123 / 166
第六章 愛と勇気のデッドリーサマーキャンプ
第114話 二日目/異階/俺は英雄なんかじゃない
しおりを挟む
ドラゴが、壁に金属符を貼りつける。
洞窟内が『異階化』し、伸びた竜の尾が壁をバシンと叩きつける。
「ドラガは」
人の姿のときとは打って変わって、力ある声が洞窟内に響く。
「愚かで、そして頭が悪かった。今回の件でも、まともに進めようと思えば、その愚図さが私の足を引っ張るであろうことは容易に想像がついた」
ドラゴの語り口は、実に落ち着いていた。
冷静で、スマートで、弟とは一線を画す上位種の気品が感じられた。
「だから私は、今回の件を進めるための第一歩として、まず弟の心を粉々に砕いた。痛みと、言葉と、無力感をもって、徹底的に否定し、プライドを踏みにじった」
「な、何故……?」
ケントの口から出る、当然の疑問。
それに応えるドラゴの声も、実に落ち着き払っていた。だが、
「アレのプライドが邪魔だったからだ」
その答えは、劣悪なモノだった。
「プライドを持っていいのは強者だけだ。弱者が持ったところで、枷にしかならない。その枷を己の力として扱える者だけが、自らを誇る権利を得る」
ドラゴが語っているのは弟のこと、自分には関係ない。
しかし、今まさに己の弱さに悩むケントに、その言葉は深く食い込んでくる。
「ドラガとそのまま組むくらいならば、弟を道具にして扱った方が上手くいくだろう。その目論見は見事にハマり、弟を失うこととはなったが、今、この機を得た」
語りながら、だが、ドラゴには隙が無い。
相対するケントはこれが本当にあの『人竜兄弟』なのかと、不思議に思っていた。
異世界で立ち合ったときとは、まるでモノが違う。別人のようだ。
「――学ぶさ。おまえに殺されたのだから。さすがに私は、弟とは違う」
見透かされた。
その事実がケントの心の温度を上げる。
「随分とエラそうにのたまってるが、要は弟を囮にしてずっと逃げ隠れていたってことだろう? 笑わせるなよ、ドラゴ・ゼルケル! ドラゴンが聞いてあきれるぜ!」
「その通りだとも、ケント・ラガルク。おまえに敗れた私は、未だ弱者さ。卑怯で結構。臆病で結構。目的を果たすためならば、私は逃げるし隠れもするぞ。魔力を用いた念話を利用して、弟と電話するフリまでして指示を与え、ついにここまで来た!」
ドラゴの背後の空間が、グニャリと歪む。異面体が出現する。
「見ろよ、呪樹駕塔。今こそ、我が誇りを取り戻すとき!」
歪みの向こうに現れたのは、宙に浮くトーテムポールのような奇妙な存在。
木目が見える灰色の塔で、高さはドラゴの三倍ほど。
図案化された様々な獣の顔が重なるその見た目は、まさしくトーテムポールだ。
「ケントしゃん……」
身を強張らせるケントの腕を、タマキが不安そうな顔で触れてくる。
ケントは、その顔を見ようとはせず、だがタマキの前に壁となるように立つ。
「その娘を守るつもりか、ケント・ラガルク。……守れるのか、今の貴様に?」
「黙れよ、ドラゴ。あの雨の日と同じ結果にしてやる」
「できないさ。おまえには、できない」
「うるせえェえェェェェェェェェェェェェェェ――――ッ!」
もう、何も聞きたくない。何も考えたくない。
ただ目の前にいる旧い敵を殴って、蹴って、ブッ倒して、一時の愉悦に浸りたい。
そう考え『戟天狼』を展開するケントの頭の中に、タマキの姿はなかった。
「ウオォォォォォォォォォォォォ――――ッ!」
初手から全速、全力、全開で殴りかかる。
「ジュジュガト!」
ドラゴの叫びに応じ、傍らに浮いていたトーテムポールがその巨大な瞳を開く。
瞬間、殴りかかろうとしていたケントの全身に、強烈な重圧がかかった。
「な、ァ……ッ!?」
「フハハハハハハァァァァァァァァ!」
そこにドラゴが飛び込んできて、繰り出された右の拳が彼の顔面を直撃する。
激痛、そして折れ曲がった鼻から、血が噴いた。
「ぐぅ……、このッ!」
痛みに顔を歪めながらも、ケントは後方に飛び退き、また突撃していく。
「この野郎ォォォォォォォォ――――ッ!」
彼は、ドラゴへと肉薄するが、再度の重圧がゲキテントウの超加速を相殺する。
ドラゴが、ニタァ~、と、笑った。
「どうした、ケント・ラガルク! ご自慢の異面体が形無しだなァ!」
今度は、右の前蹴り。
竜人の強靭な膂力による蹴りが、未成熟の彼のみぞおちをまともに抉る。
「ぐぅ、あッ……! ぅあ、ぁ……!」
痛みを堪えきれずに、ケントはその身をくの字に折り曲げる。
苦しい。痛い。目から涙が零れ落ちる。
「何だ、ケント・ラガルク! 貴様はこんなにも弱かったのか? そうか、そうか! やっぱりなァ! ケント・ラガルクよ! 貴様はやっぱり弱かったんだなぁ~!」
「ぅッ、が、ぎ……ッ!」
顔をあげられずにいるケントを、ドラゴが笑いながら上から殴ってくる。
ガッ、ゴッ、と硬い感触を頭に幾度も受けて、伝った血がケントの口に入った。
ジワリと広がる味は、辛酸そのものだった。
「う、グ、ナメるなァッ、アアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!」
手も足も出ず、一方的に嬲られる悔しさに、ケントは歯を食い縛って殴りかかる。
「ジュジュガト」
だが、起死回生をかけたその一撃すらも、ドラゴの異面体に阻まれた。
体が重い。鉛の海の中にいるかの如く、全身の動きが緩慢になってしまう。
「貴様は弱いな、ケント・ラガルク」
ドラゴがケントをそう嘲笑って、その顔面に右の拳を叩きつけた。
「…………クソ」
激痛と共に『勝てない』という認識が、ケントに押し寄せてくる。
彼は吹き飛ばされて、そのままタマキの横に転がった。
「ケントしゃん……?」
タマキが、震える声でケントを呼ぶ。
だが、答えはない。体力は残っていても、気力が尽きた。気を失ってしまった。
そんな彼を見るタマキの瞳が、みるみるうちに潤んでいく。
「ハハハハハハハハハハハッ! 雪辱、ここに成れり! クハハハハハハハハハ! ケント・ラガルク、貴様は弱い。とんだ雑魚だ! ハハハハハハハハハハハ!」
洞窟内に響く、ドラゴの勝利の哄笑。
世界を超えて果たされた復讐に、彼は心から歓喜していた。しかし、
「うるさいよ、おまえ」
喜びの熱を一瞬で凍てつかせる、冷たい怒りに満ちた声。
倒れたケントを抱きかかえるタマキが発したものだ。彼女は、ドラゴを睨んだ。
「……フン」
ドラゴは、タマキを鼻で笑う。
「私がうるさいとしたら、どうだと?」
上から問うドラゴにタマキは言葉は返さず、ただ、握った拳をギチリと鳴らした。
「ク、フフフ! ケント・ラガルクに守られる程度の小娘が、この私とジュジュガトに勝てると? フハハハハ、思い上がりも甚だしいな! 人間風情が!」
「何でもいい。ケントしゃんをバカにするおまえは潰す」
いつもの陽気さは鳴りをひそめ、その目つきは研ぎ澄まされた刃のよう。
タマキは顔の前で両腕を交差させて、そのままバッと大きく広げる。
「――変身ッ!」
地に風が起こり、空から一条の稲妻が落ちた。
そして炸裂する閃光が消えたとき、そこには純白の戦士が立っていた。
「神威雷童」
「クッフ! どんな異面体を出してくるかと思えば、よりによってケント・ラガルクと同じ装着型か! それで手も足も出なかった男がいたことを忘れ――」
「長いぜ」
異面体を装着したタマキが動こうとする。
ドラゴが反応する。さすがに素早く、そして鋭い。
「ジュジュガト!」
ドラゴの声に反応し、ジュジュガトがタマキを見た。
その全身に、ケントと同じく強大な負荷がかかり動きが止ま――、らない。
「えッ」
「軽いけど?」
短く驚くドラゴの眼前に、タマキはすでに迫っていた。
「これは、ケントしゃんの分のお返し、一発目ェ!」
純白の篭手に覆われたタマキの右拳が、ドラゴの鼻っ面をグシャリと潰す。
「グゥ、おッ!?」
「これで止まると思うなよ?」
のけぞるドラゴへ、さらにタマキは追随する。
ジュジュガトによる重圧を浴びているにも関わらず、動きのキレは全然鈍らない。
「バッ、カな!? ジュジュガトの加重化能力が効いていないだとッ!」
「効いてるよ。すごく重い。でも……、こんなのが何だあァァァァァ――――ッ!」
突き上げられた左アッパーが、ドラゴのあごを的確に打ち抜く。
「げぼァッ!」
なすすべなく浮き上がるドラゴを前に、タマキは、両の拳を強く握りしめた。
「おまえなんかッ、こんなズルしなきゃ、強がれないクセにィィィィィ――――!」
咆哮と共に、タマキによるドラゴへの滅多打ちが開始される。
音よりも早い拳が、巨岩を両断する蹴りが、竜人の体に無限にブチ込まれていく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
ジュジュガトは、相変わらずそのまなこを見開いてタマキをねめつけている。
重圧に包まれているはずだ。全身が重くて仕方がないはずだ。
なのに、それが何だと言わんばかりに、タマキはドラゴを殴り続ける。
殴り、殴って殴って殴って、殴る。蹴って、蹴って蹴って蹴って、蹴り飛ばす。
「おまえの方がずっと雑魚だ! ケントしゃんより、全然弱いんだよォ!」
「グゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオッ、ギアアアァァァァァァァ――――ッ!?」
ドラゴは、ただのサンドバッグと化す。
ジュジュガトも浮いているだけのオブジェとなり、その意味を失った。
異階の中に響くのは、怒声と悲鳴。打撃音と打撃音と打撃音。
途切れることのないその音の中、ようやく少しだけ回復したケントが目を覚ます。
「……全快全癒」
彼は、傷を癒して身を起こす。
手足に装着していたゲキテンロウは、彼が気絶した時点で消えている。
そして彼は見た。
自分が全く敵わなかったドラゴを好き勝手に蹂躙するタマキの姿を。
「あれが、お嬢の異面体……」
初めて見る、純白の全身装着型の異面体。
ドラゴの血で赤く染まったその姿は、ケントなどより遥かに鋭く動いている。
ジュジュガトの過重圧の中にあるはずなのに。
圧倒的。
そう形容する以外になかった。
だって、対策なんてしていない。真っ向からの力業で、敵をねじ伏せている。
強い。強い。強すぎる。
仮に自分が戦ったって、天地が逆転しても勝てっこない。
「何だよ……」
ケントの口元に、ヘラリとした笑みが浮かぶ。
そしてその瞳から、一筋の涙がこぼれた。
「……別に、俺が守る必要、ねぇじゃん」
ああ、やっぱり俺は、誰かの英雄になんてなれやしないんだ。
郷塚賢人の心は、このとき、折れた。
洞窟内が『異階化』し、伸びた竜の尾が壁をバシンと叩きつける。
「ドラガは」
人の姿のときとは打って変わって、力ある声が洞窟内に響く。
「愚かで、そして頭が悪かった。今回の件でも、まともに進めようと思えば、その愚図さが私の足を引っ張るであろうことは容易に想像がついた」
ドラゴの語り口は、実に落ち着いていた。
冷静で、スマートで、弟とは一線を画す上位種の気品が感じられた。
「だから私は、今回の件を進めるための第一歩として、まず弟の心を粉々に砕いた。痛みと、言葉と、無力感をもって、徹底的に否定し、プライドを踏みにじった」
「な、何故……?」
ケントの口から出る、当然の疑問。
それに応えるドラゴの声も、実に落ち着き払っていた。だが、
「アレのプライドが邪魔だったからだ」
その答えは、劣悪なモノだった。
「プライドを持っていいのは強者だけだ。弱者が持ったところで、枷にしかならない。その枷を己の力として扱える者だけが、自らを誇る権利を得る」
ドラゴが語っているのは弟のこと、自分には関係ない。
しかし、今まさに己の弱さに悩むケントに、その言葉は深く食い込んでくる。
「ドラガとそのまま組むくらいならば、弟を道具にして扱った方が上手くいくだろう。その目論見は見事にハマり、弟を失うこととはなったが、今、この機を得た」
語りながら、だが、ドラゴには隙が無い。
相対するケントはこれが本当にあの『人竜兄弟』なのかと、不思議に思っていた。
異世界で立ち合ったときとは、まるでモノが違う。別人のようだ。
「――学ぶさ。おまえに殺されたのだから。さすがに私は、弟とは違う」
見透かされた。
その事実がケントの心の温度を上げる。
「随分とエラそうにのたまってるが、要は弟を囮にしてずっと逃げ隠れていたってことだろう? 笑わせるなよ、ドラゴ・ゼルケル! ドラゴンが聞いてあきれるぜ!」
「その通りだとも、ケント・ラガルク。おまえに敗れた私は、未だ弱者さ。卑怯で結構。臆病で結構。目的を果たすためならば、私は逃げるし隠れもするぞ。魔力を用いた念話を利用して、弟と電話するフリまでして指示を与え、ついにここまで来た!」
ドラゴの背後の空間が、グニャリと歪む。異面体が出現する。
「見ろよ、呪樹駕塔。今こそ、我が誇りを取り戻すとき!」
歪みの向こうに現れたのは、宙に浮くトーテムポールのような奇妙な存在。
木目が見える灰色の塔で、高さはドラゴの三倍ほど。
図案化された様々な獣の顔が重なるその見た目は、まさしくトーテムポールだ。
「ケントしゃん……」
身を強張らせるケントの腕を、タマキが不安そうな顔で触れてくる。
ケントは、その顔を見ようとはせず、だがタマキの前に壁となるように立つ。
「その娘を守るつもりか、ケント・ラガルク。……守れるのか、今の貴様に?」
「黙れよ、ドラゴ。あの雨の日と同じ結果にしてやる」
「できないさ。おまえには、できない」
「うるせえェえェェェェェェェェェェェェェェ――――ッ!」
もう、何も聞きたくない。何も考えたくない。
ただ目の前にいる旧い敵を殴って、蹴って、ブッ倒して、一時の愉悦に浸りたい。
そう考え『戟天狼』を展開するケントの頭の中に、タマキの姿はなかった。
「ウオォォォォォォォォォォォォ――――ッ!」
初手から全速、全力、全開で殴りかかる。
「ジュジュガト!」
ドラゴの叫びに応じ、傍らに浮いていたトーテムポールがその巨大な瞳を開く。
瞬間、殴りかかろうとしていたケントの全身に、強烈な重圧がかかった。
「な、ァ……ッ!?」
「フハハハハハハァァァァァァァァ!」
そこにドラゴが飛び込んできて、繰り出された右の拳が彼の顔面を直撃する。
激痛、そして折れ曲がった鼻から、血が噴いた。
「ぐぅ……、このッ!」
痛みに顔を歪めながらも、ケントは後方に飛び退き、また突撃していく。
「この野郎ォォォォォォォォ――――ッ!」
彼は、ドラゴへと肉薄するが、再度の重圧がゲキテントウの超加速を相殺する。
ドラゴが、ニタァ~、と、笑った。
「どうした、ケント・ラガルク! ご自慢の異面体が形無しだなァ!」
今度は、右の前蹴り。
竜人の強靭な膂力による蹴りが、未成熟の彼のみぞおちをまともに抉る。
「ぐぅ、あッ……! ぅあ、ぁ……!」
痛みを堪えきれずに、ケントはその身をくの字に折り曲げる。
苦しい。痛い。目から涙が零れ落ちる。
「何だ、ケント・ラガルク! 貴様はこんなにも弱かったのか? そうか、そうか! やっぱりなァ! ケント・ラガルクよ! 貴様はやっぱり弱かったんだなぁ~!」
「ぅッ、が、ぎ……ッ!」
顔をあげられずにいるケントを、ドラゴが笑いながら上から殴ってくる。
ガッ、ゴッ、と硬い感触を頭に幾度も受けて、伝った血がケントの口に入った。
ジワリと広がる味は、辛酸そのものだった。
「う、グ、ナメるなァッ、アアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!」
手も足も出ず、一方的に嬲られる悔しさに、ケントは歯を食い縛って殴りかかる。
「ジュジュガト」
だが、起死回生をかけたその一撃すらも、ドラゴの異面体に阻まれた。
体が重い。鉛の海の中にいるかの如く、全身の動きが緩慢になってしまう。
「貴様は弱いな、ケント・ラガルク」
ドラゴがケントをそう嘲笑って、その顔面に右の拳を叩きつけた。
「…………クソ」
激痛と共に『勝てない』という認識が、ケントに押し寄せてくる。
彼は吹き飛ばされて、そのままタマキの横に転がった。
「ケントしゃん……?」
タマキが、震える声でケントを呼ぶ。
だが、答えはない。体力は残っていても、気力が尽きた。気を失ってしまった。
そんな彼を見るタマキの瞳が、みるみるうちに潤んでいく。
「ハハハハハハハハハハハッ! 雪辱、ここに成れり! クハハハハハハハハハ! ケント・ラガルク、貴様は弱い。とんだ雑魚だ! ハハハハハハハハハハハ!」
洞窟内に響く、ドラゴの勝利の哄笑。
世界を超えて果たされた復讐に、彼は心から歓喜していた。しかし、
「うるさいよ、おまえ」
喜びの熱を一瞬で凍てつかせる、冷たい怒りに満ちた声。
倒れたケントを抱きかかえるタマキが発したものだ。彼女は、ドラゴを睨んだ。
「……フン」
ドラゴは、タマキを鼻で笑う。
「私がうるさいとしたら、どうだと?」
上から問うドラゴにタマキは言葉は返さず、ただ、握った拳をギチリと鳴らした。
「ク、フフフ! ケント・ラガルクに守られる程度の小娘が、この私とジュジュガトに勝てると? フハハハハ、思い上がりも甚だしいな! 人間風情が!」
「何でもいい。ケントしゃんをバカにするおまえは潰す」
いつもの陽気さは鳴りをひそめ、その目つきは研ぎ澄まされた刃のよう。
タマキは顔の前で両腕を交差させて、そのままバッと大きく広げる。
「――変身ッ!」
地に風が起こり、空から一条の稲妻が落ちた。
そして炸裂する閃光が消えたとき、そこには純白の戦士が立っていた。
「神威雷童」
「クッフ! どんな異面体を出してくるかと思えば、よりによってケント・ラガルクと同じ装着型か! それで手も足も出なかった男がいたことを忘れ――」
「長いぜ」
異面体を装着したタマキが動こうとする。
ドラゴが反応する。さすがに素早く、そして鋭い。
「ジュジュガト!」
ドラゴの声に反応し、ジュジュガトがタマキを見た。
その全身に、ケントと同じく強大な負荷がかかり動きが止ま――、らない。
「えッ」
「軽いけど?」
短く驚くドラゴの眼前に、タマキはすでに迫っていた。
「これは、ケントしゃんの分のお返し、一発目ェ!」
純白の篭手に覆われたタマキの右拳が、ドラゴの鼻っ面をグシャリと潰す。
「グゥ、おッ!?」
「これで止まると思うなよ?」
のけぞるドラゴへ、さらにタマキは追随する。
ジュジュガトによる重圧を浴びているにも関わらず、動きのキレは全然鈍らない。
「バッ、カな!? ジュジュガトの加重化能力が効いていないだとッ!」
「効いてるよ。すごく重い。でも……、こんなのが何だあァァァァァ――――ッ!」
突き上げられた左アッパーが、ドラゴのあごを的確に打ち抜く。
「げぼァッ!」
なすすべなく浮き上がるドラゴを前に、タマキは、両の拳を強く握りしめた。
「おまえなんかッ、こんなズルしなきゃ、強がれないクセにィィィィィ――――!」
咆哮と共に、タマキによるドラゴへの滅多打ちが開始される。
音よりも早い拳が、巨岩を両断する蹴りが、竜人の体に無限にブチ込まれていく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
ジュジュガトは、相変わらずそのまなこを見開いてタマキをねめつけている。
重圧に包まれているはずだ。全身が重くて仕方がないはずだ。
なのに、それが何だと言わんばかりに、タマキはドラゴを殴り続ける。
殴り、殴って殴って殴って、殴る。蹴って、蹴って蹴って蹴って、蹴り飛ばす。
「おまえの方がずっと雑魚だ! ケントしゃんより、全然弱いんだよォ!」
「グゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオッ、ギアアアァァァァァァァ――――ッ!?」
ドラゴは、ただのサンドバッグと化す。
ジュジュガトも浮いているだけのオブジェとなり、その意味を失った。
異階の中に響くのは、怒声と悲鳴。打撃音と打撃音と打撃音。
途切れることのないその音の中、ようやく少しだけ回復したケントが目を覚ます。
「……全快全癒」
彼は、傷を癒して身を起こす。
手足に装着していたゲキテンロウは、彼が気絶した時点で消えている。
そして彼は見た。
自分が全く敵わなかったドラゴを好き勝手に蹂躙するタマキの姿を。
「あれが、お嬢の異面体……」
初めて見る、純白の全身装着型の異面体。
ドラゴの血で赤く染まったその姿は、ケントなどより遥かに鋭く動いている。
ジュジュガトの過重圧の中にあるはずなのに。
圧倒的。
そう形容する以外になかった。
だって、対策なんてしていない。真っ向からの力業で、敵をねじ伏せている。
強い。強い。強すぎる。
仮に自分が戦ったって、天地が逆転しても勝てっこない。
「何だよ……」
ケントの口元に、ヘラリとした笑みが浮かぶ。
そしてその瞳から、一筋の涙がこぼれた。
「……別に、俺が守る必要、ねぇじゃん」
ああ、やっぱり俺は、誰かの英雄になんてなれやしないんだ。
郷塚賢人の心は、このとき、折れた。
2
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる