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第三章 宙色銀河商店街懺悔録
第41話 宙色銀河商店街、最後の夜:後
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俺の足元から、黒い火柱が噴き上げる。
「吼えろ、兇貌ァ!」
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』
現れた巨大な漆黒の人影が、裂けた口をいっぱいに空けて咆哮を轟かせる。
「ひぃっ!?」
「な、何だァ、ありゃあ!」
コワモテのヤクザ達が、いきなり現れたマガツラを前に動揺を見せる。
そこにできた隙を使って、俺は賢人に必要なものを投げ渡した。
「ほれ、これを嘗めろ」
「何だこれ、あ、飴……?」
「新人の傭兵に支給するモンでな。とけてなくなるまでの十分間、肉体を強化する」
バフ魔法の飴ってことだが、注意点もある。
「ぶっちゃけ、麻薬の一種だ」
「ま、麻薬ゥ!?」
「中毒性は低し、効き目も薄いから、一回程度なら問題はないけどな」
「ぅ、ぐ、でもさ……」
俺が言っても、賢人は逡巡しているようだった。
仕方ねぇな、俺はこいつが見ている前で、自分も同じ飴を取り出し、口に入れる。
「アキラ!」
「一蓮托生だ、俺の『友人にして恩人』。一緒に行こうぜ?」
「……ッ、後戻りできなくなること、言うな!」
そして、賢人は意を決して飴を口の中に放り込んだ。
歯が、硬い飴の表面をこする音がして、直後に賢人は大きく瞳を見開いた。
「うぉお、すごっ!」
「力が溢れるだろ? でも無茶したら死ぬぞ。強化度合いはそこまで高くねぇから」
武器として使うダガーを賢人に渡して、俺は商店街の奥を睨みつける。
拳銃は弾丸が尽きたので、今回は使えないのだ。
スダレの『誘い蜘蛛の陣』によって、この場にはヤクザ以外には誰もいない。
一般人は、見えない糸によって商店街に近づかないよう誘導してある。
その中には、商店街の人間も含まれている。
別にそっちはどうでもいいんだけど、去年の夏、一度は俺を助けてくれた礼だ。
「さぁ、来るぜ、戦いのは始まりだ。音を鳴らせ、曲を奏でろ!」
収納空間の中から、俺は愛用の品を取り出した。
「な、何だそれ、天使の人形?」
「戦空機奏楽団。俺の自慢の、お抱え楽士さ!」
空中に飛び上がった人形が、いきなり音を奏で始める。
それは、ここ最近お気に入りの、異能バトル系アニメのテーマ曲だ。
好きな音楽を簡単にインプットできるのが、こいつの便利なところである。
「な、何か、何だ? 体が、熱い……?」
「こいつが奏でる音はな、味方陣営に『高揚』のバフを与える。これで準備完了だ」
ヤクザ達が、刃物や木刀を片手に、こっちに向かってくる。
「こんなトコで幼稚な歌流しやがって、ふざけてんじゃねぇぞぉ!」
「手足の一本でも折ったるわ、このガキャア!」
最初に襲ってきたのは、十人ってところか。
三秒もせず接敵と判断し、俺は最後のアドバイスを賢人に送る。
「連中の目的は俺達の捕縛だ。賢人、おまえはその刃に殺意を込めろ!」
「……わかった」
ヤクザ達が、迫ってきた。
「派手に行こうぜ、マガツラ!」
角材で殴りかかってきた角刈りのヤクザに、マガツラが鉄拳を撃ち放つ。
その一撃は角材をブチ折って、そのままヤクザの頭部を粉々に砕け散らせた。
「……は?」
仲間の凄惨な死を目の当たりにして、動きを止める別のヤクザ。
その右膝に、賢人が思い切り前蹴りを食らわせた。
「ぅぎッ!」
ヤクザが短く鳴いて体勢を崩す。
そののど元に、賢人はあっさりとダガーを突き立てる。
「……すごいな、これ」
倒れ伏すヤクザの傍らで、その身に血を浴びながらも、賢人はそんなことを言う。
人を殺したことよりも、強化された今の自分に感動していらっしゃる。
郷塚理恵への仕返しのときに、人を殺す経験をしたおかげか。取り乱してない。
だけど、それが危ないってんだよ、おバカめ。
「賢人、ここは戦場だぞ! 感激してるヒマがあったら、敵を殺せ!」
「わ、わかってるよ!」
俺が叱り飛ばすと、賢人はビクッと身を震わして、すぐにそう返してくる。
「な、何だこいつら!?」
「死んだ、のか? オイ、こいつら、まさか本当に殺したのかよ!」
しかし、攻めてくると思われたヤクザ達は、そんなことを言い出していた。
ありゃあ、こりゃあ何だァ。今の俺達のやり取りなんて、完全に隙だったろうに。
「……あー、そっか。ここが日本だからか」
俺は気づいた。
いかにヤクザとはいえ、ここは令和の日本。戦争なんて縁遠い場所だ。
要するに、鉄火場での経験値が絶対的に不足してる。根性が足りてねぇんだな。
「連中はビビってる。今のうちに、行けるところまで進むぞ!」
「了解!」
マガツラを前に出して、ヤクザの集団にぶつける。
中でもガタイのいいヤクザの足をマガツラが掴んで、勢いよく振り回した。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!?」
「な、永松ゥ――――!」
こいつ永松っていうのか。
じゃあ、必殺技の名前に使わせてもらおうかな。
「やれ、マガツラ! 永松ブーメラ、あ」
振り回すのに力込めすぎて、掴んでる足首から先が千切れちゃった。
「ふんぎゃあああああああああああああああああああああああ! げぶぅ!?」
すっぽ抜けた永松は他のヤクザ数人を巻き込んで、クリーニング店に突っ込んだ。
狙いは外れたけど、結果的には同じようなものなので、よし!
「な、何だこいつ~!?」
と、敵の意識が暴れるマガツラに集中しているところに、脇から賢人。
素早く背後に回って、うなじ部分にダガーをサクッと。
なかなかいい感じだ。
無駄な動きはまだまだ多いけど、力が弱いなりの戦い方をしている。
「武田? おい、武田、いきなり寝るなよ、武田!」
賢人に仕留められた武田とやらを仲間が呼ぶが、もちろん起きることはない。
戦いが始まって、およそ二分。
ロック調のアニソンが流れる中、俺達は一方的にヤクザを圧倒していた。
「何やってやがる、てめぇら!」
そこに、奥にいる郷塚健司が怒声を響かせる。
「チャカ使え、チャカ! この際、殺しちまっても構わねぇ!」
「来るか。賢人、おまえは後ろに退がれ」
俺が言うと、賢人は意外そうな顔でこっちを見つめてきた。
「お、俺はやれるぜ?」
「そう思ってるときが一番怖いのさ。ここから先は、本当の戦場になる」
健司の指示に、ヤクザ達が各々隠し持っていた拳銃を取り出す。
人間ってのはどこまでも希望に弱い生き物だ。
マガツラと賢人に二十人近くも殺されながら、拳銃を持った途端に余裕が蘇る。
半ば追い詰められた鼠になっていることもある。
これから連中は、拳銃という最大火力で状況の逆転を狙ってくるはずだ。
この環境は、さすがに『出戻り』しきっていない賢人には、まだ早い。
「俺の役割はおまえを健司の前に連れていくことだ」
「でも……」
「言うこと聞いとけ。その代わり、健司には手を出さねぇよ」
個人的に、郷塚健司には何の恨みもないからな。
郷塚家への仕返しを終えた今、俺は純粋に傭兵としてこの場に立っている。
この戦いは、賢人の戦いだ。
賢人に雇われた身として、俺はこいつを健司の前まで連れていく。それが仕事だ。
「おまえのクラマックスは、まだここじゃねぇ。そうだろ、賢人」
「ああ、そうだ。そうだったよ! この手で、クソ親父を泣かしてやる!」
叫んで、賢人はマガツラの後方へと退がっていく。
ふと見れば、ヤクザ達は銃を手に、汗に濡れた顔にいびつな笑みを浮かべている。
「撃て、撃てェ! あのガキ共、ハチの巣にしちまえ!」
「盾になれ、マガツラ」
俺は、マガツラを前に立たせた。
そして始まる、銃撃の嵐。前方にチカチカと火花が瞬いて、十重二十重の銃声。
「無駄な労力、お疲れさん」
俺と賢人を殺すのなら、その火力で十分だ。
だが、マガツラを貫くには到底足りやしない。全然、少しも、微塵も効かない。
「な、し、死んでねぇのか!?」
「そんなはずはねぇ。撃て、もっと撃つんだよ!」
ここからは、相手が弾切れになるまで待つだけの簡単なお仕事。
それも大体五分くらいで終わって、火薬臭さが俺のところにまで届いてくる。
「たかが火薬で加速しただけの鉛玉じゃ、こいつは仕留められねぇよ」
幾度もトリガーを引き続けるヤクザ達の前に、俺はヒョコッと身を晒す。
おうおう、さっきより全然追い詰められた顔になっちゃって。
カチッカチッ、と乞い縋るようにトリガーを幾度も引き続けるも、弾丸は出ない。
頼みの綱だった拳銃が通じなかったのが、よっぽどショックだったっぽい。
「それじゃあそろそろ、反撃行かせてもらうぜ」
近くに小絵のブティックが見えたので、あれを使うことにする。
マガツラがそこまで歩いて、広げた両腕でブティックの壁をガシッと掴んだ。
「お、おい、アキラ? 何するつもりだ?」
「ん~? ああ。大したことはしねぇさ。ちょっとした――」
ミシミシ、バキバキと壊れる音と共に地面が揺れて、ブティックが傾き始める。
「投石機代わりの質量兵器さ」
マガツラが、その太い両腕でブティックを引っこ抜き、持ち上げていた。
「「「うわァァァァあああああああああああああああああああああああ!!?」」」
ヤクザ達が揃って悲鳴を響かせて逃げ出そうとするが、もう遅い。
マガツラが投げつけた建物が、その大質量で上から連中を押し潰し、圧殺する。
「オラオラ、もう二つ三つ、行くぞォ!」
俺はさらに、マガツラに他の店舗も持ち上げさせ、質量兵器に使っていく。
地響き、轟音、上がる土煙。悲鳴と、肉が潰れる濡れた音。
「ああ! ぁ、あ! あああああああああ!」
生き残ったヤクザも、恐慌状態に陥って一目散に逃げ出そうとする。
しかし、ここは隔離された『異階』。
出ようとしてもループして、再び商店街に戻ってきてしまう。手詰まりだ。
「さぁ、残党狩りと行こうか」
積み上がった瓦礫の山の上から、俺は戦意を喪失したヤクザを見下ろす。
今の商店街投げによって、連中の士気はいよいよ総崩れだ。
「ひぃ、こ、こんなの勝てるか! 勝てるかよぉ~!」
「助けてくれ、助けてくれ、お、お願いだ、助けてくれェェェェ~!」
絶望を叫ぶ者。無様に命乞いする者。
その姿は様々だが、しかし一切関係なく、マガツラが全員を殺していく。
「ひぎゃあああああァァァァァァァ!」
「やだ、死にたくない、死にた、ァ、あああああああああああ!?」
こいつらは俺と敵対した。
だから死ぬ。それが俺のいる戦場なのだと、生ぬるいこいつらに叩き込んでいく。
次々に上がる断末魔の声。末期の叫び。そして、ゴール。
「俺の仕事はここまでだ」
最後のヤクザの首を握り潰し、マガツラが虚空へと消えていく。
俺の目の前には、血の気の失せた顔で棒立ちになっている、郷塚健司がいる。
「う、ぅあ、てめぇ、ら……!」
「来たぜ、親父」
賢人がそう言って、前に出てくる。
BGMは、ちょうど後期オープニングのサビに入るところだった。
「吼えろ、兇貌ァ!」
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』
現れた巨大な漆黒の人影が、裂けた口をいっぱいに空けて咆哮を轟かせる。
「ひぃっ!?」
「な、何だァ、ありゃあ!」
コワモテのヤクザ達が、いきなり現れたマガツラを前に動揺を見せる。
そこにできた隙を使って、俺は賢人に必要なものを投げ渡した。
「ほれ、これを嘗めろ」
「何だこれ、あ、飴……?」
「新人の傭兵に支給するモンでな。とけてなくなるまでの十分間、肉体を強化する」
バフ魔法の飴ってことだが、注意点もある。
「ぶっちゃけ、麻薬の一種だ」
「ま、麻薬ゥ!?」
「中毒性は低し、効き目も薄いから、一回程度なら問題はないけどな」
「ぅ、ぐ、でもさ……」
俺が言っても、賢人は逡巡しているようだった。
仕方ねぇな、俺はこいつが見ている前で、自分も同じ飴を取り出し、口に入れる。
「アキラ!」
「一蓮托生だ、俺の『友人にして恩人』。一緒に行こうぜ?」
「……ッ、後戻りできなくなること、言うな!」
そして、賢人は意を決して飴を口の中に放り込んだ。
歯が、硬い飴の表面をこする音がして、直後に賢人は大きく瞳を見開いた。
「うぉお、すごっ!」
「力が溢れるだろ? でも無茶したら死ぬぞ。強化度合いはそこまで高くねぇから」
武器として使うダガーを賢人に渡して、俺は商店街の奥を睨みつける。
拳銃は弾丸が尽きたので、今回は使えないのだ。
スダレの『誘い蜘蛛の陣』によって、この場にはヤクザ以外には誰もいない。
一般人は、見えない糸によって商店街に近づかないよう誘導してある。
その中には、商店街の人間も含まれている。
別にそっちはどうでもいいんだけど、去年の夏、一度は俺を助けてくれた礼だ。
「さぁ、来るぜ、戦いのは始まりだ。音を鳴らせ、曲を奏でろ!」
収納空間の中から、俺は愛用の品を取り出した。
「な、何だそれ、天使の人形?」
「戦空機奏楽団。俺の自慢の、お抱え楽士さ!」
空中に飛び上がった人形が、いきなり音を奏で始める。
それは、ここ最近お気に入りの、異能バトル系アニメのテーマ曲だ。
好きな音楽を簡単にインプットできるのが、こいつの便利なところである。
「な、何か、何だ? 体が、熱い……?」
「こいつが奏でる音はな、味方陣営に『高揚』のバフを与える。これで準備完了だ」
ヤクザ達が、刃物や木刀を片手に、こっちに向かってくる。
「こんなトコで幼稚な歌流しやがって、ふざけてんじゃねぇぞぉ!」
「手足の一本でも折ったるわ、このガキャア!」
最初に襲ってきたのは、十人ってところか。
三秒もせず接敵と判断し、俺は最後のアドバイスを賢人に送る。
「連中の目的は俺達の捕縛だ。賢人、おまえはその刃に殺意を込めろ!」
「……わかった」
ヤクザ達が、迫ってきた。
「派手に行こうぜ、マガツラ!」
角材で殴りかかってきた角刈りのヤクザに、マガツラが鉄拳を撃ち放つ。
その一撃は角材をブチ折って、そのままヤクザの頭部を粉々に砕け散らせた。
「……は?」
仲間の凄惨な死を目の当たりにして、動きを止める別のヤクザ。
その右膝に、賢人が思い切り前蹴りを食らわせた。
「ぅぎッ!」
ヤクザが短く鳴いて体勢を崩す。
そののど元に、賢人はあっさりとダガーを突き立てる。
「……すごいな、これ」
倒れ伏すヤクザの傍らで、その身に血を浴びながらも、賢人はそんなことを言う。
人を殺したことよりも、強化された今の自分に感動していらっしゃる。
郷塚理恵への仕返しのときに、人を殺す経験をしたおかげか。取り乱してない。
だけど、それが危ないってんだよ、おバカめ。
「賢人、ここは戦場だぞ! 感激してるヒマがあったら、敵を殺せ!」
「わ、わかってるよ!」
俺が叱り飛ばすと、賢人はビクッと身を震わして、すぐにそう返してくる。
「な、何だこいつら!?」
「死んだ、のか? オイ、こいつら、まさか本当に殺したのかよ!」
しかし、攻めてくると思われたヤクザ達は、そんなことを言い出していた。
ありゃあ、こりゃあ何だァ。今の俺達のやり取りなんて、完全に隙だったろうに。
「……あー、そっか。ここが日本だからか」
俺は気づいた。
いかにヤクザとはいえ、ここは令和の日本。戦争なんて縁遠い場所だ。
要するに、鉄火場での経験値が絶対的に不足してる。根性が足りてねぇんだな。
「連中はビビってる。今のうちに、行けるところまで進むぞ!」
「了解!」
マガツラを前に出して、ヤクザの集団にぶつける。
中でもガタイのいいヤクザの足をマガツラが掴んで、勢いよく振り回した。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!?」
「な、永松ゥ――――!」
こいつ永松っていうのか。
じゃあ、必殺技の名前に使わせてもらおうかな。
「やれ、マガツラ! 永松ブーメラ、あ」
振り回すのに力込めすぎて、掴んでる足首から先が千切れちゃった。
「ふんぎゃあああああああああああああああああああああああ! げぶぅ!?」
すっぽ抜けた永松は他のヤクザ数人を巻き込んで、クリーニング店に突っ込んだ。
狙いは外れたけど、結果的には同じようなものなので、よし!
「な、何だこいつ~!?」
と、敵の意識が暴れるマガツラに集中しているところに、脇から賢人。
素早く背後に回って、うなじ部分にダガーをサクッと。
なかなかいい感じだ。
無駄な動きはまだまだ多いけど、力が弱いなりの戦い方をしている。
「武田? おい、武田、いきなり寝るなよ、武田!」
賢人に仕留められた武田とやらを仲間が呼ぶが、もちろん起きることはない。
戦いが始まって、およそ二分。
ロック調のアニソンが流れる中、俺達は一方的にヤクザを圧倒していた。
「何やってやがる、てめぇら!」
そこに、奥にいる郷塚健司が怒声を響かせる。
「チャカ使え、チャカ! この際、殺しちまっても構わねぇ!」
「来るか。賢人、おまえは後ろに退がれ」
俺が言うと、賢人は意外そうな顔でこっちを見つめてきた。
「お、俺はやれるぜ?」
「そう思ってるときが一番怖いのさ。ここから先は、本当の戦場になる」
健司の指示に、ヤクザ達が各々隠し持っていた拳銃を取り出す。
人間ってのはどこまでも希望に弱い生き物だ。
マガツラと賢人に二十人近くも殺されながら、拳銃を持った途端に余裕が蘇る。
半ば追い詰められた鼠になっていることもある。
これから連中は、拳銃という最大火力で状況の逆転を狙ってくるはずだ。
この環境は、さすがに『出戻り』しきっていない賢人には、まだ早い。
「俺の役割はおまえを健司の前に連れていくことだ」
「でも……」
「言うこと聞いとけ。その代わり、健司には手を出さねぇよ」
個人的に、郷塚健司には何の恨みもないからな。
郷塚家への仕返しを終えた今、俺は純粋に傭兵としてこの場に立っている。
この戦いは、賢人の戦いだ。
賢人に雇われた身として、俺はこいつを健司の前まで連れていく。それが仕事だ。
「おまえのクラマックスは、まだここじゃねぇ。そうだろ、賢人」
「ああ、そうだ。そうだったよ! この手で、クソ親父を泣かしてやる!」
叫んで、賢人はマガツラの後方へと退がっていく。
ふと見れば、ヤクザ達は銃を手に、汗に濡れた顔にいびつな笑みを浮かべている。
「撃て、撃てェ! あのガキ共、ハチの巣にしちまえ!」
「盾になれ、マガツラ」
俺は、マガツラを前に立たせた。
そして始まる、銃撃の嵐。前方にチカチカと火花が瞬いて、十重二十重の銃声。
「無駄な労力、お疲れさん」
俺と賢人を殺すのなら、その火力で十分だ。
だが、マガツラを貫くには到底足りやしない。全然、少しも、微塵も効かない。
「な、し、死んでねぇのか!?」
「そんなはずはねぇ。撃て、もっと撃つんだよ!」
ここからは、相手が弾切れになるまで待つだけの簡単なお仕事。
それも大体五分くらいで終わって、火薬臭さが俺のところにまで届いてくる。
「たかが火薬で加速しただけの鉛玉じゃ、こいつは仕留められねぇよ」
幾度もトリガーを引き続けるヤクザ達の前に、俺はヒョコッと身を晒す。
おうおう、さっきより全然追い詰められた顔になっちゃって。
カチッカチッ、と乞い縋るようにトリガーを幾度も引き続けるも、弾丸は出ない。
頼みの綱だった拳銃が通じなかったのが、よっぽどショックだったっぽい。
「それじゃあそろそろ、反撃行かせてもらうぜ」
近くに小絵のブティックが見えたので、あれを使うことにする。
マガツラがそこまで歩いて、広げた両腕でブティックの壁をガシッと掴んだ。
「お、おい、アキラ? 何するつもりだ?」
「ん~? ああ。大したことはしねぇさ。ちょっとした――」
ミシミシ、バキバキと壊れる音と共に地面が揺れて、ブティックが傾き始める。
「投石機代わりの質量兵器さ」
マガツラが、その太い両腕でブティックを引っこ抜き、持ち上げていた。
「「「うわァァァァあああああああああああああああああああああああ!!?」」」
ヤクザ達が揃って悲鳴を響かせて逃げ出そうとするが、もう遅い。
マガツラが投げつけた建物が、その大質量で上から連中を押し潰し、圧殺する。
「オラオラ、もう二つ三つ、行くぞォ!」
俺はさらに、マガツラに他の店舗も持ち上げさせ、質量兵器に使っていく。
地響き、轟音、上がる土煙。悲鳴と、肉が潰れる濡れた音。
「ああ! ぁ、あ! あああああああああ!」
生き残ったヤクザも、恐慌状態に陥って一目散に逃げ出そうとする。
しかし、ここは隔離された『異階』。
出ようとしてもループして、再び商店街に戻ってきてしまう。手詰まりだ。
「さぁ、残党狩りと行こうか」
積み上がった瓦礫の山の上から、俺は戦意を喪失したヤクザを見下ろす。
今の商店街投げによって、連中の士気はいよいよ総崩れだ。
「ひぃ、こ、こんなの勝てるか! 勝てるかよぉ~!」
「助けてくれ、助けてくれ、お、お願いだ、助けてくれェェェェ~!」
絶望を叫ぶ者。無様に命乞いする者。
その姿は様々だが、しかし一切関係なく、マガツラが全員を殺していく。
「ひぎゃあああああァァァァァァァ!」
「やだ、死にたくない、死にた、ァ、あああああああああああ!?」
こいつらは俺と敵対した。
だから死ぬ。それが俺のいる戦場なのだと、生ぬるいこいつらに叩き込んでいく。
次々に上がる断末魔の声。末期の叫び。そして、ゴール。
「俺の仕事はここまでだ」
最後のヤクザの首を握り潰し、マガツラが虚空へと消えていく。
俺の目の前には、血の気の失せた顔で棒立ちになっている、郷塚健司がいる。
「う、ぅあ、てめぇ、ら……!」
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