出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です

はんぺん千代丸

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第六章 愛と勇気のデッドリーサマーキャンプ

第104話 初日/狩間湖/ボートでワイワイ、できればいいな!

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 テント、デッケェ!

「「「うわぁぁぁぁぁ~~~~、すごいおっきぃ~~~~!」」」

 俺とミフユとひなたの子供三人が、出来上がったテントを見上げて声を揃えた。
 今の俺達の身長からすると、五人用の大型テントはそれだけで山みたいだ。

 それが三つ、湖のほとりに建てられている。
 いや~、壮観。そしていよいよ『これぞキャンプ!』感が出てきて、イイゾこれ!

「ふぅ、何とかなりましたね~」

 シイナがそう言って汗を拭う。
 時間はまだ夕方と呼ぶには早いが、昼過ぎというにはやや遅い時間。

「これからど~するのぉ~?」
「炊事場は午後五時に予約を入れてあるから、それまで時間を潰す必要があるね」

 スダレに問われてシンラが答える。
 う~む、皇帝口調じゃないシンラか……、何か、少し違和感があるな。
 いや、皇帝口調の方が違和感なんだけどさ、日本じゃ。

「何~? 時間あるのか~?」

 そこにヒョコッと顔を出すタマキ。

「そ~だよ~、おタマ姉~。二時間くらい空いちゃった~」
「そっか、じゃあオレ、アレ乗りた~い!」

 言って、タマキが指さしたのは、湖に浮かんでいるボートだった。
 俺もそれがさっきから気になってて、乗れるなら乗ってみたいなーとか思ったり。

「ボートか、いいね。借りに言ってみようか」

 という、保護者総監督シンラの判断によって、俺達はボート乗り場へと向かう。
 提案者のタマキ、歩いている間もものすごいウッキウキです。

「ヘヘッ、ボートって初めてだ~。楽しみだね~、ケントしゃん!」
「…………」

 しかし、隣を歩くケントはいかめしい表情をしているだけで、無言。
 タマキはそれに一瞬驚いたような顔をして、すぐに頬を膨らませて怒り出す。

「ケントしゃ~ん? オレの話、聞いてたかよ~?」
「うん? あ、あぁ、はい。聞いてましたよ、大丈夫ですよ、お嬢」

 腕を軽く引っ張られて、ケントはやっと反応を示す。
 そして、菅谷と一緒に前を歩いていた颯々が、クルリと振り返ってニヤける。

「いけませんよぉ~、郷塚君、女の子の話はちゃんと聞いてあげないと~?」
「ッ、わかってますよ……」
「颯々ちゃん、いちいちからかうようなことは言わないの」

 不機嫌そうに顔をしかめるケントと、颯々を軽く叱る菅谷。どうにも空気が悪い。

「……失敗したかもしれねぇな」

 軽く四人の様子を見て、俺はそんな呟きを漏らす。

「どうしたのよ?」

 ミフユに問われたが、ここでは他の連中に聞こえてしまう可能性がある。

「ボートでな」

 とだけ返して、俺はそこでは口を閉じ、それ以上は何も言わなかった。
 そして、ボート乗り場に到着するも、待ち構えていた現実は、残酷なモノだった。

「乗れるボートが、二人乗り一隻と、四人乗り一隻だけ!?」
「ええ、すいませんねぇ。この時期は利用者が多くて……」

 ボート乗り場にいたスタッフが申し訳なさそうに頭を下げる。
 しかしこれはさすがに責められない。要するに俺達のような連中が多いだけだし。

「じゃあ、ボートは子供達を優先しよう。どうかな?」
「ハハンッ、いいんじゃないかい。ただし、ひなたちゃんはやめときなよ」

 ひなたは小さすぎるということで、今回はボートは乗らず。
 そうすると、年齢順で小さい方から、俺、ミフユ、ケント、タマキ、か?

「じゃあ、保護者役で私も乗るわ」

 ここで手を挙げたのは菅谷だった。
 そうすると、あと一人余裕があるが、颯々が出しゃばってきそうだなぁ。

「それならぁ、あぶれたメンバーは釣りでもどうですぅ~?」

 だが意外なことに、それを提案したのは颯々だった。

「颯々ちゃん?」
「私もぉ~、センパイとボートに乗りたいのは山々なんですけどぉ~、実は午前中にたっぷり乗っちゃったんですよね~。ね~、おじさ~ん?」
「ああ、そっちのお嬢ちゃんは午前中ずっとボートに乗ってましたよ」

 颯々が「お嬢ちゃんじゃなくて成人です」とか言ってたけど、それは置いておく。
 これにて、ボートに乗る面子が決まった。

 俺とミフユ、そしてケントとタマキ、菅谷真理恵だ。
 うわぁい、よりによってこの組み合わせか~い。勘弁してくれませんかねぇ……。

「あの菅谷って刑事さんとタマキちゃん、ちゃんと見ておくんだよ」

 別れ際、お袋からそんなことを言われちまった。
 ああ、なるほどね。そういう意図か。だったら何とかしてやるさ。

「それじゃあ、大人組は釣りにでもいくかねぇ~」
「釣り、ってことはお魚ですね! お魚、お刺身、焼き魚、おビ~ル様!」

 お袋の号令に、シイナが瞳を輝かせるが――、

「釣りの餌って~、ウニョニョしてて可愛いよねぇ~。お魚はあれ食べるんだね~」
「何でそういうコト言うんですか、スダレ姉様! 想像しちゃうでしょ~!?」

 シイナ、何と愚かな……。
 いや、スダレのセンスもなかなかわからんけどね。

「それじゃあお袋、またあとでな」

 そして俺達子供組と大人組は、ボートと釣りとに分かれた。
 俺とミフユは二人乗りの小型ボート。ケント達三人は四人乗りの大きなボートだ。

「ちゃんと守ってやれよ」

 女子達がボートに乗り込んでいる間に、俺はケントに言って背中を叩く。

「わかってますよ。何があっても守ります」

 声が硬い。顔つきも厳しいままだ。
 どうやら俺の懸念は的中してしまっているらしい。こいつは参ったな。

「アキラ~、乗るわよ~!」
「ケントしゃ~ん! 早く来て~! オレ、この変態と二人だけはヤダァ~!」
「変態じゃないって言ってるでしょ! 賢人君、こっち準備できてるわよ」

 さてさて、このボート、楽しめるんですかねぇ……。
 俺は小さく、ため息をついた。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 四人乗りのボートというが、六人くらいでも平気で乗れそうな大きさがあった。

「どりゃどりゃどりゃどりゃあァ~~~~!」

 タマキが、そのバカ力でオールを操作する。
 当然、ボートは手漕ぎにあるまじき加速をして、波しぶきを立てて湖を駆ける。
 そして――、

「ちょっと、やめなさい環さん! やめて、やめなさい! や~め~て~!」

 ボートのへりに捕まりながら、菅谷真理恵が悲鳴をあげる。
 これだけの加速をすれば、当然、ボートは揺れる。激しく揺れる。
 ほとんど、絶叫マシーンさながらに。

「うゎっぷ! み、水が跳ねて……!」

 そして、ボートが揺れればそれだけ水も激しくしぶきを上げるワケで。
 もう、乗って数分で三人ともビッショビショになってしまった。

「アハハハッ、いいじゃん、涼しくて! 服なんて、すぐ乾くって~!」
「もぉ~、あなたと一緒にボートに乗ったのが間違いだったわ! 何て子なの!」
「むっ」

 文句を言う菅谷に、タマキが反応をする。そして、オールを回す手を止めた。
 ボートもピタリと止まって、菅谷は安堵のため息を長々とついた。

「た、助かったわ……」

 しばしグッタリしていると、そんな彼女を覆う陰があった。
 見れば、彼女の前にタマキが立っている。ボートの上なのに見事な仁王立ちだ。

「オイ、菅谷真理恵」
「な、何ですか、環さん……」

「おまえが漕げよ」
「え?」
「だから、オレに文句があるなら、おまえがボートを漕げばいいだろ!」

 それがタマキからの菅谷への反撃だった。
 しかし、言われた菅谷はすぐには理解できず「え? え?」と目を丸くしている。

「何だよ、人に文句言う割に、自分はやらない気かよ。おまえ、ズルいなー!」

 タマキの物言いは子供っぽく、それだけに、菅谷にはダイレクトに伝わった。

「な、何を言うのかしら。ボートくらい、普通に漕げるわ!」
「へ~、じゃあやってみろよ~!」
「言われないでも……!」

 タマキと菅谷真理恵が位置を変えて、今度は菅谷がオールを握る。

「大人のボート操縦を見ていなさい、環さん!」
「おう、しっかり見届けてやるぜ~」

 そして、菅谷はオールを動かそうとする。が――、

「あ、あれ……?」

 重い。オールが、重い。
 動きはするのだが、とてもゆっくりになってしまい、ボートがまともに動かない。

「な、この。こン、の……!」

 それでも菅谷は必死にオールを動かそうとするも、左右のオールの動きがチグハグで、ボートの先は右に左に曲がるだけで、全然前に進んでくれない。

「どうしたんだよ~、菅谷真理恵~? 全然進まないぞ~?」
「む、むむむ……ッ! むぅ~~~~!」

 だが、菅谷真理恵がどれだけ頑張っても、ボートは思うように進まなかった。
 そもそも彼女は非力だ。
 警察官なので護身術のレクチャーを受けてはいるが、それは主に関節技などだ。

「アハハ、見てよケントしゃ~ん、菅谷のヤツ、ちょー必死だぜ~!」
「こら、環さん。賢人君にそういうコトを言うんじゃないの、全く、恥ずかしい……」

 と、二人が言い合う。が、ケントはどちらにも反応を示さなかった。
 どころか、せっかくのボートなのに、彼は今まで二人と言葉を交わしていない。

 ただ、せわしなく辺りに視線を巡らしているだけだった。
 気づいた二人の目の前で、キョロキョロとあちこちに目を走らせている。

「ケントしゃ~ん?」
「賢人君、どうかしたの?」

 二人が声をかけて、ハッと身を震わしたケントが、二人の方を向く。

「あ、な、何かありましたかッ!?」

 その反応もまた、過剰にしか思えない激しいものだった。
 だが、驚き顔で自分を見るタマキと菅谷に、ようやく彼も気づいたようで、

「え、あ~……」

 しばしそんな感じに目を泳がせて、

「菅谷さん、俺が漕ぎますよ。ボート。お嬢も、それでいいっすかね?」
「あ、うん。お願いね、賢人君」
「おー、オレもそれでいいぞー……」

 いつも通りの優しい笑顔を浮かべて、ケントがオールを受け取る。
 だが三人のボートには、しばらくの間、ぎこちない空気が残り続けた。


  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 なぁ~んてこったい。

「何あれ、ラブコメの波動も何もあったモンじゃないじゃないのよ……」

 俺と共にケントの方を見ていたミフユが、半笑いで頬を引きつらせている。

「参ったな~、不安的中かぁ~……」

 ボートのヘリに肘をつき、俺は頬杖をする。

「何よ、ジジイ。こうなること、わかってたの?」
「さっき言ったろ、失敗したかも、ってよ」

「そういえば言ってたわね、あれ、どういう意味だったの?」
「簡単だよ。ケントに事情を話すタイミングを間違えた。話せば、ああなるのは予測できるコトだったんだが、俺も色々と見逃しちまってたかもしれん……」

 ケント・ラガルクへの信頼が、俺の目を曇らせていた。
 それは、確実にあるだろう。だがさすがにそれは言い訳にはできんわな……。

「何なのよ、一体。何だっていうの?」
「『出戻り』をしても、俺達は根本的な部分で変われてないってコトさ」

 俺が金鐘崎アキラであることを変えられないように。
 ミフユが佐村美芙柚であることから逃れられないように。

「ケント・ラガルクは、郷塚賢人であることをやめられない。ってことさ……」
「やめられない……」

「元々、郷塚家は二番目に生まれる子供を故意に無能に育てて、一番目の子供の反面教師にするっていう教育方針があった。ケントは、それの被害者だ」
「うわぁ、ヒくわね……」

 さすがのミフユも、これには顔をしかめる。
 俺も、初めて聞いたときは意味わからんかったモン、その教育方針。

「だから、ケントは郷塚の家に対して根深い恨みを抱いていたのと同時に、決定的なまでに『自分に自信がない』んだよ。根っこの部分でな」
「あぁ~、なるほどね。抱え込んじゃったのか~……」

 俺の説明に、ミフユも納得する。
 今回の一件の事情を知って、ケントは自分が元凶だと考えてしまっている。

 そして菅谷真理恵とタマキを絶対に守るべく、異常なまでに力んでいる現状だ。
 誰が見ても、今のケントは危うい。色々と意識しすぎてテンパっている。

「こうなるとアブねぇんだ、全部を見ようとして、足元の落とし穴に気づけない」
「灯台下暗しの『即死ゲー』バージョン、みたいなね……」

 そうそう、まさにその例えは言い得て妙だ。

「どうするの、アキラ」
「敵さんが出てこない以上、待ちで行くしかないだろ」

 スダレの情報結界も、さすがに狩間湖はカバーしてないしな。

「ってことで、とりあえずだ」
「うん、とりあえず?」

「ボート、漕ぎま~す!」
「わ~い!」

 何だかんだ言いつつ、楽しんではいる俺達であった。
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