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第一章「ぶかつ狂騒曲」
第十一話「恥ずかしがり屋の女の子」
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朱色に染まった空が窓から見えている。
下校のチャイムが鳴っても帰れないまま、ぼんやりと窓を見つめていた時、窓辺で何かが動く気配があった。
よくよく目を凝らすと、それは黒いモコモコした大きな塊だった。
「い……芋虫!」
そう。
それは初めてこの部室を訪れた時に遭遇した、巨大な芋虫だった。
大きさはすこし小さな人間ぐらいだろうか。
黒い半光沢の体で、全体的に節のような横線が入っている。
その芋虫はモゾモゾと動き出したかと思うと、ゆっくりと直立した。
よく見ると、下のほうに穴が開いていて、人間の足がはみ出ている。
この時、ようやく目の前の怪物の正体が分かった。
「あの……。寝袋をかぶって、何をしてるんですか?」
確か、寝袋は足から入って、穴の部分から顔を出す構造だったはず。
だけど、目の前に立っている誰かは上下逆に寝袋をかぶっていた。
その寝袋人間は私たちのほうに歩み寄ろうとしているようだけど、当然前が見えていないようで、テーブルにぶつかって転んでしまった。
「……ほたか。手伝って」
すごく可愛い声が寝袋の中から聞こえてきた。
女の子の声だ。
ほたか先輩は慌てたように寝袋人間の元に駆け寄ると、足首近くにあるファスナーの取っ手を引っ張り、寝袋を開いた。
すると、中からは一人の女の子が現れる。
その女の子に、私は見覚えがあった。
おっぱい山の雑誌を持ってた子。
昼休みにあまちゃん先生から逃げているとき、ぶつかった女の子だった。
彼女が持っていたたくさんの本が散らばってしまったけど、偶然に開いてしまったページが異様なパワーを持っていたので、覚えていた。
「ビ、ビックリさせちゃったよね? 千景ちゃんはすごく人見知りだから、ましろちゃんが来た時に隠れちゃったの!」
人見知りだから隠れていたのか……。
そりゃあ、この狭い部室の中で隠れられそうな場所というと、あまりないと思うけど……。
でも、だからと言って寝袋に隠れるのは普通の発想ではない。
テントの中に入ってきたときに寝袋をかぶっていたのも、ひょっとすると初対面の私に顔を合わせるのが恥ずかしかったのだろうか?
ほたか先輩は部室の奥に向かうと、黒い影のような女の子の手を引いてやってきた。
こうしてマジマジと見てみると、背が低くておかっぱ頭なので、かわいいコケシ人形のようにも見える。
何よりも、丸い顔の輪郭と大きな瞳が超絶に可愛かった。
「千景ちゃんは、お姉さんと同じ二年生。お姉さんが部長で、千景ちゃんが副部長なの!」
「…………。こんにちは」
ほたか先輩に紹介されて、千景さんと呼ばれた女の子はおずおずと会釈してくれる。
体が小さいから、てっきり私と同じ一年生だと思っていた。
だけど、意外にも千景さんは二年生だったようだ。
「あの……。せっかく隠れてたのに、なんで出てきたんですか?」
「ほたかが……失礼なことを、してたので」
千景さんはすごく小さな声で、囁くように話す。
どうやら私のピンチを察して、出てきてくれたようだった。
千景さんは私の横にかがむと、胸元に縛り付けられているザイルをほどいてくれる。
「怪我は……ない?」
「大丈夫です。ありがとう……ございます」
ようやく得られた解放感をかみしめて、私は縄の感触を消そうと自分の胸をさする。
私が一息ついていると、千景さんは私を守るように、私とほたか先輩の間に立った。
「……ほたか。嫌がることをしてはダメ」
「でもぉ、千景ちゃん!」
「ダメ」
抑えた口調で、しかし問答無用とでも言いたいように、千景さんはほたか先輩を制止した。
千景さんは、ほたか先輩が言うには「人見知り」ということだった。
でも、ほたか先輩を制止しているところを見ると、芯の強さを感じさせる。
私は味方を得たような気がして、安心して椅子から腰を上げた。
千景さんが守ってくれているうちに逃げるしかない。
「あのぅ。……私、帰ります……」
「ましろちゃん……っ!」
「あぅぅ。ごめんなさい~っ」
ほたか先輩の顔をまともに見れないまま、私は顔を伏せて登山部の部室から飛び出した。
せっかく逃げられたのに、私の心は曇ったままだ。
ほたか先輩があんなに嬉しそうに話していた山の話を、興味がないと切り捨ててしまった。
趣味に生きるオタクが、他の人の趣味をないがしろにしてどうするんだ。
私は自分の流儀を曲げてしまったことが情けなかった。
こんなにモヤモヤした気持ちは辛すぎる。
辛い時には、せめて妄想ノートを眺めて心を癒そう!
そうだよ、私には推しキャラがくれる幸せが残ってる!
この時、私はすっかり忘れていた。
妄想ノートにまつわる事件が解決していなかったことを。
下校のチャイムが鳴っても帰れないまま、ぼんやりと窓を見つめていた時、窓辺で何かが動く気配があった。
よくよく目を凝らすと、それは黒いモコモコした大きな塊だった。
「い……芋虫!」
そう。
それは初めてこの部室を訪れた時に遭遇した、巨大な芋虫だった。
大きさはすこし小さな人間ぐらいだろうか。
黒い半光沢の体で、全体的に節のような横線が入っている。
その芋虫はモゾモゾと動き出したかと思うと、ゆっくりと直立した。
よく見ると、下のほうに穴が開いていて、人間の足がはみ出ている。
この時、ようやく目の前の怪物の正体が分かった。
「あの……。寝袋をかぶって、何をしてるんですか?」
確か、寝袋は足から入って、穴の部分から顔を出す構造だったはず。
だけど、目の前に立っている誰かは上下逆に寝袋をかぶっていた。
その寝袋人間は私たちのほうに歩み寄ろうとしているようだけど、当然前が見えていないようで、テーブルにぶつかって転んでしまった。
「……ほたか。手伝って」
すごく可愛い声が寝袋の中から聞こえてきた。
女の子の声だ。
ほたか先輩は慌てたように寝袋人間の元に駆け寄ると、足首近くにあるファスナーの取っ手を引っ張り、寝袋を開いた。
すると、中からは一人の女の子が現れる。
その女の子に、私は見覚えがあった。
おっぱい山の雑誌を持ってた子。
昼休みにあまちゃん先生から逃げているとき、ぶつかった女の子だった。
彼女が持っていたたくさんの本が散らばってしまったけど、偶然に開いてしまったページが異様なパワーを持っていたので、覚えていた。
「ビ、ビックリさせちゃったよね? 千景ちゃんはすごく人見知りだから、ましろちゃんが来た時に隠れちゃったの!」
人見知りだから隠れていたのか……。
そりゃあ、この狭い部室の中で隠れられそうな場所というと、あまりないと思うけど……。
でも、だからと言って寝袋に隠れるのは普通の発想ではない。
テントの中に入ってきたときに寝袋をかぶっていたのも、ひょっとすると初対面の私に顔を合わせるのが恥ずかしかったのだろうか?
ほたか先輩は部室の奥に向かうと、黒い影のような女の子の手を引いてやってきた。
こうしてマジマジと見てみると、背が低くておかっぱ頭なので、かわいいコケシ人形のようにも見える。
何よりも、丸い顔の輪郭と大きな瞳が超絶に可愛かった。
「千景ちゃんは、お姉さんと同じ二年生。お姉さんが部長で、千景ちゃんが副部長なの!」
「…………。こんにちは」
ほたか先輩に紹介されて、千景さんと呼ばれた女の子はおずおずと会釈してくれる。
体が小さいから、てっきり私と同じ一年生だと思っていた。
だけど、意外にも千景さんは二年生だったようだ。
「あの……。せっかく隠れてたのに、なんで出てきたんですか?」
「ほたかが……失礼なことを、してたので」
千景さんはすごく小さな声で、囁くように話す。
どうやら私のピンチを察して、出てきてくれたようだった。
千景さんは私の横にかがむと、胸元に縛り付けられているザイルをほどいてくれる。
「怪我は……ない?」
「大丈夫です。ありがとう……ございます」
ようやく得られた解放感をかみしめて、私は縄の感触を消そうと自分の胸をさする。
私が一息ついていると、千景さんは私を守るように、私とほたか先輩の間に立った。
「……ほたか。嫌がることをしてはダメ」
「でもぉ、千景ちゃん!」
「ダメ」
抑えた口調で、しかし問答無用とでも言いたいように、千景さんはほたか先輩を制止した。
千景さんは、ほたか先輩が言うには「人見知り」ということだった。
でも、ほたか先輩を制止しているところを見ると、芯の強さを感じさせる。
私は味方を得たような気がして、安心して椅子から腰を上げた。
千景さんが守ってくれているうちに逃げるしかない。
「あのぅ。……私、帰ります……」
「ましろちゃん……っ!」
「あぅぅ。ごめんなさい~っ」
ほたか先輩の顔をまともに見れないまま、私は顔を伏せて登山部の部室から飛び出した。
せっかく逃げられたのに、私の心は曇ったままだ。
ほたか先輩があんなに嬉しそうに話していた山の話を、興味がないと切り捨ててしまった。
趣味に生きるオタクが、他の人の趣味をないがしろにしてどうするんだ。
私は自分の流儀を曲げてしまったことが情けなかった。
こんなにモヤモヤした気持ちは辛すぎる。
辛い時には、せめて妄想ノートを眺めて心を癒そう!
そうだよ、私には推しキャラがくれる幸せが残ってる!
この時、私はすっかり忘れていた。
妄想ノートにまつわる事件が解決していなかったことを。
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