出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第五章 夏休み、宙色市歴史探訪

第90話 超展開は用法・用量をきちんと守って使うこと

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 ――宙船坂集、宅。

 Prrrrrrrrr!
 Prrrrrrrrr!

「はい、宙船坂です」
『あ、親父? これで番号合ってた?』

「おお、アキラか! 美沙子と話はしたのかい?」
『あ~、うん、まぁ……』

「どうしたんだい、何か歯切れが悪いね……」
『いや、話はしたよ。うん、ちゃんと話はしたし、百回殺したよ?』

「百回、何だって……?」
『あ~っと、その、お袋がね……、何か、俺と一緒にいたいとか言い出したワケよ』

「……美沙子が? え、あの美沙子が、かい?」
『その素直な親父の反応よ。……でもさぁ、そう思うよね~?』

「ああ、正直意外だ。シンラさんという止まり木になってくれる人だっているのに」
『だよね~。俺もそう思ってたよ、いや、マジで……』

「それで、どうなったんだい?」
『俺が傭兵やってるのは知ってるよな? お袋提案で、契約を結んだよ』

「契約? どんな?」
『俺がお袋を百回殺す間に、お袋が一回でも弱音吐いたり命乞いしたら、俺は親父のところに行く。耐えきったら、俺は引き続き金鐘崎アキラを続ける。っていう契約』

「百回?」
『そう、百回」

「…………」
『…………』

「…………」
『…………』

「…………待ってね。パパ、もう少しで自分の価値観と折り合いがつきそうだから」
『親父のその常人メンタルは、是非とも今後も保ってほしいと切に願うよ、俺』

「――よし、よし、OK!」
『大丈夫? 本当に大丈夫? また今度にする?』

「いや、大丈夫だよ。それで、結果はどうなったんだい?」
『それがさぁ~、え~、あの非常に言いにくいんですけど……』

「も、もしや耐えきった、の、かい? あの美沙子がッ!?」
『……はい』

「…………」
『…………』

「…………」
『…………』

「…………すまないね。パパ、その超展開はちょっと想像の範疇になかったな~」
『だよね~。実際、当事者の俺だってビックリだったわ』

「あ~、それじゃあ、アキラはまだ美沙子と暮らすってこと、かな……?」
『そんな露骨にガッカリしない欲しいけど、まぁ、そうなる』

「う~ん、そうかぁ……。美沙子も母親だったってこと、なのかなぁ。う~む……」
『あの、親父……?』

「いや、大丈夫だよ、アキラ。おまえと暮らせないのは残念だけど、美沙子が母親としての自覚をキチンと持てるようになったというなら、それはそれで望ましい――」
『違うんです。ちッ・がッ・うッ・んッ・でッ・すッ!』

「そんな、一言一句に全身全霊を込めるほど力まないでも……」
『力まざるを得んから力んだんだわ』

「え、もしかして、他にまだ何かあるのかい? 今の時点で、パパにとっては相当に超展開の連続なんだけど? これ以上何かあると、そろそろお腹が痛くなるぞ?」
『う~ん、凡人! 俺の周りじゃ逆に貴重ですらある、平々凡々な常人気質! でもごめんな、あと一つだけあるんだ。あと一つだけ。あと一つだけね!』

「いや、そんなに強調しなくていいから……。それで、何があったんだい?」
『お袋が』

「うん、美沙子が?」
『……『出戻り』しちゃった』

「…………」
『…………』

「…………」
『…………』

「…………」
『…………』

「…………」
『…………あの、親父?』

 プツッ。ツーッ、ツーッ、ツーッ……。

 Prrrrrrrrr!
 Prrrrrrrrr!

「はッ! しまった! 僕の全細胞が現実の認識を拒否してしまった!」

 Prrrrrrrrr!
 Prrrrrrrrr!

「あ、ごめん、アキラ! ちょっと驚きすぎて……ッ!」
『もしもォしッ!』

「うわッ、びっくりした!? ……って、この声、アキラじゃない?」
『ハハンッ、元ワイフの声もお忘れなのかい、元ダーリン?』

「そ、その声は、美沙子?」
『初めまして、宙船坂集さん。アタシはアキラ・バーンズの母親をやってる女さ』

「何を、言ってるんだ? 君とは少し前に電話で話したばっかりだろう?」
『そりゃ金鐘崎美沙子のこったろ? アタシは違うよ。ま、そうでもあるけどね!』

「……あなたは、一体?」
『ハハンッ、きかれたからにゃあお答えしなきゃねェ! アタシはあっちで女傭兵をやってたモンさ。ちょっと性格がヤンチャで『竜にして獅子』なんて呼ばれてたりもしたけどね。ま、御愛嬌さね! 名前は――、ミーシャ・グレンだ。よろしくね!』

「ミーシャ・グレン……。美沙子とは、名前が近いけど違うね」
『ああ、だからきっと、本来はアタシは『出戻り』できるタイプじゃないんだろうね。それでもこうしてこっちに来れたのは、さて、何の因果なんだか!』

「……カディ様に、確認しておくよ」
『ハハンッ、そうかい? それなら助かるね。でもね、今日の本題は別なんだよ!』

「本題?」
『――アキラは渡さないよ』

「…………」
『あの子は『あたし』が命を張って繋ぎとめた最高の宝物さ。弱っちい『あたし』のせいで『出戻り』することになっちまったけどね。……でも渡さないよ、絶対に』

「君が、僕やあの子にしたことを忘れろ、と?」
『バカ言いなさんなって。そんなワケないだろ。アキラには、これから一生をかけて『アタシ』が返していくさ。そして元ダーリン。アンタには、アタシの命をやるよ』

「……何だって?」
『アンタには『あたし』を殺す権利がある。理由もある。正当性もある。だから、その気になったらいつでも来な。百回でも千回でも、好きなだけ、殺されてやるさ』

「いきなりそんな重たい権利を渡されても困る。僕はただの日本人だぞ?」
『ハハンッ! そうだったねぇ! アッハッハッハッハッハ! こりゃ爆笑だわ!』

「……君は、本当にあの美沙子なのか? 何というか、キャラが違いすぎるぞ?」
『だからだろうさ。前の『あたし』があんなだったから、今の『アタシ』はこんななんだろうね。同じコインの表と裏と考えりゃ、案外近く思えるモンさ』

「はぁ、まあいいよ、わかった。とにかく君はキャラは変わったが美沙子で、アキラはこれからも君の元で暮らす。そういうことでいいんだな?」
『オーライ、理解が早くて助かるね。で、どうするんだい? 何なら、もういっぺん、アタシと契りを交わすかい? そうすればアキラをとり合うこともないよ?』

「思ってもいないことを提案するのはどうかと思うよ? 君だってわかってるだろ。知っているし、感じているはずだ。僕達はもう、家族にはなれないんだってこと」
『ああ、そうだね。アタシはともかく、前の『あたし』はアンタを傷つけすぎた。心を殺しちまった。それはもう償えないモンだ。離れる以外の選択肢は、ないね』

「それがわかってるなら……」
『だけど、提案はしなきゃいけないだろ? アキラのことを考えるなら、結果はどうなろうと、話さないワケにはいかない。違うかい?』

「……全く!」
『お、何だい?』

「その考え方を、どうして美沙子のときにできなかったんだ! って叫びたいよ」
『いいよ、叫びな。聞いてやるとも』

「その考え方を、どうして美沙子のときにできなかったんだァ――――ッ!」
『本当に、ごめんなさい』

「……そこで真面目に謝られると、それはそれで調子が狂うなぁ」
『アンタもホントに生真面目なヤツだね。ま、いいさ。ところで話は変わるけどね、アキラはそっちに遊びに行ってもいいんだろ? 別に迷惑じゃないよね?』

「え、それをそっちから提案してくるのかい?」
『何でだい、おかしいかい?』

「いや、おかしくはないけど。ああ、それと養育費は――」
『それは今まで通り頼むよ。ちゃんと貯金はしてあるさ。そこは信じておくれよ』

「わかった。それと――」
『何だい?』

「最後にアキラに『ちゃんと大きくなれよ!』って、言っておいてくれ」
『……ハハンッ、やっぱアンタ、イイ男だね。『あたし』は勿体ないことをしたよ』

「もう切るぞ!」
『ハイハイ。それじゃ、!』

 プツッ。ツーッ、ツーッ、ツーッ……。

「……疲れた」


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 何でお袋が『お袋』なんだよッッ!!?

「通算百回殺しても『出戻り』しなかったクセに、百一回目で『出戻り』って何だよ! しかもそれで出てきたのが俺の育ての母親って、ダブルで何だよ!?」

 ミーシャ・グレン。
 親を早くに失った異世界の俺を育ててくれた女傭兵。つまりはあっちでの母親。

「意味わからんのだが? 本ッ気で意味わからんのだが!?」
「ハハンッ、考えるだけ無駄さ、マイサン。感じるんじゃない、考えるんだよ!」

「結局考えてんじゃねぇかッ!」
「そうとも言うねぇ、アッハッハッハッハッハ!」

 あ~、懐かしい。このバカ笑い。懐かしすぎる。
 それを金鐘崎美沙子のツラでやる違和、違和……、クソッ、別に違和感がない!

「あんたのあっちでのお義母様、こんな豪放磊落な方だったのね……」
「ハハンッ、ミフユちゃんとは初めましてだねェ」

 実は、異世界ではミフユとお袋は顔を合わせたことがない。
 俺が独り立ちしたら、さっさと俺の前から消えやがったからなァ、この人。

「あ~~~~、信じらんねッ! お袋のせいであっちの世界に転生するハメになったのに、あっちの世界で俺を育ててくれたのもお袋だったとか、どういうオチ!?」
「世の中は謎と怪奇に満ちてるねぇ。アッハッハッハッハッハ!」

 この、耳に馴染むバカ笑い。懐かしいは懐かしい。しかし、釈然としないわー。

「でもね、アキラ。よくお聞き」
「何ですかねェ! 俺の処理能力はそろそろ限界ですよ!?」

「アタシも、集さんも、そして『あたし』も、みんなアンタの幸せを願ってるよ」
「……お袋」
「アンタの中の『あたし』への恨みは消えないかもしれないけど、でも、それは覚えておいておくれよ。アンタは、祝福されて生まれてきた子なんだから」

 ああ、わかったよ。わかった。いや、わかってる。

「で、それはそれとして、お袋、家事スキル生き残ってる? あっちの世界であんたが普通に家事してるところ、見たことないんだけど、俺……」
「ええええええええええええええええええええええ!? そ、それは由々しき事態ですよ、お義母様! いえ、由々しいどころか、人類全体の損失の可能性も……!」

 ミフユの表現は誇張しすぎだが、お袋の家事能力のロストはデケェ損失ですよ?

「いや、大丈夫だよ。うん、料理も掃除も、これまで通りさね」
「「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~ッ!」」

 抱きしめ合って喜ぶ俺とミフユを、お袋はニコニコ笑いながら眺めていた。
 扇風機がブンブンいってる、夏休みの二日目の夜のことだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 →第五章 夏休み、宙色市歴史探訪 終

              幕間 『出戻り』達のサマーデイズ に続く←
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