バックパックガールズ ~孤独なオタク少女は学園一の美少女たちの心を癒し、登山部で甘々な百合ハーレムの姫となる~

宮城こはく

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第四章「陽を見あげる向日葵のように」

第一話「憧れのお姉さん」

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 ゴールデンウィークが終わった五月十一日の体育の時間。
 体育館の中は女子たちの熱い声援が渦巻いていた。
 激しい音と共にバスケットボールが弾み、軽やかなジャンプから放たれたシュートはバスケットゴールのど真ん中を次々と射抜いていく。

「きゃぁーーーっ! ほたかせんぱ~い!」
「あ~ん、かっこいい!」

 女子たちの悲鳴にも似た声援が体育館の中を飛び交っている。
 その声援を浴びながら、ほたか先輩は圧倒的な数のシュートを放ち、相手チームをみるみるリードしていった。


 今日の体育は私のクラスとほたか先輩のクラスが同時に体育館を使うことになったので、コートを半分に分けて、別々の授業を行っていた。
 しかし二年生のほうでバスケットボールのミニゲームが始まり、ほたか先輩がコートに出たとたん、一年生の視線は彼女に釘付けになってしまっていた。

「ほたか先輩って、噂以上に凄い人なのだねえ……」

 小桃こももちゃんもすっかり感心したように、ほたか先輩の動きを目で追っている。
 確かにすごい。
 ほたか先輩はしなやかな体さばきでコートの中を駆け巡り、ドリブルしながら相手選手のブロックを見事にかいくぐっていく。
 先輩の長い髪の毛は彼女の後を追い、まるで残像のように見えた。
 ほたか先輩の可愛らしい外見と、それに似合わぬ攻撃的なプレイスタイルに、誰もが目を奪われているようだった。

「確か、ほたか先輩は女子登山部の部長なのだよね? 他の運動部からのお誘いが絶えないみたいだけど、部長だから断ってるって聞いたことがある」
「……そうなんだ。確かに、どの部でもエースになりそうだよね……」

 私も先輩の活躍に感嘆のため息を漏らした。


 ミニゲームのハーフタイムに入ると、ほたか先輩のクラスメイトたちは試合の敵味方関係なく先輩の元に集まっていき、みんな笑顔で話しかけている。
 ほたか先輩はその中心で、はにかみながら笑っている。
 たくさんの友達に祝福されるほたか先輩は、まさに私がそうなりたいと熱望する憧れの存在だった。

 私は昔から友達という存在に飢えていたけど、内向的で人に気軽に話しかけられなかったり、オタク趣味を隠しているせいで、なかなか友達といえる存在に出会えなかった。
 だからほたか先輩に憧れたのだった。
 美人で、明るく、さわやかで、スポーツ万能の人気者。
 自分もこんな風になりたいと思いながら、手の届かない太陽のような存在でもあった。

 だからなのかもしれない。
 千景さんのことは先輩だけど『さん』付けで呼ぶのに、ほたか先輩のことは『先輩』と呼んでしまう。
 無意識にほたか先輩を特別な存在と思っているからかもしれなかった。


「ほたか先輩って、完璧な感じがするねえ……。勉強も出来そうだし、憧れのお姉さまって感じがするのだよ……」

 小桃ちゃんも私と想いは一緒らしく、鼻息荒くしてほたか先輩を見つめている。

 そんな小桃ちゃんの想いに共感しつつも、先輩の素顔を知っている私としては、優越感もあった。
 ほたか先輩はキャンプの準備で慌てふためいたり、ご飯を焦がしたりと、意外に不器用だ。
 そして同時に、登山部の仲間を想って涙するやさしさも私は知っている。
 先輩の素顔を知っているのが登山部の仲間だけかもしれないと思うと、先輩を独り占めできているようで嬉しかった。



「あ、うちの手芸隊長と熱い握手をしている……。珍しいねえ……」
「ん? 小桃ちゃん、どういうこと? 手芸隊長?」

 意味深な言葉に引っかかり、私はほたか先輩に視線を送った。
 先輩は同じ二年生の女の人と、確かに握手している。
 ほたか先輩が何かお礼を言っているようで、しきりに頭を下げていた。

「ほたか先輩と握手している人は家庭部の手芸部門のエースなのだけどね、めったに他人と握手する人じゃないのだよ。……それこそ、手芸の依頼があった時ぐらいなのだけど……」
「へぇ~。じゃあ、ほたか先輩が何か依頼したってことなんだね」
「ほたか先輩が頼むのって、何なのだろうね? アスリートなら、サポーターとかを頼むのかな?」

 小桃ちゃんもほたか先輩に興味があるらしく、嬉しそうに言っている。

「いやいや、さすがにサポーターはお店で買うんじゃないかな? 山が好きだから、オリジナルのザックとか、ウェストポーチなのかも?」

 私もほたか先輩に似合いそうな小物を思い浮かべる。
 どんな依頼をしたのかは部活の時に聞いてみればわかることだけど、そんな風に想像すること自体が楽しかった。


 ▽ ▽ ▽


 今日の部活は大会のペーパーテストを想定した勉強会だった。
 運動するわけではないので、部活の時間だけど制服のままだ。
 四人で部室のテーブルに向かって、黙々とテキストを読み込んでいく。
 二十ページ以上もある『自然観察』の出題範囲とにらめっこしながらなので、授業の延長線のような辛さに、脳がオーバーヒートしかけてしまう。

「あぅぅ……。そろそろ下校の時間でしょうか……?」

 終わりの時間を待ちわびてつぶやいた時、ちょうど下校の時間を知らせるチャイムが響き渡った。

「うん、今日はこれでおしまいにしよっか! みんな、お疲れ様っ」

 ほたか先輩も、体をほぐすように伸びをする。「んん……」という吐息が漏れ、とてもセクシーだった。

 美嶺みれいはいつものようにスカートを脱ぎ、ジャージに着替え始める。
 彼女は学校の裏山を突っ切って帰宅しているので、ジャージのほうが歩きやすいらしい。

「美嶺ちゃんは帰り道が遠いんだっけ? わざわざ着替えるのも大変そうだねっ」
「ああ、大丈夫っす。慣れてるんで」
「裏山を大きく迂回して帰るから、遠いんだよね? 自転車がないなら、お姉さんの自転車を貸そっか?」
「ああ、いいっす! じ、自転車だと通りづらい場所もあるんで」

 そう言って、美嶺は口ごもる。
 学校の裏山を通って登下校しているのは秘密にして欲しいと頼まれていたけど、どうやら先輩たちにも秘密にしているようだ。
 ほたか先輩にはバレていないようなので、美嶺はそそくさと部室を出て行ってしまった。


「ボクも帰る。……これから店番」
「私も帰ります~。頭もへとへとに疲れましたっ! ……って、あれ、ほたか先輩は?」

 部室の中を振り返ると、ほたか先輩はなぜか、再びノートを広げ始めているところだった。

「あ、お姉さんのことは気にしなくていいよ! 大会のことをまとめるの。天城あまぎ先生にも頼んで、少しだけ居残り時間をもらってあるから!」

 そう言って、にこやかに手を振ってくれる。
 大会前となると、部長は忙しいのかもしれない。
 ほたか先輩がどんなお仕事をされているのか分からない部分も多いので、今度お話を聞いてみようと思った。

「あまり無理しないでくださいね……」
「ましろちゃん、ありがとう~。気を付けてね~」

 手を振り続けてくれる先輩に会釈して、私と千景さんは昇降口に向かった。


 ▽ ▽ ▽


 昇降口で靴を履き替えているとき、ふと自分のスカートのポケットにスマホが入っていないことに気が付いた。
 慌ててスクールバッグの中を探ってみるけど、やっぱり入っていない。

「ましろさん……どうしたの?」
「スマホがポケットになくって……。部室に忘れてきちゃったのかな……? ちょっと確認してきますね! 千景さんはお店がありますし、お先にどうぞっ」
「……うん。じゃあ、また明日」

 そう言って、千景ちかげさんは微笑みながら私の手を握りしめてくれた。
 私はついつい、「はぅっ」と小さな吐息が漏れてしまう。

 お別れの時に手を握り合うのが、最近はじめた二人だけのひそかな日課だ。
 キャンプ場で千景さんの手が好きだと伝えたら、握ってくれるようになったのだ。
 私は昇天してしまいそうな意識を必死につなぎ止め、部室に意識を向ける。

「じゃあ、千景さんも……お仕事は無理のないように!」

 私は会釈し、部室に向かって走り出した。



 部室棟まで戻った時、登山部の扉からはまだ光が漏れていた。
 ……まだ、ほたか先輩はいるらしい。
 私は安堵して、部室の扉に手をかける。
 その時、部室の中から話声が聞こえてきた。

「……すごくかっこいい岩だよね~。……腹筋みたい? やっぱりそう思う? あ、これは面白い山だよね。千景ちゃんに教えてもらったんだよ~」

 ほたか先輩が誰かとしゃべってるようだ。
 あまちゃん先生がいるのかなと思ったけど、先生と話している口調でもない。
 先輩は友達も多いし、誰かが遊びに来ているのかもしれない。


 私は邪魔にならないように、静かに扉を開けた。

「……失礼しま~す」

 中の様子を伺うように挨拶したけど、部室の中には先輩以外の誰もいなかった。

「……あれ? 今、会話が……」

 言いかけた時、私は見てはいけないものを見てしまった。
 先輩はテーブルの上に何冊もの山の雑誌を広げている。
 岩山の写真が大きく載っている雑誌の他に、インパクトが強すぎて見覚えのある『おっぱい山特集』のページも開かれていた。

 そして一番の問題は、ほたか先輩の腕の中にあるもの……。
 それは、両手の中におさまりそうな、小さめのぬいぐるみだった。
 ぬいぐるみはデフォルメされているものの、うちの学校の女子の制服そっくりの服をきており、髪型は肩につくぐらいのウェーブがかったミドルヘア。
 ……なんとなく、私に似ていた。

「ち、違うのっ! これは、あの……」

 ほたか先輩が青ざめた表情をするので、私はとっさに視線をそらす。

「……すみません。何も見ていません」

 そして、部室を出ようとした。



 ……出ようとした、はずだった。
 ふと目の前を見ると、そこには新体操のリボンのように円弧を描いて舞うザイル。
 その輪が急速に狭まり、私の胸あたりを縛り上げてしまった。

 ほたか先輩を振り返ると、気まずそうに笑いながら、ザイルを握っている。
 先輩は、また私を縛っていた。

「あぅぅ……っ! ま、またですか? なんで縛ったんですか?」
「ちょ、ちょうどいいザイルがここにあったし、逃げないでほしいなぁって思ったから!」
「だから、ザイルがあったって、人を縛っちゃだめですって!」

 ……ああ、もう。
 なんというデジャヴだろう。
 これでは入部した日の再来のようだ。
 私が逃げようともがいていると、ほたか先輩が異様な迫力をにじませながら迫ってきた。

「ましろちゃん。ゆっくりお話……しよっか」


 ここから始まるお話は、きっと私がほたか先輩との関係を見つめなおすかもしれない物語。
 憧れの先輩と思ったままでいられるのか、私は試されるのかもしれません――。
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