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30.ダブルデート~観覧車で(2)~
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千紗が顔を上げると、大輝は膝の間に手を入れてうなだれていた。
「まだ、何言ってるか、わかんないな、俺」
大輝の肩が大きく上がった。息を吸ったらしい。顔を上げて、まっすぐに千紗を見つめてきた。
「この間の電話で、久しぶりにちゃんと話せたことも、俺が買ったトラのぬいぐるみを持ってくれてることも、ほんと嬉しくて。千紗のこと、好きなんだなって実感した」
千紗の鼓動は強くはねて、今にも飛び出しそうな勢いだ。
大輝といると何度も感じるこの反応は、千紗の正直な気持ちなのかもしれない。でも、同時に不安が湧き上がる。
千紗が口を開きかけたとき、大輝が手を前に出して制した。
「待って。まだ続きがあるんだ。千紗のこと好きなんだけど、受け止めてもらえないかもしれないって思うと怖くて。だから、付き合ってほしいって言いたいけど、言えない。なんていうか、付き合う前に、もっと一緒に過ごして、俺のこと知ってほしいんだ。だから、ちゃんと仲直りしたかった。って、ケンカしたわけじゃないけどさ」
照れているのか、戸惑っているのかよくわからない表情をして、頭を掻いている。
2人が乗る観覧車は頂上から下りはじめていた。千紗は大輝の顔を通り越して、正面の窓から景色を見る。
「頂上の景色、見逃しちゃったね」
苦笑いを見せると、大輝がハッとしたように横や正面の窓から外を見回して表情を歪めた。
「あー、ごめん」
千紗はゆるく口角を上げる。
「いいよ。気にしてない。それより、今の話だけどさ」
緊張しているのか、唇が渇く。千紗は唇を内側へ丸めた。
「ありがとう。私も、たぶん、大輝くんのこと好き、なんだと思う」
彼の目がまん丸になっていく。その目を見つめた。
「あいまいな言い方だけど。今、気づいたっていうか、大輝くんにドキドキする理由がわかったというか、そういう状態だから」
大輝の顔がほころんだ。でも、すぐに引き締める。それを見ていた千紗は心臓をわしづかみされたような気分になる。
「前、私を好きだっていう気持ちを信じきれないって話したから、私に気持ちを受け止めてもらえないって思うんだよね。なんかごめん」
何か言おうとする大輝を、今度は千紗が遮る。
「好きだって言ってもらってるのに信じきれない自分がいる。もしかしたら、嘘かもしれない。また、2番目かもしれないって思っちゃって」
真剣に千紗の話を聞く大輝の目は悲しげに見える。千紗は足元に目線を落とした。
「だから、ホッとした。気持ちを伝えられてすぐ付き合おうってことにならなくて」
大輝が体を前かがみにしてきたと思ったら、千紗の頭に何かが乗る。まちがいなく彼の手だろう。
「…保険かけてるみたいで悪いけど」
髪の触り心地を楽しむように撫でる彼の手に、千紗は全身を幸せで包まれる気分になる。
「それはお互いさまだよ」
大輝は口を真一文字に結びながらも頬を緩めてうなずいた。
「でも、受け止めてもらえないかもっていうのは、俺の問題なんだ」
窓から見える景色は見慣れた高さのものになっている。
ビーッと音がして、2人が乗る箱が揺れ、目の前に係りのお兄さんが現れた。晴れたような笑顔で扉を開けてくれる。
立ち上がった大輝が手を出してくる。
千紗は椅子に置いていたショルダーバッグを肩にかけ、その手を取った。
「俺の問題ってどういうこと」
手をつなぐ大輝の手に力が入った。見上げると、前を見つめたまま唇を強く結んでいた。
2人で手をつないで、遊園地のゲートに向かって歩く。
後ろから肩を叩かれて振り向くと、蓮と手をつないだ悠里がいた。肩を叩いた手をそのまま千紗の肩に回し、腕で頭を巻き込むようにして髪を撫でて、額をぶつけてくる。近すぎてわかりづらいけれど、目が優しく細まっている。
髪から手を離した悠里を見ると、その奥にいる蓮が目に入った。スポーツマンらしく白い歯を見せて親指を立てた視線の先は、千紗を越している。
蓮の視線をたどると、大輝がこめかみをかいていた。
「まだ、何言ってるか、わかんないな、俺」
大輝の肩が大きく上がった。息を吸ったらしい。顔を上げて、まっすぐに千紗を見つめてきた。
「この間の電話で、久しぶりにちゃんと話せたことも、俺が買ったトラのぬいぐるみを持ってくれてることも、ほんと嬉しくて。千紗のこと、好きなんだなって実感した」
千紗の鼓動は強くはねて、今にも飛び出しそうな勢いだ。
大輝といると何度も感じるこの反応は、千紗の正直な気持ちなのかもしれない。でも、同時に不安が湧き上がる。
千紗が口を開きかけたとき、大輝が手を前に出して制した。
「待って。まだ続きがあるんだ。千紗のこと好きなんだけど、受け止めてもらえないかもしれないって思うと怖くて。だから、付き合ってほしいって言いたいけど、言えない。なんていうか、付き合う前に、もっと一緒に過ごして、俺のこと知ってほしいんだ。だから、ちゃんと仲直りしたかった。って、ケンカしたわけじゃないけどさ」
照れているのか、戸惑っているのかよくわからない表情をして、頭を掻いている。
2人が乗る観覧車は頂上から下りはじめていた。千紗は大輝の顔を通り越して、正面の窓から景色を見る。
「頂上の景色、見逃しちゃったね」
苦笑いを見せると、大輝がハッとしたように横や正面の窓から外を見回して表情を歪めた。
「あー、ごめん」
千紗はゆるく口角を上げる。
「いいよ。気にしてない。それより、今の話だけどさ」
緊張しているのか、唇が渇く。千紗は唇を内側へ丸めた。
「ありがとう。私も、たぶん、大輝くんのこと好き、なんだと思う」
彼の目がまん丸になっていく。その目を見つめた。
「あいまいな言い方だけど。今、気づいたっていうか、大輝くんにドキドキする理由がわかったというか、そういう状態だから」
大輝の顔がほころんだ。でも、すぐに引き締める。それを見ていた千紗は心臓をわしづかみされたような気分になる。
「前、私を好きだっていう気持ちを信じきれないって話したから、私に気持ちを受け止めてもらえないって思うんだよね。なんかごめん」
何か言おうとする大輝を、今度は千紗が遮る。
「好きだって言ってもらってるのに信じきれない自分がいる。もしかしたら、嘘かもしれない。また、2番目かもしれないって思っちゃって」
真剣に千紗の話を聞く大輝の目は悲しげに見える。千紗は足元に目線を落とした。
「だから、ホッとした。気持ちを伝えられてすぐ付き合おうってことにならなくて」
大輝が体を前かがみにしてきたと思ったら、千紗の頭に何かが乗る。まちがいなく彼の手だろう。
「…保険かけてるみたいで悪いけど」
髪の触り心地を楽しむように撫でる彼の手に、千紗は全身を幸せで包まれる気分になる。
「それはお互いさまだよ」
大輝は口を真一文字に結びながらも頬を緩めてうなずいた。
「でも、受け止めてもらえないかもっていうのは、俺の問題なんだ」
窓から見える景色は見慣れた高さのものになっている。
ビーッと音がして、2人が乗る箱が揺れ、目の前に係りのお兄さんが現れた。晴れたような笑顔で扉を開けてくれる。
立ち上がった大輝が手を出してくる。
千紗は椅子に置いていたショルダーバッグを肩にかけ、その手を取った。
「俺の問題ってどういうこと」
手をつなぐ大輝の手に力が入った。見上げると、前を見つめたまま唇を強く結んでいた。
2人で手をつないで、遊園地のゲートに向かって歩く。
後ろから肩を叩かれて振り向くと、蓮と手をつないだ悠里がいた。肩を叩いた手をそのまま千紗の肩に回し、腕で頭を巻き込むようにして髪を撫でて、額をぶつけてくる。近すぎてわかりづらいけれど、目が優しく細まっている。
髪から手を離した悠里を見ると、その奥にいる蓮が目に入った。スポーツマンらしく白い歯を見せて親指を立てた視線の先は、千紗を越している。
蓮の視線をたどると、大輝がこめかみをかいていた。
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