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第7話 パンドラの箱

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「アオイさん、全く心あたりありませんか?
あのイタリア人、ハローに来た時にアオイさんに視線が釘付けだったじゃないですか?」
とパピコが言った

「視線が釘付け⁈そんな憶えはないけど、、今までだってモテた事も一度も無いし、、」
アオイは困惑を隠せない

「アオイさん、自分の事を知らなすぎますよ~
確かに現代の日本人男子の好みから言ったらアオイさんはちょっと違うと思いますが、、ポッチャリ体型だし笑うと目は無くなるしアイドル顔じゃないですからね!!でも外国人から見たらガリガリ痩せているよりも、ちょっとくらいお肉があった方がセクシーだし、、エキゾチックなアジアンビューティーですよ!!お肌も綺麗だし髪も直毛の黒髪だし、アオイさんの天然でのんびりした所も奥ゆかしい大和撫子っぽいし、、」
パピコが言い切った

「そうね~!!アオイちゃん、確かに外国人には人気がありそうーパッチリ二重より日本人の奥二重の目がエキゾチックでたまらなく魅力的だって聞いた事がある!それに元々顔立ちも彫りは浅いのに綺麗だし!!うん!アジアンビューティーって言えてるよ!」
ユキエも、確信した
可愛らしい真多呂人形に似ているのだ

「突然、アジアンビューティーって言われても、、
なんだか、お二人の話を聞いていると褒められている気が全くしないんですけれど、、、私、日本に住んでいるのだし、外国人じゃなくて、どうせなら日本男子の好みでいたいです」
アオイが力なく答えた


女の嫉妬か、、、

古今東西、女の嫉妬は厄介事の種だ


「それから、、、ここのハローデイサービスの管理者なんですが、一昨年くらい前にマリアさんにどうかって打診があったみたいですが、それをマリアさんが断ったらしいんです、、私は管理者の器じゃあないからって、、まぁこのハローは色々と面倒な問題がありますからね、、
それが去年、総合評価でアオイさんが良かったらしくて、今度はアオイさんが管理者の候補にあがったらしいんです
マリアさん、アオイさんが管理者になるなんて面白くなかったみたいで、それでカメオさんに色々と相談に乗って貰っていたらししいです」

「私は支社から、そんな話は聞いてないです」
アオイはポツリと答えた

そうだったのか、、、

「それから、ここの支所って次々に管理者が変わるじゃないですか?私も不思議だったんですよ、、それで新しい管理者が配属されるとマリアさんが、あの人には付いていけないって言うとカメオさんがそうよねって!!」
パピコが一気に続ける

「カメオさんはカメオさんで、元々、極端にエコヒイキが酷い人だから、すっかりマリアさんの言い分を間に受けていますし、マリアさんがこの人はダメ!と言えば、カメオさんからもダメな人の烙印が押されるんですから、、」
やれやれというふうに、パピコが頭を振っている

確かに、ユキエがこの職場に来てからも管理者が次々と変わっていた
早い人だと二週間で辞めていった
今も正式な管理者がいなくて支社から派遣の代理管理者だった

「それに休暇を取るのだって、イタリア旅行に行く為みたいだし、マリアさん前は無類のフランス好きだったはずなのに、、、いつの間にかイタリア好きになっているし、間違いなくあのイタリア人に恋しちゃってますね!」

恐るべしパピコちゃん

厨房からは、そこまでは見えてはいなかったよ

なんだか無性に喉が渇いた

ユキエは冷蔵庫から冷えたビールを取り出して二人にも勧めた
この後は女子会になりユキエも年代を超えて、楽しい時間を過ごした
結局、二人はユキエの自宅に泊まる事にして恋や仕事の話しで大いに盛り上がった

翌日は三人とも仕事は休みだったのだが、アオイは管理者のウスイに連絡を取り、面談を申し込んだ
場所はデイサービスの方ではなく、午後に支社の方に来るようにと指示があった
パピコも支社の近くで買い物があると行って、アオイについて行った、、心配だったのだろう

「アオイちゃんの前途が上手くいきますように!」ユキエは心から祈った



ピンポン、ユキエの自宅の玄関ベルが鳴る
インターフォン越しにアオイとパピコの顔が見えた、2人とも笑顔だ
「早く報告したくて、直接来ちゃいました」

いい感じだ

「どうだったの?」
ユキエはいても立ってもいられずに聞いたのだが

パピコが親指をたててニッコリと笑いながら
「ユキエさん、予定がなかったら、このまま外に出ませんか?焼き肉の食べ放題行きましょう!!
飲み放題もつけて~お祝いですよ!!」


食べ放題と飲み放題でお祝い!?


三人は電車で隣り町にある焼き肉食べ放題の店に行った

焼き肉 ナイト

食べ放題、飲み放題

「乾杯~!!」
冷えたビールが喉に沁みる

「それで、面談の方はどうだったの?」
ユキエは、もう待ちきれなかった

パピコは一通りの話は聞き終わっているようで、焼き肉に夢中だ

火加減に余念が無い

「それが、、、ですね、、」
アオイが話し始めた

「それで私の方ですか、ハローを辞めたいのは経済的に大変だからで、もっとお給料が貰える夜勤のある職場を探していますって正直に答えたら、ハロー系列の24時間体制の夜勤もある介護施設に転勤はどうかって、お給料も夜勤手当てで手取りがかなり多くなるし、待遇も正社員のままでって願ったり叶ったりですよ、、ただここらからは少し遠くなるので、お二人には今までのようには会えなくなるのが寂しいです」


「大丈夫よーいつでも会えるから!それよりも、よかった~本当、よかったねー」
ユキエは心からホッとした

「アオイちゃん、真面目に頑張っていたからね!ちゃんと見ている人は見ているんだよ!24時間の介護施設への転勤の話しだってアオイちゃんが今まで頑張ってたのを会社がちゃんと見ていてくれて評価してるから系列の介護施設を紹介してくれたんだから!!」

「そうですよ~アオイさんが頑張ってたのを、ちゃんと見ててくれたんですよ!よかったですよ!沢山食べて下さい!」
パピコはせっせと焼き上がったお肉をアオイやユキエの皿に乗せている

「それで、アオイちゃんはいつ頃転勤になるの?」

「来週から後任の社員がこちらに入ってくるそうなので、遅くても10月の末迄には次に行く事になります、、、」

「だから、今日はアオイさんの送迎会ですよ~アオイさんもユキエさんも、どんどん食べてください」
焼き肉を皿に乗せながらパピコも少し寂しそうだ

「どうやら、うちの支所の管理者が続かない理由であの二人に対して苦情もあったらしくて、、
マリアさん今度の休暇が終わり次第、別の支所に転勤らしいです~明日にでも辞令が出るそうす」

10月に入ってから、アオイの後任でツクダというフロア職員が来ている
歳は30代後半といったところだ
厨房職員には全く興味が無く名前さえ憶える気もなさそうだった
ツクダに呼ばれる時はいつも「厨房さん」だった
ユキエを入れてパート職員は三人だ
三人がシフトで入れ変わりしているのだ
ユキエや他の厨房職員も名前など憶えて貰わなくても業務上、困りはしないが気分がいいものでもない


パピコやアオイの話では、ツクダはお局看護師のカメオの事が相当怖いらしく、ご機嫌伺いに必死らしい
マリアに、カメオ情報を色々と聴いたのだろうと言っている

パピコやアオイは仕事帰りにユキエの自宅に来てはお茶を飲みながら、ハローでの日常や世間話しをしていく事が多くなった
ユキエも二人の訪問は楽しかった

「そう言えば、ユキエさんってカメオさんとのお付き合いが長いんですよね?本当なんですか?
あんな怖い人と、、まさか、ユキエさんって元手下とかですか?」
アオイが唐突に聞いてきた

「手下って何よー?極道じゃあないんだから、、それを聞くならお友人ですか?じゃないの」
相変わらずのアオイに、突っ込みを入れながらユキエは笑って答えた

パピコも意外そうに、ユキエを見て
「カメオさんって友人とかいるんですか!?
あんなに言いたい放題の怒りっぽい人、誰が相手にするんですか?自分の事は棚に上げて他人の悪口ばっかり言っていますよ」

「カメオさんね~、、今はそんなでもないけど友人だったねー、、前はもっと楽しい人だったんだけどカメオさん、ちょっと変わっちゃったからなぁ、、もともと沸点が低い人だったけど、根は優しい人よ~私も色々お世話になったし一緒に旅行したり良い思い出もあるんだけどね、、年齢も関係しているのかな、、何だか最近はますます沸点が低くなって気難しいからな~」


カメオと友人だった頃の楽しかった思い出はもう遠い過去だ
とっくに心の奥底の箱に押し込んだのだ


あれは、ユキエがハローの厨房職員になって半年が過ぎた頃だったろうか、、
その頃にこのデイサービスに来ていた管理者がみんなの懇親会の為に自宅でのBBQに誘ってくれた

カメオの自宅はマリアの通り道という事もありマリアの車で来ていた
昼間だったし、自家用車組はジュースでの乾杯だった
ユキエも車だったので、アルコールは一滴も飲んではいなかった

カメオはもともとお酒が好きで車の運転もしないので、この日はかなりの酒量だった
お酒の入ったカメオは上機嫌で
「私も昔はやんちゃしたのよ~タバコも吸っていたし、ホストクラブにも通っていたし、パチンコも大好きだったしねー」と若かりし頃の武勇伝を勝手に語り出したのだ

そこに居合わせた職員達が
「ユキエさん、本当なんですか?カメオさんってそうだったんですか?」と聞いてきたのだが

「そんな事もあったような無かったような」
実際にユキエの記憶にはない事も多かった

その頃は職場は一緒でも部署も担当も違う
年齢も離れている
出張先が同じで一緒になる事が多かっただけだ
ユキエはユキエで同年代の友人が居たしプライベートで一緒に遊ぶなんて事はほとんど無かった
お互いに職場を離れた後に、縁あって友人として付き合いだしたという方が正しいし、そちらの方が長いのだ

「ユキエちゃんとは長くてねーもう娘みたいなものよ~」とカメオは周りに話している

ユキエは、この時の何かを考えているようにユキエを見つめていたマリアの視線を忘れてはいない

BBQのあった夜、カメオからお叱りメールが来た
「ユキエちゃん、マリアちゃんから帰りの車の中で色々聞いたわよ!人の過去の事をペラペラと人に話すなんて、あなたって最低ね!!言われたのが自分だったらどう思うの?聞いていたマリアちゃんも気分が悪かったって言っていたわ」という内容だった

ユキエは
(私からはカメオさんの過去なんて言っていません~マリアさんから何を聞いたか知りませんが、カメオさんが自分から話したんですよ)と返信した

カメオは
(自分の反省はないわけ?マリアちゃんが悪いっていうの?そんな性格だから家庭だって上手くいかないってわからないの?貴女のそういうところが最低なのよ!)
と全く聞く耳を持たない

ユキエは、カメオの昔の武勇伝など知っていても職場の懇親会で酒のツマミに話す筈がない

後で面倒事になるのは火を見るより明らかだ

カメオさん、マリアさんに騙されていますよ

(カメオさん、飲み過ぎていたみたいだしマリアさんの言っている事を鵜呑みにし過ぎですよ、、それとマリアさんとのお付き合いはよく考えた方がいいと思います)
ユキエは友人としてメールを返信した

(ユキエちゃん、私にとってマリアちゃんは私の心に寄り添ってくれる有難い人なの、、その人がどういう人かは自分で判断出来ます!いちいち余計な事言わないでちょうだい、言葉は悪いけど、貴女、昔から生意気なのよ)
カメオからの返信だった

どうでもいい事、身に憶えのない事で責められた
しかも今度の事には全く関係のないユキエの家庭の事情まで持ち出しての最低呼ばわりだ
お互いの年齢を超えた長い付き合いの友人ではなかったのか?

カメオは、ユキエよりもマリアを信じた

マリア云々よりも、そちらの方に心底ガッカリしたし、ダメージを受けた

翌日
(昨日は飲み過ぎて、ちょっと人に翻弄されちゃったみたい)とメールが来たのだがユキエに対しての発言には訂正も謝罪も一言もなかった

そうですか、、それは残念でしたね

それどころか、前日にユキエが返したメールが長いと苦情すらきたのだ

そうですか、、こちらも疲れました

カメオのファイルには、ユキエをどんな人物だとファイリングしているのやら、、、
もういちいち弁解するのも面倒くさい

マリアはマリアで
「カメオさん、何か誤解しちゃったのね、ユキエさん気にする事ないわよ~」
と笑って言っていた

カメオとマリア、同じ穴のムジナか、、


今更だがカメオとの友人関係もここまでだな、、、
そう割り切ってからは楽だった

何事も無かったかのようだ

振り返ってみるとユキエもカメオに対して、山に雪が降り積もるように不信感が積もっていた
雪崩が起きるのも時間の問題だったと思う

カメオが一緒だと楽しくないばかりか落ち込むだけだった
ユキエは自分がクシャクシャの紙切れになった気分になるのだ、一度クシャクシャになった紙はまた広げても跡は残ったままだ

人は誰でも失敗もする
ユキエも今まで沢山失敗をしてきた
失敗だらけだと自覚もある

でも、身近な友人からは元気を貰いたいものだ
相手がかなり年上の人生の先輩なら尚更だ
ユキエ自身もそんな友人でありたいと思う


あれからもカメオは何も変わってはいない


10月も半ばになり、ハロウィーンイベントの飾り付けでハローのフロアも賑やかになっている
厨房もハロウィーンメニューやオヤツの準備で大忙しだ
アオイも本格的に転勤の準備に入った
ご利用様にも挨拶をしている
おおらかで優しい対応をしてくれるアオイとのお別れは残念そうだ


「アオイちゃんなら何処へ行っても上手くやっていけるよ大丈夫!」
ユキエは、心からそう思える


窓の外では、ススキの穂が太陽に照らされてキラキラと光っていた








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