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2.雑貨店デート(大地)
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通り沿いにはセレクトショップが並ぶ。服や靴などはもちろん、食器や生活雑貨、アロマグッズを扱った店もある。
ここの通りは何度歩いても飽きない。
大地は尚を促して、生活雑貨を扱うショップに入った。
「ここの食器、和風っぽくて好きなんだ」
店内は、腰あたりから下の位置にある壁には木の板が貼られていて、上部分は漆喰が塗られているようだ。ところどころフェイクグリーンが飾られている。いわゆる造花の葉だ。それがあるせいか、森の中の一軒家に紛れ込んだように感じる。
尚は物珍しそうにキョロキョロと店内を見回している。
「レジしてくれるのが熊さんだったらピッタリなのにな」
鼻歌で『森の熊さん』を歌いだす。
残念ながらレジにいるのは、森の一軒家で暮らしていそうな素朴な感じのご夫婦だ。
それでも、尚は自分のお気に入りの店を気に入ったらしい。大地は頬が緩んだ。
棚に並ぶ大小さまざまな皿、鉢、椀を一つも見逃すまいと、棚の隅々まで見ていく。鼻歌が遠くなる。尚の姿を探すと、店の一番奥の壁に沿った棚に向かって立っていた。
あそこには、たしかカトラリーが並んでいたはずだ。気に入ったものがあるのか、手に取ってみている。
大地は前に店に来たときに一目ぼれしたグラタン皿を探す。
あの時、一緒にいたのは当時付き合っていた彼女だった。
飴色が少しまだらになったグラタン皿を手に取ってみていると、退屈そうにしていた彼女が顎で大地の腕をついてきた。
「ねえ、もう出ようよ。ここの食器、古臭くて好きじゃない。それに高いよ。百均で十分だよ。シンプルだし、意外とかわいいのあるし」
明らかに不機嫌になっていた。一枚二千円を超える食器は、たしかに百均に比べれば高い。でも、質は全然違う。
肺の中で静かにため息をついた大地は、グラタン皿を棚に戻す。彼女の手を引いて店を出た。
彼女は大地が作る料理が好きだった。だからといって、材料や食器、調理器具などのキッチン用品にこだわるのは理解できないらしかった。
大きくため息をついた瞬間、肩に横から衝撃が走った。回想の中の彼女が顎でついたのと同じ場所だ。
尚がのぞきこむように大地の顔を見てきた。
「痛かった?思わずグーで殴っちゃったよ」
グーパンチかよ。
苦笑いをこぼすと、尚は頬をつねってきた。
「俺と一緒にいるのに、なに考えてんだよ」
元カノを思い出していた、と言ったら、次は頬をグーで殴られそうな気がした。すぐに言葉が出ないまま、手に持った皿を見つめる。
尚は視線の先が気になったらしい。
「何それ。かっこいい皿。これでグラタンとかドリアとか食べたら美味そう」
同じものを棚から取り、皿を回して全面を見回す。
「俺さ、さっき、あの棚を見てたんだけど。木でできたフォークとスプーンがあったんだ。見た目も、持った時の感触もあったかい気がして。買おうと思って持ってきた」
フォークとスプーンが2つずつ、尚の手に握られている。
「これとさ、このグラタン皿、合うよな。って、同じ店のだから合って当たり前か」
自分が欲しいと思っていたもので、料理を食べるイメージを持ってくれたのが嬉しかった。
大地は尚が持っているグラタン皿を取った。
「これ買うわ。今日はドリアにするか」
「マジ、やった」
胸の前でガッツポーズをする尚が愛おしい。
会計を済ませて外に出る。商品が入った袋を嬉しそうにのぞき込む尚の肩を大地は抱き寄せた。
人通りのある道だったせいか、尚が大地の横腹に肘を立てた。
「何すんだよ。こんなことで。変に思われたらどうすんだよ」
体を離しつつ、小声で抗議してくる。
かまってほしいアピールをする小型犬に見えて、抗議されてる気がしない。
大地は、尚の肩に回した手を背中に移動させた。
「どう思われてもいいよ。気に入った皿を『かっこいい』って言ってくれた尚がかわいいって気持ちしかない」
特に小声にすることなく話す。隣で、小型犬がまたキャンキャンと吠えだした。
とびきり美味しいドリアを作ってやろう。
尚が熱いものを口に入れてハフハフする姿を想像してしまう。大地は顔がにやけてきたのを感じた。
ここの通りは何度歩いても飽きない。
大地は尚を促して、生活雑貨を扱うショップに入った。
「ここの食器、和風っぽくて好きなんだ」
店内は、腰あたりから下の位置にある壁には木の板が貼られていて、上部分は漆喰が塗られているようだ。ところどころフェイクグリーンが飾られている。いわゆる造花の葉だ。それがあるせいか、森の中の一軒家に紛れ込んだように感じる。
尚は物珍しそうにキョロキョロと店内を見回している。
「レジしてくれるのが熊さんだったらピッタリなのにな」
鼻歌で『森の熊さん』を歌いだす。
残念ながらレジにいるのは、森の一軒家で暮らしていそうな素朴な感じのご夫婦だ。
それでも、尚は自分のお気に入りの店を気に入ったらしい。大地は頬が緩んだ。
棚に並ぶ大小さまざまな皿、鉢、椀を一つも見逃すまいと、棚の隅々まで見ていく。鼻歌が遠くなる。尚の姿を探すと、店の一番奥の壁に沿った棚に向かって立っていた。
あそこには、たしかカトラリーが並んでいたはずだ。気に入ったものがあるのか、手に取ってみている。
大地は前に店に来たときに一目ぼれしたグラタン皿を探す。
あの時、一緒にいたのは当時付き合っていた彼女だった。
飴色が少しまだらになったグラタン皿を手に取ってみていると、退屈そうにしていた彼女が顎で大地の腕をついてきた。
「ねえ、もう出ようよ。ここの食器、古臭くて好きじゃない。それに高いよ。百均で十分だよ。シンプルだし、意外とかわいいのあるし」
明らかに不機嫌になっていた。一枚二千円を超える食器は、たしかに百均に比べれば高い。でも、質は全然違う。
肺の中で静かにため息をついた大地は、グラタン皿を棚に戻す。彼女の手を引いて店を出た。
彼女は大地が作る料理が好きだった。だからといって、材料や食器、調理器具などのキッチン用品にこだわるのは理解できないらしかった。
大きくため息をついた瞬間、肩に横から衝撃が走った。回想の中の彼女が顎でついたのと同じ場所だ。
尚がのぞきこむように大地の顔を見てきた。
「痛かった?思わずグーで殴っちゃったよ」
グーパンチかよ。
苦笑いをこぼすと、尚は頬をつねってきた。
「俺と一緒にいるのに、なに考えてんだよ」
元カノを思い出していた、と言ったら、次は頬をグーで殴られそうな気がした。すぐに言葉が出ないまま、手に持った皿を見つめる。
尚は視線の先が気になったらしい。
「何それ。かっこいい皿。これでグラタンとかドリアとか食べたら美味そう」
同じものを棚から取り、皿を回して全面を見回す。
「俺さ、さっき、あの棚を見てたんだけど。木でできたフォークとスプーンがあったんだ。見た目も、持った時の感触もあったかい気がして。買おうと思って持ってきた」
フォークとスプーンが2つずつ、尚の手に握られている。
「これとさ、このグラタン皿、合うよな。って、同じ店のだから合って当たり前か」
自分が欲しいと思っていたもので、料理を食べるイメージを持ってくれたのが嬉しかった。
大地は尚が持っているグラタン皿を取った。
「これ買うわ。今日はドリアにするか」
「マジ、やった」
胸の前でガッツポーズをする尚が愛おしい。
会計を済ませて外に出る。商品が入った袋を嬉しそうにのぞき込む尚の肩を大地は抱き寄せた。
人通りのある道だったせいか、尚が大地の横腹に肘を立てた。
「何すんだよ。こんなことで。変に思われたらどうすんだよ」
体を離しつつ、小声で抗議してくる。
かまってほしいアピールをする小型犬に見えて、抗議されてる気がしない。
大地は、尚の肩に回した手を背中に移動させた。
「どう思われてもいいよ。気に入った皿を『かっこいい』って言ってくれた尚がかわいいって気持ちしかない」
特に小声にすることなく話す。隣で、小型犬がまたキャンキャンと吠えだした。
とびきり美味しいドリアを作ってやろう。
尚が熱いものを口に入れてハフハフする姿を想像してしまう。大地は顔がにやけてきたのを感じた。
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