出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第二章 渡る世間は跳梁跋扈

第27話 魔王と悪女の初デート:当日(2)

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 ――午前十二時十五分。

「ちょっと……」
「んあ?」

「何よ、これ?」
「昼飯のユニバーサルスペースコズミックスターダストホットドッグ」

 宙色UJSの入り口から歩いて割とすぐ、そこにある売店で買ってきた。
 ちなみに一つ、200円。

「……やけに色とりどりね」

 受け取ったホットドッグを間近に観察し、ミフユがそんなことを言い出す。
 パンの間に挟まる具材は多種多様、かかってるのもマヨ、ケチャ、ソースの三種。
 だけど使われてる色の数はおまえよりだいぶ少ないよ?

「あ、何か商品説明のカードついてる。え~と『このユニバーサルスペースコズミックスターダストホットドッグは、宇宙に瞬く様々な星や銀河、星雲などをモチーフとしており――』、へぇ、こんな場末の遊園地のメニューのクセにしっかり……」

 ミフユの言葉が、途中で止まる。

「『モチーフとしており、さらに宇宙から飛来する宇宙線や太陽風、ガンマバーストなどもイメージした具材が、お客様のお口にスペースにしてコズミックなインパクトを与えることでしょう』……。ねぇ、これ大丈夫? 本当に食べて大丈夫なの!?」
「大丈夫大丈夫、歩きながら食べれるから、アトラクション行こうぜ」
「ええええええええぇぇぇぇぇぇ~……」

 そう呻くミフユの顔には、ホットドッグに対する猜疑心がありありと表れていた。
 俺は「仕方がねぇな」と呟き、こいつの前でホットドッグをガブッといく。

「ひゃっ」

 ちょっと驚くミフユの声が、面白かった。

「美味いぞ」

 モグモグ咀嚼しつつ言うと、ミフユもしばしホットドッグを見つめ小さくかじる。
 その様子は、いかにもおっかなびっくりといった感じ。しかし、

「……美味しい」

 口に手を当て目をかすかに見開くミフユは、まさにインパクトを与えられた顔だ。

「だろ?」
「ええ、本当に美味しいわ。しょっぱみがベースだけど、色んな味がちょっとずつ乗っかって複雑ながらも舌に心地よい味わいを確立してる。しかもマヨネーズとケチャップとソースがそれぞれ引き立て合って、味に一層の深みを与えてるのがまた印象的ね。しかもこれ、具材をよくよく見ると栄養のバランスもいいじゃない。使われてる具材も随分新鮮で、あと質がいいわ。野菜は瑞々しいし、お肉はしっとりで歯応えもある。何よこれ、この味で、このボリュームで、この食べやすさで、一つ200円? どうなってるの!?」

 いや、いきなり饒舌になってるおまえがどうなってるの?
 え、実はグルメ漫画の解説役だったりするの? 神様の舌持ってます系の?

「……今日の朝食、3000円」

 俺がボソッと呟くと、ミフユが体を震わした。

「…………ち、ち、違うわよ?」
「何が?」

 途端に目で水泳自由形を開始するミフユに、俺は短く問いかける。

「あ、あっちは適正な値段だったわ。おかしいのはこっちよ! このクオリティで一つ200円は絶対おかしいわ。普通に考えれば、5000円は越えるわよ、これ!」
「うるせぇ、セレブ」

 無駄なあがきをするミフユを一刀両断し、俺は園内一周マップの前に立つ。

「ちょっと待ちなさいよ、ジジイ! わたしの話を聞きなさいよ!」
「はいはい、わかったから、どれから行く?」

 適当に聞き流しながら、俺はマップを見上げた。
 そこに描かれているアトラクションはコーヒーカップ、お化け屋敷、ジェットコースター、観覧車、メリーゴーラウンド、――のみ! 実に潔し!

「え、これしかないの!?」
「そう、これしかないの。でも楽しいぞ。ジェットコースターは日本最大級だし」

「嘘ぉ? こんなオンボロ遊園地のジェットコースターが?」
「ほら、ここに書いてあるだろ。昭和五年当時、日本でも最大級って」
「戦前の話を令和にするんじゃないわよ!」

 最大級だった事実は確かだから!

「で、どれから行く?」
「はぁ? あんたが案内してくれるんでしょ? どこから行くのよ?」

「おう、だから、おまえが行きたいトコだ」
「何でそうなるのよッ! あんたがわたしをリードしなきゃ意味ないでしょ!」

「俺よ~、本当に昨日からずっと考えてたんだけどよ~」
「いきなり話を変えないでよ。何だってのよ……」

 露骨にイライラし始めるミフユに、俺は腕を組んで「う~ん」と唸る。

「やっぱ俺、誰かのために何かするって性に合わねぇわ」
「知ってるわよ、そんなこと。そんなあんたがリードすることに価値があるんじゃないの。今回はわたしへの対価の支払いなんだからね? 本当にわかってる?」

「わかってるって。だから、俺は俺がしたいことをすることにしたわ」
「はぁ~? 何それ、どういうことよ!?」

 俺が説明すると、ミフユは一気に顔を険しくして、俺に怒声を響かせてくる。

「あんた、傭兵のクセに契約の条件守らない気? あんたがそんなヤツだと思わ」
「俺はおまえが楽しんでる姿を眺めたい」
「なかっ……、へ?」

 俺が告げると、途端にミフユは勢いをなくして、呆気にとられる。

「は、な、眺めたい? わたしの、楽しんでる姿、を……!?」
「ああ。おまえが楽しんでる姿を眺めのが、俺の楽しみの一つだ。これなら、おまえも楽しめるんだから、条件は満たされるだろ? だから、おまえの行きたいトコを教えてくれ。行き先がどういう場所かは、ちゃんと説明するからよ」

 ニカっと笑いかけると、ミフユの顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。

「こっ、のっ! バカ!」
「痛ェッ!!?」

 な、どうしていきなり蹴ってくるンすか? ちょっと?

「バカバカバカバカバカバカバカ! このカッコつけ! バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ! 人の気も知らないで! バカバカバカバカバカバカバカ! 最初にお化け屋敷から行きたいんだからね! バカバカバカバカバカ、バカァ!」
「うおおおおおおお!? ポカスカやめろ! 時々ドカッバキッを加えるな! あとツボを狙うな、グリッといくな! ちょっと本気で痛いんだがァ――――!?」

 俺の悲鳴が園内一周マップ前でこだましたが、周りには、やはり誰もいなかった。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――午後一時、お化け屋敷。

『ォヴォロロロロロロルゥオォォォォォォルルルルルルゥオォォォォォォ!』
「いにゃああああああああァァァァァァァァァ――――ッ!!?」

 かなり暗い中、突然現れた異形にミフユは悲鳴を迸らせ、俺にしがみついてきた。

『ロロロロロロロロロヴォロロロルルルルルルォォォォォォォォ!』

 異世界の魔物を思わせる吼え声を響かせ、異形は俺達の間を駆け抜けていった。

「……随分凝った造りのぬいぐるみだったなぁ。けどアレ、何のお化けだ?」

 何か、肉をこねくり回したような、頭が触手みたいな、何あれ?

「あ、あ、あれは『月に吼えるもの』よ、ニャルラトホテプよ!」

 俺の胴体にしっかり腕を回して震えているミフユが、そう断言した。

「何それ?」
「ク、クトゥルフ神話に出る邪神で、人も神も嘲り笑う、トリックスターよ……」

 説明しながらも、ミフユはガタガタ震えている。
 そんな怖かったかな、今の肉の練り物。

「ぅぅぅ、な、何なのよこのお化け屋敷……、何でクトゥルフ神話なんかをモチーフにしてるのよ……。演者さんの演技も迫真で、演出も最高に怖いじゃないのよ!」
「褒めちぎりまくりじゃねぇか……」

 あっちこっちに視線をさまよわせるミフユと共に、俺は中を進んでいく。
 そのうち、少しずつだがミフユにも余裕が戻ってくる。

「湿度が高い割に空気は冷たい、空調が空気感の演出に一役買ってるのね……」
「さすがにそういった分析は無粋の極みだと思うぞ~?」
「フン、うるさいわね。たった今、全データの解析を完了したわ。このお化け屋敷は完全に見切った! これから先、わたしが怖がったり驚いたりする確率は0%よ!」

 おまえ、そんなデータ重視系のキャラだったっけ?

『ヴァオルルルルルルルルォォォォォォォォォォォォォンッ!』
「いやぁぁぁぁぁぁぁ! ディンダロスの猟犬ンンンンンンンン――――ッ!!?」

 って、舌の先すら乾かぬうちに……。

『――テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ!』
「みゃああああああああ! ショゴスやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――んッ!?」

『ゴヴォゴオゴヴォゴヴォゴヴォゴヴォヴォルルルルルォォォォォォォォ!』
「はわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ダゴン~! ヌルヌルのダゴン、イヤァァァ!」

『は~い、お化け屋敷『ドリームランド』はここまでですよ~』
「ひきゃああぁぁぁぁぁぁッ、普通のアナウンスゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!?」

 うん、普通のアナウンスだな。怖がる要素、どこ?

「はぁ、はっ! はぁ、はぁ! はぁ! はぁ……! はぁ~……」

 お化け屋敷を無事に通り抜け、でもミフユはご覧の有様だよ。
 俺だってちょっとは緊張してたが、隣がこれじゃ、怖がるに怖がれんかったわ。

「お~い、大丈夫か~? 飲み物でも買ってくるか~?」

 体をくの字に曲げて息を乱すミフユに、俺は横から話しかける。
 異世界で普通にアンデッドとか見てきたクセに、世界が違うとこうなるか。
 なかなかに面白い発見だ。

 しかし、実は怖がりなんだよな~、素のミフユ。
 しょっぱなからお化け屋敷とか大丈夫かなと思ってたら、案の定だよ……。
 まぁ、もう終わったことだし――、ん?

「……ねぇ、アキラ」

 ミフユが、下を向いたまま俺の腕を掴んできている。

「もう一回、行きましょ?」

 こちらに向けられたミフユの顔には、恐怖と興奮が混然一体になっていた。
 おまえ、怖がりのクセにホラー好きだったんかァ――――い!?

 このあと、滅茶苦茶お化け屋敷した。
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