ」
勇気がひとりで乗り回していると、悪ガキたちが「ピンクの自転車、ピンクの自転車」、「オンナだ」、「オンナだ」とさわぎたてました。
勇気はどんなに言われても、ただだまって、自転車をこいでいました。
ある時、神社のお祭りがありました。
いつもよりたくさんの子供が集まっていました。
勇気が自転車にのっていくと、
「ピンクの自転車」、「オンナだ」、「オンナだ」といつもより、騒ぎ立てました。
勇気を真ん中にして、周囲に、子供たちの円ができました。
「オンナ」、「オンナ」とみんなが声を合わせました。
お兄ちゃんが見かねて、
「やめろ」と言って、勇気の腕をひっぱって、外に出ようとしました。
勇気はその手を払って、
真ん中に仁王様のように立ちました。
「ピンクの自転車のどこが悪い」と勇気が言いました。
「ピンクは自分に似合っているから、いいんだ」
いつもはおとなしい勇気がこんなにはっきりと言ったので、子供たちがおどろきました。
それを見ていた大人たちも感心しました。
こういうことは大人が教えても言わないのに、この子供はすごいと感心しました。
それから、子供たちが元気をいじめることはありませんでした。
知恵ちゃんと光枝ちゃんが友達になってくれて、一緒にカニとりにも行くようになりました。
よかったね、勇気くん。
きみががんばったからだよ。
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すごく好き。