【完結】恋なんてしない、つもりだったのに。

高羽志雨

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30.ダブルデート~大輝と会う~

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 連休中、空はずっと澄み渡っていた。今日も変わらず、清々しい青色をしている。

 蓮や悠里、大輝との待ち合わせの場所は遊園地に直結する駅で、家の最寄り駅から5つ先だ。千紗は改札をくぐってホームへとつながる階段を下りる。
 進行方向に向いて最後尾の車両に乗ると降車駅の出口に近かったはずだ。

 連休の最終日、天気が良いとなれば出かける人も大勢いる。

 人と人の間を縫ってホームの後方へ歩いていくと、携帯電話をいじりながら立っている大輝が目に入った。長袖のTシャツに半袖の黒パーカーを重ねて、ブラックスキニーという、ありきたりな男子高校生の私服姿なのに目につきやすい。周りにいる同世代らしき女子たちが大輝を見つめているのがわかる。

 同じ行先に向かい、同じ電車の車両に乗るだろう相手に声をかけないという選択肢はない。
 でも、同世代の女子が注目している大輝に近づくのは気が引けたし、先日、ランチの店で会った時のように無視されるんじゃないかという思いもよぎる。

 歩くスピードを緩めつつ、携帯電話をバッグから出して、操作するフリをしながら大輝のいるほうへと進んでいく。千紗の視線は携帯電話の横を通り抜け、足元のコンクリートをとらえている。かなり歩いたと感じたところで、少しだけ前のほうへと視線を向ける。

 大輝のものと思われるスニーカーが目に入った。

「あ、おはよう。やっぱりこの時間だった」

 鼻にかかったテノール声が聞こえた。顔を上げると、大輝が携帯電話を手にしたまま、こちらを見ていた。

「今日はスカートじゃないんだ。残念」

 ロシア料理店で会ったとき、千紗はスカートをはいていたことを言っているのだろう。
 今日は動きやすいように、ベージュのカットソーに濃紺のクロップドパンツだ。カットソーはオーバーサイズで、袖の先は指の半分まで隠している。

 見上げると、大輝は口を隠すように手で覆っていた。
 もしかしたら、口に出すつもりじゃなかったのかもしれない。
 千紗は聞こえていないふりをした。それでも、気軽に話しかけてくれたおかげで気がラクになった。

 周りから女子たちの声が聞こえてきた。

「彼女もちか」

「そりゃ彼女くらいいるよね」

 そんな声が聞こえてきた。誤解なんだけど、と思いつつ、千紗は大輝の横へ並んで彼を見上げる。

「おはよ。今日も無視されるんじゃないかと思ってた」

 持っていた携帯電話をパーカーのポケットにしまい、あー、と言いながら、大輝は首の後ろへ手をやった。

「この間はごめん。彼女といたから、松村さんの顔を見れなくて、つい」

 千紗は、意味がわからなくて首をかしげた。

「普通に挨拶すればいいだけじゃない。ホント気分悪かった」

 千紗を見下ろしていた大輝は、ホームへと入ってきた電車へと目を向けた。

「ごめん」

 大輝は唇を強く結んでいる。
 混雑している電車へと並んで足を進める。乗り込む直前で大輝が服の上から手首をつかんできた。

「はぐれると困るから」

 前を向いたまま言う大輝を見上げた後、千紗はつかまれた手首へと目を落とした。
 車内は密着するほどの混雑ではなく、2人でつり革をつかんで立つ。
 視線を感じて、大輝を見上げると目が合った。

「それ、カメラ入ってるの」

 千紗が首から下げているバッグを指さしてきた。ショルダーバッグとは別に、ちょうどカメラが入るサイズの小さなポシェットをかけている。

「そう。今日は望遠レンズ使うことないだろうからコンパクトになった」

「写真撮るのもいいけど、今日はアトラクション楽しもうな」

 久しぶりに自分に向けられた大輝の笑顔を見たような気がする。
 千紗は跳ねた心臓をごまかすように唾を飲んだ。高鳴る鼓動を気づかれたくなくて、窓の外へと視線を移し、少しだけ体を大輝とは反対側へ向けた。
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