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プロローグ
ホームレス少年
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底冷えする冬の街、月光の煌めきが栄える時間帯である。
まったくの静寂かというと、そうでもない。
誰かしら起きてはいるものだ。
特に現代では若者の睡眠不足は大多数に見られる傾向だ。
ゲーム、パソコン、テレビと娯楽の溢れた世界で生まれた彼らは今宵も娯楽に没頭し、夜更けなどお構い無しだ。
だが、すべての宵っ張りがそうなのではない。
空き缶や捨てられた道具などを追い求め、這うようにして街を徘徊する者も多く存在する。
よく言えば働き者、悪く言えば世の中の負け犬。
がらがらがら、がらがらがら。
その男は収集所を漁っては空き缶を集め、真冬の夜にも関わらず働き続けていた。
収集所に置いてある空き缶などを持っていけば条例違反なので、男は人気のない時間帯や場所を選んで収集していた。
「おっ、いいもん見っけ」
男が見つけたものは、束になって捨てられていた本の束であった。
疲れたときや暇なときなどは、こうした娯楽の一部を広い集め楽しんでいた。
男の知識はこうして蓄えられていた。
逆に言えば、他の学び場がなかった。
ホームレスなのだから当然だろう。
学校に行く金などあるはずもない。
しかし生まれたときからホームレス生活だったかといえば、そうではない。
男も以前は比較的に裕福な生活を送っていた。
男の父はある有名な会社の社長を勤めていた。
だがある日を境に経営赤字に追い込まれ、会社は倒産した。
借金までしたが上手くいかず、それどころか借金取りに追われる生活となり、家族もいなくなった。
そのとき、男は15という若さであった。
ゆえに高校にすら通ったことはなく、中卒である。
だが男は捨てられたゴミの山から教材を広い集めては、勉強した。
なるべく普通でいたかったのだ。
男は本の束から何冊か抜き取り、しばらく読み進めていく。
けれども今宵は特によく冷える。
鼻水は凍ったかと思う程だ。
内容がまったく脳内に入ってこず、ふと手を止めた。
そこから男は河川敷へと向かった。
橋の下には多くのブルーシートやダンボールで作られた家々が散在していた。
ここでは何人かのホームレスたちが群れ、協力し合って生活している。
「くそガキめ、あっちへ行け!」
五十代くらいのオジサンがダンボールの中から出てくると、男に向かって小石を投げつけてきた。
だが男はそのホームレスを一瞥すると、無言で踵を返す。
「……ちくしょう、ちくしょう」
社会の底辺で、人生の大半をこの橋の下で終えようとしているオジサン。
男はそんなオジサンから物や食べ物を盗んだ過去があった。
コンビニなどで盗みを働くよりもずっと容易なため、ホームレスが集まって生活しているこの場所に男は何度も盗み入っていた。
しかし何度も盗めば警戒されるのも当然であり、何度も捕まっては痛めつけられていた。
「悪いのは糞みたいな社会だってのによ!くそっ、浮浪者どもめ」
男は踵を返すと、その先にある橋下の川沿いに存在するダンボールの家へと入る。
その家は周囲のダンボールハウスと比べると一際脆そうであった。
15歳の子供が作ればそんなものであろう。
男は自身の寝床へと身体を潜らせる。
夜風は入り放題、橋の脇からわずかに入り込む雨は防ぎきれず、就寝には向かない場所だ。
男は集めてきた空き缶やら本やらを置くと、眠りにつく。
男の寝床の近くには多くの空き缶がゴミ袋に詰めてある。
都合十袋、総重量十キログラムだ。
しかし大量の空き缶の山も、たかだか千六百円程度にしかならない。
一日の食費代で差し引かれ、貯金されるのはわずか数百円ぽっちだった。
さらにその数百円ぽっちも、知人や親戚への借金の返済に充てなければならないだろう。
大学なんて、いけるはずもなかった。
男の人生は、詰んでいた。
こうなる前の生活では、男は裕福であった。
欲しいものは手に入り、なに不自由のない生活であった。
それが一転し、今では恥ずべき生活を送っている。
道行く小学生や同年齢の子供に奇異の目を向けられ、しばしば悪戯半分に私物を盗まれることもあった。
ホームレスの社会的地位など所詮その程度なのだ。
(盗み盗まれ……ホームレスのオジサンたちにすら疎まれる)
男は今宵の冬の気配から、生きることの厳しさと孤独を染々と感じ取っていた。
いや、それだけではない。
人を騙し、盗み、疎まれ孤立し、そうして生き抜いていかなければならない。
生きるためにはなんでもしなければならないのだ。
孤独に耐えていかなければならないのだ。
それから月日は経ち、気が付けば三十歳になっていた。
毎朝毎晩、自殺を考えた。
死にたい、死にたいとそんなことばかりが頭を過ぎった。
しかし男には実行に移す勇気もなかった。
死にたくても死ねず、生きようにも困難な人生。
男は嫌気が差していた。
男は引きずっていたゴミ袋を一旦手放し、夜空を見上げる。
月明かりは雲に遮られていて、こちらまで届いていない。
月の明かりすら差し込まない、暗く沈んだ陰。
それが男には、ますます自分のことのように感じ取れ、胸の痛みは増していく。
男には覚悟なんてものは出来てなかった。
トラックがこちらに突っ込んでくる。
運転席を見ると、眠りこけた運転手の姿が見えた。
(極楽でも俺は悪行に手を染め、疎まれる日々を送るのだろうか)
だが刹那の誘惑が、男の判断を鈍らせた。
男はそれから数時間後に絶命した。
***
気づけば俺は真っ白い空間にいた。
目前には机があり、机上にはトランプのカードが並べられている。
「なんだこれ?」
俺はそこから一枚のカードを掴み捲めくる。
カードには餅つきをしている兎のイラストが描かれていた。
「兎?なんなんだこのカード。いったいどういう……」
そのイラストを見た途端、急に意識が朦朧としてくる。
これは――眠気?
『兎のカードか。君もよりにもよってコレを選ぶとは、とことん運のない男だね』
なんだ?
誰かの声が耳元で……。
しかし強烈な眠気のあまり、脳が言葉を理解しきれない。
『大変だと思うけど、僕はあくまで機会を与えるのみ』
俺は机上に突っ伏すと、そのまま眠りへと落ちていく。
無意識な俺の耳を、誰かの声は素通りする。
『幸せを掴むかどうか――結局は君次第というわけさ』
まったくの静寂かというと、そうでもない。
誰かしら起きてはいるものだ。
特に現代では若者の睡眠不足は大多数に見られる傾向だ。
ゲーム、パソコン、テレビと娯楽の溢れた世界で生まれた彼らは今宵も娯楽に没頭し、夜更けなどお構い無しだ。
だが、すべての宵っ張りがそうなのではない。
空き缶や捨てられた道具などを追い求め、這うようにして街を徘徊する者も多く存在する。
よく言えば働き者、悪く言えば世の中の負け犬。
がらがらがら、がらがらがら。
その男は収集所を漁っては空き缶を集め、真冬の夜にも関わらず働き続けていた。
収集所に置いてある空き缶などを持っていけば条例違反なので、男は人気のない時間帯や場所を選んで収集していた。
「おっ、いいもん見っけ」
男が見つけたものは、束になって捨てられていた本の束であった。
疲れたときや暇なときなどは、こうした娯楽の一部を広い集め楽しんでいた。
男の知識はこうして蓄えられていた。
逆に言えば、他の学び場がなかった。
ホームレスなのだから当然だろう。
学校に行く金などあるはずもない。
しかし生まれたときからホームレス生活だったかといえば、そうではない。
男も以前は比較的に裕福な生活を送っていた。
男の父はある有名な会社の社長を勤めていた。
だがある日を境に経営赤字に追い込まれ、会社は倒産した。
借金までしたが上手くいかず、それどころか借金取りに追われる生活となり、家族もいなくなった。
そのとき、男は15という若さであった。
ゆえに高校にすら通ったことはなく、中卒である。
だが男は捨てられたゴミの山から教材を広い集めては、勉強した。
なるべく普通でいたかったのだ。
男は本の束から何冊か抜き取り、しばらく読み進めていく。
けれども今宵は特によく冷える。
鼻水は凍ったかと思う程だ。
内容がまったく脳内に入ってこず、ふと手を止めた。
そこから男は河川敷へと向かった。
橋の下には多くのブルーシートやダンボールで作られた家々が散在していた。
ここでは何人かのホームレスたちが群れ、協力し合って生活している。
「くそガキめ、あっちへ行け!」
五十代くらいのオジサンがダンボールの中から出てくると、男に向かって小石を投げつけてきた。
だが男はそのホームレスを一瞥すると、無言で踵を返す。
「……ちくしょう、ちくしょう」
社会の底辺で、人生の大半をこの橋の下で終えようとしているオジサン。
男はそんなオジサンから物や食べ物を盗んだ過去があった。
コンビニなどで盗みを働くよりもずっと容易なため、ホームレスが集まって生活しているこの場所に男は何度も盗み入っていた。
しかし何度も盗めば警戒されるのも当然であり、何度も捕まっては痛めつけられていた。
「悪いのは糞みたいな社会だってのによ!くそっ、浮浪者どもめ」
男は踵を返すと、その先にある橋下の川沿いに存在するダンボールの家へと入る。
その家は周囲のダンボールハウスと比べると一際脆そうであった。
15歳の子供が作ればそんなものであろう。
男は自身の寝床へと身体を潜らせる。
夜風は入り放題、橋の脇からわずかに入り込む雨は防ぎきれず、就寝には向かない場所だ。
男は集めてきた空き缶やら本やらを置くと、眠りにつく。
男の寝床の近くには多くの空き缶がゴミ袋に詰めてある。
都合十袋、総重量十キログラムだ。
しかし大量の空き缶の山も、たかだか千六百円程度にしかならない。
一日の食費代で差し引かれ、貯金されるのはわずか数百円ぽっちだった。
さらにその数百円ぽっちも、知人や親戚への借金の返済に充てなければならないだろう。
大学なんて、いけるはずもなかった。
男の人生は、詰んでいた。
こうなる前の生活では、男は裕福であった。
欲しいものは手に入り、なに不自由のない生活であった。
それが一転し、今では恥ずべき生活を送っている。
道行く小学生や同年齢の子供に奇異の目を向けられ、しばしば悪戯半分に私物を盗まれることもあった。
ホームレスの社会的地位など所詮その程度なのだ。
(盗み盗まれ……ホームレスのオジサンたちにすら疎まれる)
男は今宵の冬の気配から、生きることの厳しさと孤独を染々と感じ取っていた。
いや、それだけではない。
人を騙し、盗み、疎まれ孤立し、そうして生き抜いていかなければならない。
生きるためにはなんでもしなければならないのだ。
孤独に耐えていかなければならないのだ。
それから月日は経ち、気が付けば三十歳になっていた。
毎朝毎晩、自殺を考えた。
死にたい、死にたいとそんなことばかりが頭を過ぎった。
しかし男には実行に移す勇気もなかった。
死にたくても死ねず、生きようにも困難な人生。
男は嫌気が差していた。
男は引きずっていたゴミ袋を一旦手放し、夜空を見上げる。
月明かりは雲に遮られていて、こちらまで届いていない。
月の明かりすら差し込まない、暗く沈んだ陰。
それが男には、ますます自分のことのように感じ取れ、胸の痛みは増していく。
男には覚悟なんてものは出来てなかった。
トラックがこちらに突っ込んでくる。
運転席を見ると、眠りこけた運転手の姿が見えた。
(極楽でも俺は悪行に手を染め、疎まれる日々を送るのだろうか)
だが刹那の誘惑が、男の判断を鈍らせた。
男はそれから数時間後に絶命した。
***
気づけば俺は真っ白い空間にいた。
目前には机があり、机上にはトランプのカードが並べられている。
「なんだこれ?」
俺はそこから一枚のカードを掴み捲めくる。
カードには餅つきをしている兎のイラストが描かれていた。
「兎?なんなんだこのカード。いったいどういう……」
そのイラストを見た途端、急に意識が朦朧としてくる。
これは――眠気?
『兎のカードか。君もよりにもよってコレを選ぶとは、とことん運のない男だね』
なんだ?
誰かの声が耳元で……。
しかし強烈な眠気のあまり、脳が言葉を理解しきれない。
『大変だと思うけど、僕はあくまで機会を与えるのみ』
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