ESpash(エスパッシュ)

noraneko

文字の大きさ
上 下
5 / 5

シャナ (1)

しおりを挟む
父さんの仕事で私たちは家族は何度となく引越しを余儀なくされた。

約一年で引越し、早い時で半年で引越した事もある。

友達が出来てはすぐに別れを経験する。
仲良くなればなるほど離れるのが辛くなり、
自然と線引きをして周りとの付き合いを重ねていった。


私を何より心配してくれたのは母だった。
明るく快活な母は父さんの都合で振り回されても、それを楽しめる人だった。


私は父さんの仕事を理解する事も出来ず、
落ち着かない生活に疲れていた。
勉強の範囲も違ったり、新しい環境に馴染める時もあれば馴染めない事もあった。


その度に支えてくれたのは母だった。


他の子には経験できない、多くの場所を知ってはいたけれど、閉鎖的な村もあったし、本当にみんなが優しくて離れたくない街もあった。


それでもまた去る日はすぐにやってくる。


父さんは国の防衛組織に働いている。
私が小さい頃は父は深夜に帰ってきて、私よりも早く家を出て顔も合わさない時さえもあり、
父の存在は私にとって不満でしかなかった。


ある日、家族揃って食卓を囲む事になった。
近くのレストランだったけれど、家族での食事は久々だった。


父と母は和かで、その日は穏やかな空気に違和感を感じていた。


食事を終え、デザートが出てくるのを待っている時に母が話を切り出した。


それはもう転々と引っ越さなくて良くなるという話だった。


その代わり、父は出世コースから外れること、
住む場所は街ではあるが特殊な場所である事を聞かされた。


父と母は話し合いを重ねて納得していて、
娘である私の了承が得られれば引っ越しをする予定であることを知らされる。


私はこれまでの生活から抜け出すことを望んだ。
しかし、それと同時にその場所が今以上に酷い場所である事を恐れた。


父さんのように引っ越しを重ねてたどり着いた子供も多く、理解されやすいであろうこと、
環境的には特殊ではあるが日々の生活には不便さを感じないであろう事を知らされた。


これまで短い期間をやり過ごすだけの生活から、
大きな変化に不安を感じていた。

所謂、エリートコースを歩んできた父の大きな変化でもあった。

知らないうちに母は父と話し合いを重ねていたそうだ。


不安であれば一度街を見に行こう。
来週にでも時間を作ろう。

そして、家族で新しく住む場所を視察に行ったのだ。

期待と不安を感じながら……。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...