出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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幕間 魔王の願望と悪女の夢想

第48話 三六四日目のうたた寝

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 シンラが俺に問う。

「……母上では、なかったのですか?」
「いや、ミフユだったよ」

 水晶の塔の最上階で俺を迎えたのは、確かにミフユだった。
 だが、それは俺が街で見た女とは別人だったのだ。

「最初っから見抜かれてたとか、ホンット腹は立つわ、笑えないわで。あ~ぁ」
「おママ、見抜かれてたって、なぁ~に~?」

 すっかり拗ねておられるミフユに、スダレがダイレクトアタック。
 ミフユがますます唇を尖らせて端的に答える。

「客に合わせて心を入れ替えてたのよ、わたし」
「演技してたとか~?」
「そういうレベルじゃなく、本当に人格を取り換えてたのさ、娼婦のミフユはな」

 多重人格、というわけではなく、心の形を意識的に組み替える高等技術だ。
 極めに極めた観察力によって客の人物像を見極め、それに合わせ心の形を変える。

 どこまでも柔軟なその心によって、当時のミフユはあらゆる女になれた。
 従順な奴隷から高慢な女王、楚々とした聖女や可憐な少女、どんな女にもなれた。

 そのいずれもが、ミフユ。
 そのいずれもが、こいつの本心。
 強烈な自己暗示と極まった順応性による、人外めいた対人適応能力だ。

「それって今もできるの~?」
「ダメ」

 スダレが興味津々な様子だったが俺が速攻でぶった切った。

「ミフユは今のミフユのままでいい。それ以外のミフユはいらん。見たくもない」
「――ってワケ。こいつがこんなだから見せられないわ。ごめんね?」
「ぶぅ~! おパパのケチ~!」

 苦笑するミフユに、スダレがブーたれるが、知らん知らん。知らん!

「やはり母上は、父上に愛されてておられるのですな」
「そこであたたかいまなざしはやめなさいよ、シンラッ! ジジイ、続き早く!」
「へいへい。そっから~」

 ミフユに促され、俺は当時の記憶をほじくり返す。
 そう、最初に出会ったミフユは、思い描いていた人物像とは全くの別人だった。
 だから俺は――、


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――だから俺は、ミフユをジロジロと観察して回ったのだ。

「え~……、ぇ? え~? ……えぇぇぇぇぇぇぇ~?」

 それはもう、あらゆる角度、あらゆる距離から、俺はミフユを観察した。

「あの、旦那様……?」

 俺の様子を窺うミフユは、決して笑みは絶やさず、姿勢も崩さなかった。
 纏う衣装は、東の国の様式に合わせた、こっちでいう和服に近いもの。
 俺の異世界の生まれが東の国だったから、それに合わせた服装にしたんだろうな。

「う~ん……」

 ひとしきり観察を終えて、俺は腕を組んで唸った。
 顔は同じだ。顔は間違いなく同じ。街で見た、あの水晶の塔の女だ。

 でも、印象が全然違う。
 どう違うのかと問われると、ちょっと言語化はできそうにない。

 あくまでも俺の主観によるものでしかないからだ。
 なので、率直に聞くことにした。

「君、本当にミフユさん?」
「はい、わたくしがミフユめにございます。今を時めく勇士であられるアキラ・バーンズ様にお目通り叶いまして、光栄の至りにございます」

 言って、またス、と頭を下げるミフユ。
 わー、すっげぇ違和感。もう違和感しかないくらい、違和感&違和感!

 君、絶対そんなキャラじゃないでしょ。って言葉がのど元まで込み上げたよ。
 さすがに初対面でそれは失礼なのは俺でもわかるのでやめたけど。
 代わりにこんなこと言った。

「あ、素でいいですよ……?」

 うん、このときの俺は気後れしてたね、確実に。
 着飾ったミフユは目も覚めるような美人で、そんな人が遜ってるってのがね……。

「素でいいから、素で。マジでお願いします」
「素、でございますか?」

 ってなたときの、少し困った感じのミフユも、まぁ~、美人でさ。
 外見だけなら超絶どストライク。もう、これ以上は絶対ないって確信できるね。

 痛ッ、痛い!
 何でいきなり叩くんだよ!?

 あ~、まぁでも、結局その日は何もしないで終わったんだよな。
 見た目がよくてもさ、やっぱ違うんだ。目の前のミフユは、違ったんだよ。

「アキラ様、わたくし、何か粗相をしてしまいましたか?」
「いえ、そうじゃなくて、何つ―か、しっくりこないだけなんで……」
「そうなのですね。どうぞ、お笑いくださいませ」

 みたいなやり取りして、飯食って、酒飲んで、風呂で背中流してもらって――、

「アキラ様、閨の準備はできておりますよ」
「いや、疲れたんで寝るっすわ」
「え」

 あ、このときの「え」って言ったミフユはちょっとだけ素に近かったかも!
 まぁ、結局は何もしないで本当にそのまま寝たんだけどな。初日。
 これが、俺とミフユの初対面だったってワケよ。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 俺は初日について語り終えたところで、すかさずミフユがツッコミを入れてくる。

「あんた、初日だけじゃなくて結局丸一年何もしなかったでしょー!」
「おまえが丸一年、一回も素を見せなかったからだろーがよー!」

 と、俺も反論する。
 これだけは、言い返せずにはいられない。

「俺は! 素のおまえが! 好きなの! 素じゃないおまえは、いらないの!」

 分厚い絨毯をバフバフ叩きながら、俺は激しく主張する。
 だが、そのあとで深く息をついた。

「まぁ、当時のおまえはそれ以前の問題ではあったんだけどさ……」
「それは、感謝してるわよ。……本当よ?」
「わかってるよ」

 シンラとスダレがわかっていなさそうな目をするが、これはわからなくていい。
 俺とミフユの間でだけ通じていれば、それでいい話である。

「あ、そうだ。これきけてなかったんだけどさ、ミフユ」
「何よぅ」

「あの初日のおまえってさ、どんなコンセプトのキャラビルドだったの?」
「ネトゲみたく言うな。ネットないクセに」

「へへ~ん、今度パソコン買うことになったもんね~。携帯もだ!」
「嘘ッ、ついに原始人に文明開化の波が!?」

 言い返したいけど本気で言い返せないのが辛い。辛すぎる。

「初日ねぇ~。とりあえず客が傭兵なのはわかってたし、身辺調査ファイルもあったから、それに基づいてキャラクターを組み上げたわね。傭兵って職業上、マウント取りたがるかなって思って控えめで相手を立てるタイプにしたわ」
「身辺調査ファイルとは何ぞや……?」

 初耳ですよ。え、初耳なんですけど!?

「浮島に到着した時点で、客になる人間は調査するのよ。瑕疵の有無の確認じゃなくて、どういったサービスをするのが一番のおもてなしになるかの資料として、ね」
「はにゃ~ん、徹底してるんだぁ~」
「超一流のサービスっていうのはね、相手の嗜好を知るところから始めるものよ」

 呆気にとられるスダレに、ミフユは何のけなくそう言い切った。

「ところがこいつよ……!」

 でも、俺を見るなりその顔がまた忌々しげに歪むわけだ。ンだぁ、そのツラ。

「調査ファイルに基づいて完璧に整えたはずのキャラクターが、まるっきり通じやしないのよ、この男。結局、控えめで相手を立てるタイプは一か月くらいでやめたわ」
「そこから始まるミフユの迷走、あれはなかなか見モノだったな!」
「うっさいわね、あんたが一年間ひたすら『コレジャナイ』し続けたからでしょ!」

 そうそう、こんな感じでね――、


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ――二か月目ちょっと。

「あら、いらっしゃい、アキラ君。今日はどうする? お姉さんと、ア・ソ・ぶ?」

 体の線クッキリのキワどい服装でリードしてくれる、エロお姉さんのミフユさん。

「う~~~~ん、違う!」

 俺、全力でかぶりを振る

 ――四か月半くらいが経った時期。

「ご、御主人様……、あの、ミフユのこと、ぃ、いじめてくださいぃ~……」

 おどおどビクビクしながらもいじめられるの大好きな、ドM奴隷のミフユちゃん。

「いや、俺はいじめる趣味とか、ないです……」

 俺、全霊でドンビキ。

 ――半年と少し経ったくらい。

「あ、来たの? 食事の用意ならしてあるわよ。何こっち見てるのよ、キモい!」

 甲斐甲斐しく世話をしてくれる、ツン成分強めなお隣さんの幼馴染ミフユちゃん。

「ええ、距離感わっかんね~……」

 俺、全開でお引き取りを願う。

 ――八か月目ちょうどくらいの時期。

「いらっしゃいまし、アキラ様! お茶をお淹しますわ。おハーブ茶ですことよ!」

 高飛車お嬢様を目指す一般人女性という、完全にキャラが迷走してるミフユ様。

「お茶は美味しいけどそれはどうなの、ねぇ?」

 俺、全身で苦言を呈する。
 ず~っと、そんな感じで噛み合わなかったんだよな、俺とミフユ。

「だから、素でいいってずっと言ってるやんけェ――――ッ!」

 って、俺も毎度毎度言い続けてたのよ。
 でもミフユは頑としてそれを聞き入れてくれなかった。素を見せてくれなかった。
 俺がそういう風なことを何回言っても――、

「ご期待に添えず申し訳ございません。お笑いくださいませ」

 と、そういう風に返されちゃうワケよ。
 そのときは、俺も半ば意地になってた部分はある。
 絶対にミフユの素を見てやる。こいつの地の性格を拝んでやるんだ、って。

 ミフユもそうだったんだと思ってた。
 俺をオトすのに意地になってるんだろうなって、勝手に思ってたよ。
 そんなこんなで時間は過ぎて、結局何もできないまま一年を消費してしまった。

 知っての通り、異世界の一年はこっちと同じ三六五日だ。
 その間、俺は昼は傭兵の仕事して、夜になったら浮島に戻ってを繰り返した。
 浮島でもらった転移アイテムを使えば、どこにいてもすぐに戻れた。便利だよな。

 その一年、ミフユを抱くことはなかった。
 でも、食事して、酒飲んでとかはして、話したりもしてたよ。

 それだけでも楽しかった。
 さすがは世界最高値の女だけあって、不満なんて微塵もなかったね。そこはな。
 でもやっぱり何かしっくりこない感じだけは消えないで、ついにあの日だ。

 俺にとっては運命の、三六四日目。
 翌日には、俺がミフユといられる時間も終わる。

 さすがにもったいないとは思った。
 ミフユといて、楽しいは楽しかったから。でもやっぱ、夢は捨てられなかった。
 世界一の女を抱いて、俺の嫁にする。っていう野望のことな。

「よ~、来たぜ~」

 と、その日も塔の最上階に転移して、ミフユの部屋に行ったんだ。
 そしたらよ、ミフユ、寝ててよ。俺を待ってる状態で、うたた寝してたんだ。

 ドキッとしたね。
 その寝顔を見た瞬間に、俺は一年前に感じたモノを思い出した。

 そこにいたのは確かに『素』のミフユだった。
 心臓が高鳴って、体が一気に熱くなったよ。頭も真っ白だ。
 どうする、ここからどうするって自問自答した。

 そのとき、聞こえてきたんだ。
 ミフユの唇が小さく動いて、本当に小さな声で――、

「……ごめんなさい、ママ」

 って、ミフユは言ったんだ。
 それを聞いて、俺は何となく察した。察してしまったんだ。

 ああ、こいつは自分の『素』の晒し方を忘れてるんだ、ってな。
 そしてそれで俺は決めたんだよ。
 ミフユが忘れちまった『本当の自分』を、俺が見つけてやろう、ってな。

 あ~、一気にしゃべりすぎた。
 ミフユさん、お茶ください。烏龍茶がいいな~。

 え? 烏龍茶はのどに悪いから、白湯? ……はい、ありがとうございます。
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