141 / 166
幕間 緊急招集、金鐘崎アキラを弾劾せよ!
第132話 傭兵にテーブルマナーを求めるな
しおりを挟む
夏の終わりは近づいても、アイスはやっぱり甘くておいしい。
「ジャンケン、ポン! あいこでしょ!」
「しょ~! の、ぽい~!」
こちら、残り一つのチョコアイスを巡って死闘を繰り広げるシイナとひなたの図。
負けた方がバニラアイスなので、どっちもハズレではないんだがなー。
「くッ、やりますね、ひなたちゃん! 四歳でこれとは、末恐ろしい子!?」
「フフフフ、わかるか、シイナ、我が妹よ! ひなたの利発さがわかるかッ!」
すごいなこの会話。バカと親バカしかいねぇ。
「おシイちゃん、こっちの世界に来てから何かはっちゃけた気がするねぇ~」
チョコミントの棒アイスをかじりつつ、スダレがしみじみ述べる。
やっぱそう思うか。俺もだわ。……チョコチップアイスうめぇ。
「ぽ~い。あ、かった~」
「ああああああああああああああ、私のチョコアイスがあああああああああああ!」
「ひなた、よくぞ! 今日という日をアイス戦勝記念日に制定しようぞ!」
できるもんならやってみろや、商社マン。
「平和ね~」
崩れ落ちるシイナの方には目をやらず、ミフユがのんびり言う。
ちなみに――、
『……甘いのう。これがこの世界の氷菓子か! うむ、実によし!』
ガルさんも、アイスを食っています。
不思議だぜ~。フワフワ浮いてるアイスが、少しずつ欠けていく光景。
「そッいえばよ、今ッとこ、ガルさん登場してねッじゃん? マッジで証人なん?」
そんな疑問を、タクマが投げてくる。
まぁ、ここまではガルさんは登場してないね。でも、いいタイミングの質問だ。
「次からさ、ガルさんが出てくるのは。だよなぁ?」
『うむ。そういえばそうじゃったわい。忘れてはおらんぞ~、あの日のことは』
大体みんなアイス食べ終わったし、そろそろ続き行くかー。
「さて、ラーミュ・クレヴォスのストーキングは、徹底して無視した。で、だ――」
俺は、話を再開する。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……仕事が数倍に増えた。
やった、フィーバータイム入った! 稼ぎどき!
と、思ったのも束の間、仕事が仕事が仕事が仕事が仕事が仕事が途切れない!
昨日は大陸南部に飛び、今日は大陸北部に飛び、明日はまた南部!
次の日は西武、さらに次の日は北部でダンジョンアタック! 家に、帰れん……!
「あ~、これ、クレヴォスからの報復かぁ」
って気づいたのは、フィーバータイム入って二週間後くらいかな。
それだけ家に帰れない日が続くと、さすがに疑問も湧いてくるワケだわ。
家の方は、ケントに任せていた。
だから心配はしてなかったんだけど、さすがに新婚で二週間会えないのはキツイ。
もうね~、飢えたね。ミフユに飢えた。
戦場にいる敵味方全部がミフユに見えたときはヤバかったです。
特に疲れはなかったけど、ミフユ不足は深刻だった。
ミフユからしか摂取できない栄養素が確実にあ……、痛ァい!? ぶたないで!
ま、まぁ、とにかく、俺はバルボからの報復で忙殺されたワケだ。
仕事の斡旋については、傭兵でしかない俺達は口を出せない。そこを突かれた。
そして、そうやって俺を引き離した隙に、ミフユを狙ったワケだ。
表向きは強盗ってコトにして、俺達が使ってた屋敷に手勢を向かわせたんだよ。
ラーミュって娘も相当ねじれてるが、それも父親の影響なんだろうな。
なまじ、成功しかしてないから、自分のやることは絶対にうまくいくと考えてる。
当然、そうそううまくいかせるワケもない。
あのときは、ケントに世話になったよ。やっぱ守りに入ると強いわ。
侵入した強盗、ことごとくブチのめしてくれたからな。
そして三週間経って、ようやく俺はクレヴォスタリアに帰還した。
そこで初めて強盗のことを知らされて、キレかけたわ。
当たり前だよねー。
よりによってミフユに手ェ出そうとしたんだから、ねぇ?
でも、そのミフユ本人が、俺を止めた。
「きっともう少ししたら、最高のタイミングが来るわ」
――ってさ。
このときのミフユには、何が見えてたんだろうな。今でも知りたいわ。
あ、そこまでは覚えてない?
そうっすか……。ちょっと残念だわ、まぁ昔の話だしなぁ。
ただ、結果的には見事にミフユの言葉通りになった。
バルボからお誘いがあった。
俺一人、食事の誘いだ。ラーミュも同席とのことで、これは行くしかないわな。
場所はクレヴォスタリアでも一番高いレストラン。
盛装の上、ご来場くださいってあったから、持ってったよ、ガルさん!
では、当時の様子を詳しくいってみよ~か~。
「わぁ~、高そうなお店~。絶対作法とかうるさく言われるわ~」
『それは偏見ではないか、我が主? ……とはいえ、俺様が振るわれるには狭いな』
そのとき、俺は言われた通りに盛装していた。
戦場で身に着ける愛用の防具と、神喰の刃ガルザント・ルドラでな。
猪口才なことによ、クレヴォスタリアには『異階化封じ』の結界が張られてる。
メチャ高の維持費がかかる金食い虫だが、おかげで異面体が使えない。
これもまた、クレヴォス商会の権勢を示す仕掛けなワケだな。
店の前に立った俺に、入り口にいた店員はギョッと目を剥いた。
周りがいかにも高級そうな服装の連中だらけの中、俺だけ戦場装備だったからな。
「お、お客様……?」
「アキラ・バーンズだ。言われた通り盛装してきた。入るぜ」
用心棒も兼ねていたであろうその店員は、そのまま俺を通した。
まぁまぁお利口さんな用心棒だったよ。止めてりゃ左右二分割してたからな、俺。
店に入ると、楽団の生で演奏してたよ。
俺が入ってきたの見たら、みんな楽器弾くのやめたけど。笑うわ。
他の客がドンビキする中、俺はズカズカ大股に歩いて、指定の席に行った。
そこには、バルボとラーミュの父娘がいたよ。娘の方は、派手に着飾ってたな。
ラーミュは、俺の姿に仰天していた。
だが一方で父親のバルボは、俺の姿を見るなり満足そうに笑いやがった。
バルボは、小柄で痩せた男だ。
しかし、商人という割になかなかの気骨を持っている。
「来たぜ、バルボさん。本日はお招きいただいありがとうございます」
「やぁ、来てくれたかい。……フフフ、想像以上だよ、アキラ君」
ラーミュとバルボは、椅子に座ったままだった。
店員が、俺の分の椅子を引いて、座るように求めてくる。
だから俺は、クロスが敷かれたテーブルにガルさんを叩きつけてやった。
テーブルも、一撃でサックリ両断だ。周りはさすがにビビってたな。
「おやおや、手荒いね、アキラ君」
「バルボさん、ウチの屋敷に強盗が入ったらしいんですよ」
「聞いているとも。物騒なことだね」
「そうっすねぇ。街で一番治安がいい区画にある、千人の異名持ちの中の序列一位である俺が住んでると皆が知ってる家に強盗ですからねー、物騒ですわ」
「君の家族が無事で何よりだ。衛兵達は叱っておくよ」
「そうしてもらえると助かります――、なんて言うかよ。あんた、何がしたい?」
俺は、ド直球にきいた。
元より腹芸など俺の好むところではない。
「そっちの娘さん使って変な噂流させたり、俺だけ仕事増やして街から引き離したり、その隙に手勢使って強盗装ってウチの嫁さん狙ったり、何がしたいんだよ」
「ン~? フフフ、何のことかわからないが、君は非常に優れた傭兵だが、やはりまだまだ若いなぁ。そこでそうして地金を晒してしまう辺り、特に」
うわぁ、答えになってねぇ~。って思ったね。
ただ、一つ確信したことがある。
バルボは俺を脅威と見なしていない。自分は確実に勝てると踏んでいる。
だから、これだけ余裕があるのだろう。
短い会話でしかなかったが、それはありありと感じとれた。
そして小柄な商人は、俺に自らの目論見を告げる。
「アキラ君、私はね、君にクレヴォス商会を継いでほしいんだよ」
「はぁ? 何言ってんすか、あんた?」
「君には意味がわからないかもしれないが、私は本気だ。クレヴォス商会はまだまだ大きくなる。いずれは国に匹敵するほどに。だが、そうなるとどうしても考えなければならないことがある。後継者だ。私にはラーミュしか子供がいなくてねぇ……」
「で? だから、何すか?」
チラリとこっちを見るバルボの視線から、言いたいことはおおよそ伝わってくる。
だが、俺はすでに結婚済みだっつーワケでして、
「私はね、アキラ君。君こそが商会を継ぐに相応しい男と見込んでいるんだよ」
「はぁ、節穴ですね」
俺は言ったが、バルボはまともに取り合わず、言葉を続ける。
「そんなことはない。事実。今だってこうして皆を驚かせているじゃないか。。君だからこそできることだ。そんな君が、娘のラーミュと一緒になってくれたら、私としてはこの上なく喜ばしいのだがねぇ。なぁ、ラーミュ?」
「はい……」
オイオイ、マジかこの父親。マジかこの娘。
こちとら魔剣持った完全武装でレストランに来てるんですけどねぇ。
ラーミュは、頬を赤らめらせて伏し目がちにうなずいていた。
その表情が語るものを、俺はよく知っている。しかしだ、
「俺、嫁さんいますけど?」
「ああ、あれはいらん」
一転して、バルボは興味なさげにそう呟き捨てた。
「世界最高値の女か知らんが、君には全く不釣り合いだ。所詮は商売女。どれだけ飾ろうと、卑賎の身に過ぎん。君のような傑物がどうしてあんな女を妻としたのか、それだけは理解できんよ。君に似合うのは、ラーミュのような女性だと思うがね?」
「へぇ、そうっすか。ウチの嫁は卑賎ですか。そうっすか」
俺は、笑顔を作ってそれだけ返す。
そのときの俺の内心? 言うまでもないよね?
「何なら、私が金を出そうか? 手切れ金の話だ。君がラーミュを選ぶなら、言い値を支払ってやってもいいぞ。君を手に入れられるなら幾ら払っても安いものだ」
「うん、そっか。わかった」
顔に貼りつけていた作り物の笑みが、本物に切り替わる。
清々しい気分になりながら、俺はバルボに対して朗らかに告げた。
「あんた、今、俺の恨みを買ったぞ」
「そうかね。どうやら今の君は頭が煮えているようだな。残念だよ」
ここで動じないバルボもまぁまぁ大したもんだが、そんなことはどうでもいい。
俺は踵を返し、店を立ち去ろうとする。その背に、ラーミュが言葉を投げてくる。
「バーンズ様、あなたの伴侶に相応しいのは、わたくしですわ。あのような卑賎な女、あなた様の妻でいる資格などありません。どうか、目を覚ましてくださいまし」
俺は、満面の笑みを浮かべたまま、肩越しに振り返って一言だけ返す。
「その言葉、よく覚えておくよ」
そして今度こそ去ろうとする俺へと、バルボが告げる。
「こちらには998人の異名持ちがいる。力に訴える選択は、非常に愚かで馬鹿げたモノであることを認識しておいてくれたまえ」
俺は、答えずに店を出た。
すると、それまで沈黙を保っていたガルさんが、俺に尋ねてくる。
『何故、あそこで仕留めなかった?』
「決まってるだろ」
顔に浮かぶ笑みが、徐々に歪み、獣じみたものへと変わっていくのを自覚する。
ああ、本当に、ミフユは最高の嫁だ。
あいつは俺のことをきちんと理解してくれている。
今の状況こそまさしく、あいつが言っていた『最高のタイミング』だ。
そう、俺の中にドス黒い『怒り』が煮え滾る、今こそが――。
「クレヴォス父娘は、商会を潰したあとで最後に殺すからだよ」
さぁ、仕返しの時間だ。
「ジャンケン、ポン! あいこでしょ!」
「しょ~! の、ぽい~!」
こちら、残り一つのチョコアイスを巡って死闘を繰り広げるシイナとひなたの図。
負けた方がバニラアイスなので、どっちもハズレではないんだがなー。
「くッ、やりますね、ひなたちゃん! 四歳でこれとは、末恐ろしい子!?」
「フフフフ、わかるか、シイナ、我が妹よ! ひなたの利発さがわかるかッ!」
すごいなこの会話。バカと親バカしかいねぇ。
「おシイちゃん、こっちの世界に来てから何かはっちゃけた気がするねぇ~」
チョコミントの棒アイスをかじりつつ、スダレがしみじみ述べる。
やっぱそう思うか。俺もだわ。……チョコチップアイスうめぇ。
「ぽ~い。あ、かった~」
「ああああああああああああああ、私のチョコアイスがあああああああああああ!」
「ひなた、よくぞ! 今日という日をアイス戦勝記念日に制定しようぞ!」
できるもんならやってみろや、商社マン。
「平和ね~」
崩れ落ちるシイナの方には目をやらず、ミフユがのんびり言う。
ちなみに――、
『……甘いのう。これがこの世界の氷菓子か! うむ、実によし!』
ガルさんも、アイスを食っています。
不思議だぜ~。フワフワ浮いてるアイスが、少しずつ欠けていく光景。
「そッいえばよ、今ッとこ、ガルさん登場してねッじゃん? マッジで証人なん?」
そんな疑問を、タクマが投げてくる。
まぁ、ここまではガルさんは登場してないね。でも、いいタイミングの質問だ。
「次からさ、ガルさんが出てくるのは。だよなぁ?」
『うむ。そういえばそうじゃったわい。忘れてはおらんぞ~、あの日のことは』
大体みんなアイス食べ終わったし、そろそろ続き行くかー。
「さて、ラーミュ・クレヴォスのストーキングは、徹底して無視した。で、だ――」
俺は、話を再開する。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
……仕事が数倍に増えた。
やった、フィーバータイム入った! 稼ぎどき!
と、思ったのも束の間、仕事が仕事が仕事が仕事が仕事が仕事が途切れない!
昨日は大陸南部に飛び、今日は大陸北部に飛び、明日はまた南部!
次の日は西武、さらに次の日は北部でダンジョンアタック! 家に、帰れん……!
「あ~、これ、クレヴォスからの報復かぁ」
って気づいたのは、フィーバータイム入って二週間後くらいかな。
それだけ家に帰れない日が続くと、さすがに疑問も湧いてくるワケだわ。
家の方は、ケントに任せていた。
だから心配はしてなかったんだけど、さすがに新婚で二週間会えないのはキツイ。
もうね~、飢えたね。ミフユに飢えた。
戦場にいる敵味方全部がミフユに見えたときはヤバかったです。
特に疲れはなかったけど、ミフユ不足は深刻だった。
ミフユからしか摂取できない栄養素が確実にあ……、痛ァい!? ぶたないで!
ま、まぁ、とにかく、俺はバルボからの報復で忙殺されたワケだ。
仕事の斡旋については、傭兵でしかない俺達は口を出せない。そこを突かれた。
そして、そうやって俺を引き離した隙に、ミフユを狙ったワケだ。
表向きは強盗ってコトにして、俺達が使ってた屋敷に手勢を向かわせたんだよ。
ラーミュって娘も相当ねじれてるが、それも父親の影響なんだろうな。
なまじ、成功しかしてないから、自分のやることは絶対にうまくいくと考えてる。
当然、そうそううまくいかせるワケもない。
あのときは、ケントに世話になったよ。やっぱ守りに入ると強いわ。
侵入した強盗、ことごとくブチのめしてくれたからな。
そして三週間経って、ようやく俺はクレヴォスタリアに帰還した。
そこで初めて強盗のことを知らされて、キレかけたわ。
当たり前だよねー。
よりによってミフユに手ェ出そうとしたんだから、ねぇ?
でも、そのミフユ本人が、俺を止めた。
「きっともう少ししたら、最高のタイミングが来るわ」
――ってさ。
このときのミフユには、何が見えてたんだろうな。今でも知りたいわ。
あ、そこまでは覚えてない?
そうっすか……。ちょっと残念だわ、まぁ昔の話だしなぁ。
ただ、結果的には見事にミフユの言葉通りになった。
バルボからお誘いがあった。
俺一人、食事の誘いだ。ラーミュも同席とのことで、これは行くしかないわな。
場所はクレヴォスタリアでも一番高いレストラン。
盛装の上、ご来場くださいってあったから、持ってったよ、ガルさん!
では、当時の様子を詳しくいってみよ~か~。
「わぁ~、高そうなお店~。絶対作法とかうるさく言われるわ~」
『それは偏見ではないか、我が主? ……とはいえ、俺様が振るわれるには狭いな』
そのとき、俺は言われた通りに盛装していた。
戦場で身に着ける愛用の防具と、神喰の刃ガルザント・ルドラでな。
猪口才なことによ、クレヴォスタリアには『異階化封じ』の結界が張られてる。
メチャ高の維持費がかかる金食い虫だが、おかげで異面体が使えない。
これもまた、クレヴォス商会の権勢を示す仕掛けなワケだな。
店の前に立った俺に、入り口にいた店員はギョッと目を剥いた。
周りがいかにも高級そうな服装の連中だらけの中、俺だけ戦場装備だったからな。
「お、お客様……?」
「アキラ・バーンズだ。言われた通り盛装してきた。入るぜ」
用心棒も兼ねていたであろうその店員は、そのまま俺を通した。
まぁまぁお利口さんな用心棒だったよ。止めてりゃ左右二分割してたからな、俺。
店に入ると、楽団の生で演奏してたよ。
俺が入ってきたの見たら、みんな楽器弾くのやめたけど。笑うわ。
他の客がドンビキする中、俺はズカズカ大股に歩いて、指定の席に行った。
そこには、バルボとラーミュの父娘がいたよ。娘の方は、派手に着飾ってたな。
ラーミュは、俺の姿に仰天していた。
だが一方で父親のバルボは、俺の姿を見るなり満足そうに笑いやがった。
バルボは、小柄で痩せた男だ。
しかし、商人という割になかなかの気骨を持っている。
「来たぜ、バルボさん。本日はお招きいただいありがとうございます」
「やぁ、来てくれたかい。……フフフ、想像以上だよ、アキラ君」
ラーミュとバルボは、椅子に座ったままだった。
店員が、俺の分の椅子を引いて、座るように求めてくる。
だから俺は、クロスが敷かれたテーブルにガルさんを叩きつけてやった。
テーブルも、一撃でサックリ両断だ。周りはさすがにビビってたな。
「おやおや、手荒いね、アキラ君」
「バルボさん、ウチの屋敷に強盗が入ったらしいんですよ」
「聞いているとも。物騒なことだね」
「そうっすねぇ。街で一番治安がいい区画にある、千人の異名持ちの中の序列一位である俺が住んでると皆が知ってる家に強盗ですからねー、物騒ですわ」
「君の家族が無事で何よりだ。衛兵達は叱っておくよ」
「そうしてもらえると助かります――、なんて言うかよ。あんた、何がしたい?」
俺は、ド直球にきいた。
元より腹芸など俺の好むところではない。
「そっちの娘さん使って変な噂流させたり、俺だけ仕事増やして街から引き離したり、その隙に手勢使って強盗装ってウチの嫁さん狙ったり、何がしたいんだよ」
「ン~? フフフ、何のことかわからないが、君は非常に優れた傭兵だが、やはりまだまだ若いなぁ。そこでそうして地金を晒してしまう辺り、特に」
うわぁ、答えになってねぇ~。って思ったね。
ただ、一つ確信したことがある。
バルボは俺を脅威と見なしていない。自分は確実に勝てると踏んでいる。
だから、これだけ余裕があるのだろう。
短い会話でしかなかったが、それはありありと感じとれた。
そして小柄な商人は、俺に自らの目論見を告げる。
「アキラ君、私はね、君にクレヴォス商会を継いでほしいんだよ」
「はぁ? 何言ってんすか、あんた?」
「君には意味がわからないかもしれないが、私は本気だ。クレヴォス商会はまだまだ大きくなる。いずれは国に匹敵するほどに。だが、そうなるとどうしても考えなければならないことがある。後継者だ。私にはラーミュしか子供がいなくてねぇ……」
「で? だから、何すか?」
チラリとこっちを見るバルボの視線から、言いたいことはおおよそ伝わってくる。
だが、俺はすでに結婚済みだっつーワケでして、
「私はね、アキラ君。君こそが商会を継ぐに相応しい男と見込んでいるんだよ」
「はぁ、節穴ですね」
俺は言ったが、バルボはまともに取り合わず、言葉を続ける。
「そんなことはない。事実。今だってこうして皆を驚かせているじゃないか。。君だからこそできることだ。そんな君が、娘のラーミュと一緒になってくれたら、私としてはこの上なく喜ばしいのだがねぇ。なぁ、ラーミュ?」
「はい……」
オイオイ、マジかこの父親。マジかこの娘。
こちとら魔剣持った完全武装でレストランに来てるんですけどねぇ。
ラーミュは、頬を赤らめらせて伏し目がちにうなずいていた。
その表情が語るものを、俺はよく知っている。しかしだ、
「俺、嫁さんいますけど?」
「ああ、あれはいらん」
一転して、バルボは興味なさげにそう呟き捨てた。
「世界最高値の女か知らんが、君には全く不釣り合いだ。所詮は商売女。どれだけ飾ろうと、卑賎の身に過ぎん。君のような傑物がどうしてあんな女を妻としたのか、それだけは理解できんよ。君に似合うのは、ラーミュのような女性だと思うがね?」
「へぇ、そうっすか。ウチの嫁は卑賎ですか。そうっすか」
俺は、笑顔を作ってそれだけ返す。
そのときの俺の内心? 言うまでもないよね?
「何なら、私が金を出そうか? 手切れ金の話だ。君がラーミュを選ぶなら、言い値を支払ってやってもいいぞ。君を手に入れられるなら幾ら払っても安いものだ」
「うん、そっか。わかった」
顔に貼りつけていた作り物の笑みが、本物に切り替わる。
清々しい気分になりながら、俺はバルボに対して朗らかに告げた。
「あんた、今、俺の恨みを買ったぞ」
「そうかね。どうやら今の君は頭が煮えているようだな。残念だよ」
ここで動じないバルボもまぁまぁ大したもんだが、そんなことはどうでもいい。
俺は踵を返し、店を立ち去ろうとする。その背に、ラーミュが言葉を投げてくる。
「バーンズ様、あなたの伴侶に相応しいのは、わたくしですわ。あのような卑賎な女、あなた様の妻でいる資格などありません。どうか、目を覚ましてくださいまし」
俺は、満面の笑みを浮かべたまま、肩越しに振り返って一言だけ返す。
「その言葉、よく覚えておくよ」
そして今度こそ去ろうとする俺へと、バルボが告げる。
「こちらには998人の異名持ちがいる。力に訴える選択は、非常に愚かで馬鹿げたモノであることを認識しておいてくれたまえ」
俺は、答えずに店を出た。
すると、それまで沈黙を保っていたガルさんが、俺に尋ねてくる。
『何故、あそこで仕留めなかった?』
「決まってるだろ」
顔に浮かぶ笑みが、徐々に歪み、獣じみたものへと変わっていくのを自覚する。
ああ、本当に、ミフユは最高の嫁だ。
あいつは俺のことをきちんと理解してくれている。
今の状況こそまさしく、あいつが言っていた『最高のタイミング』だ。
そう、俺の中にドス黒い『怒り』が煮え滾る、今こそが――。
「クレヴォス父娘は、商会を潰したあとで最後に殺すからだよ」
さぁ、仕返しの時間だ。
1
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る
丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。
現代では中世近世史を研究する大学講師。
史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。
ならば変える。
剣でも戦でもない。
政治と制度、国家設計によって。
秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、
戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。
これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。
戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。
(2月15日記)
連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。
一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
(当面、月、水、金、土、日の更新)
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる