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第六章 愛と勇気のデッドリーサマーキャンプ
第124話 二日目/異階/橘颯々のデッドエンド
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場は、静まり返っていた。
だがそれは別に、ケントのやり方に皆が戦慄しているとかではない。
「しかと見届けましたぞ、ケント殿」
「リッベンジ達成ッすね~、ッか~、ケントッさん、チョッつェ~!」
「ふみゅ~ん、竜人ってそんな強くないんだね~」
「いやいや、スダレ姉様、あれはケントさんが強かっただけですって……」
ウチの連中は誰一人、ドラゴの死を前に取り乱していない。
それは、俺とミフユ含め、俺達全員が生きた時代が戦乱の世であったからだ。
人死になど日常茶飯事。
飛び散った死体を目にすることにも慣れている。
場が静まり返っていたのは、ケントの戦いの終わりを見届けたからだ。
戦乱の世に生きた俺達だからこそ、その戦いの持つ意味を図れる。
さて――、
「残るはこいつか」
「ぅひ……ッ!」
俺が見ると、ドラゥル・ゼルケルはビクリと顔を引きつらせた。
今回の一件のほぼ首謀者。ドラゴとドラガに俺達の情報を流してたらしい女。
「ま、ウチに手ェ出したんだ、安らかに死ねるとは――」
「おとしゃん」
収納空間から鉈を取り出そうとする俺に、タマキが声をかけてくる。
「タマキ?」
「オレがやる」
ちょっとビックリした。
普段なら、自ら進んでそんなことを言い出すようなヤツじゃない。
でも、その真剣な面差しに、俺は一歩退く。
今回の一件、当事者はケントとタマキ。なら、終止符を打つべきは俺じゃない。
「わかった。ケジメつけてこい」
「うん!」
そして俺の横を通り過ぎ、タマキはドラゥルの前に立った。
「ドラゥル」
「タマキセンパイ……」
地面にへたり込んだままのドラゥルを見下ろし、タマキは小さく告げる。
「チャンスをやるよ」
「チ、チャンス……?」
「これからの一戦でオレに勝ったら、おまえのモノになってやる」
「――――ッ!」
ドラゥルの目が、大きく見開かれる。
生きて返してやる、ではなく、言うことを聞いてやる、でもなく――、
おまえのモノになってやる。
確かにタマキは、そう言った。
この発言に、それを見ていた他の連中のうち何人かも、驚きを露わにする。
「……タマキ姉様?」
「姉上、何と豪胆な……」
「タマキ姉、だいじょッぶなん? 二人ッがかりで勝ッた相手なんッしょ?」
タクマの心配ももっともだ。
相手の異面体をコピーするという、ドラゥルの異面体の能力。
タマキも、独力では勝てなかった相手だ。
再戦ではあるから、最初からお互いの手の内は割れている。
それでも、タマキが苦戦するのは間違いない。一体、どうするつもりだ。
「フ、フフフ、ウフフフフゥ……」
鎖の戒めを解くと、立ち上がったドラゥルが押し殺した笑いに肩を揺らす。
「センパイはぁ~、おバカさんなんですかぁ~? 一人じゃ、私に勝てなかったのをもう忘れたんですかぁ~? もし忘れてるなら、おバカさんですよねぇ~?」
と、いきなり余裕を取り戻してそんなことを言い出す。
ウチの連中は全員が気まずげに目を逸らした。……まぁ、バカですね。
「何だとォ! オレはバカじゃないからな!」
いや、おまえはバカだよ。間違いなく。
「フフフゥ、いいですよぉ。今一度教えてあげますぅ~、センパイに、私の愛と、この『煌毘神眼』の強さを、しっかりと! 味わわさせてあげますよぉ~!」
その叫びと共に出現する、巨大な楕円形の鏡。
あれが、ドラゥルの異面体。コピー作成能力を持つというキラビカガン、か。
「――変身ッ!」
一方で、タマキも異面体を発現させ、全身を純白の装甲で覆う。
「『神威雷童』!」
俺達全員が知っている、無双無類の最強戦士。白き仮面のカムイライドウ!
――が、あっちにすでにいっぱいいます。
うおおおおお、話には聞いていたが、こうしてみると何コレ、こっわ!?
「え、アレ全部、タマキ姉様と同じ力を持ってるんですかァ!?」
「わ~……」
シイナは驚愕し、スダレも絶句している。
タマキの最強っぷりは、俺達が特によく知っている。だからこそ、これは衝撃的。
え、タマキは一体、これにどうやって勝つつもりなの?
群れるカムイライドウを前に、俺は相対するタマキの方に目を向ける。
すると、タマキは腕組みをして首をひねっていた。
「ん~~~~、どうやって勝とう!」
「おまえ、この土壇場で考えなしかよォォォォォォォォォ――――ッ!?」
バカ! このバカ! おまえ、本当にバカ!
「ウフフフフフゥ~~~~! 今度こそタマキセンパイを私のモノにしてあげますゥ~、飼ってあげますよぅ~、センパイ! 服も選んであげます、料理も作ってあげます、一日のスケジュールも立ててあげますゥ~。ファッションも、喋り方も、好きなモノも嫌いなモノも、全部全部、私が決めてあげますぅ~! センパァ~イ!」
「…………」
イイ感じにキマってるドラゥルを前に、タマキは沈黙を保っている。
タマキとタマキ『達』が互いに向かい合って構え、睨み合う。そのとき――、
「お嬢~、頑張ってくださ~い!」
ケントが、タマキに声援を送る。
するとタマキがピクリと身じろぎし、その周りに力が渦を巻き始め――、おや?
「……ケントしゃんが、応援してくれた」
「くッ、またあの男は……! でも、今回は私とセンパイだけですぅ~、あの男の出る幕はありませんよぉ~。それなら、センパイだけなら私の勝ち――」
「ケントしゃんが応援してくれた」
「はへ?」
渦巻く力がどんどん高まって、タマキの装甲が形を失っていく。
あれ、あれぇ~?
「ケントしゃんが、応援してくれたッ!」
「あの、センパイ? あの、あの? え、そんな、お、応援だけ、で……?」
「ケントしゃんが、応援してくれたァァァァァァ――――ッ!」
ドラゥル含め、ケント以外全員が固まる中、力の渦は光となり、タマキを包む。
そして、仮面の変身ヒーローは、その姿を想像だにしないものへ変える。
「異能態――、『天淨天華』!」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、タマキの異能態だァァァァァァァ――――ッ!?
しかも、何だあの姿。
純白の服に、銀の長髪、瑠璃色の瞳、背中には大きな真っ白い翼。
それは、俺の中にあるタマキのイメージを根底から覆すもので、言葉が出ない。
「……姉様、綺麗すぎます」
「すごいねぇ~、本当に綺麗だぁ~、おタマ姉……」
これには、妹二人も見惚れてしまっている。
だが確かにこれは、ケントが『世界で一番綺麗』と言ったのもうなずける。
「なるほど。これが、最後の一かけら、かぁ――」
「ミフユ?」
何かを納得したようにうなずいているミフユに、俺は眉を寄せる。
気づいたことがあるようにも見受けられるが……。
「多分だけどね」
「おう」
「タマキの『真念』は、きっと『愛情』なのよ」
それもまた、俺は全く予想していなかった言葉だった。
「私達はいつもあの子の『強さ』に目を奪われてたけど、それはあの子の『愛情』の強さだったのね。ずっとずっと、ケントを想い続けていられたあの子の」
「そうか……」
そう言われると、俺も納得できる。
そして思い浮かんだこともあり、ついつい顔がニヤけてしまう。
「何よ、そのニヤけヅラ……」
「いやぁ、あのな」
「声まで弾ませて、何なのよ?」
「俺とおまえの間に生まれた最初の子のタマキの『真念』が、『強さ』じゃなくて実は『愛情』だったのがさ、何かスゲェ嬉しくてさ……」
「な……ッ!?」
ミフユが、一瞬その顔を驚きに染めて言葉を失ってから、俺を叩いてくる。
痛い、痛いんですよ、ミフユさん! 徐々に叩き慣れてきてるよね、おまえェ!?
「何でですかァッッ!?」
真っ白い空間に、悲痛な叫びが響き渡る。
それは、タマキ『達』に囲まれながら独り立ち尽くす、ドラゥルのものだった。
「何で、また『ソレ』なんですかァ! それじゃ、私がセンパイに勝てないじゃないですか! 何でです? 何で、何で何で、どうしてまた邪魔をするんですかァ!」
「別に邪魔はしてないだろ。オレは、最初から負ける気なんてないぜ?」
「う、ぅ、ううううう……、ひどい、ひどいですうよぅ、タマキセンパイ……!」
拳を握るタマキに、ドラゥルはポロポロと涙を零し始める。
「セ、センパイは、あんなにも優しく私を撫でてくれたじゃないですか……、私を愛してくれたのに、何でですぅ? どうして、何でこんなひどい……」
「ん~、おまえはそう言うけどさぁ……」
嘆くドラゥルを前に、タマキは腕を組み、首をひねっている。
そんな何気ない所作すら、今のタマキがすると神々しく見える。『愛情』すごい。
だが、次にタマキが告げたのは、残酷な一言だった。
「オレって、おまえのこと撫でたっけ?」
「えェ……」
大きく開いたままのドラゥルの口から、小さな声が漏れる。
タマキは、いかにも思い出そうとしているような顔だが、首をひねるばかりだ。
「そこがどうにも思い出せないんだよな~。おまえがいたのは覚えてるけど、撫でたか? 本当にそれ、オレだったか? 別人だったりしなかったか?」
「そ、そんなはずないでしょう!? センパイでした、あれは、センパイでしたよぅ! 泣いてる幼い私を、センパイが優しく撫でてくれたんです! だから――」
「覚えてない」
必死に訴えるドラゥルを、タマキが一言で突き放し、突き落とす。
これは、辛いな。
様子を見るに、タマキに撫でられたことが、あの龍人の心の支えっぽいようだ。
なのに、撫でた本人から直に『覚えてない』と言われてしまった。
ドラゥルからすれば、心の支えにしていた本人に、全てをひっくり返された形だ。
「ぁ、あ……」
間抜けに口を空けたままのドラゥルが、涙を大量に溢れさせる。
そして、その周りに、さらにタマキ『達』が増えていく。
「セ、センパイが私を撫でてくれないなら、誰が、私を撫でてくれるんです? だ、だ、誰が、私を、よしよししてくれるんです……? 何で、私には誰もいないんです? ズルいじゃないですか、みんな、隣に誰かいて。私だけ、誰もいないなんて! ズルい、そんなのズルい、ズルいじゃないですかァァァァァァァ――――ッ!」
「真理恵さんが、いただろ」
大声で喚くドラゥルへ、だが、言ったのはタマキではなく、ケントだった。
「あの人は、どんな理由であれ、苦しむ誰かを見捨てる人じゃない。おまえがそんなに苦しんでるなら、真理恵さんに助けを乞えばよかったんだ、ドラゥル・ゼルケル」
「うるさいですよ、ケント・ラガルク。あんな偽善者、見てるだけでイライラするんですよ。あんな女に縋りつけ? どうせ裏で笑うに決まってます!」
血走った目でそう返すドラゥルに、ケントは軽く肩をすくめる。
そして、続けざまの一言が、獣みたいに息を乱すドラゥルにトドメを刺す。
「それじゃあ、おまえは誰にも愛されないよ。この先も、ずっとな」
「ぅぅぅぅぅぅぅ、ああああああああ! ケント・ラガルクゥゥゥゥゥゥ!」
逆上し、我を忘れたドラゥルが、タマキ『達』をケントに差し向けようとする。
だがすでに、その前には純白の翼を広げたタマキが立ちはだかっていた。
「ケントしゃんに何すんだ、おまえェ!」
と、叫んでタマキ『達』の一体を殴れば、他の全てのタマキ『達』も諸共砕ける。
うわぁ、スゲェ、一撃で敵全体を粉砕する力か。とんでもねぇ攻撃特化だ。
「ま、また……」
そして異面体も一緒に粉砕されて、ドラゥルは意識を失うが――、
「今回は、それじゃ終わらせないぜ」
タマキが、倒れようとするドラゥルの両目に右手の人差し指と中指をブチ込む。
グジュと音がして、両目を抉られたドラゥルの体が大きく引きつった。
「ぃ、ギッ、ひぎッ……、セ、センパ……ッ」
そのまま、タマキは残る右手の三指で相手の顔を掴み、自分の方へ引き寄せる。
「おまえの相手は、オレだったはずだぜ? なのに、ケントしゃんを狙いやがって」
「ああああああ、ぅ、ぁ。ぁぁ……!」
怒りに声を硬くして、タマキが勢いよく体を前へと傾ける。
そしてその手に掴んだままの状態で、ドラゥルの頭を地面に叩きつけようとする。
さなか、ドラゥルが弱々しく呟いた。
「――ぁ、あいして」
「やだよ」
バグンッ、というなかなかに派手な叩きつけの音。
ドラゥルの頭は、その一撃によってブッ潰れて、中身が地面にバッと散った。
頭を失った小柄な体が、一度だけ震えた。
「オレが愛してるのは、この世界で一人だけだ」
純白の天使の姿をした猛者は、傲岸不遜にそう告げた。
だがそれは別に、ケントのやり方に皆が戦慄しているとかではない。
「しかと見届けましたぞ、ケント殿」
「リッベンジ達成ッすね~、ッか~、ケントッさん、チョッつェ~!」
「ふみゅ~ん、竜人ってそんな強くないんだね~」
「いやいや、スダレ姉様、あれはケントさんが強かっただけですって……」
ウチの連中は誰一人、ドラゴの死を前に取り乱していない。
それは、俺とミフユ含め、俺達全員が生きた時代が戦乱の世であったからだ。
人死になど日常茶飯事。
飛び散った死体を目にすることにも慣れている。
場が静まり返っていたのは、ケントの戦いの終わりを見届けたからだ。
戦乱の世に生きた俺達だからこそ、その戦いの持つ意味を図れる。
さて――、
「残るはこいつか」
「ぅひ……ッ!」
俺が見ると、ドラゥル・ゼルケルはビクリと顔を引きつらせた。
今回の一件のほぼ首謀者。ドラゴとドラガに俺達の情報を流してたらしい女。
「ま、ウチに手ェ出したんだ、安らかに死ねるとは――」
「おとしゃん」
収納空間から鉈を取り出そうとする俺に、タマキが声をかけてくる。
「タマキ?」
「オレがやる」
ちょっとビックリした。
普段なら、自ら進んでそんなことを言い出すようなヤツじゃない。
でも、その真剣な面差しに、俺は一歩退く。
今回の一件、当事者はケントとタマキ。なら、終止符を打つべきは俺じゃない。
「わかった。ケジメつけてこい」
「うん!」
そして俺の横を通り過ぎ、タマキはドラゥルの前に立った。
「ドラゥル」
「タマキセンパイ……」
地面にへたり込んだままのドラゥルを見下ろし、タマキは小さく告げる。
「チャンスをやるよ」
「チ、チャンス……?」
「これからの一戦でオレに勝ったら、おまえのモノになってやる」
「――――ッ!」
ドラゥルの目が、大きく見開かれる。
生きて返してやる、ではなく、言うことを聞いてやる、でもなく――、
おまえのモノになってやる。
確かにタマキは、そう言った。
この発言に、それを見ていた他の連中のうち何人かも、驚きを露わにする。
「……タマキ姉様?」
「姉上、何と豪胆な……」
「タマキ姉、だいじょッぶなん? 二人ッがかりで勝ッた相手なんッしょ?」
タクマの心配ももっともだ。
相手の異面体をコピーするという、ドラゥルの異面体の能力。
タマキも、独力では勝てなかった相手だ。
再戦ではあるから、最初からお互いの手の内は割れている。
それでも、タマキが苦戦するのは間違いない。一体、どうするつもりだ。
「フ、フフフ、ウフフフフゥ……」
鎖の戒めを解くと、立ち上がったドラゥルが押し殺した笑いに肩を揺らす。
「センパイはぁ~、おバカさんなんですかぁ~? 一人じゃ、私に勝てなかったのをもう忘れたんですかぁ~? もし忘れてるなら、おバカさんですよねぇ~?」
と、いきなり余裕を取り戻してそんなことを言い出す。
ウチの連中は全員が気まずげに目を逸らした。……まぁ、バカですね。
「何だとォ! オレはバカじゃないからな!」
いや、おまえはバカだよ。間違いなく。
「フフフゥ、いいですよぉ。今一度教えてあげますぅ~、センパイに、私の愛と、この『煌毘神眼』の強さを、しっかりと! 味わわさせてあげますよぉ~!」
その叫びと共に出現する、巨大な楕円形の鏡。
あれが、ドラゥルの異面体。コピー作成能力を持つというキラビカガン、か。
「――変身ッ!」
一方で、タマキも異面体を発現させ、全身を純白の装甲で覆う。
「『神威雷童』!」
俺達全員が知っている、無双無類の最強戦士。白き仮面のカムイライドウ!
――が、あっちにすでにいっぱいいます。
うおおおおお、話には聞いていたが、こうしてみると何コレ、こっわ!?
「え、アレ全部、タマキ姉様と同じ力を持ってるんですかァ!?」
「わ~……」
シイナは驚愕し、スダレも絶句している。
タマキの最強っぷりは、俺達が特によく知っている。だからこそ、これは衝撃的。
え、タマキは一体、これにどうやって勝つつもりなの?
群れるカムイライドウを前に、俺は相対するタマキの方に目を向ける。
すると、タマキは腕組みをして首をひねっていた。
「ん~~~~、どうやって勝とう!」
「おまえ、この土壇場で考えなしかよォォォォォォォォォ――――ッ!?」
バカ! このバカ! おまえ、本当にバカ!
「ウフフフフフゥ~~~~! 今度こそタマキセンパイを私のモノにしてあげますゥ~、飼ってあげますよぅ~、センパイ! 服も選んであげます、料理も作ってあげます、一日のスケジュールも立ててあげますゥ~。ファッションも、喋り方も、好きなモノも嫌いなモノも、全部全部、私が決めてあげますぅ~! センパァ~イ!」
「…………」
イイ感じにキマってるドラゥルを前に、タマキは沈黙を保っている。
タマキとタマキ『達』が互いに向かい合って構え、睨み合う。そのとき――、
「お嬢~、頑張ってくださ~い!」
ケントが、タマキに声援を送る。
するとタマキがピクリと身じろぎし、その周りに力が渦を巻き始め――、おや?
「……ケントしゃんが、応援してくれた」
「くッ、またあの男は……! でも、今回は私とセンパイだけですぅ~、あの男の出る幕はありませんよぉ~。それなら、センパイだけなら私の勝ち――」
「ケントしゃんが応援してくれた」
「はへ?」
渦巻く力がどんどん高まって、タマキの装甲が形を失っていく。
あれ、あれぇ~?
「ケントしゃんが、応援してくれたッ!」
「あの、センパイ? あの、あの? え、そんな、お、応援だけ、で……?」
「ケントしゃんが、応援してくれたァァァァァァ――――ッ!」
ドラゥル含め、ケント以外全員が固まる中、力の渦は光となり、タマキを包む。
そして、仮面の変身ヒーローは、その姿を想像だにしないものへ変える。
「異能態――、『天淨天華』!」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、タマキの異能態だァァァァァァァ――――ッ!?
しかも、何だあの姿。
純白の服に、銀の長髪、瑠璃色の瞳、背中には大きな真っ白い翼。
それは、俺の中にあるタマキのイメージを根底から覆すもので、言葉が出ない。
「……姉様、綺麗すぎます」
「すごいねぇ~、本当に綺麗だぁ~、おタマ姉……」
これには、妹二人も見惚れてしまっている。
だが確かにこれは、ケントが『世界で一番綺麗』と言ったのもうなずける。
「なるほど。これが、最後の一かけら、かぁ――」
「ミフユ?」
何かを納得したようにうなずいているミフユに、俺は眉を寄せる。
気づいたことがあるようにも見受けられるが……。
「多分だけどね」
「おう」
「タマキの『真念』は、きっと『愛情』なのよ」
それもまた、俺は全く予想していなかった言葉だった。
「私達はいつもあの子の『強さ』に目を奪われてたけど、それはあの子の『愛情』の強さだったのね。ずっとずっと、ケントを想い続けていられたあの子の」
「そうか……」
そう言われると、俺も納得できる。
そして思い浮かんだこともあり、ついつい顔がニヤけてしまう。
「何よ、そのニヤけヅラ……」
「いやぁ、あのな」
「声まで弾ませて、何なのよ?」
「俺とおまえの間に生まれた最初の子のタマキの『真念』が、『強さ』じゃなくて実は『愛情』だったのがさ、何かスゲェ嬉しくてさ……」
「な……ッ!?」
ミフユが、一瞬その顔を驚きに染めて言葉を失ってから、俺を叩いてくる。
痛い、痛いんですよ、ミフユさん! 徐々に叩き慣れてきてるよね、おまえェ!?
「何でですかァッッ!?」
真っ白い空間に、悲痛な叫びが響き渡る。
それは、タマキ『達』に囲まれながら独り立ち尽くす、ドラゥルのものだった。
「何で、また『ソレ』なんですかァ! それじゃ、私がセンパイに勝てないじゃないですか! 何でです? 何で、何で何で、どうしてまた邪魔をするんですかァ!」
「別に邪魔はしてないだろ。オレは、最初から負ける気なんてないぜ?」
「う、ぅ、ううううう……、ひどい、ひどいですうよぅ、タマキセンパイ……!」
拳を握るタマキに、ドラゥルはポロポロと涙を零し始める。
「セ、センパイは、あんなにも優しく私を撫でてくれたじゃないですか……、私を愛してくれたのに、何でですぅ? どうして、何でこんなひどい……」
「ん~、おまえはそう言うけどさぁ……」
嘆くドラゥルを前に、タマキは腕を組み、首をひねっている。
そんな何気ない所作すら、今のタマキがすると神々しく見える。『愛情』すごい。
だが、次にタマキが告げたのは、残酷な一言だった。
「オレって、おまえのこと撫でたっけ?」
「えェ……」
大きく開いたままのドラゥルの口から、小さな声が漏れる。
タマキは、いかにも思い出そうとしているような顔だが、首をひねるばかりだ。
「そこがどうにも思い出せないんだよな~。おまえがいたのは覚えてるけど、撫でたか? 本当にそれ、オレだったか? 別人だったりしなかったか?」
「そ、そんなはずないでしょう!? センパイでした、あれは、センパイでしたよぅ! 泣いてる幼い私を、センパイが優しく撫でてくれたんです! だから――」
「覚えてない」
必死に訴えるドラゥルを、タマキが一言で突き放し、突き落とす。
これは、辛いな。
様子を見るに、タマキに撫でられたことが、あの龍人の心の支えっぽいようだ。
なのに、撫でた本人から直に『覚えてない』と言われてしまった。
ドラゥルからすれば、心の支えにしていた本人に、全てをひっくり返された形だ。
「ぁ、あ……」
間抜けに口を空けたままのドラゥルが、涙を大量に溢れさせる。
そして、その周りに、さらにタマキ『達』が増えていく。
「セ、センパイが私を撫でてくれないなら、誰が、私を撫でてくれるんです? だ、だ、誰が、私を、よしよししてくれるんです……? 何で、私には誰もいないんです? ズルいじゃないですか、みんな、隣に誰かいて。私だけ、誰もいないなんて! ズルい、そんなのズルい、ズルいじゃないですかァァァァァァァ――――ッ!」
「真理恵さんが、いただろ」
大声で喚くドラゥルへ、だが、言ったのはタマキではなく、ケントだった。
「あの人は、どんな理由であれ、苦しむ誰かを見捨てる人じゃない。おまえがそんなに苦しんでるなら、真理恵さんに助けを乞えばよかったんだ、ドラゥル・ゼルケル」
「うるさいですよ、ケント・ラガルク。あんな偽善者、見てるだけでイライラするんですよ。あんな女に縋りつけ? どうせ裏で笑うに決まってます!」
血走った目でそう返すドラゥルに、ケントは軽く肩をすくめる。
そして、続けざまの一言が、獣みたいに息を乱すドラゥルにトドメを刺す。
「それじゃあ、おまえは誰にも愛されないよ。この先も、ずっとな」
「ぅぅぅぅぅぅぅ、ああああああああ! ケント・ラガルクゥゥゥゥゥゥ!」
逆上し、我を忘れたドラゥルが、タマキ『達』をケントに差し向けようとする。
だがすでに、その前には純白の翼を広げたタマキが立ちはだかっていた。
「ケントしゃんに何すんだ、おまえェ!」
と、叫んでタマキ『達』の一体を殴れば、他の全てのタマキ『達』も諸共砕ける。
うわぁ、スゲェ、一撃で敵全体を粉砕する力か。とんでもねぇ攻撃特化だ。
「ま、また……」
そして異面体も一緒に粉砕されて、ドラゥルは意識を失うが――、
「今回は、それじゃ終わらせないぜ」
タマキが、倒れようとするドラゥルの両目に右手の人差し指と中指をブチ込む。
グジュと音がして、両目を抉られたドラゥルの体が大きく引きつった。
「ぃ、ギッ、ひぎッ……、セ、センパ……ッ」
そのまま、タマキは残る右手の三指で相手の顔を掴み、自分の方へ引き寄せる。
「おまえの相手は、オレだったはずだぜ? なのに、ケントしゃんを狙いやがって」
「ああああああ、ぅ、ぁ。ぁぁ……!」
怒りに声を硬くして、タマキが勢いよく体を前へと傾ける。
そしてその手に掴んだままの状態で、ドラゥルの頭を地面に叩きつけようとする。
さなか、ドラゥルが弱々しく呟いた。
「――ぁ、あいして」
「やだよ」
バグンッ、というなかなかに派手な叩きつけの音。
ドラゥルの頭は、その一撃によってブッ潰れて、中身が地面にバッと散った。
頭を失った小柄な体が、一度だけ震えた。
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「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
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