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♯1 学園もの
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学校終了のチャイムが鳴る。
来週から夏休みだ。
さて、自己紹介と言うのは、簡素なほど良いと聞く。
僕は高文信孝(こうぶんのぶたか)という、真面目そうな黒縁メガネの名札の男だ。前の会長と縁あって県立高校の生徒会長をしている。
「信孝君、会議の資料運んでおいてくれる?」
「ああ、任せて」
「私、ちょっと古川教頭に呼ばれていて―」
副会長が少し気になってはいるが恥ずかしさのあまり瞳を直視するのは難しい。
背丈も高く、目が覚めるような美人と言ってしまうと大袈裟だが、道行く人の誰もが振り向くという例えは間違いないのではなかろうか。
まあ―なんだその、少し盛った。
僕はあまり断れないし断る気になれないという話だ。
駆け足で離れていく藤宮早苗(ふじみやさなえ)の背中を見送りながら、デスクの上へどっしり大量に載せられた資料の束(50cmの紙の束を、十字に紐で結んで濃縮したもの)を見て思わずため息を零す。
「これじゃダメなんだよな…」
週末には文化祭があって、学校へ大金を叩いて寄付をして頂いている風変わりな来賓の方へのスピーチをしなければならない。
こんなことしてる時間はないんだ!
「言えるかそんなこと!」
ストレスのあまり、心の声と表のそれが反対になる。
しかし、紙の裏にでも書いて捨ててやらねばならないことだが、テレビや漫画の優秀なヤツみたいに、僕はその場で何もかも思いつく天才ではない。
第一案のスピーチをして、友人や家族に聞いて貰って、第二案、第三案、石橋を叩くように慎重に言葉を選びながらと、言葉で説明する以上に、かなり神経質だ。
「信孝君、お困りかい?
ああ―それは、何かのスピーチみたいだね」
「勝手に部屋に入るな。触るな。
それから、コイツを読むことも堅く禁ずる!」
「辛口だねぇ~。
何時からなんだい?」
「何時もだよ」
「ほら、辛口だ」
けらけらと笑う学ランにサングラスという奇抜な男、二宮始(にのみやはじめ)から聖文に似て非なるものを奪い取って、暫し固まる。
「なあ―お前、スピーチ書けないか?」
「何を言うんだい高文君!
僕の発表なんて小学三年夏休み明けの自由研究以来だぞ!」
「そんなとこだよなー」
「僕の文才を馬鹿にするのはいい加減にしたまえ!」
「お前どっちにとってもらいたいんだよ!」
今回だけは金を払ってでも依頼したいほどだったが、どうも万屋は何でも屋ではないらしく、筆とペンだけは合わんようだ。
「今回だけでいいから病欠を使えればいいが…」
病欠の切り札を使ったが最後、副会長の代わり盾が登場するだけだと言うに、ありもしない事故、希望的観測だとかに思わず今はすがりつきたくなった。
「格好がつかんことこの上ないな…」
「弱気な会長も居たもんだ」
「羨ましいなら代わってやろうか?」
「またまたご冗談を。
というか―占い屋に頼んでみたら?」
「占い屋?」
「知らない?
一年の上子とか言うヤツが開いてるインチキ屋だ」
「人が開いた店をインチキとは何だ!」
「待て待て、僕が見たまんまのことを言っているだけさ。
女の店はインチキだし、どう見ても、胡散臭いのさ」
尾びれは、その癖当たるというものらしい。
サングラスの男にぐいぐいと引張られ向かった先は、一年生の突き当たりの教室だった。
僕たち二人の気配を察知するなり、眉を顰め、妙な気を放って(来ないでくれと言わんばかりのオーラーを出して)睨みつけている。
「出直そう」
「まあ、待て」
「もしかして占い目当てですか?」
通りがかりの一年の少女が尋ねる。
「友達がね」
「少し、お待ち下さい」
折り畳み式テントのようなもの(縦に長く黒い、骨は銀を使って出来ており、特注だと思われこんなテントは見たことがない)を掃除道具が収納されたロッカーから取り出すと、商売道具を広げるような手際の良さで上子は占いの用意する。
「紙コップだ」
「紙コップだな」
「紙コップの中に十円を入れます」
「コックリさん?」
拍子抜けするような声に、くすりと来てしまう。
「コップリさんです」
「上子、かみこっぷ、こっぷり?!」
「黙ってろ」
何処からともかくハリセンの餌食になってしまう、二宮。
「ハッ…?!
何かものすご―い虫っぽいゴキブリが見えます…!」
「占い師、ゴキブリと虫じゃオーストリアとオーストラリアぐらい違うぞ」
「虫が、身体を食い荒らして―人を食らう…。
見たことも無い黒い欲望で、貴方は以前の安息を求める」
「上子、何を言っているんだ?」
「これは恐らく、虫でしょう」
「人を食らい、内側から殻を破る虫なのです」
来週から夏休みだ。
さて、自己紹介と言うのは、簡素なほど良いと聞く。
僕は高文信孝(こうぶんのぶたか)という、真面目そうな黒縁メガネの名札の男だ。前の会長と縁あって県立高校の生徒会長をしている。
「信孝君、会議の資料運んでおいてくれる?」
「ああ、任せて」
「私、ちょっと古川教頭に呼ばれていて―」
副会長が少し気になってはいるが恥ずかしさのあまり瞳を直視するのは難しい。
背丈も高く、目が覚めるような美人と言ってしまうと大袈裟だが、道行く人の誰もが振り向くという例えは間違いないのではなかろうか。
まあ―なんだその、少し盛った。
僕はあまり断れないし断る気になれないという話だ。
駆け足で離れていく藤宮早苗(ふじみやさなえ)の背中を見送りながら、デスクの上へどっしり大量に載せられた資料の束(50cmの紙の束を、十字に紐で結んで濃縮したもの)を見て思わずため息を零す。
「これじゃダメなんだよな…」
週末には文化祭があって、学校へ大金を叩いて寄付をして頂いている風変わりな来賓の方へのスピーチをしなければならない。
こんなことしてる時間はないんだ!
「言えるかそんなこと!」
ストレスのあまり、心の声と表のそれが反対になる。
しかし、紙の裏にでも書いて捨ててやらねばならないことだが、テレビや漫画の優秀なヤツみたいに、僕はその場で何もかも思いつく天才ではない。
第一案のスピーチをして、友人や家族に聞いて貰って、第二案、第三案、石橋を叩くように慎重に言葉を選びながらと、言葉で説明する以上に、かなり神経質だ。
「信孝君、お困りかい?
ああ―それは、何かのスピーチみたいだね」
「勝手に部屋に入るな。触るな。
それから、コイツを読むことも堅く禁ずる!」
「辛口だねぇ~。
何時からなんだい?」
「何時もだよ」
「ほら、辛口だ」
けらけらと笑う学ランにサングラスという奇抜な男、二宮始(にのみやはじめ)から聖文に似て非なるものを奪い取って、暫し固まる。
「なあ―お前、スピーチ書けないか?」
「何を言うんだい高文君!
僕の発表なんて小学三年夏休み明けの自由研究以来だぞ!」
「そんなとこだよなー」
「僕の文才を馬鹿にするのはいい加減にしたまえ!」
「お前どっちにとってもらいたいんだよ!」
今回だけは金を払ってでも依頼したいほどだったが、どうも万屋は何でも屋ではないらしく、筆とペンだけは合わんようだ。
「今回だけでいいから病欠を使えればいいが…」
病欠の切り札を使ったが最後、副会長の代わり盾が登場するだけだと言うに、ありもしない事故、希望的観測だとかに思わず今はすがりつきたくなった。
「格好がつかんことこの上ないな…」
「弱気な会長も居たもんだ」
「羨ましいなら代わってやろうか?」
「またまたご冗談を。
というか―占い屋に頼んでみたら?」
「占い屋?」
「知らない?
一年の上子とか言うヤツが開いてるインチキ屋だ」
「人が開いた店をインチキとは何だ!」
「待て待て、僕が見たまんまのことを言っているだけさ。
女の店はインチキだし、どう見ても、胡散臭いのさ」
尾びれは、その癖当たるというものらしい。
サングラスの男にぐいぐいと引張られ向かった先は、一年生の突き当たりの教室だった。
僕たち二人の気配を察知するなり、眉を顰め、妙な気を放って(来ないでくれと言わんばかりのオーラーを出して)睨みつけている。
「出直そう」
「まあ、待て」
「もしかして占い目当てですか?」
通りがかりの一年の少女が尋ねる。
「友達がね」
「少し、お待ち下さい」
折り畳み式テントのようなもの(縦に長く黒い、骨は銀を使って出来ており、特注だと思われこんなテントは見たことがない)を掃除道具が収納されたロッカーから取り出すと、商売道具を広げるような手際の良さで上子は占いの用意する。
「紙コップだ」
「紙コップだな」
「紙コップの中に十円を入れます」
「コックリさん?」
拍子抜けするような声に、くすりと来てしまう。
「コップリさんです」
「上子、かみこっぷ、こっぷり?!」
「黙ってろ」
何処からともかくハリセンの餌食になってしまう、二宮。
「ハッ…?!
何かものすご―い虫っぽいゴキブリが見えます…!」
「占い師、ゴキブリと虫じゃオーストリアとオーストラリアぐらい違うぞ」
「虫が、身体を食い荒らして―人を食らう…。
見たことも無い黒い欲望で、貴方は以前の安息を求める」
「上子、何を言っているんだ?」
「これは恐らく、虫でしょう」
「人を食らい、内側から殻を破る虫なのです」
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