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その4『初デート』編
第三話 笑いジワ
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32.
第三話 笑いジワ
「着いたわ、ここよ」
そう言ってあやのさんが連れてきてくれたのは何の変哲もない公園だった。しいていうなら、けっこう広い。下町とは言え都内であるのにこの広さの公園があるのは珍しいかもしれない。
「広いね」
「でしょう? 昔はいっぱい遊具があって遊び飽きることなんてなかったんだ。小さい頃はここに来るのはお父さんの車に乗ってだった。遠方からもここに遊びに来る家族が多くて、そのくらい楽しめる場所だったの。
この公園は私には家族の思い出がたっぷりつまってるんだ」
「そうなんだ。それでその思い出の場所で今日は何をして遊ぶの?」
「もう大人だから遊ばないわよ~。でも、お弁当は食べましょう。あそこの芝生の上にシート敷いて。天気もいいし、木かげになっててちょうどいいでしょ」
そう言って広げたシートは大人はせいぜい3人乗るのが精一杯な小さなシートだった。ここにお弁当を広げるのか?
「ちょっと狭くない?」
「そうね、でもむしろそれがいいかなって」
あ、そういうこと? たしかに大きなシートだったら俺のことだ、絶対距離を開けてる。
そういう積極的な所、本当に助かる。
雰囲気はおしとやかさもあって、でも積極性もある。そのうえ優しくてスタイル抜群の料理上手で美人だと来てる。完璧とはこの人の事を言うのだろう。
「今日、お弁当にしたのは他でもないコレを食べてもらいたかったからよ」
弁当箱を開けるとそこにはいつもの唐揚げがあった。たまご焼きなどもあったがメインは唐揚げ。つまり毎度おなじみのメニューだ。
「これは、いつも食べてるような……」
「今日はこれにこのタレをかけてみて欲しいの!」
「?」
俺は言われるがままにタレをかけた。少し身をひねると彼女の身体に当たってしまった。ドキッとする。
「あ、ごめん」
「全然、気にしないで♡」
シートが狭いから仕方ないということにする。狭いシート、いいな。
「それより、食べてみてよ。早く早く」
「あっ、うん。いただきます」
ザクッ
表面はカリカリに仕上がっていて、しかもこの甘辛ダレが唐揚げに合うこと。
「うんまぁー! あやのさん、これ美味いっすよ。タレが美味いっす」
「でしょ? そうだよねえ? じゃあなんでこの前その美味しい顔してくれなかったの? 私はイヌイ君のその顔が大好きなのに」
「え?」
何のことだ?
「このタレ、回鍋肉のタレなのよ。美味しいはずなのにこの前はなんか妙につらそうな顔して食べてたから。納得いかなくて」
「ホイコーロー……あ! あー、あー、アレね。あの日のことか! ごめん、表情を気にしてたなんて知らなかったから。あれはさ、違うんだよ。あの日はほら、いのりちゃんを初めて見て、その、あやのさんは既婚者だったんだと思って……ショック受けてただけ。味なんか分かんなかったよ、あの時は」
それを聞いてあやのさんは「なんだそんな理由かー」と言ったあと、すごく嬉しそうに笑った。目尻には笑いジワができてたが、そのシワはまるであやのさんがたくさん笑って生きてきた。平和に幸せに。むしろ笑うことでお客さんを、家族を、恋人を幸せにしてきたんだろうなと俺は想像し、そのシワ込みで(ステキだな)と思った。
けど、あやのさんの笑顔をこれからも見ていたいと思うと同時に、犬飼さんのことも同じくらい気になってた。
人生で2人から同時に好意を向けられた経験というものがそもそも無かったので困惑していたのもあるだろう。いや、犬飼さんがどこまで本気かは知らないけど。単なる友達としか見てない可能性はおおいにある。が、俺はもうそんな風には見てなかった。
モテる奴ってすごいな。どうやって複数の中の1人に決めるんだろう。
俺は2人のうちの1人に決めるだけでも大変だなと思ってるというのに。
第三話 笑いジワ
「着いたわ、ここよ」
そう言ってあやのさんが連れてきてくれたのは何の変哲もない公園だった。しいていうなら、けっこう広い。下町とは言え都内であるのにこの広さの公園があるのは珍しいかもしれない。
「広いね」
「でしょう? 昔はいっぱい遊具があって遊び飽きることなんてなかったんだ。小さい頃はここに来るのはお父さんの車に乗ってだった。遠方からもここに遊びに来る家族が多くて、そのくらい楽しめる場所だったの。
この公園は私には家族の思い出がたっぷりつまってるんだ」
「そうなんだ。それでその思い出の場所で今日は何をして遊ぶの?」
「もう大人だから遊ばないわよ~。でも、お弁当は食べましょう。あそこの芝生の上にシート敷いて。天気もいいし、木かげになっててちょうどいいでしょ」
そう言って広げたシートは大人はせいぜい3人乗るのが精一杯な小さなシートだった。ここにお弁当を広げるのか?
「ちょっと狭くない?」
「そうね、でもむしろそれがいいかなって」
あ、そういうこと? たしかに大きなシートだったら俺のことだ、絶対距離を開けてる。
そういう積極的な所、本当に助かる。
雰囲気はおしとやかさもあって、でも積極性もある。そのうえ優しくてスタイル抜群の料理上手で美人だと来てる。完璧とはこの人の事を言うのだろう。
「今日、お弁当にしたのは他でもないコレを食べてもらいたかったからよ」
弁当箱を開けるとそこにはいつもの唐揚げがあった。たまご焼きなどもあったがメインは唐揚げ。つまり毎度おなじみのメニューだ。
「これは、いつも食べてるような……」
「今日はこれにこのタレをかけてみて欲しいの!」
「?」
俺は言われるがままにタレをかけた。少し身をひねると彼女の身体に当たってしまった。ドキッとする。
「あ、ごめん」
「全然、気にしないで♡」
シートが狭いから仕方ないということにする。狭いシート、いいな。
「それより、食べてみてよ。早く早く」
「あっ、うん。いただきます」
ザクッ
表面はカリカリに仕上がっていて、しかもこの甘辛ダレが唐揚げに合うこと。
「うんまぁー! あやのさん、これ美味いっすよ。タレが美味いっす」
「でしょ? そうだよねえ? じゃあなんでこの前その美味しい顔してくれなかったの? 私はイヌイ君のその顔が大好きなのに」
「え?」
何のことだ?
「このタレ、回鍋肉のタレなのよ。美味しいはずなのにこの前はなんか妙につらそうな顔して食べてたから。納得いかなくて」
「ホイコーロー……あ! あー、あー、アレね。あの日のことか! ごめん、表情を気にしてたなんて知らなかったから。あれはさ、違うんだよ。あの日はほら、いのりちゃんを初めて見て、その、あやのさんは既婚者だったんだと思って……ショック受けてただけ。味なんか分かんなかったよ、あの時は」
それを聞いてあやのさんは「なんだそんな理由かー」と言ったあと、すごく嬉しそうに笑った。目尻には笑いジワができてたが、そのシワはまるであやのさんがたくさん笑って生きてきた。平和に幸せに。むしろ笑うことでお客さんを、家族を、恋人を幸せにしてきたんだろうなと俺は想像し、そのシワ込みで(ステキだな)と思った。
けど、あやのさんの笑顔をこれからも見ていたいと思うと同時に、犬飼さんのことも同じくらい気になってた。
人生で2人から同時に好意を向けられた経験というものがそもそも無かったので困惑していたのもあるだろう。いや、犬飼さんがどこまで本気かは知らないけど。単なる友達としか見てない可能性はおおいにある。が、俺はもうそんな風には見てなかった。
モテる奴ってすごいな。どうやって複数の中の1人に決めるんだろう。
俺は2人のうちの1人に決めるだけでも大変だなと思ってるというのに。
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