黒き魔王のヒストリア~人と魔族となりきりロールプレイヤーの魔王様と使い魔の私~

はんぺん千代丸

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4.魔王様の訴えとその結末

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 人類最大国家エルクロニア王都エルダーンの王宮前広場にて。

「僕の名は魔王ディギディオン・ガレニウス! この国は狙われている!」

 ドドーン、と、わざわざ魔法で雷鳴の効果までつけての、我が主のお知らせ。
 その傍らには私。ちなみに姿は、巨大化したワイバーンのまま。

「人類の皆さん、ピンチです! 魔王軍が攻めてきますよ!」

 今度は効果音をガガーンに変えて、我が主がもう一回お知らせをする。
 広場には、多くの人間が集まっていて、皆、我が主と私の方を見て固まっている。

「…………」
「…………」
「「「…………」」」

 沈黙。静寂。そこに重なるさらなる沈黙。静寂。
 その惨憺たる現状を目の当たりにして、私は我が主に向かって一言、念話を飛ばす。

『何してんの、おまえ?』
「え、いや……」

 我が主から返ってきたのは、戸惑いに満ちた声。何だよ、その反応は……?

『早く『とっておき』とやらをやってくれ、我が主。この空気は私が辛い』
「もうやったんだ」

『え?』
「だから、もうやったんだよ。とっておきの方法」

 は?

「うん、だからね。人がたくさんいるところに急に空から現れて危機を訴えるんだ」

 はぁ。

「そうするとみんな何事かって注目するでしょ?」

 まぁ、そうだな。

「で、そこに偶然通りかかったヒロインの王女に声をかけられて王宮に足を運ぶことになった主人公のカインが、国王に直接人類の危機を知らせるっていう展開が――」
『それがとっておき!? それ、おまえが先週読んでた小説のネタだろうがッ!』

「あ、それそれ。よく覚えてたね~! ミルコ・フェデリカ著『逃亡者カインと七人の戦姫』の第一章の展開ね! あれでやってた方法だから、イケると思ったんだよ!」
『イケるかッ! フィクションと現実の区別をつけろ、このおバカ~!』

「でも、遥か東の鉄桜国のことわざに『事実は小説より奇なり』っていう――」
『今一番奇なりなのは間違いなくこの現状を生み出したおまえだよ!』

 呆れる。もう、マジ呆れる。
 これを本気で言ってるのが最高に我が主だよ。誉め言葉じゃないぞ。

 そも、我が主は逃亡者ではなく純然たる魔王だろうが……。
 魔王自らが人類に魔族の来襲を知らせるなど、それはむしろ――、ん? むしろ?

『あ』

 と、気づいた瞬間、場が弾けた。

「「「ま、魔族だあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」」」

 絶叫。悲鳴。混乱。
 泣く子供。逃げる大人。

 吠える犬と何故か尻を噛まれる飼い主。
 やだ、痛そう……。

「あれぇ~……?」

 騒然となる場を前にして立ち尽くす我が主。そして私。
 もうね、何もかもがメチャクチャよ。メチャクチャ。いっそ清々しいほどに。

 気づいてしかるべきだった。
 七十年ぶりに現れた魔王が魔王軍の攻撃を人類に向かって告げる。それって、

「しまった! これただの宣戦布告だ!?」

 そういうことだ、我が主。
 どうしようどうしよう。人類最大国家に、魔王自らが喧嘩売っちゃったぞ~!

「――こうなったら、ロンちゃん」

 我が主が、全くいかつくないその顔をキリリと引き締める。
 もしや、ここから起死回生を果たせる一策があるとでもいうのか……!

「逃げよう!」

 そんなものはなかった。

「お、お邪魔しましたァァァァァァァァ~~~~ッ!」

 そう叫ぶ主を背に乗せて、私は全速力で人類最大国家から離脱した。
 あ~ぁ、どうするんだ、これから……。
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